音のチカラ 感じる,楽しむ,そして活かす

音のチカラ - 感じる,楽しむ,そして活かす -

私たちは音から様々な情報を読み取っている。音が持つチカラについて包括的に論じた書籍。

ジャンル
発行年月日
2018/01/10
判型
A5
ページ数
192ページ
ISBN
978-4-339-00906-4
  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • レビュー
  • 著者紹介
  • 書籍紹介・書評掲載情報

私たちが普段聞いている音は空気の振動である。しかし,私たちはこの音から様々な情報を読み取っている。本書はそのような音が持っているチカラについて包括的に論じる書籍である。

本書のねらい ―「音のチカラ」を体系化したい―
私は,1971年4月に日本でただ一つ音響設計学科を有する九州芸術工科大学に入学し,「音」の専門家を志してきた。九州芸術工科大学で助手の職を得て以来,音響設計学科の教育の一端を担うとともに「音」の研究を続けてきた。2003年10月に九州芸術工科大学は九州大学と統合したが,2018年3月には定年のため九州大学を去ることとなった。学生時代を含めると,47年間,音響設計学科とともに過ごしたことになる。その間,いろいろな場面でのさまざまな「音」に興味を抱き,研究対象として深くつき合ってきた。

学生時代は伝統的な立場の「音響学」を中心とした教育を受けたが,人間との関わりに興味を抱き,「音響心理学」的立場の研究に従事する。その後,サウンドスケープの思想の影響を受け,音の持つ文化的,社会的側面にも興味を抱くようになる。さらに,映像や景観といった視覚情報と関わる「音」の問題にも取り組んだ。また,「音のデザイン」という新しい分野を提唱して,機械音の快音化やサイン音のデザインの研究を行いつつ,「音のデザイン」分野のプロモーションにも尽力してきた。このような研究に取り組むとともに,教員生活を通して音響設計学科を代表する授業の「聴能形成」を担当し,同僚の先生方と協力して,その継続と改善と展開に取り組んできた。

本書は,私が40年以上にわたって研究してきた成果を,「音のチカラ」を体系的に明示する目的で再構成したものである。「音のチカラ」とは,音が人間と関わり,影響を及ぼし,文化を創造させる「力」のことをいう。

本書の構成 ―「音のチカラ」の多様性を知ってほしい―
私たちが聞いている「音」は,空気の振動である。しかし,私たちにとって音はそれだけの存在ではない。音は,聴覚を通して脳で処理され,心に響く。私たちのまわりにはさまざまな音があり,人間との関わり方も多様である。音は,環境の構成要素であり,情報を伝えるメディアであり,文化の担い手でもある。音は,生活とともにあり,映画やテレビの世界にも存在する。私たちは,現実の世界でも,バーチャルな世界でも,さらには記憶の中でも,「音」を感じている。

私たちは,音からさまざまな情報を読み取っている。言葉の意味を理解し,音楽の美しさを感じることもできる。音によって環境の状況を知ることもできる。自然を感じる音や日常を彩る音もあれば,危険を知らせてくれる音もある。人間が築いてきた文化を象徴する音も少なくない。音は主役にもなり,脇役にもなる。主役であっても脇役にまわっても,私たちは「音のチカラ」を実感することができる。私たちはそんな音を楽しんでいる。そんな音のチカラを活かす術も多彩である。

私たちの研究室では,「音の世界」をさまざまな観点から研究してきた。特に,人間と音の関わり,人間の持つ音に対する感性を主たる研究対象としてきた。一連の研究を通して,「音のチカラ」を解明したいと思い続けてきた。本書は,私たちの研究室で解き明かしてきた「音のチカラ」を包括的に論じる書となっている。

本書では,私たちが感受している「音のチカラ」を体系的に理解していただくために,私たちが取り組んできた研究を6章構成にまとめた。各章は,「音の感性的側面に迫る」「製品音の快音化とその評価」「メッセージを伝えるサイン音のあり方を探る」「サウンドスケープ― 音環境と人間の関わりを探る―」「映像を活かす音のチカラ」「聴能形成― 音の感性を育成するトレーニング―」といった内容を扱う。各章においては,私たちが取り組んだ研究内容や得られた研究成果の意義とともに,その研究テーマに至った経緯や背景,さらには研究を通して考えてきたことなどを述べさせていただいた。

なお,本書で紹介した私たちの研究の発表論文は,各章の最後に参考文献として掲載している。必要に応じて活用していただきたい。

読者へのメッセージ ―「音のチカラ」を理解してほしい―
音の世界に興味を持っておられる方には,本書により「音のチカラ」を理解し,音の世界の広がりと音に関わるさまざまな関連分野の深みをわかっていただけると思う。音を専門的に学んでみようという方には,本書は最適な紹介書となるだろう。特に,人間との関わりを持った音に関心を持っておられる方には,平易には記述しているが,本書の内容は音の感性に関わる最先端の研究分野を反映したものとなっている。

耳には蓋がない。私たちは,生きている限り,音を聞き続ける。私たちは,一生音とつき合うのである。日常生活で接する音はもとより,文芸の世界からマルチメディアまで,本書で扱う音の世界は幅広い。本書では,「音のチカラ」をいかに感じ,いかに楽しみ,いかに活かすのかを包括的かつ体系的に論じている。読者の方々には,本書を通して「音」というものがいかに私たちの生活と密着し,私たちに影響を及ぼしているかを理解していただきたい。本書によって,「音」に対する興味を深めてもらえれば本望である。

2017年12月 岩宮 眞一郎

1. 音の感性的側面に迫る
1.1 音の3要素は,大きさ,高さ,音色
1.2 音の大きさはパワーで決まる
1.3 色が音の大きさに影響する
1.4 ほかの音の存在が音の大きさに影響する(マスキング)
1.5 音の大きさの感覚には男女差がある
1.6 音の高さは周波数で決まる
1.7 変動音の高さの知覚
1.8 音色の印象的側面と音色評価尺度
1.9 音色の印象的側面は3次元
1.10 音色の識別的側面は聞き分ける力
1.11 音色の識別的側面に対するファジィ集合モデルの適用
1.12 楽器の分類もファジィな分類である
1.13 擬音語は音の感性を伝える言葉
1.14 音が美的感性へアピールするチカラを音のデザインに活かす
むすび─音の感性を科学してきた─
参考文献

2. 製品音の快音化とその評価
2.1 快音化の時代がやってきた
2.2 音楽と騒音の2項対立の解消
2.3 快音がセールスポイントに
2.4 受け身の騒音制御から攻めの快音化へ ―音に対する発想の転換―
2.5 家電製品に対する不快感を調査する
2.6 快音を製品のセールスポイントに
2.7 「音の魅力」はなんぼやねん?
2.8 快音に対するユーザの意識 ―オートバイのライダーを対象として―
2.9 機械騒音の純音成分が不快感や疲労感に及ぼす影響
2.10 音を所有する喜び ―「聞かせびらかし」の美学―
むすび─製品の快音化の必要性を訴えてきた─
参考文献

3. メッセージを伝えるサイン音のあり方を探る
3.1 サイン音とはメッセージを伝える音
3.2 サイン音に求められる特性
3.3 わかりやすく,憶えやすいサイン音とは?
3.4 周期的な変動音から感じられる機能イメージと擬音語表現
3.5 自動車内にもサイン音があふれている
3.6 断続音の「緊急感」を段階的に制御するデザイン手法
3.7 スイープ音を用いたタッチパネルの操作感の向上
3.8 音楽的表現を用いたサイン音 ―メロディや和音で語らせる―
3.9 連続する2音のピッチ変化がサイン音の機能イメージに及ぼす影響
3.10 和音がサイン音の機能イメージに及ぼす影響
3.11 分散和音がサイン音の機能イメージに及ぼす影響
3.12 ホイッスルにふさわしい音響特性
3.13 視覚障がい者のためのサイン音のユニバーサル・デザイン
むすび─サイン音の研究をメジャーにした─
参考文献

4. サウンドスケープ ―音環境と人間の関わりを探る―
4.1 サウンドスケープ(音の風景)の意味するところ
4.2 音響生態学はサウンドスケープの学問分野
4.3 公園で好まれる音,嫌われる音
4.4 遊園地におけるBGMの演出効果
4.5 環境音の認識や関心に対する携帯型音楽プレーヤによる音楽聴取の影響
4.6 外国人が聞いた日本の音風景
4.7 日本らしいコミュニケーションが「文化騒音」を生み出す
4.8 ニュース速報のチャイムは日本独自の音
4.9 トイレ用擬音装置は日本の音文化
4.10 紀行文に記された明治の音風景
4.11 歳時記に詠み込まれた日本の音風景
4.12 歳時記に詠み込まれた九州のサウンドマーク
4.13 日本の音文化には「おもてなし」の精神が宿っている
4.14 視覚障がい者が頼る「音」
4.15 視覚障がい者の歩行を妨げる雨音
むすび─サウンドスケープは私の人生を変えた─
参考文献

5. 映像を活かす音のチカラ
5.1 映像メディアにおける音の役割
5.2 音が映像の印象を決める
5.3 音がリアリティを感じさせる
5.4 「音」で笑わせる
5.5 音と映像を調和させる
5.6 構造的調和は音と映像の時間構造の一致
5.7 意味的調和は音と映像の印象の一致
5.8 さまざまな要因に基づく映像と音楽による意味的調和
5.9 意味的調和においても文脈効果がある
5.10 実際の作品における音と映像の調和感の形成過程
5.11 音と画の対位法 ─あえて調和を崩す黒澤明の手法の効果─
5.12 ピッチと空間の上下関係の不思議で普遍的な結びつき
5.13 音と映像の変化パターンの調和 ─ピッチの上昇・下降と合う動き─
5.14 複合的な映像の変化と調和するピッチパターン ─上下方向の優位性─
5.15 音と映像の変化パターンと音と映像の空間性の調和
5.16  台詞終わりの音楽を活かす「間」
5.17 笑いを醸成する「間」 ─シンボリックな音楽を効果的に用いるために─
5.18 映像作品における環境音が場面の状況,登場人物の心情を語る
むすび─映像作品における音のチカラを示してきた─
参考文献

6. 聴能形成 ―音の感性を育成するトレーニング―
6.1 「聴能形成」は音に対する鋭い感性を養成するための授業科目である
6.2 音響設計技術者に必要とされる「音の感性」
6.3 九州大学芸術工学部音響設計学科における聴能形成のカリキュラム
6.4 聴能形成Ⅰ ─聴能形成の基礎コース─
6.5 聴能形成Ⅱ ─聴能形成の上級コース─
6.6 聴能形成教育の普及
6.7 自動車の異音検査への適用
6.8 音響関連メーカにおける聴能形成訓練導入への協力
6.9 聴能形成教育普及のさらなる展開
6.10 聴能形成訓練システム
むすび─聴能形成とともに教員生活を送ってきた─
参考文献

あとがき ―「音のチカラ」に感謝を込めて―
索引

amazonレビュー

岩宮 眞一郎(イワミヤ シンイチロウ)

「読売新聞」夕刊READ&LEAD2018年7月3日

「月刊 ラジオ技術」2018年4月号 No,933