楽器の音

音響入門シリーズ A-5

楽器の音

高校までの知識で,発音体の動きを表す微分方程式と解から楽器の音響特性を理解する。

ジャンル
発行年月日
2024/06/21
判型
A5
ページ数
252ページ
ISBN
978-4-339-01311-5
楽器の音
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定価

4,290(本体3,900円+税)

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発音体の動きを表す微分方程式,解として得られる「発音体の固有振動」=「楽器の音響特性」の物理的な本質を理解することを目的とした。これは,楽器開発職人が直感的に理解していたことで,高校までの知識で十分理解可能である。

本書は,楽器に興味を持つ,理系の大学1~2回生をおもな読者と想定している。ただし,高校生や音楽関係の人でも,楽器の構造や弾き方と音の関係に興味を持ち,知的好奇心が旺盛なら,それほど難しいと感じることなく読み進められるように書いたつもりである。さらにいえば,音楽好きの高校生で,音楽大学や工学部の音響関係のコースに進もうと考えている人にも読んでいただきたい。もっとありていにいえば,読者のごく一部でもいいから,楽器音響分野の研究とか既存楽器の改良や新しい楽器の開発を自分の仕事にしよう,という気を起こしてもらい,この分野を活性化できればと思っている。

ただし,本書はあくまでも入門書を意図したので,理系大学レベルの数学的な内容のほとんどを本文から外して,ウェブ上で公開する付録とし,読まないでも済むようにした。ただ,もう少し勉強してみたいとか,深く理解するにはどのような知識が必要なのかを覗いてみたいと考える読者は,付録を読んでほしい。

楽器の音を物理学的に理解するには,その発音現象がどのような物理法則に基づくのかを理解し,楽器の構造や奏法によって決まる境界条件と初期条件のもとでそれを解くことになるが,その詳細は専門書1)に譲るとして,ここで読者に望むのは,発音体の動きを表す微分方程式に対して,その解として得られる「楽器の音響特性」に直結する「発音体の固有振動」の物理的な本質を感覚的に理解することである。これは,楽器の開発や改良に携わった昔の楽器職人が直感的に理解していたことの一部であり,中学・高校の知識で十分理解可能である。現象の概念的な理解のためにはそれで十分で,本書をざっと読むのに必要な数学はほぼ高校レベルまでである(ウェブ上で公開している付録C,付録Eの物理的な説明では,理系の大学初年度程度の数学を使っている)。

音や動画のファイルがあるものについてはで示し,《》で囲み,ディレクトリは「/」区切りで示している。
1章は総論で,本書で対象とする「楽器」を明確にし,音の基本とその聞こえ方を説明し,発音体による楽器の分類を示す。各分類項目に属する楽器は,その構造や発音のさせ方によって細分類する。
2章では,1章の分類に従って,分類項目ごとの楽器群の特徴を,それぞれの分類項目に属する楽器の発音体の振動に基づいて概念的に説明する。2章は本書の中心となる3章への導入のようなものなので,最初からいきなり3章の興味のあるところを拾い読みし,必要に応じて索引をたどって2章に戻ったり,2章からさらに付録Eに飛んだりする読み方でも構わない。
3章は本書の中心となる部分で,各分類項目の代表的な楽器について,それぞれの楽器に固有の発音方法による音の特徴を,時間波形や周波数スペクトル,あるいはその時間的な変化の様子などによって示す。

付録の内容
まえがきの補足:難読部分,および表記法について
付録A:代表的な楽器の音域とA4=440Hzとした平均律での各音名の周波数
付録B:ザックス=ホルンボステルによる楽器の分類の概要2),3)
付録C:波動を表す微分方程式とその解および差分方程式
付録D:音階と音律についてのやや詳しい説明
付録E:各楽器に関する2章の補足
付録F:緩急・強弱と楽器固有の奏法
付録G:個別の雑多な話題
付録H:楽器に関する歴史的な2つの文献の概要
付録I:用語集
付録J:説明に使用した音の出典説明,および参考のために収録した音の説明
付録K:弦(撥弦・打弦・擦弦)の振動のアニメーションの説明

「まえがきの補足」に詳しく書くが,高校生以下あるいは音楽を専門とする読者らにとって難読と考えられる節は右肩に「*」あるいは「**」をつけておいた。これらの部分は読み飛ばしても,内容の概念的な理解には影響しない。

楽器名はもとはその楽器が発祥した国の言語であるものが多く,本書でもイタリア語のまま表現したものが多いが,日本ではヴァイオリンやギターなど英語が用いられていることが多く,もとの言語による表現が日本語として一般化していない楽器については,通常使われている楽器名を使用した。カナ表記については,語境界の「・」は読みにくくない限り省略し,語末の長音記号は読みやすさを重視したので,理工学書の記法から外れている場合がある。詳細は「まえがきの補足」を参照されたい。カタカナ語でアクセントの位置を逆さの三角印で示す。付録Iとして用語集を付した。





2024年3月
柳田益造

1. 「楽器」ってなに?
1.1 どこまでが「楽器」?
1.2 本書で扱う楽器
1.3 音ってなに?
 1.3.1 音は媒質中の疎密波
 1.3.2 可聴域
 1.3.3 音波の伝搬の直感的説明
1.4 音の3属性
 1.4.1 音の大きさ
 1.4.2 音の高さ(I)
 1.4.3 音の高さ(II)「音の高さの表し方」
 1.4.4 音の高さ(III)「高さの開きの表し方」
 1.4.5 音色
1.5 楽器の分類
 1.5.1 気鳴楽器
 1.5.2 弦鳴楽器
 1.5.3 膜鳴楽器
 1.5.4 体鳴楽器
 1.5.5 電鳴楽器
 1.5.6 楽器の分類のまとめ
1.6 本書での楽器の取り上げ方
1.7 本書の構成

2. 楽器の構造と発音機構
2.1 気鳴楽器
 2.1.1 細分類と代表的な楽器
 2.1.2 発音体とその振動
 2.1.3 気鳴楽器の物理
2.2 弦鳴楽器
 2.2.1 細分類と代表的な楽器
 2.2.2 発音体とその振動
 2.2.3 楽器としての音響特性の付与
 2.2.4 弦鳴楽器の物理
2.3 膜鳴楽器
 2.3.1 奏法による細分類と代表的な楽器
 2.3.2 発音体とその振動
 2.3.3 楽器としての音響特性の付与
 2.3.4 膜鳴楽器の物理
2.4 体鳴楽器
 2.4.1 奏法による細分類と代表的な楽器
 2.4.2 他の分類法
 2.4.3 発音体とその振動
 2.4.4 体鳴楽器の物理
2.5 電鳴楽器
 2.5.1 細分類と代表的な楽器
 2.5.2 電気楽器・電子楽器の歴史
 2.5.3 音の合成方式・発生方式

3. 楽器の音
3.1 気鳴楽器
 3.1.1 リップリード楽器
 3.1.2 エアーリード楽器
 3.1.3 リード木管楽器
 3.1.4 フリーリード楽器
 3.1.5 オルガン(パイプオルガン)
3.2 弦鳴楽器
 3.2.1 撥弦楽器:ギター
 3.2.2 擦弦楽器:ヴァイオリン
 3.2.3 打弦楽器:ピアノ
3.3 膜鳴楽器
 3.3.1 打奏膜鳴楽器
 3.3.2 擦奏膜鳴楽器
 3.3.3 歌奏膜鳴楽器
3.4 体鳴楽器
 3.4.1 定ピッチ体鳴楽器
 3.4.2 不定ピッチ体鳴楽器
3.5 電鳴楽器
 3.5.1 真正電鳴楽器
 3.5.2 外見的電鳴楽器

引用・参考文献
あとがき
索引

読者モニターレビュー【 田中 翔大 様 スタンフォード大学(業界・専門分野:学生)】

私はバイオリンを演奏することが大好きな大学1年生です。本書は楽器を演奏している学生にぜひともお薦めしたい一冊です。

楽器の機構のみに焦点が当てられる書籍が多い中で、本書の第3章では楽器の演奏法について詳しく書かれている点に特徴があると考えます。そのため、演奏者にとって自身の楽器演奏経験と対応させて、理解がしやすくなっています。演奏をしたことがない楽器についての記述は、理解に苦労することもあります。しかし、本書は図を活用した説明が多く、それぞれの図に対応した音声資料がついているため、図を見ながら、音として聴きながら、統合的に理解を深めることができます。

特定の楽器の演奏者においては、まず初めに自分の演奏している楽器についての記述から読み進めていくのも良いかもしれません。一つの楽器について理解できると、他の楽器についても比較しながら読んでいくことができます。各楽器の解説はザックス=ホルンボステル分類をもとに区切られていますが、区分を横断して楽器に共通する性質があることが浮き彫りになって興味深いです。

本書は一貫して、難しい数式をあまり用いずに直感的にイメージを描きやすいように書かれてあります。さらに理解を深めたい人に向けては、驚くほど膨大な付録資料があることも特徴的です。付録では数式を用いた詳しい説明のみならず、楽器の構造についての歴史的な記述など豊富にまとめられています。演奏している楽器がなぜ現在のような構造になっているのか、疑念を抱きつつも、これまで「そういうものだ」と受け入れていた事柄について、理解を進めることができると考えます。

第2章の節々には各楽器における詳細は「複雑である」という言葉も見受けられます。楽器の多様な音の魅力と共に、まだ楽器の音響学において未解決の問題が大量に存在していることも想像できます。ぜひ楽器を演奏する学生に本書を手に取ってもらい、演奏者の観点から楽器の音響学に興味を持ってもらいたいです。

読者モニターレビュー【 N/M 様(業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】

本書は「音響入門シリーズ」の中でもA(音響学にかかわる分野・事象解説の内容)とB(音響学的な方法にかかわる内容)に分かれているシリーズのうち,Aの5巻目に位置する書籍である.本巻では「楽器の音」という楽器に関する音についての記述がなされている.

まず,本書の特徴としては,大きく分けて2つある.1つ目は,以前までの本シリーズではCD-ROM付き(前の「A-4 音と生活 -CD-ROM付 -」の発行が,2016年11月であるので時代の流れを感じる)で,実際に音や画像,動画などのディジタルデータが提供されていたが,今回からWebサイト上から簡単にアクセスする方式に変更されている点である.

2つ目は,どちらが本編なのか見間違えるほど膨大な付録PDF(その数,全688ページ!!)の存在である.こちらのPDFは,より深く学びたい読者のためのものでもあり,読破には数式を読み解く力も含めて必要なので,根気がいるだろうと思われる.なお,本書(紙の書籍)の中でも数式がやや登場するが,高校数学と物理の知識があれば,付録ほど難解ではないので理解できるものと思われる.

それに加えて,図も多く記載されており,図3.1xxのような3桁台にも及ぶ図の量は初めて見た.なお,一部の図は,カラー画像としてWebサイトから閲覧できる.

1章では,「楽器」とは何かということで,どこまで(の範囲)が楽器としていえるか?という根本的な内容から,本書が取り扱う楽器について,そもそも「音」というものを人間の可聴域や,音の3属性などの観点から順を追って分かりやすく解説がなされている.

2章では,楽器の構造と発音機構,3章では,楽器の音ということで,各楽器に焦点を当てて,それぞれの楽器に対して,楽器の構造,発音機構,楽器そのものの音について,詳述されている.

本書だけでも,充分に詳述されている方だと個人的には思われるが,まえがきやあとがき,及び1章の最後の部分の記述から見ても分かる通り,著者の方々は,これでもまだ書き足らない!という想いみたいなものが,拝読させていただいている際に,ひしひしと感じ取られた次第である.紙面の都合上,泣く泣く紙の書籍上ではカットしたものが,付録PDFの膨大なページ数に大いに現れていると感じた.

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報一覧

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高橋 公也(タカハシ キンヤ)

若槻 尚斗(ワカツキ ナオト)

掲載日:2024/02/26

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