物理と心理から見る音楽の音響

音響テクノロジーシリーズ 27

物理と心理から見る音楽の音響

物理学や心理学,音楽学,情報工学など,音楽にまつわる学問分野について,横断的に解説。

ジャンル
発行年月日
2024/01/26
判型
A5 上製
ページ数
190ページ
ISBN
978-4-339-01166-1
物理と心理から見る音楽の音響
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定価

3,410(本体3,100円+税)

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • レビュー
  • 著者紹介

【読者対象】
・楽器製作者
・楽器の設計・評価に携わる技術者
・楽器の音響の研究者および学習者
・音楽の演奏の研究者および学習者
・音楽情報の研究者および学習者

【書籍の特徴】
本書は,以下の6章で構成されており,各章において基礎的な内容から具体的な応用事例までを紹介しています。
第1章では,弦,棒,気柱,膜そして板の振動といった楽器の発音に関わる物理現象について数式を用いて記述しています。そして応用事例として、数値計算手法によりシミュレーションを行った例を紹介しています。さらには,振動現象をさまざまなセンサにより計測した研究事例を紹介しています。
第2章では,楽器から発生する音の物理的側面の理解に必要な演奏音の周波数分析法を説明しています。さらには、音を特徴づける物理量である音圧レベルや基本周波数の計測について説明しています。応用事例として、演奏音からヴィブラートを測定する事例について紹介しています。
第3章では,演奏音から受ける心理的側面の解明に必要となる音の代表的な物理量と心理量との対応関係について説明しています。そして,応用事例として演奏音とその熟達度に関する研究を紹介しています。
第4章では,音楽の構造的側面の理解に必要となる和声理論の基礎について説明しています。そして応用事例として、音響学をはじめ音楽知覚認知や脳科学にいたる幅広い分野の研究を紹介しています。
第5章では,演奏者の超絶技巧とも呼べる卓越した技術を研究する手法について説明しています。そして応用事例として、音響学と情報学を軸に広く音楽を調査研究する手法および応用システムについて紹介しています。
第6章では,これまで音響学をはじめとする科学技術が音楽に果した役割について録音技術やホール音響,空間音響再生技術などを中心に概観し,今後の音楽音響学の課題について考察しています。

【著者からのメッセージ】
音楽の研究と聞くとみなさんは何を想像するでしょうか?音楽歴史に関する研究でしょうか?それとも、楽譜に並ぶ音符の構造に関する研究、様々な楽器の発音原理を解明する研究、楽器音の合成に関する研究もしくはホールにおける音楽の響きに関する研究でしょうか?音響や楽器、演奏音など、音楽に関係する研究は非常に多岐にわたり、これらの研究に関係する学問分野も音楽学、音響学、心理学、情報工学、脳科学など多岐にわたっています。そのため、同じように音楽の研究をしているにもかかわらず専門とする分野が違うことでお互いに話がすれ違うこともあります。また、音楽の研究を始めようとする初学者にとっては、何から手をつければよいのかわからず研究を始める一歩を踏み出せないこともあるかと思います。本書では,以上のように多岐にわたる学問分野について基礎理論とその応用例を横断的に解説することで,すでに専門分野を一つ確立されている方が自分の専門分野以外の分野について概観できることや、これから音楽の研究を始めようという大学生が専門とする分野を見つけられることを期待して執筆しています。

音楽を研究対象として考えた場合,音響学だけですべてを説明することは難しいだろう。例えば,楽器の演奏を考えると,楽器から生み出される演奏音は,個々の楽器がもつ振動体の物理的原理に従っているため,振動に関する物理学が関係する。演奏には人間が関与するため,同じ楽器であっても演奏音は演奏者の影響を受ける。そのため,巧みな演奏者の身体制御のメカニズムを明らかにすることや,動作と演奏音の関係を調べることも必要であろう。楽器から生み出された演奏音は,ホールなどの空間を通過して,その特性に応じて響きが付与され,聴取者の耳に届く。そして,演奏音として知覚され心理的な印象が生じる。つまり,室内音響学や聴覚生理学,心理学も関係する。さらに,演奏音から受ける印象は演奏する音の配列に影響も受けるため,音楽理論に関する音楽学も関係する。近年では音楽はコンピュータ上で作曲・加工・検索されるため,ディジタル信号処理・情報工学も関連している。

本書は,以上のような多岐にわたる学問分野について基礎理論とその応用例を横断的に解説することで,読者が自分の専門分野以外の分野について概観できることを期待し,執筆している。さらには,関係する分野の研究者がそれぞれの知見を融合させることで,相乗効果が生まれることも期待している。

まず,第1章では,楽器のもつ物理的側面について解説する。弦,棒,気柱,膜,そして板の振動といった楽器の発音に関わる物理現象について数式を用いて記述し,数値計算手法によりシミュレーションを行った例を紹介する。さらには,振動現象をさまざまなセンサにより計測した研究事例も紹介する。

第2章では,楽器から発生する音の物理的側面について解説する。演奏音の周波数分析法を説明し,音を特徴づける物理量である音圧レベルや基本周波数の計測について説明する。さらには,演奏音からヴィブラートを測定する事例について紹介する。

第3章では,演奏音から受ける心理的側面の解明に必要な事項を解説する。まず,音の代表的な物理量と心理量との対応関係について説明する。そして,音楽や演奏音の物理量と心理量との対応関係を調べた研究として,演奏音とその熟達度に関する研究を紹介する。

第4章では,音楽の構造的側面の理解に必要な事項を解説する。まず,第4章の内容を理解するために必要な和声理論の基礎について説明する。そして,音響学をはじめ音楽知覚認知や脳科学にいたる幅広い分野の研究を紹介する。

第5章では,演奏者の技術的側面の解明に必要な事項,および音楽音響情報学について述べる。まず,演奏者の超絶技巧とも呼べる卓越した技術を研究する手法について説明する。そして,音響学と情報学を軸として広く音楽を調査研究する手法を説明し,応用システムについて紹介する。

第6章では,これまで音響学をはじめとする科学技術が音楽に果たした役割について,録音技術やホール音響,空間音響再生技術などを中心に概観し,今後の音楽音響学の課題について考察する。

近年,深層学習をはじめとする人工知能を用いた研究は,急速に進展しており,音楽音響分野においても,楽曲検索や自動作曲を対象として盛んに行われている。このように,音楽の音響に関係する学問分野は広がっており,音楽の理解に向けてさまざまな分野の知見を融合する試みの重要性は,ますます高まっていくであろう。

最後に,本書が完成に至るまで粘り強くご対応いただいた関係諸氏に厚く御礼申し上げます。

2023年11月
大田健紘

1. 楽器の物理
1.1 楽器の発音機構
 1.1.1 楽器の分類
 1.1.2 1自由度の質点の振動
 1.1.3 連成振動系
 1.1.4 弦の振動
 1.1.5 棒の振動
 1.1.6 気柱の振動
 1.1.7 膜の振動
 1.1.8 板の振動
1.2 楽器の計測
 1.2.1 レーザ干渉法による面振動の計測
 1.2.2 振動面近傍の音圧分布による面振動の可視化
 1.2.3 近距離場音響ホログラフィ法による面振動の計測
 1.2.4 弦振動の計測
 1.2.5 人工吹鳴装置を用いる気鳴楽器の計測
引用・参考文献

2. 演奏音の物理
2.1 音の基礎
2.2 演奏音の周波数分析
 2.2.1 離散フーリエ変換
 2.2.2 短時間フーリエ変換による演奏音の分析
 2.2.3 定Q変換による演奏音の分析
2.3 音圧レベルの測定
 2.3.1 音圧レベルとは
 2.3.2 サウンドレベルメータ(騒音計)による音圧レベルの測定
 2.3.3 サウンドレベルメータの校正
2.4 基本周波数の推定
 2.4.1 時間領域での推定
 2.4.2 周波数領域での推定
 2.4.3 基本周波数の推定精度
2.5 解析信号による音楽音響信号の分析
2.6 ヴィブラートの測定
 2.6.1 ヴィブラートのパラメータ
 2.6.2 各倍音のヴィブラート測定
引用・参考文献

3. 演奏に関わる心理
3.1 心理音響の基礎
 3.1.1 音の大きさに関する心理量:ラウドネス
 3.1.2 音の鋭さに関する心理量:シャープネス
 3.1.3 音の変動の大きさに関する心理量:変動強度
 3.1.4 音の粗さに関する心理量:ラフネス
3.2 心理音響の楽器演奏評価への適用
 3.2.1 楽器演奏における特徴と熟達度の関係
 3.2.2 変動強度を用いた応用研究
引用・参考文献

4. 音楽理論の仕組み
4.1 和声理論の基礎
 4.1.1 音名,音度,階名
 4.1.2 音程
 4.1.3 音階
 4.1.4 調
 4.1.5 和音とそれぞれの和声的機能
 4.1.6 和音の機能的連結
 4.1.7 終止形(ドミナント・モーション)による調性の確立
 4.1.8 テンションおよびテンション・ヴォイシング
 4.1.9 属七和音におけるテンション
 4.1.10 古典とポピュラーにおけるテンションの違い
4.2 和音の感覚的協和・不協和
 4.2.1 二つの純音に対する感覚的協和・不協和
 4.2.2 高調波成分の干渉を考慮した感覚的協和・不協和
 4.2.3 任意の複合音に対する感覚的協和度の定量化
 4.2.4 和音に対する高次な印象に対する協和・不協和
 4.2.5 和音に対する心理的印象空間の調査と物理量との関係
4.3 聴取実験に基づく音楽理論の妥当性
4.4 生理調査に基づく音楽理論の妥当性
引用・参考文献

5. 演奏科学と音楽音響情報学
5.1 MIDI
 5.1.1 MIDIのおもな特徴
 5.1.2 MIDIのデータベース
 5.1.3 MIDIの問題点
5.2 演奏科学
5.3 音響信号から取得する音響パラメータ
 5.3.1 心理音響指標
 5.3.2 音楽情報処理におけるパラメータ
5.4 音楽情報処理応用システムの例
 5.4.1 単旋律譜に対するタブ譜面自動生成システムS2T
 5.4.2 ギターコード演奏における最適押弦位置決定システムYG
 5.4.3 年代推定システム
 5.4.4 サビメドレーシステム
引用・参考文献

6. 音楽音響学から芸術へ
6.1 音楽音響学と芸術の接点
6.2 先端芸術に用いられる技術
 6.2.1 録音技術の誕生と音楽制作に果たした役割
 6.2.2 ディジタル技術が果たした役割
 6.2.3 音楽と空間
 6.2.4 立体音響とステレオ収音技術
 6.2.5 立体音響と音楽
6.3 音楽音響の研究とこれからの課題
 6.3.1 音響学における音楽の研究
 6.3.2 音場再現と音楽のアーカイブ
 6.3.3 深層学習と人工知能
 6.3.4 音楽における音響学が果たす役割

引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【 wasp9277 様(業界・専門分野:音楽・ソフトウェア開発)】

まえがきに「読者が自分の専門分野以外の分野について概観できることを期待し, 執筆している」とあるように多角的な視点で音響と音楽を扱っています。私自身、DAWで作曲するDTMユーザーであり、弦などの物理モデルのシミュレーションを行う一人でもあります。

第一章の「楽器の物理」では弦や気柱、板などの振動の仕組みとシミュレーション例もしっかりと取り上げており、二章「演奏音の物理」ではAMDFなどの自己相関関数を使ったピッチ検出もわかりやすく解説しています。全体的に非常によくまとまっており、深く立ち入り過ぎていないのも好印象です。

研究者や開発者などは勿論、一般の音楽制作のユーザー、特にMaxやPure Dataなどのユーザーに手に取ってもらいたいと思います。古典的な技術や手法かもしれませんが、別の分野からみるととても新鮮です。参考文献の論文やその他の文献を読む必要はあるかと思いますが、弦のシミュレーションでピアノやギターを、板のシミュレーションでプレートリバーブなど、オリジナルの楽器やエフェクトを作るきっかけになると思います。

読者モニターレビュー【 N/M 様(業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】

本書は「音響テクノロジーシリーズ」の27巻目に位置する書籍である.本巻では「物理と心理から見る音楽の音響」というタイトルから,単に音楽・音響にまつわる学問分野に特化したものではなく,物理学や心理学,情報工学などの他分野と融合した形での記述がなされている.

私自身,情報科学分野が守備範囲であるので,簡単ではあるが5章及び6章を中心にレビューさせていただく.

5章の5.1節では,音というものをディジタル電気信号として扱う際に登場する「MIDI」という規格についての解説がなされている.まず個人的には,「M・I・D・I」とアルファベット読みしていたものが,実は「ミディ」と読むということレベルの理解であったため,MIDIについての概論が学べるであろう.

ただ,細かいことになり大変恐縮だが,『MIDI1.0規格書のPDF版がホームページで公開されており,ダウンロードして読める』という部分に「ホームページ」という記述がある.この「ホームページ」という用語について,世間一般では,「ホームページ」というと,Webブラウザで表示されているものすべてを指すが,情報系の専門分野では,「ホームページ」は「ホーム(Home)」とあるように,任意のWebサイトの最初(トップ,ホーム)のページを指す,という認識の違いがあるので,専門書としては「Webサイト」と記載する方がベストであるという部分には,気をつけていただきたかったのが正直なところではある.

5.4節では,音楽情報処理応用システムの例として,ギター演奏におけるタブ譜自動生成システムや,ギターコード演奏する際の弦を押さえる(押弦)際の手の位置の最適化システム,年代測定システム,サビメドレーシステムなど,音楽情報処理の応用システムの例が紹介されており,情報系の分野の方にも,音楽情報処理系のシステムを考える上でも参考になるのではないかと思われる.例えば.サビメドレーシステムは,聴取状況をユーザの内的要因(「良い気分」,「元気がない」など)や,外的要因(「朝起きてすぐ」,「寝る前」など)によって,分割したものをユーザの聴取状況を基に音楽推薦を行う推薦システム(レコメンドシステム)であるが,この推薦の過程において,何かと話題のAI(人工知能)や機械学習(深層学習[ディープラーニング])などの技術とも関連性があるので興味深いと思われる.

6章の6.1節では,音楽音響学から芸術へということで,音楽と科学との接点を,紀元前6世紀ギリシャの哲学者ピタゴラスのピタゴラス音律から,順を追って解説がなされている.個人的には,テープ録音機の完成の裏には,第二次世界大戦前後の軍事技術の開発が大きく関わっていたことには驚かされた(詳しくは,是非とも本書を読んでいただきたい〔他にも同じ箇所で,本書内に挙げられている暗号に関連して少し挙げると,ナチス・ドイツが用いた「エニグマ(Enigma)」という暗号機も同じ頃〕).

6.2節では,音というものを記録するための録音技術の発展として,蓄音機・テープ録音機などを取り上げた後,電気・電子楽器と続き,ディジタル信号処理という順に解説がなされている.6.2.2項では,情報理論の分野で有名な人物シャノン氏の名や標本化定理(サンプリング定理)などの,おなじみの用語も登場する.

6.3.3項では,先程述べた,深層学習や人工知能を音楽音響分野への可能性についても述べられている.

大田 健紘(オオタ ケンコウ)

若槻 尚斗(ワカツキ ナオト)

加藤 充美(カトウ ミツミ)

西村 明(ニシムラ アキラ)

安井 希子(ヤスイ ノゾミコ)

江村 伯夫(エムラ ノリオ)

三浦 雅展(ミウラ マサノブ)

亀川 徹(カメカワ トオル)