超音波

音響学講座 8

超音波

医用や海洋計測等における超音波の応用例をもとに,超音波特有の非線形現象について解説。

ジャンル
発行年月日
2022/10/07
判型
A5
ページ数
264ページ
ISBN
978-4-339-01368-9
超音波
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定価

4,400(本体4,000円+税)

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超音波技術では,一般的な可聴域より大きな音圧の音波を扱うため,音波の非線形現象の発現が顕著である。本書は,超音波に特有のこの現象について理解を深め,次世代の超音波エレクトロニクスの発展に寄与することを目的としている。

われわれが知覚できる音の周波数範囲は,一般には20Hz~20kHzといわれている。しかし,この可聴周波数範囲は個人差が大きく,このため,たとえ物理的には同じ音波を聞いたとしても,知覚される「音」はまったく同じというわけではない。したがって,音を「聞こえ」として客観的に評価することは厳密には難しい。

一方,音を「音波」として捉え,その物理的側面のみを考えると,音の取り扱いは格段に容易となる。この場合,われわれが「音」として聞こえるか否かは問題ではなく,その物理現象が利用できるかどうかが重要となる。このため,超音波技術の立場からは可聴か否かは問題ではなく,「物理的な利用が可能で,人が聞くことを目的としていない音」として超音波を定義している。したがって,可聴域さらには低周波数域における音波の物理現象としての利用も現代では超音波技術として扱われている。

超音波の周波数帯域については,さまざまな議論がある。高周波数域の上限周波数としては,超音波の波長が伝搬媒質の分子間隔程度まで短くなると波長が定義できなくなることを考慮すると,10THz程度と考えるのが妥当であろう。現実には,スマートホンなどの身の回りのエレクトロニクス機器群に組み込まれている超音波機能性デバイスにおける10GHz程度が,超音波利用としての最高周波数であろう。一方,低い周波数としては,海面下の海洋構造の断層像作成技術である海洋音響トモグラフィにおいて,数千kmに及ぶ長距離伝搬計測に用いられる100Hz程度の低周波音波も超音波技術として挙げられる。これらの超音波利用周波数範囲は,適用分野における周辺技術の進展とともに拡大する傾向にある。

超音波は,気相,液相,固相を問わず,どのような媒質中も伝搬できるという大きな特長がある。このため,その応用範囲はきわめて広く,それぞれの分野の発展の端を決定付けるキーテクノロジーとしての役割を担いながら進化してきている。さらに現在では,超音波技術はエレクトロニクスやIT技術と組み合わされて用いられる場合が多く,これらは超音波エレクトロニクスと総称されている。表に超音波エレクトロニクス発展の歴史の一部を示すが,超音波エレクトロニクスは現代においてもさまざまな技術と融合しながら進化を続けている。超音波の利用技術は大きく分けて,①動力的(エネルギー的)利用と②信号的利用に分けられるが,超音波エレクトロニクスにおいてもこの二つの範疇に分けられる。また適用媒体としては,生体や海洋のように光技術では対応が難しい環境における応用が未来技術として特に期待されている。現代の超音波技術の集大成については文献に詳しくまとめられているが,超音波エレクトロニクスの発展を振り返るならば,ここに記載されていないさまざまな分野で展開されている多くの研究の中にも,超音波技術との融合によって未来技術として将来大きく花開く種子が多数包含されていると推察できる。

超音波の物理的特性は基本的には可聴音波と同じである。しかしながら,超音波技術としてその波動現象を利用するときには,その音圧は大きくなる場合が多い。例えば,われわれが音楽や音声として日常利用している音の大きさはそのほとんどが0.1Pa以下であり,これは大気圧と比較すると1/100万程度のきわめて微弱な音圧である。一方,超音波技術として用いられる音圧は数気圧に及ぶ場合も珍しくなく,一般的には可聴域音波と比べるとはるかに大きな音圧の音波を扱うことになる。このような,周波数が高くて音圧が大きいという超音波技術の一般的な利用環境では,音波の非線形現象の発現が顕著となる点に十分注意しておく必要がある。さらに,より高周波化を指向する次世代の超音波技術においては,このような非線形音響現象に対する取り扱いがより重要となる。音波の非線形現象は,ほかの音響領域における「音波」への対応とは基本的に異なるため,本音響学講座においても,このような非線形現象への言及は本巻の受け持ちとなり,超音波における特有現象として説明する節を設けている。

ただし,超音波もその基本はやはり音波の波動現象であることには変わりはない。本巻では,この観点からの理解を進めることを基本指針として,各分野を代表する方々にわかりやすい執筆をお願いした。

執筆分担
渡辺 好章 まえがき
斎藤 繁実 1.1~1.3節
竹内 正男 1.4~1.5節,3.3節
酒井 啓司 2章
山中 一司 3.1節
黒澤  実 3.2節
崔  博坤 3.4節
山口  匡 4.1節
長谷川英之 4.2節
梅村晋一郎 4.3~4.4節
鎌田 弘志 5.1節
蜂屋 弘之 5.2節

2022年8月
渡辺好章

1.超音波の基礎
1.1 超音波の伝搬
 1.1.1 支配方程式
 1.1.2 波動方程式と波のエネルギー
 1.1.3 音波の反射と透過
 1.1.4 音波の斜め入射と屈折
 1.1.5 音波の吸収減衰と散乱
1.2 超音波の放射と音場
 1.2.1 点音源
 1.2.2 ピストン円板の放射とレイリー積分
 1.2.3 レイリー積分の近似計算
 1.2.4 放物近似による解析
1.3 超音波の非線形
 1.3.1 非線形の支配方程式
 1.3.2 波形ひずみ
 1.3.3 非線形伝搬の定式化
 1.3.4 パラメトリックアレイ
 1.3.5 音響放射圧と音響流
1.4 固体中の超音波
 1.4.1 固体中の弾性波
 1.4.2 3次元固体中の弾性波
 1.4.3 3次元等方性固体中の縦波と横波
 1.4.4 板波
 1.4.5 弾性表面波
1.5 超音波の送波と受波
 1.5.1 圧電と電歪
 1.5.2 圧電バルク波トランスデューサ
 1.5.3 弾性表面波トランスデューサ
 1.5.4 電磁型トランスデューサ
引用・参考文献

2.超音波の計測
2.1 振幅・強度・音場の測定
 2.1.1 ハイドロホンによる測定
 2.1.2 音響放射圧測定
 2.1.3 光学的方法
 2.1.4 超音波の可視化
2.2 媒質の音波物性
 2.2.1 音波緩和現象
 2.2.2 超音波スペクトロスコピー技術
引用・参考文献

3.超音波応用
3.1 信号としての応用
 3.1.1 非破壊検査
 3.1.2 超音波顕微鏡
 3.1.3 環境計測
3.2 動力としての応用
 3.2.1 強力超音波
 3.2.2 超音波モータ
3.3 機能としての応用
 3.3.1 バルク波デバイス
 3.3.2 弾性表面波デバイス
 3.3.3 その他のデバイス
3.4 音響キャビテーション
 3.4.1 キャビテーション気泡の動力学
 3.4.2 気泡が受ける力
 3.4.3 ソノルミネセンス
 3.4.4 超音波洗浄と音響放射
 3.4.5 ソノケミストリー応用
引用・参考文献

4.医用超音波
4.1 生体の超音波特性
 4.1.1 音速
 4.1.2 吸収
 4.1.3 反射
 4.1.4 散乱
4.2 超音波診断装置
 4.2.1 超音波診断装置とは
 4.2.2 超音波探触子
 4.2.3 超音波画像の構築
 4.2.4 血流計測法
 4.2.5 生体機能計測法
4.3 超音波治療
 4.3.1 超音波治療の概要
 4.3.2 超音波のエネルギーを蓄積・凝集するメカニズム
 4.3.3 集束強力超音波治療
 4.3.4 結石破砕療法
 4.3.5 観血的応用
 4.3.6 超音波による物理療法
4.4 ハーモニックイメージング法
 4.4.1 造影ハーモニックイメージング法
 4.4.2 ティッシュハーモニックイメージング法
引用・参考文献

5.海洋音響
5.1 海中の音波伝搬
 5.1.1 音速と吸収
 5.1.2 音線理論
 5.1.3 ソーナー方程式
5.2 海洋計測と資源
 5.2.1 水中の位置計測
 5.2.2 水中の速度計測
 5.2.3 双方向伝搬による音速と流速の計測
 5.2.4 海洋音響トモグラフィ
 5.2.5 船舶直下の計測
 5.2.6 水産資源の計測
 5.2.7 マルチナロービームによる海底面・資源の計測
 5.2.8 サイドスキャンソーナーによる海底面・資源の計測
引用・参考文献
索引

渡辺 好章(ワタナベ ヨシアキ)

竹内 正男(タケウチ マサオ)

山中 一司(ヤマナカ カズシ)

黒澤 実(クロサワ ミノル)

崔 博坤(サイ ヒロシ)

山口 匡(ヤマグチ タダシ)

長谷川 英之(ハセガワ ヒデユキ)

梅村 晋一郎(ウメムラ シンイチロウ)

鎌田 弘志(カマタ ヒロシ)

蜂屋 弘之(ハチヤ ヒロユキ)

掲載日:2024/02/26

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掲載日:2023/09/15

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掲載日:2023/03/03

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掲載日:2022/09/05

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「音響学講座」ラインナップ
  1. 基礎音響学
  2. 電気音響
  3. 建築音響
  4. 騒音・振動
  5. 聴覚
  6. 音声(上)
  7. 音声(下)
  8. 超音波
  9. 音楽音響
  10. 音響学の展開
「音響学講座」発刊にあたって

 音響学は,本来物理学の一分野であり,17世紀にはその最先端の学問分野であった。その後,物理学の主流は量子論や宇宙論などに移り,音響学は,広い裾野を持つ分野に変貌していった。音は人間にとって身近な現象であるため,心理的な側面からも音の研究が行われて,現代の音響学に至っている。さらに,近年の計算機関連技術の進展は,音響学にも多くの影響を及ぼした。日本音響学会は,1977年以来,音響工学講座全8巻を刊行し,わが国の音響学の発展に貢献してきたが,近年の急速な技術革新や分野の拡大に対しては,必ずしも追従できていない。このような状況を鑑み,音響学講座全10巻を新たに刊行するものである。

 さて,音響学に関する国際的な学会活動を概観すれば,音響学の物理/心理的な側面で活発な活動を行っているのは,米国音響学会(Acoustical Society of America)であろう。しかしながら,同学会では,信号処理関係の技術ではどちらかというと手薄であり,この分野はIEEEが担っている。また,録音再生の分野では,Audio Engineering Society が活発に活動している。このように,国際的には,複数の学会が分担して音響学を支えている状況である。これに対し,日本音響学会は,単独で音響学全般を扱う特別な学会である。言い換えれば,音響学全体を俯瞰し,これらを体系的に記述する書籍の発行は,日本音響学会ならではの活動ということができよう。

 本講座を編集するにあたり,いくつか留意した点がある。前述のとおり本講座は10巻で構成したが,このうち最初の9巻は,教科書として利用できるよう,ある程度学説的に固まった内容を記述することとした。また,時代の流れに追従できるよう,分野ごとの巻の割り当てを見直した。旧音響工学講座では,共通する基礎の部分を除くと,6つの分野,すなわち電気音響,建築音響,騒音・振動,聴覚と音響心理,音声,超音波から成り立っていたが,そのうち,当時社会問題にもなっていた騒音・振動に2つの巻を割いていた。本講座では,昨今の日本音響学会における研究発表件数などを考慮し,騒音・振動に関する記述を1つの巻にまとめる代わりに,音声に2つの巻を割り当てた。さらに,音響工学講座では扱っていなかった音楽音響を新たに追加すると共に,これからの展開が期待される分野をまとめた第10巻「音響学の展開」を刊行することとし,新しい技術の紹介にも心がけた。

 本講座のような音響学を網羅・俯瞰する書籍は,国際的に見ても希有のものと思われる。本講座が,音響学を学ぶ諸氏の一助となり,また音響学の発展にいささかなりとも貢献できることを,心から願う次第である。

2019年1月

安藤 彰男