音色の感性学 - 音色・音質の評価と創造  -

音響サイエンスシリーズ 1

音色の感性学 - 音色・音質の評価と創造 -

「音色」や「音質」を学問的にとらえることは困難である。しかし,どちらも日常生活にもかかわるとても身近な存在である。騒音制御から音楽芸術まで,音響学の各分野にまたがる学際的な分野に,多角的なアプローチでせまる一冊。

ジャンル
発行年月日
2010/08/27
判型
A5
ページ数
240ページ
ISBN
978-4-339-01347-4
音色の感性学 - 音色・音質の評価と創造  -
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定価

3,740(本体3,400円+税)

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「音色」や「音質」を学問的にとらえることは困難である。しかし,どちらも日常生活にもかかわるとても身近な存在である。騒音制御から音楽芸術まで,音響学の各分野にまたがる学際的な分野に,多角的なアプローチでせまる一冊。初版第5刷の発行に際して,様々な音源のデモンストレーションを収録したCD-ROMの付属を廃止し,同内容をコロナ社ウェブサイトからダウンロードできるようにした。

第1章 音色・音質の特徴とその評価
1.1 音色の特徴とその評価
1.1.1 音色という言葉
1.1.2 音色の定義とその問題点
1.1.3 音の3要素と音色
1.1.4 音色の印象的側面と識別的側面 
1.1.5 擬音語─音の感性を伝える言葉─
1.1.6 音色と音質
1.2 音色を規定する物理量と知覚する聴覚の仕組み
1.2.1 音とは何か?
1.2.2 縦波と横波
1.2.3 純音
1.2.4 複合音
1.2.5 位相
1.2.6 ノイズ
1.2.7 うなり
1.2.8 デシベルという単位
1.2.9 聴覚の仕組み
1.2.10 聴覚フィルタ
1.3 音色の評価手法
1.3.1 心理物理学的測定法
1.3.2 心理学的尺度構成法
1.3.3 多次元尺度構成法
1.3.4 多変量解析
1.3.5 SD法
引用・参考文献

第2章 音色・音質を表現する手法
2.1 音色評価尺度─音色・音質評価に使われる形容詞の利用─
2.1.1 音色因子─音色評価尺度の因子分析─
2.1.2 音質評価のための7属性(3主属性と4副属性)
2.1.3 音色表現語の階層構造
2.1.4 海外における音色評価尺度に関する研究
2.2 音の印象を表す擬音語
2.2.1 純音に対する擬音語表現
2.2.2 環境音の音色を表す擬音語表現
2.2.3 擬音語からイメージされる音の印象
2.2.4 擬音語の可能性
引用・参考文献

第3章 音色・音質を決める音響的特徴
3.1 音色の分類
3.2 静的音色
3.2.1 振幅スペクトルと音色の関係
3.2.2 位相スペクトルと音色の関係
3.2.3 周波数スペクトルの相違と音色の類似度の関係
3.2.4 聴覚系内スペクトル表現と音色の関係
3.3 準静的音色
3.3.1 正弦波により振幅変調された正弦波の音色
3.3.2 複雑な波形により振幅変調された正弦波の音色
3.3.3 複合音の協和性
3.4 動的音色
3.4.1 楽器音の聴き分け
3.4.2 成分音の過渡特性の分析/合成
3.4.3 楽器音の音色に及ぼす過渡特性の影響
3.4.4 動的音色の視覚的表現
3.4.5 子音の聴き分け
3.5 準動的音色
3.5.1 FM音の知覚
3.5.2 ビブラートと音色の関係
引用・参考文献

第4章 音質評価指標
4.1 音質評価指標とは
4.2 各種の音質評価指標
4.2.1 ラウドネス
4.2.2 シャープネス
4.2.3 ラフネス
4.2.4 フラクチュエーションストレングス
4.2.5 トーン・トゥ・ノイズレシオ,プロミネンスレシオ
4.2.6 感覚的快さ
4.3 音質評価システムの実際
4.4 音質シミュレーション
引用・参考文献

第5章 音色・音質評価のさまざまな対象
5.1 音響機器の音質
5.1.1 音響機器の音質を決める心理的要因と音響特性との関係
5.1.2 立体音響の音質評価─ステレオ再生の効果─
5.1.3 総合的な音質評価
5.1.4 再生音の音質に及ぼす視覚情報の影響
5.1.5 岐路に立つディジタルオーディオと音質評価
5.2 楽器音の音色
5.2.1 楽器の音色を規定する音響特性
5.2.2 楽器の音色の特徴を決定する要因
5.2.3 楽器音の立上がりと減衰過程が音色に及ぼす影響
5.2.4 ビブラートの効果
5.2.5 各種の楽器音の音色の特徴を包括的にとらえる
5.2.6 名器「ストラディバリウス」の音質
5.3 コンサートホール(聴くための空間)の音質評価
5.3.1 コンサートホールに求められる音響条件
5.3.2 ヨーロッパのコンサートホールの音質比較
5.3.3 両耳間相関係数と「広がり感」
5.3.4 「見かけの音源の幅」と「音に包まれた感じ」
5.4 音声
5.4.1 通話品質に影響を与える諸要因
5.4.2 明瞭度,AEN,および関連尺度
5.4.3 通話音量に基づく尺度REおよびLR
5.4.4 通話の満足度を表す平均オピニオン値 MOS
5.4.5 その他の通話品質の評価尺度 プリファレンススコア
5.4.6 通話品質の客観評価モデルの必要性
5.4.7 基本的支配要因を対象とした通話品質客観評価モデルの概要
5.4.8 モデルの適用と検証結果
5.4.9 通話品質の評価モデルの拡張
5.4.10 現在の評価モデル
5.5 機械音
5.5.1 機械製品における音質評価の重要性
5.5.2 音質評価の手法
5.5.3 合成音を用いた音質評価
5.5.4 音質に影響する音響的特徴と音質評価指標
5.5.5 音質評価に基づいた対策と音のデザイン
5.5.6 音質と製品のイメージ
5.5.7 音質改善がもたらす経済効果
5.5.8 今後の展開
5.6 サイン音
5.6.1 サイン音の特徴─サイン音とはなにか─
5.6.2 サイン音の評価研究事例
5.6.3 擬音語を利用したサイン音評価
5.6.4 視覚障害者のためのサイン音
5.6.5 サイン音に求められるもの
引用・参考文献

第6章 音色の創出
6.1 音色の概観
6.1.1 音色の構造
6.1.2 音楽における音色の役割
6.1.3 楽器音における音色
6.2 電子音の音色とその合成
6.2.1 ミュージックコンクレートと電子音楽
6.2.2 電子音の大分類とその発展
6.3 コンピュータ音楽における楽音合成方式とその音色の分類
6.3.1 電子音色の分類
6.3.2 波形テーブル参照型
6.3.3 ユニットジェネレータ
6.3.4 非線形処理方式
6.3.5 物理モデル
6.3.6 分析/合成方式
6.3.7 走査合成方式
6.4 応用エフェクト
6.4.1 音色モーフィング
6.4.2 物理モデルによる音色モーフィング
6.4.3 混声音
6.5 音色の記述方法
6.5.1 IPA
6.5.2 嗄声の評価法にみる声質の記法
引用・参考文献

索引

岩宮 眞一郎(イワミヤ シンイチロウ)

小坂 直敏(オサカ ナオトシ)

高田 正幸(タカダ マサユキ)

【まえがき】より  「音の3 要素」というのは,聴覚的印象としての「音」がもつ,音の大きさ,音の高さ,音色の三つの側面を意味する。このうち,音の大きさ,音の高さに関しては,その心理的性質も単純で,物理量との対応関係も明確で,理解のしやすい側面であろう。古くから研究が行われ,体系的な知見も得られている。  音の大きさ,高さとともに,音の3 要素を構成している「音色」であるが,大きさ,高さとは同列に論じられないほど,複雑な様相を呈する性質である。研究は多面的に行われているが,音色の知覚過程を体系化することは容易ではない。しかし,学問的にとらえるのに非常に難しい側面でありながら,日常生活においては,音色は非常に身近な存在である。  オーケストラがあれだけ多くの楽器を使い大編成を必要とするのは,われわれが多種多様な楽器の音色の違いを味わう能力があるからである。レコーディングで,録音エンジニアが細かいニュアンスの音質に気づかい,最大の注意を払って音楽を創造するのは,われわれが微妙なニュアンスを感じ取っているからである。蓄音機が電気蓄音機になり,ステレオ,デジタル,5 . 1 サラウンドと音響機器が進化を続けるのも,より豊かな空間性を追い求めるわれわれの聴覚にアピールするためである。  自動車のエンジン音を聞いて不具合を感じ取ったり,ドアの開閉音で仕上げの高級感を感じたりするのも,われわれが音色の違いを感じ取っていることによる。言葉を聞いて内容を理解するのも,電話や携帯電話の音質の違いを感じ取れるのも,音色の違いによってである。  音色(あるいは音質)は多次元的で,対応する物理量も複雑であるため,その全体像を体系化することは難しい。また,音色が関わる研究対象は音楽から騒音に及び,その全体像を理解することもたやすくはない。  本書では,音色・音質という音のもつ感性的な側面に焦点をあて,その特徴に多角的に迫り,またこれまで行われてきた音色・音質研究を総括し,その知見の体系化を試みる。  第1 章では,音色・音質の特徴を述べるとともに,音色・音質の特徴を理解するための最低限の基礎知識として,音を規定する物理量と聴覚の仕組みを解説し,音質・音色を評価する手法を紹介する(岩宮)。  第2 章では,音質・音色を表現する手法として用いられる,音質・音色の印象を表す形容詞とこれを集約した音色因子,および音のイメージを表現する擬音語について解説する(岩宮,高田,山内,藤沢)。  第3 章では,音色・音質と周波数スペクトル,立上がり,減衰,変動などの音響的特徴の関係について解説する(小澤)。  第4 章では,シャープネス,フラクチュエーションストレングス,ラフネスといった最近利用されることが増えてきた音質評価指標について,聴覚の機能に立脚して解説する(高田)。  第5 章では,音響機器,楽器,室内の音,音声,機械音,サイン音などを対象として実施されている音色・音質研究成果について,最新の成果を織り交ぜて解説する(岩宮,小坂,高田,山内)。  第6 章では,音楽の分野で求められる,新たな音色の創出技術について解説する(小坂)。  音色・音質の研究は,騒音制御から音楽芸術にまで及ぶ,学際的な分野である。音色・音質に対する多様なアプローチを総括する書として,本書を企画した。音色・音質は,音の感性に関わる最も重要な側面であり,音響学の各分野に関わる事項で,多くの方に興味をもっていただけるだろう。