サウンドデザイン

メディアテクノロジーシリーズ

サウンドデザイン

映像分野において視覚デザインと双璧を成すサウンドデザインについて解説。

ジャンル
発行予定日
2024/10/上旬
判型
A5
ISBN
978-4-339-01378-8
サウンドデザイン
近刊

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介

音のデザインは,視覚デザインに比べ,これまで裏方的な存在であった。本書では異なる分野で音を形作るサウンドデザインに携わる研究者らが,多面的かつ独自の専門性と視点に立ち,テクノロジーとしてのサウンドデザインを解説する。

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

本書は「サウンドデザイン」というテーマで,音のデザインとはなにか,その考え方と手法,用いるテクノロジー,関連するトピック等について,6名の執筆者によって各自の専門的知見を生かして書かれました。これまで一般的に視覚優位とされている社会においては,目で見る視覚デザインと比較した場合,耳で聴くサウンドデザインは前面に取り上げられることが少なく,裏方的な存在として扱われる傾向が強かった側面は否定できないでしょう。しかし,現在の映像やインタラクティブ性の高いゲームなどの分野を鑑みても,視聴者やプレイヤーの側にとっては,鑑賞やプレイ体験を構成するための音の重要性,ひいては音のデザイン(サウンドデザイン)の必要性の高さについては感覚的に理解/認識している場面が少なくありません。例えば音量をゼロにして見る映画と十分な音量でもって音を聴きながら見る映画では,受け取る情報の質と量が違うため,印象が異なるでしょう。ゲームであれば,音のある/なしそのプレイの戦略や体験も変わってきてしまいます。そして音には画面に映らない情報も認識させることで,視聴者の注意を誘導したり,シーンごとの空気感や情感を決定づける機能があります。目には見えないけれど確実に作用を及ぼすメディアとして,音は非常に興味深く,それを形作るサウンドデザインの世界もまた興味深い,光を当てるべき存在であると言えるでしょう。

これまでも映画やTVにおけるサウンドデザイン,ゲームのサウンドデザインといった特定の分野ごとのサウンドデザインや音楽を含んだサウンドデザインについて,記した数々の文献があります。しかし,本書では商業や産業のみならず芸術,教育等,広範囲な分野に渡り各執筆者が各章を担当して,主にテクノロジーを基調としたサウンドデザインについて多面的かつ独自の専門性と視点からの紹介と解説をしています。これからサウンドデザインを研究対象とすることを検討する学部生,研究テーマを検討している大学院生にとってのヒントとなるような構成を目指しました。

以下,各章の内容について大まかに紹介いたします。

第1章「ビデオゲームにおける効果音のサウンドデザイン」では,ビデオゲームにおける効果音制作の具体的な仕事内容,効果音制作における基礎的な考え方,そこに使われているテクノロジーの変遷,そして効果音制作の未来につながるかもしれないサウンドプログラミングを用いた効果音制作等について論じています。

第2章「音から視覚・触覚メディアへの変換:『共遊楽器』の実践を通して」では,インタラクションを伴った楽器,視覚✕聴覚✕触覚+身体動作のマルチモーダルな鑑賞体験を目指した筆者の「共遊楽器」のコンセプトとそれを実践した複数の作品例の紹介を通して,サウンドデザインを軸とした「体感」について論じています。

第3章「音のメディア考古学:『車輪の再発明』と『Life in the groove』の実践を通して」では,「音のメディア考古学」と題するアプローチ方法を用いてかつてのサウンドアート作品群やサウンドテクノロジーを「発掘」し,再解釈した上で現在に形を蘇らせた執筆者自身が関わったプロジェクトを通して,サウンドデザインの源泉と現在へのつながりについて論じています。

第4章「異分野共創によるサウンドデザイン 〜建築音楽プロジェクト〜」では,建築と音楽という異分野同士の組み合わせにおいてデータを音楽で表現するミュージフィケーション,プログラムが楽譜を生み出す自動アルゴリズム作曲のシステムも包括した「建築音楽プロジェクト」におけるサウンドデザインについて論じています。

第5章「サウンド・デザイナーのための聴能形成」では,デシベルや周波数を始め様々な音を表す定量的な数値・尺度を音のイメージを共有するための共通言語とみなし,それを理解する能力を訓練を通して身につける「聴能形成」の内容について言及しています。

第6章「エンターテインメント分野におけるサウンドデザイン」では,映画,アニメ,ゲームの分野におけるサウンド・デザイナーの定義,サウンドデザインを実現するテクノロジーとツール,藝術音楽とテクノロジーの融合,映像内における音と聴取の位置,インタラクティブコンテンツのサウンドデザイン等,商業面での広い範囲のサウンドデザインを対象として取り扱って論じています。

一方,ここ2年ほどでStable Diffusionに端を発した生成AIのブームが全世界的な潮流となっています。音についてもAIが人間の代わりに作曲を行なうことを目指すものや,マスタリング処理を施すもの,効果音推定をするものなどが登場してきています。おそらく様々な部分が自動化,効率化していくことが予想され,それはサウンドデザインの分野も例外ではありません。しかし本書で数多く挙げられている,人間の手や思考によるサウンドデザインの事例や研究対象に目を通して頂ければ,AIの機能性との住み分け,または共存への道筋のヒントや,効率性とは離れた人間ゆえの多岐に渡る発想,地道な試行錯誤の末に創り出されるものの価値にお気づきになるかと思います。

本書は順番に章を読み進めても構いませんし,気になった章から読んでいくのでも構いません。

すべての章を読み終わった時に,読者のみなさまがサウンドデザインの地平の広がりを感じてもらえることを願っております。

2024年9月
松村誠一郎

☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます

1. ビデオゲームにおける効果音のサウンドデザイン
1.1 ゲームサウンドとしての効果音制作
 1.1.1 ゲームサウンドデザインの仕事
 1.1.2 ゲームの効果音制作のワークフロー
1.2 ゲームの音源形式の変遷
 1.2.1 初期のコンピュータ音楽と最初のゲーム音
 1.2.2 音響合成とサンプリング技術の登場
 1.2.3 民生機のシンセサイザー
 1.2.4 ゲームサウンドの音源方式と効果音
1.3 デジタル・オーディオの基礎知識
 1.3.1 音響合成
 1.3.2 PCM音源
 1.3.3 サンプリングレート
 1.3.4 量子化ビット数
 1.3.5 非圧縮音源と圧縮音源
1.4 PCM音源の効果音
 1.4.1 波形編集アプリケーション
 1.4.2 効果音の鳴らし方
 1.4.3 エンジンサウンドの効果音
1.5 音響合成で作る効果音
 1.5.1 物理モデル音源と信号モデル音源
 1.5.2 音響合成による効果音の必要性
 1.5.3 生物の鳴き声の音響合成
1.6 まとめ

2. 音から視覚・触覚メディアへの変換
2.1 音の基本要素と音楽表現のためのインタフェース
2.2 福祉工学と感覚代行
2.3 ユニバーサルデザインと共遊玩具
2.4 彼女たちが捉えた「音」
2.5 「共遊楽器」の具体例と評価
 2.5.1 Mountain Guitar
 2.5.2 打楽器の音に触れる:Vibracion Cajon
 2.5.3 打楽器の音を見る:ratatap
 2.5.4 拍手の音を見る:Clap Light
 2.5.5 楽器を身近な存在に:楽器を纏う
 2.5.6 楽器の音に触れる:KIKIVIBE
 2.5.7 触感による音の世界の探索:Touch the sound picnic
2.6 まとめ

3. 音のメディア考古学
3.1 音のメディア考古学-理論
 3.1.1 メディア考古学
 3.1.2 サウンド・スタディーズ
 3.1.3 サウンド・アート
 3.1.4 音のメディア考古学
3.2 音のメディア考古学–実践
 3.2.1 《First Sounds》(2007-)
 3.2.2 《Rain Dance》(1998)
 3.2.3 《Fire birds》(2004)
 3.2.4 《Flexible Audio Speaker》(2012-)
3.3 音のメディア考古学–具体例
 3.3.1 車輪の再発明
 3.3.2 Life in the groove
3.4 まとめ
コラム:城一裕,情報と物質とその間

4. 建築と音楽の異分野共創
4.1 創発的デザインの方法論
 4.1.1 建築音楽プロジェクトとは
 4.1.2 関連する事例
 4.1.3 プロジェクトに関連する音楽デザインの方法論
 4.1.4 建築音楽プロジェクトのサウンドデザイン
コラム:建築のアルゴリズミックデザイン
4.2 建築音楽の作品ができるまで
 4.2.1 創作プロセスの全体像
 4.2.2 各創作プロセスの詳細
コラム:ウェブベースの創作環境
 4.2.3 作品例
 4.2.4 「仕組みのデザイン」による音楽表現の拡張
4.3 異分野共創における研究とアートのかたち
 4.3.1 アートを起点とする異分野共創プロジェクトのマネージメント
 4.3.2 分野間コミュニケーションのかたち
 4.3.3 結節点としてのメディアアーキテクトのあたらしい役割
 4.3.4 構成論的アプローチ,研究,アート
4.4 まとめ

5. サウンドデザイナーのための聴能形成
5.1 聴能形成の概要と歴史,さまざまな内容と方法
 5.1.1 聴能形成とその目的
 5.1.2 さまざまな聴能形成
 5.1.3 その他の方法
5.2 聴能形成の実施例
 5.2.1 レベル差の訓練
 5.2.2 周波数特性の訓練
 5.2.3 聴能形成の効果
コラム:母音を使った中心周波数の記憶方法
5.3 訓練のための音源選択
 5.3.1 音源選択の重要性
 5.3.2 主観的難易度
 5.3.3 客観的難易度と主観的難易度との関係
 5.3.4 客観的難易度とスペクトルのばらつきの関係
 5.3.5 結論と展望

6. エンターテインメント分野におけるサウンドデザイン
6.1 「サウンドデザイン」は「音のデザイン」?
6.2 Sound Design(er)成立史
 6.2.1 「音の配置」を司るsound designer
 6.2.2 「特殊効果音」制作者としてのsound designer
 6.2.3 国内産業界の歴史と現状
 6.2.4 サウンドデザインというコンテンツ制作活動の定義に向けて
6.3 サウンドデザインを実現するテクノロジー
 6.3.1 音の配置に関わるテクノロジー
 6.3.2 藝術音楽とテクノロジーの融合分野
コラム:電子楽器のプリセット音を作ってきたサウンドデザイナー
6.4 テクノロジーを効果的に活用するための「音の機能」の把握
 6.4.1 クリティカル・リスニング:作品全体の音に気を配る方法
 6.4.2 作品文節化に役立つ重要キーワード
 6.4.3 インタラクティブ・メディアへの応用
コラム:筆者が利用するクリティカル・リスニングの対象作品の例
6.5 音の位置・聴取者の位置
 6.5.1 自由な空間演出への要望と固定された受音点のはざまで
 6.5.2 映像コンテンツにおける声:物語世界のどこで聞いている音なのか
 6.5.3 オーディオドラマのサウンドデザインに向けて
コラム:「narrative」は「物語」ではない?
6.6 サウンドデザインとしての音楽
 6.6.1 フィルム・スコアリング-音楽が「演じる」ための作曲技法-
 6.6.2 ゲーム特有の音楽に関する概念整備
 6.6.3 動的変化・生成音楽に応用が期待される作曲・編曲技法研究
6.7 まとめ

松村 誠一郎(マツムラ セイイチロウ)

金箱 淳一(カネバコ ジュンイチ)

城 一裕(ジョウ カズヒロ)

浜野 峻行(ハマノ タカユキ)

古川 聖(フルカワ キヨシ)

丸井 淳史(マルイ アツシ)

伊藤 彰教(イトウ アキノリ)

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