聴 覚

音響学講座 5

聴 覚

生理学・心理物理学的な立場から解説し、聴覚研究に通底する考え方や枠組みも理解できる

ジャンル
発行年月日
2021/04/26
判型
A5
ページ数
330ページ
ISBN
978-4-339-01365-8
聴 覚
在庫あり

定価

4,950(本体4,500円+税)

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人間にとって聴覚とは、環境を把握し、コミュニケーションを成り立たせるために欠かせない情報処理機構であるとともに、感情に直結する感覚世界を構成する重要な要素でもある。
本書は、環境音や音声から有益な情報を抽出する情報処理システムとして聴覚をみなし、主に生理学・心理物理学的な切り口でその概要を解説する。

特に基本的な項目を12の章にわたって説明している。それぞれの章は独立に読むこともできるが、全章を相互に参照しながら読むことで、聴覚研究全体に通底する基本的な考え方や枠組みを理解できるようにした。こうして体系化された知識は、聴覚のメカニズムを知りたい、特性を知りたい、技術的な応用可能性を知りたい…いずれの読者にとっても有益であろう。

■本書が対象とする読者
・感覚・知覚の心理学・生理学、音響・音声工学に興味を持つ学生、初学者
・音響技術やオーディオ技術の設計・評価に携わるエンジニア
・聴覚障害・補償に関連する熱心な臨床関係者、技術者

■章構成と主な項目
第1章 聴覚系の生理学・解剖学
聴覚末梢、聴覚中枢
第2章 周波数分析機能
聴覚フィルタの特性、聴覚フィルタの推定とモデル、マスキング、励起パターン、周波数間統合
第3章 検出閾値・ラウドネス・強度弁別
最小可聴値、ラウドネスの特性とモデリング、ウェーバーの法則、ダイナミックレンジ
第4章 時間情報処理
時間分解能、変調スペクトル、変調フィルタバンク、時間微細構造
第5章 空間知覚・両耳聴
音像定位と音源定位、頭部伝達関数、方向知覚、距離知覚、両耳マスキング、両耳聴モデル
第6章 ピッチ
ピッチの知覚現象、知覚のモデルと生理メカニズム、心理物理学と音楽
第7章 知覚体制化
聴覚情景分析、同時的群化、継時的群化、知覚的補完
第8章 音色
音色の定義、音色の性質、音色を決める音の物理的特徴、音色・音質の客観評価
第9章 音声知覚
音声学の基礎、音声知覚の問題、音声知覚の頑健性、脳内メカニズム
第10章 注意
注意の諸相、カクテルパーティ効果、周波数への注意、空間的注意、聴覚物体への注意
第11章 感覚間相互作用
聴覚・視覚・触覚の空間的・時間的処理、聴覚と視覚の相互作用、聴覚と触覚の相互作用、感覚間相互作用のモデル
第12章 聴覚異常・補償技術
難聴の分類、聴覚検査、聴覚の異常、高次脳機能障害、補聴器・人工内耳

人間にとって聴覚とは,環境を把握し,コミュニケーションを成り立たせるために欠かせない情報処理機構であるとともに,感情に直結する感覚世界を構成する重要な要素でもある。そのはたらきの背後には緻密な生理学的機構がある。音響学で扱われるさまざまな技術は,人間の聴覚特性を基準として設計・評価される。このように,「聴覚」の意義は多面的で,その何を理解したいのか(メカニズム,機能,現象,特性など)も人によってさまざまであろう。

音響学講座を構成する一巻として,本書では,環境音や音声から有益な情報を抽出する情報処理システムとして聴覚を見なし,おもに生理学・心理物理学的な切り口でそれを理解しようとする立場をとる。聴覚を構成する特性のなかで,特に基本的と思われる項目を12の章にわたって解説する。各章は,(一部を除いて)異なる執筆者が担当しており,それぞれを個別に読んで理解することが可能である。一方,全章を相互に参照しながら読むことにより,現在の聴覚研究全体に通底する基本的な考え方やパラダイムも理解できるように努めた。聴覚システムを体系的に理解する一つの枠組みを提供するのが,本書の大きな狙いである。

本書ではまず,音響情報を表現・処理する「聴覚系の生理学・解剖学」を解説したうえで(1章),システムとしての「周波数分析機能」を解説する(2章)。これが聴覚を体系的に理解するための基礎となる。続く3~6章は,音知覚の要素的な側面(3章「検出閾値・ラウドネス・強度弁別」,4章「時間情報処理」,5章「空間知覚・両耳聴」,6章「ピッチ」)に関する解説である。分析された音響情報は,それが統合・評価されて初めて人間にとって意味があるものとなるが,続く7章「知覚体制化」では,まず,複雑な音環境から意味のある情報を抽出・構成するプロセスを解説する。さらに,音の意味を理解するという,聴覚の役割を最も端的に表す「音色」(8章)および「音声知覚」(9章)について解説する。この二つは,考慮すべき音情報とそれによって生じる知覚がいずれも多次元の構造をもち,かつ,両者の対応が単純に関係付けられない点で共通している。読者には,過去の研究者がこの困難な課題をどのように整理し,知見を積み上げてきたかを,理解していただきたい。なお,音声知覚については,やや工学的な立場から解説する本講座第6巻「音声(上)」も参照すると良いだろう。10章は,聴覚の「注意」に関する研究上の取組みや知見を紹介する。聴覚系が限られた認知資源で現実場面の複雑な音環境に対処できているのは,音の特定の側面に注意を向けて,情報をうまく重み付けしているからである。「注意」に1章分を割いて解説しているのは,ほかの教科書には見られない本書の特徴である。11章「感覚間相互作用」では,一歩下がって,ほかの感覚(視覚,触覚)と相対化して聴覚を眺める。感覚間の相似性と相違性,および情報統合の態様を理解することは,聴覚系の役割の本質的な理解にもつながるはずである。最後の12章では,「聴覚異常・補償技術」を取り扱う。聴覚の体系的理解がその力を発揮できるのがこの分野である。聴覚に関する学術的理論を理解するうえでも,この章が解説する応用的な課題から学ぶべきことは多い。

執筆分担は以下のとおりである。各領域で優れた実績をもつ方々に執筆を担当していただけたことに,編者として感謝している。

堀川順生 1章  入野俊夫 2章  鈴木陽一 3章
古川茂人 3章,4章  飯田一博 5章  津崎 実 6章
柏野牧夫 7章,9章  小澤賢司 8章  森 周司 10章
北川智利 11章  日髙聡太 11章  坂田俊文 12章
白石君男 12章

2021年2月
古川茂人

1.聴覚系の生理学・解剖学
1.1 聴覚末梢
 1.1.1 外耳・中耳
 1.1.2 内耳
 1.1.3 内耳における情報表現
1.2 聴覚中枢
 1.2.1 求心性経路の概要
 1.2.2 求心性経路の機能
 1.2.3 遠心性経路
引用・参考文献

2.周波数分析機能
2.1 聴覚における周波数分析機能
2.2 聴覚フィルタの特性
 2.2.1 振幅周波数特性
 2.2.2 聴覚フィルタの帯域幅と周波数軸
 2.2.3 音圧依存性と入出力特性
2.3 聴覚フィルタの推定とモデル
 2.3.1 マスキング現象と心理物理学的実験
 2.3.2 臨界帯域の測定
 2.3.3 マスキングのパワースペクトルモデル
 2.3.4 ノッチ雑音マスキング法によるフィルタ形状の推定
 2.3.5 聴覚フィルタのモデル
2.4 マスキングパターンと励起パターン
 2.4.1 マスキングパターン
 2.4.2 励起パターン
 2.4.3 正弦波音の励起パターン
 2.4.4 調波複合音の励起パターン
 2.4.5 時間応答のある聴覚フィルタバンク出力
2.5 周波数間統合
2.6 非同時マスキングによる末梢系特性の推定
 2.6.1 抑圧特性の推定
 2.6.2 聴覚フィルタの推定
 2.6.3 圧縮特性の推定
引用・参考文献

3.検出閾値・ラウドネス・強度弁別
3.1 検出閾値
 3.1.1 最小可聴値
 3.1.2 時間積分
3.2 ラウドネス
 3.2.1 ラウドネスの定義
 3.2.2 ラウドネスレベル
 3.2.3 ラウドネスを表す感覚尺度
 3.2.4 ラウドネスを直接求める実験
 3.2.5 ラウドネスの特性
 3.2.6 ラウドネスのモデル
 3.2.7 ラウドネスのそのほかの特性
3.3 強度弁別,ダイナミックレンジ
 3.3.1 ウェーバーの法則
 3.3.2 ウェーバーの法則からのニアミス
 3.3.3 広いダイナミックレンジを支えるメカニズム
引用・参考文献

4.時間情報処理
4.1 聴覚の時間情報処理
4.2 時間分解能
 4.2.1 ギャップ検出
 4.2.2 非同時マスキングと時間窓
 4.2.3 時間変調伝達関数
 4.2.4 周波数間の時間変動比較
 4.2.5 時間軸上の情報統合
4.3 変調スペクトル
 4.3.1 変調スペクトル
 4.3.2 変調フィルタバンク
 4.3.3 より一般的な時間・スペクトル表現
4.4 時間微細構造
引用・参考文献

5.空間知覚・両耳聴
5.1 音像定位と音源定位
5.2 頭部伝達関数
5.3 方向知覚
 5.3.1 左右方向の知覚
 5.3.2 前後上下方向の知覚
 5.3.3 方向知覚の弁別閾
 5.3.4 複数の入射音に対する方向知覚
 5.3.5 騒音下での方向知覚
5.4 距離知覚
 5.4.1 音源距離と音像距離
 5.4.2 距離知覚の手掛かり
5.5 両耳マスキング
5.6 両耳聴の緩慢さ
5.7 両耳聴モデル
引用・参考文献

6.ピッチ
6.1 音響学におけるピッチ
6.2 ピッチの知覚現象
 6.2.1 場所説と時間説
 6.2.2 基本周波数欠落音
 6.2.3 成分の分解性とピッチの支配領域
 6.2.4 二分法を超えて
6.3 ピッチ知覚のモデルと生理メカニズム
 6.3.1 ピッチ導出のモデル
 6.3.2 ピッチの神経表現
6.4 ピッチの心理物理学と音楽
引用・参考文献

7.知覚体制化
7.1 知覚体制化とは
 7.1.1 知覚体制化と聴覚オブジェクト
 7.1.2 情報処理課題としての知覚体制化
7.2 同時的群化
 7.2.1 基本周波数と調波性
 7.2.2 立ち上がりの同期
 7.2.3 振幅もしくは周波数の変化の共通性(コヒーレンス)
 7.2.4 空間定位の共通性
7.3 継時的群化
 7.3.1 周波数の近接性
 7.3.2 音響特徴の近接性
 7.3.3 継時的群化における注意の役割
7.4 知覚的補完
 7.4.1 知覚的補完とは
 7.4.2 知覚的補完の生起条件
 7.4.3 知覚的補完と知覚的属性の決定
引用・参考文献

8.音色
8.1 音色の定義
 8.1.1 timbreとtone color
 8.1.2 音色と音質
8.2 音色の性質
 8.2.1 音色の二つの側面
 8.2.2 印象的側面
 8.2.3 識別的側面
8.3 音色を決める音の物理的特徴
 8.3.1 音色を規定する物理的特徴の概観
 8.3.2 静的音色を決める要因(1)振幅スペクトル
 8.3.3 静的音色を決める要因(2)位相スペクトル
 8.3.4 準静的音色を決める要因:波形の包絡線の時間変化
 8.3.5 動的音色を決める要因:波形の包絡線とスペクトルの時間変化
 8.3.6 準動的音色を決める要因:スペクトルの時間変化
 8.3.7 総合的音色を決める要因:音の特徴に関する要約統計量
8.4 音色・音質の客観評価
 8.4.1 音色の客観評価指標
 8.4.2 音質の客観評価指標
引用・参考文献

9.音声知覚
9.1 音声学の基礎
 9.1.1 音声連鎖
 9.1.2 言語学的分節単位の種類と音声記号
 9.1.3 音声の生成過程
9.2 音声知覚の問題
 9.2.1 音響信号の分節境界と不変量の欠如
 9.2.2 音響信号の変動や劣化の要因
9.3 音声知覚の頑健性
 9.3.1 周波数領域での頑健性
 9.3.2 時間領域での頑健性
 9.3.3 文脈への適応
 9.3.4 トップダウン処理
9.4 音声知覚の脳内メカニズム
 9.4.1 音声知覚の運動理論
 9.4.2 知覚と生成の独立性
 9.4.3 知覚と生成の関連性
 9.4.4 二重経路モデル
引用・参考文献

10.注意
10.1 注意とは
10.2 注意の諸相
 10.2.1 注意の分類
 10.2.2 定位
 10.2.3 物体に基づく注意
10.3 カクテルパーティ効果
 10.3.1 両耳分離聴課題
 10.3.2 初期選択
 10.3.3 後期選択
10.4 周波数への注意
 10.4.1 理想的観察者と周波数不確定性
 10.4.2 偽装
 10.4.3 手掛かり提示
 10.4.4 信号弁別
 10.4.5 単一帯域モデルと複数帯域モデル
10.5 空間的注意
 10.5.1 右耳優位性
 10.5.2 耳への注意
 10.5.3 聴空間への注意
 10.5.4 復帰抑制
 10.5.5 聴空間探索
10.6 聴覚物体への注意
 10.6.1 聴覚物体
 10.6.2 音脈
 10.6.3 情報マスキング
 10.6.4 聴覚探索
引用・参考文献

11.感覚間相互作用
11.1 感覚間相互作用の意義
11.2 聴覚・視覚・触覚の空間的・時間的処理
11.3 聴覚と視覚の相互作用
 11.3.1 空間的な相互作用
 11.3.2 時間的な相互作用
 11.3.3 時空間的な相互作用(運動知覚)
 11.3.4 感覚モダリティ間対応
11.4 聴覚と触覚の相互作用
 11.4.1 空間的・時間的な相互作用
 11.4.2 振動感覚
 11.4.3 聴覚と触覚(体性感覚)のそのほかの相互作用
11.5 感覚間相互作用のモデル
引用・参考文献

12.聴覚異常・補償技術
12.1 難聴の分類
 12.1.1 外耳・中耳性難聴(伝音難聴)
 12.1.2 内耳性難聴(感音難聴)
 12.1.3 後迷路性難聴(感音難聴)
12.2 聴覚検査
 12.2.1 純音聴力検査
 12.2.2 インピーダンスオージオメトリ
 12.2.3 耳音響放射
 12.2.4 SISI検査
 12.2.5 ABLB検査
 12.2.6 自記オージオメトリ
 12.2.7 語音聴力検査
 12.2.8 不快閾値
 12.2.9 聴性誘発反応
12.3 聴覚の異常
 12.3.1 難聴
 12.3.2 耳鳴
 12.3.3 聴覚過敏
 12.3.4 耳閉感
 12.3.5 自声強調
 12.3.6 複聴
12.4 高次脳機能障害
 12.4.1 聴覚情報処理障害
 12.4.2 発達障害
 12.4.3 失語症
12.5 補聴器・人工内耳
 12.5.1 補聴器の構造
 12.5.2 補聴器の種類
 12.5.3 補聴器の特性
 12.5.4 補聴器の機能
 12.5.5 補聴器のフィッティング
 12.5.6 補聴器適合と装用効果の測定
 12.5.7 人工内耳の適応と原理
引用・参考文献

索引

読者モニターレビュー【あつもり様(ご専門:音・聴覚情報処理)】

聴覚に関わる基礎知識や,最新の研究動向を知ることができました。

「聴覚」は物理学から生理学,心理学等にまで及ぶ,幅広い領域に関わる複雑な知覚機構の1つですが,そのような聴覚が様々な観点から概要や現状の課題等を中心に系統立てて解説されていました。

特に11章の「感覚間相互作用」は,その分野の学習の第一歩として大変有用であると感じました。

ヒトは様々な知覚情報を同時に処理しているため,それぞれの知覚情報の関係性を明らかにすることは大変重要ですが,論文や本で系統的にまとめられているものはあまり多くないと感じていたので,11章で解説されている,聴覚情報とその他の知覚情報との相互作用は,特に参考になりました。

堀川 順生(ホリカワ ジュンセイ)

柏野 牧夫(カシノ マキオ)

北川 智利(キタガワ ノリミチ)

日高 聡太

日高 聡太(ヒダカ ソウタ)

立教大学現代心理学部心理学科にて,主に実験心理学的手法を用いて,人の知覚・認知に関わる研究に従事しています。特に視覚や聴覚,触覚といった複数の感覚について各感覚情報処理のメカニズムや感覚間の相互作用様式について関心をもって研究を行っています。

坂田 俊文(サカタ トシフミ)

白石 君男(シライシ キミオ)

掲載日:2021/10/11

「心理学ワールド」95号

掲載日:2021/08/26

日本音響学会 2021年秋季研究発表会講演論文集広告

掲載日:2021/03/01

日本音響学会 2021年春季研究発表会 講演論文集広告

「音響学講座」ラインナップ
  1. 基礎音響学
  2. 電気音響
  3. 建築音響
  4. 騒音・振動
  5. 聴覚
  6. 音声(上)
  7. 音声(下)
  8. 超音波
  9. 音楽音響
  10. 音響学の展開
「音響学講座」発刊にあたって

 音響学は,本来物理学の一分野であり,17世紀にはその最先端の学問分野であった。その後,物理学の主流は量子論や宇宙論などに移り,音響学は,広い裾野を持つ分野に変貌していった。音は人間にとって身近な現象であるため,心理的な側面からも音の研究が行われて,現代の音響学に至っている。さらに,近年の計算機関連技術の進展は,音響学にも多くの影響を及ぼした。日本音響学会は,1977年以来,音響工学講座全8巻を刊行し,わが国の音響学の発展に貢献してきたが,近年の急速な技術革新や分野の拡大に対しては,必ずしも追従できていない。このような状況を鑑み,音響学講座全10巻を新たに刊行するものである。

 さて,音響学に関する国際的な学会活動を概観すれば,音響学の物理/心理的な側面で活発な活動を行っているのは,米国音響学会(Acoustical Society of America)であろう。しかしながら,同学会では,信号処理関係の技術ではどちらかというと手薄であり,この分野はIEEEが担っている。また,録音再生の分野では,Audio Engineering Society が活発に活動している。このように,国際的には,複数の学会が分担して音響学を支えている状況である。これに対し,日本音響学会は,単独で音響学全般を扱う特別な学会である。言い換えれば,音響学全体を俯瞰し,これらを体系的に記述する書籍の発行は,日本音響学会ならではの活動ということができよう。

 本講座を編集するにあたり,いくつか留意した点がある。前述のとおり本講座は10巻で構成したが,このうち最初の9巻は,教科書として利用できるよう,ある程度学説的に固まった内容を記述することとした。また,時代の流れに追従できるよう,分野ごとの巻の割り当てを見直した。旧音響工学講座では,共通する基礎の部分を除くと,6つの分野,すなわち電気音響,建築音響,騒音・振動,聴覚と音響心理,音声,超音波から成り立っていたが,そのうち,当時社会問題にもなっていた騒音・振動に2つの巻を割いていた。本講座では,昨今の日本音響学会における研究発表件数などを考慮し,騒音・振動に関する記述を1つの巻にまとめる代わりに,音声に2つの巻を割り当てた。さらに,音響工学講座では扱っていなかった音楽音響を新たに追加すると共に,これからの展開が期待される分野をまとめた第10巻「音響学の展開」を刊行することとし,新しい技術の紹介にも心がけた。

 本講座のような音響学を網羅・俯瞰する書籍は,国際的に見ても希有のものと思われる。本講座が,音響学を学ぶ諸氏の一助となり,また音響学の発展にいささかなりとも貢献できることを,心から願う次第である。

2019年1月

安藤 彰男