頭部伝達関数の基礎と3次元音響システムへの応用

音響テクノロジーシリーズ 19

頭部伝達関数の基礎と3次元音響システムへの応用

頭部伝達関数の基礎から最先端に至る知見を体系的に記述した。

ジャンル
発行年月日
2017/04/13
判型
A5 上製
ページ数
254ページ
ISBN
978-4-339-01133-3
頭部伝達関数の基礎と3次元音響システムへの応用
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定価

4,180(本体3,800円+税)

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  • 内容紹介
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  • 目次
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頭部伝達関数はヒトが音の空間特性を知覚する際の重要な物理量であり,応用によって3次元的に音を再現したり,仮想音空間を創造したりすることが可能となる。本書は頭部伝達関数の基礎から最先端に至る知見を体系的に記述した。

頭部伝達関数は,ヒトが音の空間特性(特に方向感や拡がり感)を知覚するにあたって中心的な役割を果たす物理量である。頭部伝達関数を応用することにより,時間と空間を超えて3次元的に音を再現したり,任意の仮想音空間を創造したりすることが可能となる。実際にそのようなシステムが開発されつつある。

それにも関わらず,頭部伝達関数の全貌を修得するのに適した書籍はいまのところ見当たらない。筆者自身を省みても,これまで「空間音響学」において頭部伝達関数の概要を述べ,「音響工学基礎論」において3次元音響に関わるディジタル信号処理の一端を紹介したが,これらの記述は断片的であるといわざるをえない。

このような背景のもと,本書では頭部伝達関数の基礎から応用までを視野に入れ,古典から最先端に至る知見を以下のような構成で記述した。

まず序章では,頭部伝達関数の定義や座標系など,本書を読み進めるにあたって必要となる基礎的な項目を述べ,さらに現時点での研究の到達点をまとめた。この章を読むだけでも頭部伝達関数を巡る研究や技術開発の概要を理解できるよう記述した。
2章と3章では,それぞれ水平面内および正中面内の音源による頭部伝達関数と方向知覚について,基礎から最新の研究成果まで詳しく述べた。4章と5章では,頭部伝達関数の個人差,その克服方法(頭部伝達関数の個人化方法)任意の3次元方向への音像制御方法について,最新の知見を中心に述べた。これらは本書の中核となる章であり,頭部伝達関数の本質を明解に記述するよう心掛けた。
6章から8章では,これまであまりまとまった議論がなされなかった,頭部伝達関数と方向決定帯域,音像距離,音声了解度との関連について述べた。
9章から11章では,頭部伝達関数の測定方法,分析・信号処理方法,さらにデータベースについて,それぞれ説明した。読者が自ら測定,分析を進められるように,できるだけ具体的に記述した。
12章と13章では,3次元音響システムへの応用として,基本原理を詳しく説明したあと,開発が進められているいくつかの3次元聴覚ディスプレイを紹介した。
さらに,8つの節からなる付録を設け,本文では触れられなかった周辺の知見を記した。必要に応じて参照してもらえれば幸いである。
あとがきでは本書のまとめと今後の展望を記した。
各章末に「引用・参考文献」を設けて,引用した論文と書籍を列挙したので,さらに詳しく学習したい読者にはぜひ原典をひもといていただきたい。 本書の刊行にあたっては,多くの方にご協力いただいた。特に,神戸大学の森本政之名誉教授,東京大学の坂本慎一准教授,東北学院大学の岩谷幸雄教授,千葉工業大学の竹本浩典教授,苣木禎史教授には原稿に対して有意義なご意見をいただいた。また,飯田研究室の石井要次君と田中直子さんには,データ整理や文献整理でご協力いただいた。ここに記して深く感謝申し上げる。

本書が,頭部伝達関数や3次元音響システムに関心のある学生諸君の学習に,さらに技術者,研究者の実務に役立つものとなり,この分野の研究開発が一層進むことが筆者の真の希望である。執筆には細心の注意を払ったが,もとより浅学非才の身,お気づきの点があれば,ご指導,ご叱正いただければ幸いである。

2017年 早春津田沼にて 飯田一博

1. 序章
1.1 頭部伝達関数とは
1.2 頭部伝達関数と頭部インパルス応答
1.3 音源と音像
1.4 座標系
1.5 頭部伝達関数の研究略史――現在の到達点と課題――
 1.5.1 頭部伝達関数の概念
 1.5.2 頭部伝達関数の物理的特徴
 1.5.3 頭部伝達関数の再現による音像方向の再現
 1.5.4 左右方向の知覚の手掛かり
 1.5.5 前後上下方向の知覚の手掛かり
 1.5.6 方向知覚の生理的機構
 1.5.7 頭部伝達関数のモデル化
 1.5.8 頭部伝達関数の標準化
 1.5.9 頭部伝達関数の個人化
 1.5.10 頭部伝達関数の測定
 1.5.11 頭部伝達関数の数値計算
 1.5.12 方向決定帯域とスペクトラルキュー
引用・参考文献

2. 水平面の頭部伝達関数と方向知覚
2.1 水平面の頭部伝達関数
2.2 水平面の方向知覚
 2.2.1 本人の頭部伝達関数による方向知覚
 2.2.2 他人の頭部伝達関数による方向知覚
2.3 左右方向の知覚の手掛かり
 2.3.1 両耳間時間差
 2.3.2 両耳間レベル差
2.4 コーン状の混同
2.5 複数音源による合成音像
引用・参考文献

3. 正中面の頭部伝達関数と方向知覚
3.1 正中面の頭部伝達関数
3.2 正中面の方向知覚
 3.2.1 本人の頭部伝達関数による方向知覚
 3.2.2 他人の頭部伝達関数による方向知覚
 3.2.3 正中面の音像再生における3つの問題
3.3 前後上下方向の知覚の手掛かり
 3.3.1 スペクトラルキュー概観
 3.3.2 スペクトラルキュー詳細
3.4 正中面定位における両耳スペクトルの役割
3.5 スペクトラルキューの成因
 3.5.1 耳介の寄与
 3.5.2 ピークの成因
 3.5.3 ノッチの成因
3.6 頭部伝達関数の学習
3.7 音源信号の知識
3.8 ノッチ検出の生理的機構
3.9 頭部運動
引用・参考文献

4. 頭部伝達関数の個人性
4.1 頭部伝達関数の個人差
 4.1.1 振幅スペクトルの個人差
 4.1.2 スペクトラルキューの個人差
 4.1.3 両耳間時間差の個人差
 4.1.4 両耳間レベル差の個人差
4.2 耳介形状および頭部形状の個人差
 4.2.1 耳介形状の個人差
 4.2.2 頭部形状の個人差
4.3 頭部伝達関数の標準化
 4.3.1 ダミーヘッドの頭部伝達関数による方向知覚
 4.3.2 ロバストな頭部伝達関数による方向知覚
4.4 頭部伝達関数の個人化
 4.4.1 振幅スペクトルの個人化
 4.4.2 両耳間時間差の個人化
 4.4.3 両耳間レベル差の個人化
 4.4.4 今後期待される展開
引用・参考文献

5. 任意の3次元方向の頭部伝達関数と音像制御
5.1 頭部伝達関数の空間的な補間
5.2 矢状面間でのノッチとピークの類似性
5.3 正中面頭部伝達関数と両耳間差による3次元音像制御
 5.3.1 実測正中面頭部伝達関数と両耳間差による3次元音像制御
 5.3.2 正中面パラメトリックHRTFと両耳間時間差による3次元音像制御
 5.3.3 正中面best―matchingHRTFと両耳間時間差による3次元音像制御
5.4 矢状面間の合成音像
引用・参考文献

6. 方向決定帯域とスペクトラルキュー
6.1 方向決定帯域とは
6.2 方向決定帯域の個人差
6.3 方向決定帯域の帯域幅
6.4 方向決定帯域とスペクトラルキューの関係
引用・参考文献

7. 距離知覚と頭部伝達関数
7.1 音源距離と音像距離
7.2 音像距離に影響を及ぼす物理量
 7.2.1 音圧レベル
 7.2.2 反射音の遅れ時間
 7.2.3 入射方向
引用・参考文献

8. 音声了解度と頭部伝達関数
8.1 両耳マスキングレベル差
8.2 入射方向が単語了解度に及ぼす影響
引用・参考文献

9. 頭部伝達関数の測定方法
9.1 測定システムの構成
9.2 測定用信号
9.3 スピーカ
9.4 マイクロホン
9.5 被験者
9.6 頭部伝達関数の算出方法
9.7 短時間測定法
引用・参考文献

10. 頭部伝達関数の信号処理
10.1 両耳間時間差とレベル差の算出方法
10.2 スペクトラルキューの抽出方法
10.3 頭部インパルス応答と音源信号の畳込み方法
 10.3.1 時間領域での処理
 10.3.2 周波数領域での処理
引用・参考文献

11. 頭部伝達関数データベースの比較
11.1 おもな頭部伝達関数データベース
11.2 スペクトラルキューの比較
11.3 耳介形状の比較
引用・参考文献

12. 3次元音響再生の原理
12.1 ヘッドホンによる耳入力信号の再現
 12.1.1 基本原理
 12.1.2 音像制御精度
 12.1.3 動的手掛かりの導入
12.2 2つのスピーカによる耳入力信号の再現
 12.2.1 基本原理
 12.2.2 音像制御精度
引用・参考文献

13. 3次元聴覚ディスプレイ
13.1 システム構成
13.2 コンサートホールの音場シミュレーションへの応用
13.3 防災放送の音場シミュレーションへの応用
13.4 音源方向探査システムへの応用
引用・参考文献

付録
A.1 実音源による方向知覚
A.2 音波の伝達経路
A.3 第1波面の法則
A.4 室内音響の予測方法
A.5 フーリエ変換
A.6 時間窓
A.7 耳栓型マイクロホンの作成方法
A.8 96kHzサンプリングによる頭部伝達関数
引用・参考文献

あとがき
索引