
IEC 61850を適用した電力ネットワーク - スマートグリッドを支える変電所自動化システム -
変電所自動化システムの通信規格IEC 61850を理解し,スマートグリッドの実現へ。
- 発行年月日
- 2020/06/18
- 判型
- A5
- ページ数
- 198ページ
- ISBN
- 978-4-339-00932-3
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
【読者対象】
本書は,IEC 61850 の解説と,特に変電所自動化システムの実態,課題,将来動向などを体系的にまとめたものである。電力エネルギー分野の専門技術者だけでなく,電力工学を学ぶ学生にも理解しやすくまとめており,電力システム工学などの参考書として積極的に活用していただきたい。
【キーワード】
国際標準,IEC 61850,電力ネットワーク,スマートグリッド,変電所自動化,
保護リレー,監視制御,SCADA,論理ノード,通信サービス,ステーションバス,
プロセスバス,エンジニアリングツール,IED,GOOSE,SCL(システム構成言語),セキュリティ
【書籍の特徴】
本書は,情報通信技術を活用したスマートグリッドの中核を担う変電所自動化システムのための国際標準IEC 61850についての解説書である。
電力会社,メーカ,研究者の視座から,国内で使用されている技術との対応についても配慮しつつ,体系立ててIEC 61850の仕様と特徴を詳述した。
本書は,決して単なる解説書ではない。国際標準の世界を知り,具体的な設計方法を習得することで,IEC 61850に基づく変電所自動化システムを実現する技術者必携の一冊である。
【各章について】
第1章では,電力ネットワークを取り巻く環境の変化として,太陽光発電の大量導入,スマートグリッド,国際標準,電力ネットワークの現状と課題について述べる。
第2章では,変電所保護制御システムの国際標準であるIEC 61850 の目的・対象・適用範囲などの概要,および論理ノード・通信サービス・エンジニアリングツール・試験仕様などの規格体系について解説する。また,変電所保護制御に必要な装置・機器の情報をモデル化したIEC 61850 の論理ノードと,それを用いた変電所保護制御システムの構成について解説する。
第3章では,変電所の計測・監視・制御・保護に必要とされるIEC 61850 の通信サービスについて解説する。また,CT/VT 瞬時値・遮断器トリップ指令の高速伝送のためのプロセスバス,および送電線電流差動保護・シンクロフェーザ適用系統観測・変電所―制御所間通信などの広域通信のためのIEC 61850 拡張標準と,これらに関係した電力システムのセキュリティ標準IEC 62351 について解説する。
第4章では,保護制御ユニットの構成を,ハードウェア,実装される保護制御機能,ソフトウェアの三つの側面から解説する。あわせて,IED の設定作業を行う際に利用するエンジニアリングツールについても説明する。
第5章では,IEC 61850 のクライアントとなるSCADA について述べる。SCADA は,変電所監視制御システムにおいても適用される。具体的には,一般的なSCADA の機能と構成について述べた後,変電所監視制御システムに適用するSCADA について説明する。
第6章では, 配電用変電所が有する保護制御機能(抜粋) を対象に,IEC 61850 を適用した場合のケーススタディを述べる。ケーススタディでは,主回路構成・保護制御機能・対応する論理ノード・IEDの仕様を想定した上で,システムの設計・試験・メンテナンスの具体例を示す。
第7章では,電力ネットワークに関する保護制御システムの今後を,IEC 61850 に関連する観点から考察する。具体的には,汎用性を確保するためのアプローチ,分散型電源・配電自動化・風力発電といった広域性の確保,エンジニアリングツールの標準化など標準化範囲の拡大に着目する。また,電力会社とメーカの役割分担やデータ活用についても考察する。
【著者からのメッセージ】
本書が変電所自動化システム設計者のみならず,これら電力ネットワークについて関心をもっておられる方々にとって,少しでも役に立つものとなれば望外の喜びです。
はじめに
いまや電力供給システムは,産業や生活を支える最も重要な社会インフラとなっている。その一方で近年の災害は,大規模停電をはじめ電力供給システムに大きな被害をもたらし,そのレジリエンスの重要性を改めて認識させることとなった。今後の電力供給システムは「3E+S(energy security,economic efficiency,environment,safety)」のバランスを保ちつつ,レジリエンス・安定供給の重要性をより高めていく必要があろう。加えて,化石エネルギーから再生可能エネルギーへのパラダイムシフトによる地球温暖化対策など,環境問題への配慮も求められる。
そうした中,政府は第5期科学技術基本計画において,「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する,人間中心の社会=Society5.0」を目指すべき未来社会の姿として提唱した。この社会が実現すれば,IoT(internetofthings),人工知能(AI)の活用により必要な情報が必要なときに提供されることで,先に述べたような課題の克服が可能となるだろう。電力供給システムにおいても,情報通信技術を活用した「スマートグリッド(賢い電力網)」の構想がますます注目を集めている。また,国内外でスマートメータなどのデジタル形計量システムの導入が進むなど,電力供給システムはいまや大きな転換期にあるといえる。
このようなデジタライゼーションが進展する中で,新たな情報通信技術としておもに変電所自動化システムに適用されるIEC61850が注目を浴びている。国際標準であるIEC61850に準拠した変電所自動化システムは,保護リレーシステムや変電所監視制御システム,給電・制御所システムと相互に連携して電力系統を制御する電力供給システムにおける中核的な役割を担うものであり,iiはじめにその適用が拡大している。しかしながら,これまでIEC61850を本格的に取り扱う書籍はほとんど存在しなかった。
本書は,IEC61850の解説と,変電所自動化システムの実態・課題・将来動向などを体系的にまとめたものである。電力エネルギー分野の専門技術者だけでなく,電力工学を学ぶ学生にも理解しやすくまとめており,電力システム工学などの参考書として積極的に活用していただきたい。本書が変電所自動化システム設計者のみならず,これら電力ネットワークについて関心をもっておられる方々にとって,少しでも役に立つものとなれば望外の喜びである。なお,本書は電力ネットワークに関わっている技術者が分担して執筆した。そのおもな分担は以下のとおりである。
天雨 徹 :1,5章
田中 立二:2,3章,付録
大谷 哲夫:4,6,7章
本書の完成にあたっては,浜松浩一氏,瀬戸好弘氏,坂泰孝氏に多大な協力をいただいた。厚く御礼申し上げる。また,コロナ社の方々には終始貴重な助言と励ましをいただいた。感謝の言葉もない。
2020年4月 天雨 徹
1.序章
1.1 概要
1.2 電力ネットワークと変電所保護制御システムに関する環境変化と課題
1.2.1 電力ネットワークを取り巻く環境の変化
1.2.2 変電所保護制御システムの現状
1.2.3 変電所保護制御システムにおける課題
1.3 本書の目的と内容
引用・参考文献
2.変電所保護制御システム標準 IEC 61850 ①―概要と論理ノード
2.1 概要
2.2 標準体系
2.3 IEC 61850に基づいたシステム開発手順
2.4 論理ノードの構成
2.4.1 論理ノード(LN:logicalnode)
2.4.2 共通データクラス(CDC:common data class)
2.4.3 共通データクラスのデータ属性
引用・参考文献
3.変電所保護制御システム標準 IEC 61850 ② ―通信サービスとセキュリティ
3.1 通信サービス IEC 61850-7-2
3.1.1 GenServerクラス
3.1.2 Associationモデル
3.1.3 GetDataValues/SetDataValues ―データ読出/書込
3.1.4 Report ―計測,イベント伝送
3.1.5 Log ―記録・検索
3.1.6 Control ―直接制御・選択制御
3.1.7 Setting ―設定・整定
3.1.8 Filetransfer ―ファイル転送
3.1.9 GOOSE ―高速高信頼イベント伝送
3.1.10 Sampled Value ―瞬時値伝送
3.1.11 時刻同期
3.2 変電所構内および広域通信ネットワーク
3.2.1 プロセスバスの適用 IEC 61850-90-4
3.2.2 通信の冗長化構成(RSTP,PRP,HSR) IEC 61850-90-4
3.2.3 変電所間通信(送電線電流差動保護など) IEC 61850-90-1
3.2.4 給電・制御所-変電所間通信(テレコン) IEC 61850-90-2
3.2.5 シンクロフェーザ(系統観測,安定化システム) IEC 61850-90-5,IEC 62361-102
3.3 セキュリティ IEC 62351
引用・参考文献
4.保護制御ユニット(IED)とエンジニアリングツール
4.1 ハードウェア
4.1.1 CPUとメモリ
4.1.2 電源
4.1.3 通信インタフェース
4.1.4 入出力部
4.1.5 耐環境性能
4.2 IEDに実装される保護制御機能
4.3 ソフトウェア
4.3.1 保護制御プログラム
4.3.2 通信用ミドルウェア
4.3.3 オペレーティングシステム
4.4 エンジニアリングツール
4.4.1 システムコンフィグレータ
4.4.2 IEDコンフィグレータ
引用・参考文献
5.SCADA
5.1 SCADAと関連する装置
5.1.1 SCADAの構成形態
5.1.2 SCADAソフトウェアの機能
5.1.3 SCADAソフトウェアの構成
5.1.4 OPCについて
5.2 変電所SCADA
5.2.1 系統監視機能
5.2.2 機器制御機能
5.2.3 切替スイッチ制御機能
5.2.4 計測機能
5.2.5 状態表示機能
5.2.6 故障表示機能
引用・参考文献
6.IEC 61850適用保護制御システム構築のケーススタディ
6.1 適用対象の変電所および保護制御機能
6.1.1 変電所の主回路構成
6.1.2 保護制御機能
6.1.3 論理ノードの選定とその役割設定
6.1.4 IEDの仕様
6.2 システムの設計
6.3 システムのテストとメンテナンス
7.電力ネットワークにおける保護制御システムの今後
7.1 汎用性の確保のためのアプローチ
7.1.1 BAPを使ったシステム構築
7.1.2 国内における機能仕様の活用
7.1.3 論理ノードの実装方法の改良
7.2 広域性
7.2.1 分散型電源などの監視制御
7.2.2 配電自動化システム
7.2.3 風力発電の監視制御
7.3 標準化範囲の拡大
7.3.1 エンジニアリングツールの標準化
7.3.2 標準化を充実させるための置換性の可能性
7.3.3 システム管理
7.4 電力会社,メーカの役割分担
7.5 データ活用
引用・参考文献
付録
付表1 IEC 61850-7-4論理ノード一覧
付表2 IEC 61850-7-3共通データクラス
付表3 IEC 61850-7-420分散電源論理ノード,共通データクラス
索引
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