車両の電動化とスマートグリッド
I編は電動車両の最新技術を解説。Ⅱ編は電動車両とエネルギーマネジメントの関係を紹介。
- 発行年月日
- 2020/12/11
- 判型
- B5
- ページ数
- 174ページ
- ISBN
- 978-4-339-02774-7
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
交通事故,渋滞,環境破壊,エネルギー資源問題などの自動車の負の側面を大きく削減し,人間社会における多方面での利便性がより増すと期待される道路交通革命がCASE化である。CはConnected(インターネットなどへの常時接続化),AはAutonomous(またはAutomated,自動運転化),SはServicized(またはShare & Service,個人保有ではなく共有によるサービス化),EはElectric(パワートレインの電動化)を意味し,自動車の大衆化が始まった20世紀初頭から100年ぶりの変革期といわれる。
第4巻「車両の電動化とスマートグリッド」は,CASE化のEに焦点を当て,電動車両自体とそれを建物や社会につなげる最新技術をまとめた稀有な内容となっている。
本書の前半(第I編)は,電動車両を復活に至らしめた最新の技術の解説に充て,1 章で車両の電動化が社会にもたらす影響を内燃機関と比較しながら明らかにするとともに,電動車両のシステム構成とその設計要求を説明した。次に,電動車両を構成するのに必要となる電子・電気工学の技術(エレクトロニクス)については,2 章で電池や充電器,電力変換装置を,3 章ではモータを,その原理から最新技術までを紹介している。
電動車両は移動手段としての自動車本来の用途を超えた利益をもたらすもの,つまり,うまく使えば電力品質の安定化や電力の有効利用につながるものとして注目を集めている。本書の後半(第Ⅱ編)では,電動車両をエネルギーマネジメントに活用することを目的とした最新の研究についての内容を扱い,次のような構成とした。4 章では電動車両とエネルギーマネジメントの関係について深掘りし,5 章では住宅やビルへの,6 章では電力系統への電動車両の活用を紹介する。7 章では,電動車両の新たな普及形態としてのシェアリングに着目し,その運用とエネルギーマネジメントの連携について解説する。8 章では,電動車両をエネルギーマネジメントに活用する上で不可欠な,利用者による使用形態の予測問題を扱った。
自動車が世の中に出た当初,電気で動くいわゆる電気自動車がガソリン自動車よりも先に普及していました。しかし,電気自動車はまもなく市場から姿を消します。当時の電気自動車は蓄電池の容量が小さく走行距離が短く,モータの出力も非力で,ガソリン自動車に比べて性能の優位性がなく,電気自動車自体は構造が簡単で扱いやすかったものの,技術発展により,ガソリン自動車が安価になり,また操作性の優位性もなくなってしまったのでした(詳しくは,モビリティイノベーションシリーズ第1巻「モビリティサービス」をご覧ください)。
現在では,電気自動車や内燃機関と電気モータのハイブリッド車など(合わせて電動車両)が市場で復権しています。上記した技術的課題に大きな発展があり,また当時にはなかった化石燃料に伴う社会的問題が大きくなってきたためです。本書の前半(I編)では,電動車両を復活に至らしめた最新の技術について解説します。1章では,車両の電動化が社会にもたらす影響を内燃機関と比較しながら明らかにするとともに,電動車両のシステム構成とその設計要求を説明します。2章と3章では,電動車両を構成するのに必要となる電子・電気工学の技術(エレクトロニクス)について,2章では電池や充電器,電力変換装置を,3章ではモータを,その原理から最新技術までを紹介します。
じつは,電動車両は移動手段としての自動車本来の用途を超えた利益をもたらすものとして注目されています。電動車両はエネルギー源として電力を使うため,まかり間違えば電力系統に悪い影響を与えかねません。逆に,うまく使えば電力品質の安定化や電力の有効利用につながるということです。本書の後半(Ⅱ編)では,電動車両をエネルギーマネジメントに活用することを目的とした最新の研究について紹介します。4章では電動車両とエネルギーマネジメントの関係についてさらに深掘りします。5章では住宅やビルへの,6章では電力系統への電動車両の活用を紹介します。7章では,電動車両の新たな普及形態としてのシェアリングに着目し,その運用とエネルギーマネジメントの連携について解説します。8章では,電動車両をエネルギーマネジメントに活用する上で不可欠な,利用者による使用形態の予測問題を扱います。
本書は電動車両自体とそれを建物や社会につなげる最新技術をまとめた珍しい内容となっています。読者とともに電動車両と社会の発展の道を歩めることを願ってやみません。
2020年10月
4巻編集委員稲垣伸吉
Ⅰ編 車両の電動化
1.車両の電動化と電気動力システム
1.1 電動化のインパクト
1.2 電動車両のシステム構成
1.2.1 電動車両と内燃機関自動車のシステム構成比較
1.2.2 電動車両のシステム構成比較
1.2.3 電動車両のシステム設計
引用・参考文献
2.電動車両のエレクトロニクス
2.1 電池と充電器
2.1.1 蓄電池の原理と変遷
2.1.2 各種充電方式
2.2 パワーエレクロトニクス
2.2.1 DC-DCコンバータ
2.2.2 インバータ
2.2.3 マトリクスコンバータ
2.2.4 整流器
引用・参考文献
3.電動車両のモータとその制御
3.1 永久磁石同期モータ
3.1.1 構造
3.1.2 磁石材料
3.1.3 永久磁石同期モータの損失モデル
3.2 誘導モータ
3.2.1 誘導モータの原理
3.2.2 誘導モータの損失モデル
3.3 モータ制御系
3.3.1 ベクトル制御系
3.3.2 効率改善を目的としたトルク制御器―MTPA制御―
3.3.3 駆動範囲の拡大を目的としたトルク制御器―弱め磁束制御―
3.3.4 トルク制御器
引用・参考文献
Ⅱ編 スマートグリッドと電動車両
4.電動車両がもたらすインパクト
4.1 エネルギー貯蔵デバイスとしての電動車両
4.2 電動車両を活用したEMSの技術課題とⅡ編の構成
4.3 今後の展望
5.Vehicle to Home ,Vehicle to Building
5.1 モデル予測制御
5.2 Vehicle to Home
5.2.1 システム概要
5.2.2 最適化問題への定式化
5.2.3 制御効果の検証
5.3 Vehicle to Building
5.3.1 システム概要
5.3.2 最適化問題への定式化
5.3.3 制御効果の検証
5.4 家屋内の電力消費の予測
5.4.1 予測とエネルギーマネジメント
5.4.2 家庭での消費電力のデータ
5.4.3 自己回帰モデルによる予測モデル
引用・参考文献
6.Vehicle to Gridとアンシラリーサービス
6.1 電気自動車と電力システムの協調
6.2 Vehicle to Gridの実証・研究開発事例
6.2.1 米国での最初のV2G実証
6.2.2 欧州への展開
6.2.3 技術開発が進む日本
6.2.4 その他の研究開発動向
6.3 Vehicle to Gridの制御設計と実装
6.3.1 電気自動車によるスマートインバータ制御
6.3.2 HILSの構成と電気自動車の制御手法
6.3.3 試験結果
6.4 モビリティ×エネルギーの総合実証:Charge and Share
引用・参考文献
7.EVシェアリングとスマートグリッド
7.1 EVシェアリングの動向
7.2 EVシェアリングの利用形態
7.3 再生可能エネルギーを活用したEVシェアリング
7.3.1 システム要件と問題設定
7.3.2 車両運用計画の最適化
7.3.3 計算量の削減と最適化の例
7.4 配電ネットワークの電圧変動へのEVシェアリングの影響評価
7.5 EVシェアリングと配電ネットワークの連携管理システム
引用・参考文献
8.車の使用履歴とマルコフモデルを用いた車の使用予測
8.1 単一拠点(家)における車1台の使用予測
8.1.1 車の駐車と不在のパターンを表すグラフ:PDTT
8.1.2 車の駐車と不在の時間変化を表すマルコフモデル
8.1.3 確率の算出に使う情報:車の使用履歴と観測情報
8.1.4 車1台のモデルにおける状態遷移確率と初期状態確率の計算
8.1.5 動的計画法を用いたPDTTの最尤推定
8.1.6 計算結果の例
8.2 車群の移動と駐車の予測
8.2.1 問題設定とパーソントリップデータ
8.2.2 状態の定義とマルコフモデル
8.2.3 車群のモデルにおける状態遷移確率と初期状態確率の計算
8.2.4 マルコフモデルの各状態における存在確率と期待台数の計算
8.2.5 パーソントリップデータを用いたシミュレーション結果
引用・参考文献
索引
読者モニターレビュー【MO2様(ご専門:統計学)】
本書では電気自動車にまつわる様々な事柄について学ぶことができます。I編では電気自動車におけるシステムや電池,コイル等の基礎理論について,II編では電気自動車を電池として用いた際の電力予測や電力の最適化などについて書かれています。特にII編では電力の予測や制御を数理最適化問題に落とし込んで,実際に必要となる電力や電気料金がどの程度になるのかということが数学的に書かれており,データ解析を学ぶ人にぜひ手にとっていただきたい部分となっています。機械系,電気電子,ソフトウェア/ハードウェア,統計学など様々な要素について電気自動車という観点から触れられる一冊です。
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「土木学会誌」2021年3月号 掲載日:2021/04/06
日刊工業新聞 技術科学図書(2021年1月27日) 掲載日:2021/01/27
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掲載日:2020/12/14
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掲載日:2020/12/02
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掲載日:2020/12/02
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掲載日:2020/11/16
- 『モビリティイノベーションシリーズ』ラインナップ
- 1.モビリティサービス 森川高行・山本俊行 編著
- 2.高齢社会における人と自動車 青木宏文・赤松幹之・上出寛子 編著
- 3.つながるクルマ 河口信夫・高田広章・佐藤健哉 編著
- 4.車両の電動化とスマートグリッド 鈴木達也・稲垣伸吉 編著
- 5.自動運転 二宮芳樹 編著/武田一哉 編
- 刊行のことば
人は新たな機会を得るために移動する。新たな食糧や繁殖相手を探すような動物的本能による移動から始まり,交易によって富を得たり,人と会って情報を交換したり,異なる文化や風土を経験したりと,人間社会が豊かになるほど,移動の量も多様性も増してきた。しかし,移動にはリスクが伴う。現在でも自動車事故死者数は世界で年間130万人もいるが,古代,中世,近世における移動に伴うリスクは想像を絶するものであったであろう。自分の意志による移動を英語でtravelというが,これはフランス語のtravailler(働く)から転じており,その語源は中世ラテン語のtrepaliare(3本の杭に縛り付けて拷問する)にさかのぼる。昔は,それほど働くことと旅することは苦難の連続であったのであろう。裏返していえば,そのようなリスクを取ってまでも,移動ということに価値を見出していたのである。
大きな便益をもたらす一方,大きな苦難を伴う移動の方法にはさまざまな工夫がなされてきた。ずっと徒歩に頼ってきた古代でも,帆を張った舟や家畜化した動物の利用という手段を得て,長距離の移動や荷物を運ぶ移動は格段に便利になった。しかし,何といっても最大の移動イノベーションは,産業革命期に発明された原動機の利用である。蒸気鉄道,蒸気船,蒸気自動車,そして19世紀末にはガソリンエンジンを積んだ自動車が誕生した。そして,20世紀初頭に米国でガソリン自動車が大量生産されるようになって,一般市民が格段に便利で自由なモビリティをもたらす自家用車を得たのである。自動車の普及により,ライフスタイルも街も大きく変化した。物流もトラック利用が大半になり,複雑なサプライチェーンを可能にして,経済は大きく発展した。ただ,同時に交通事故,渋滞,環境破壊という負の側面も顕在化してきた。
いつでもどこにでも,簡単な操作で運転して行ける自動車の魅力には抗しがたい。ただし,免許を取ったとはいえ素人の運転手が,車線,信号,標識という物理的拘束力のない空間とルールの中を相当な速度で走るからには,必ずや事故は起きる。そのために,余裕を持った車線幅と車間距離が必要で,走行時には1台につき100平方メートル近い面積を占有する。このため,人が集まる,つまり車が集まるところではどうしても渋滞が起きる。自動車の平均稼働時間は5%程度であるが,残りの時間に駐車しておくスペースもいる。ガソリンや軽油は石油から作られ,やがては枯渇する資源であるし,その燃焼後には必ず二酸化炭素が発生する。世界の石油消費の約半分が自動車燃料に使われ,二酸化炭素排出量の約15%が自動車起源である。
このような自動車の負の側面を大きく削減し,その利便性をも増すと期待される道路交通革命がCASE化である。CはConnected(インターネットなどへの常時接続化),AはAutonomous(またはAutomated,自動運転化),SはServicized(またはShare & Service,個人保有ではなく共有によるサービス化),EはElectric(パワートレインの電動化)を意味し,自動車の大衆化が始まった20世紀初頭から100年ぶりの変革期といわれる。CASE化がもたらすであろう都市交通の典型的な変化を下図(立ち読みページ参照)に示した。本シリーズ全5巻の「モビリティイノベーション」は,四つの巻をCASEのそれぞれの解説にあてていることが特徴である。さらに,CASE化された車を使う人や社会の観点から取り上げた第2巻では,社会科学的な切り口にも重点を置いている。
このような,移動のイノベーションに関する研究が2013~2021年度にわたり,文部科学省および科学技術振興機構の支援により,名古屋大学COI(Center of Innovation)事業として実施されており,本シリーズはその研究活動を通して生まれた「移動学」ともいうべき統合的な学理形成の成果を取りまとめたものである。この学理が,人類最大の発明の一つである自動車の革命期における知のマイルストーンになることを願っている。2020年3月