つながるクルマ
「つながるクルマ」のサービス,技術,システムを体系化。その現状と未来を見渡す。
- 発行年月日
- 2020/11/16
- 判型
- B5
- ページ数
- 206ページ
- ISBN
- 978-4-339-02773-0
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
交通事故,渋滞,環境破壊,エネルギー資源問題などの自動車の負の側面を大きく削減し,人間社会における多方面での利便性がより増すと期待される道路交通革命がCASE化である。CはConnected(インターネットなどへの常時接続化),AはAutonomous(またはAutomated,自動運転化),SはServicized(またはShare & Service,個人保有ではなく共有によるサービス化),EはElectric(パワートレインの電動化)を意味し,自動車の大衆化が始まった20世紀初頭から100年ぶりの変革期といわれる。
第3巻「つながるクルマ」では,CASE化のCに焦点を当てた。本書では,書名の「つながるクルマ」を「通信ネットワーク等により外部とディジタル情報をやりとり(双方向通信)することで,高度な機能やサービスを提供する自動車」として,そこでうまれるサービスや技術,システムを体系化して,以下の構成で解説した。
1 章では,交通と通信の関係について簡単に述べた後,本書を読むにあたって必要となる通信技術の基礎について解説する。
2 章では,つながるクルマの全体像を概観する。つながるクルマの物理構成と論理構成を示した後,つながるクルマが提供するおもなサービスについて,自動車がつながる相手と情報の流れに着目して概観する。また,つながるクルマに関わる標準化と組織について説明する。
3 章では,つながるクルマに関わるサービスや機能について,分類・整理して解説する。
4 章では,つながるクルマの通信技術について解説する。通信アーキテクチャについて述べた後,各層の代表的な通信プロトコルを解説する。また,ネットワークシステム構成と課題についても述べる。
5 章では,つながるクルマのプラットフォームとAPI(application programming interface)について解説する。つながるクルマで重要となる位置参照方式について述べた後,標準化が行われているAPI およびプラットフォームの位置付けや概要を述べる。
6 章では,つながるクルマを実用化するにあたって避けて通れない課題として,セキュリティとプライバシーの問題について解説する。
7 章では,つながるクルマのサービス・機能を実現する代表的なシステム例について説明する。
8 章で,つながるクルマの発展のロードマップを示し,未来像を描く。
自動車が通信ネットワーク等により外部と情報をやりとりする(つながる)ことで,自動車にさまざまな付加価値を産み出すことができる。例えば,自動車から直接見えないほかの自動車や歩行者の情報を通信により伝えることで,安全性を向上できる。また,自動車への道路交通状況の提供により交通を円滑化できるし,すべての自動車の行き先情報の収集により都市全体で交通流を最適化できる可能性もある。このように,「つながるクルマ」は,自動車をより安全に,より便利・快適に,さらに環境負荷を下げるためにも,きわめて有望な技術である。
本書のタイトルになっている「つながるクルマ」(connected vehicleまたはconnected car)という用語に広く認められている定義はなく,使う人や状況によって異なるものを指していることが多い。そこで本書では,「つながるクルマ」を,「通信ネットワーク等により外部とディジタル情報をやりとり(双方向通信)することで,高度な機能やサービスを提供する自動車」のことをいうものとする。なお,「つながるクルマ」のつながる相手となる「外部」としては,ほかの自動車や路側機,歩行者,ネットワーク上のサーバなどがある。
この定義に従い,カーラジオや衛星測位システム(global navigation satellite system,GNSS)のように,単に情報を受信するだけのものはつながるクルマの範囲外とし,本書では原則として扱わない。また,携帯端末や音楽プレーヤなどの持込み機器は,車載ユニットと通信を行うが,自動車の外部との通信とはいえないため,これらもつながるクルマの範囲外と考える。さらに,OBD(on―board diagnostics)ポートに接続した診断機との間の通信や,電動自動車向けの充電器との間の通信のように,自動車が停止中にのみ行う有線での通信も本書では扱わない。
つながるクルマをこのように定義した場合,自動車がつながる相手,そのつながり方(通信方法),やりとりする情報,提供するサービスにはさまざまなものがある。本書では,つながるクルマのサービス,技術,システムを体系化して解説し,つながるクルマの現状と今後を俯瞰することを目指した。
まず1章では,交通と通信の関係について簡単に述べた後,本書を読むにあたって必要となる通信技術の基礎について解説する。
2章では,つながるクルマの全体像を概観する。つながるクルマの物理構成と論理構成を示した後,つながるクルマが提供するおもなサービスについて,自動車がつながる相手と情報の流れに着目して概観する。また,つながるクルマに関わる標準化と組織について説明する。
3章では,つながるクルマに関わるサービスや機能について,分類・整理して解説する。実際のサービス・機能を実現している具体的なシステムについては,この章での記述は最小限にとどめ,7章において詳述する。
4章では,つながるクルマの通信技術について解説する。通信アーキテクチャについて述べた後,各層の代表的な通信プロトコルを解説する。また,ネットワークシステム構成と課題についても述べる。
5章では,つながるクルマのプラットフォームとAPI(application programming interface)について解説する。つながるクルマで重要となる位置参照方式について述べた後,標準化が行われているプラットフォームおよびAPIの位置付けや概要を述べる。
6章では,つながるクルマを実用化するにあたって避けて通れない課題として,セキュリティとプライバシーの問題について解説する。
7章では,つながるクルマのサービス・機能を実現する代表的なシステム例について説明する。
8章では,つながるクルマの発展のロードマップを示し,未来像を描く。
可能な限り執筆時点での最新の状況に基づいて記述するようにしたが,つながるクルマを取りまく状況の変化は速く,読者の手に届くときには,古くなっている記述があることはご容赦いただきたい。本書が,つながるクルマの技術の発展と普及の一助になれば幸いである。
最後に,お忙しいなか執筆をお引き受けいただいた著者の皆様,本書の出版にあたりご尽力いたただいたコロナ社の皆様,名古屋大学COIにおける出版事務局やその他の関係者の皆様に厚くお礼を申し上げる。
2020年9月
3巻編集委員 河口信夫,高田広章,佐藤健哉
1.交通と通信
1.1 はじめに
1.2 「交通」と「通信」という用語
1.3 ITSについて
1.4 交通と通信の発展経緯
1.5 通信技術の基礎
1.5.1 通信とは
1.5.2 プロトコルとは
1.5.3 プロトコルスタック
1.5.4 通信形態
1.5.5 通信技術の指標
引用・参考文献
2.つながるクルマの全体像
2.1 つながるクルマの論理構成
2.2 つながるクルマの物理構成
2.3 つながるクルマのサービス
2.3.1 自動車への情報提供
2.3.2 自動車からの情報収集
2.3.3 自動車の遠隔管理・保守
2.3.4 自動車の運行管理
2.3.5 V2I通信による周辺状況提供
2.3.6 V2V通信による情報提供・協調制御
2.3.7 交通の最適化
2.3.8 その他のサービス
2.4 つながるクルマに関わる標準化と組織
2.4.1 標準の種類
2.4.2 おもな標準化組織
2.4.3 その他の関連組織
引用・参考文献
3.つながるクルマに関わるサービス
3.1 交通情報の収集
3.1.1 環境設置型の交通情報収集
3.1.2 プローブカーによる交通情報収集
3.1.3 スマートフォンを使ったプローブ情報収集
3.2 交通情報の提供
3.2.1 渋滞・規制情報の提供
3.2.2 地図データの更新
3.2.3 経路検索・誘導
3.2.4 道路周辺状況・信号情報の提供
3.3 交通支援機能の提供
3.3.1 料金収受
3.3.2 信号管制・公共車両優先
3.3.3 車車間連携による高度運転支援
3.3.4 協調型自動運転
3.4 車両の管理機能の提供
3.4.1 遠隔アップデート
3.4.2 リモートメンテナンス
3.4.3 緊急通報
3.4.4 セキュリティ監視
3.5 交通関連サービスの提供
3.5.1 自動車保険
3.5.2 ライドシェア・配車サービス
3.5.3 遠隔運転支援サービス
3.5.4 モビリティ統合サービス
引用・参考文献
4.つながるクルマの通信技術
4.1 通信アーキテクチャ
4.1.1 つながるクルマの分散システム構成
4.1.2 つながるクルマの通信アーキテクチャ
4.1.3 通信ネットワークのトポロジー(接続形態)
4.1.4 セキュリティ
4.1.5 日米欧のアーキテクチャ
4.2 アクセス層
4.2.1 無線周波数
4.2.2 DSRC(狭域通信)
4.2.3 C―V2X(移動体通信網,セルラーV2X)
4.2.4 第5世代移動通信システム(5G)
4.2.5 60GHzミリ波
4.2.6 LPWA
4.3 ネットワーク&トランスポート層
4.3.1 インターネット・プロトコル(IP)
4.3.2 GeoNetworking
4.3.3 TCP/UDP
4.3.4 ベーシック・トランスポート・プロトコル(BTP)
4.3.5 WAVE・ショート・メッセージ・プロトコル(WSMP)
4.3.6 高速ネットワーク&トランスポート・プロトコル(FNTP)
4.4 ファシリティ層
4.4.1 ASN.1
4.4.2 CAM
4.4.3 DENM
4.4.4 BSM
4.4.5 CVSSメッセージ
4.4.6 5.8GHz帯DSRC情報接続サービスのメッセージ
4.4.7 DSSSメッセージ
4.4.8 MQTT
4.4.9 QUIC
4.5 ネットワークシステム
4.5.1 サーバ負荷分散手法
4.5.2 CDN
4.5.3 エッジコンピューティング(MEC)
4.5.4 ハイブリッド通信
4.6 課題とアプローチ
4.6.1 スケーラビリティ
4.6.2 通信の信頼性
引用・参考文献
5.つながるクルマのプラットフォームとAPI
5.1 位置参照方式
5.1.1 緯度・経度・高さによる位置参照
5.1.2 IDを用いる位置参照
5.1.3 緯度・経度と補助情報を用いる位置参照
5.1.4 レーンレベルの位置参照
5.2 ADASIS
5.2.1 ADASホライゾンとADASISのアプリケーション
5.2.2 ADASISのシステム構成
5.2.3 メッセージの種類と内容
5.2.4 メッセージの送信方法
5.3 SENSORIS
5.3.1 SENSORISの概要
5.3.2 データの表現
5.3.3 データのエンコーディング
5.3.4 データメッセージの識別情報
5.3.5 データメッセージの内容
5.3.6 ジョブリクエストメッセージとジョブステータスメッセージ
5.4 W3C Vehicle API
5.4.1 W3Cにおける自動車情報の標準化
5.4.2 W3C Vehicle API
5.5 Extended Vehicle
5.5.1 位置付け
5.5.2 構成
5.5.3 アクセス方法・API
5.5.4 データ構成
5.5.5 応用例
5.6 ダイナミックマップ
5.6.1 センサデータの意味解釈のための道路地図
5.6.2 ローカルダイナミックマップ
5.6.3 ダイナミックマップ
5.6.4 ダイナミックマップの利用例
5.6.5 ダイナミックマップがもつべき機能
5.6.6 高精度道路地図
5.6.7 物体のない領域情報の共有
5.6.8 静的情報から動的情報までの情報の統合のための機能
5.6.9 大規模データへのリアルタイム処理のためのアーキテクチャ
5.6.10 ダイナミックマップを用いた交通サービスの実装と実証実験
引用・参考文献
6.つながるクルマのセキュリティとプライバシー
6.1 つながるクルマのセキュリティ
6.1.1 V2Xセキュリティの基本構成
6.1.2 V2X通信に対する脅威
6.1.3 V2X通信のセキュリティ要件
6.1.4 V2X通信のプライバシー要件
6.1.5 V2X通信とセキュリティ機能
6.1.6 日米欧のV2Xにおけるセキュリティ認証管理の違い
6.1.7 V2X通信プロトコルにおけるセキュリティ
6.1.8 V2N通信プロトコルにおけるセキュリティ
6.2 つながるクルマとプライバシー
6.2.1 個人情報とロケーションプライバシー
6.2.2 つながるクルマのプライバシー保護
6.2.3 プライバシー保護技術とロケーションプライバシー保護
引用・参考文献
7.つながるクルマのシステム例
7.1 VICS
7.1.1 VICSの概要
7.1.2 情報収集と情報処理・編集
7.1.3 情報提供
7.1.4 提供情報活用
7.1.5 道路の識別方法
7.2 ETC
7.2.1 ETCの概要
7.2.2 ITSスポットとETC2.0
7.2.3 ETC2.0プローブ情報
7.2.4 ETC2.0情報の利用
7.3 DSSS/TSPSとITS Connect
7.3.1 光ビーコンによるDSSSとTSPS
7.3.2 700MHz帯高度道路交通システム
7.3.3 ITS Connect
7.4 カーテレマティクス・サービス
7.4.1 インターナビ
7.4.2 NissanConnect/CAR WINGS
7.4.3 G―BOOK mX/T-Connect
7.4.4 スマートループ
7.5 HELPNET
7.6 つながるクルマ向けの地図サービス
7.6.1 TomTom Traffic
7.6.2 HERE Traffic
7.6.3 Google Map/Google Traffic
7.6.4 Yahoo!カーナビ
引用・参考文献
8.つながるクルマの未来
8.1 つながるクルマの発展フェーズ
8.1.1 フェーズ0:直接センシング(通信なし)
8.1.2 フェーズ1L:狭域における現在の走行状態配信
8.1.3 フェーズ1G:広域における現在の走行状態収集/管理/配信
8.1.4 フェーズ2:現在の周辺状態配信
8.1.5 フェーズ3:将来の走行状態配信
8.1.6 フェーズ4:将来状態に基づく(局所的)走行調停
8.1.7 フェーズ5:広域交通流制御
8.2 未来の「つながるクルマ」サービス
8.2.1 「つながるクルマ」の先にある移動サービス革命
8.2.2 Synergic Mobility構想とトヨタのe―PaletteConcept
8.2.3 複数サービスの統合にむけて
8.2.4 Synerexにおける複数サービスプロバイダの協調
8.2.5 スマートシティとの融合
8.2.6 つながるクルマによる社会変革
引用・参考文献
索引
読者モニターレビュー【MO2様(ご専門:統計学)】
本書では「つながるクルマ」について学ぶことができます。「つながるクルマ」とは,通信を通して道路状況の把握や危険察知などを行い,人間社会を便利にするための自動車のことを表します。
こちらの本を通して,基本的な通信技術に関する知識から,既存において使用される通信技術をクルマに適用する際,どのような設計になるのかといったことが丁寧に解説されており,通信技術に詳しくない方でも学ぶことができるような章立てになっています。IoTを自動車に活用したい方,通信技術を学ばれた方,自動車が好きな方にはおすすめです。
「土木学会誌」2021年3月号 掲載日:2021/04/06
日刊工業新聞 話題の本(2021年2月24日) 掲載日:2021/02/24
「読売新聞」夕刊READ&LEAD(2020年12月1日) 掲載日:2020/12/01
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掲載日:2024/11/06
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掲載日:2024/04/01
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掲載日:2024/02/05
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掲載日:2023/10/03
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掲載日:2021/12/01
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掲載日:2021/07/30
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掲載日:2021/05/14
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掲載日:2021/05/06
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掲載日:2021/04/21
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掲載日:2021/03/09
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掲載日:2021/03/03
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掲載日:2021/02/26
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掲載日:2021/02/08
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掲載日:2021/01/28
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掲載日:2021/01/19
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掲載日:2021/01/06
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掲載日:2021/01/06
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掲載日:2020/12/14
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掲載日:2020/12/03
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掲載日:2020/12/02
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掲載日:2020/12/02
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掲載日:2020/11/16
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掲載日:2020/10/30
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掲載日:2020/10/01
- 『モビリティイノベーションシリーズ』ラインナップ
- 1.モビリティサービス 森川高行・山本俊行 編著
- 2.高齢社会における人と自動車 青木宏文・赤松幹之・上出寛子 編著
- 3.つながるクルマ 河口信夫・高田広章・佐藤健哉 編著
- 4.車両の電動化とスマートグリッド 鈴木達也・稲垣伸吉 編著
- 5.自動運転 二宮芳樹 編著/武田一哉 編
- 刊行のことば
人は新たな機会を得るために移動する。新たな食糧や繁殖相手を探すような動物的本能による移動から始まり,交易によって富を得たり,人と会って情報を交換したり,異なる文化や風土を経験したりと,人間社会が豊かになるほど,移動の量も多様性も増してきた。しかし,移動にはリスクが伴う。現在でも自動車事故死者数は世界で年間130万人もいるが,古代,中世,近世における移動に伴うリスクは想像を絶するものであったであろう。自分の意志による移動を英語でtravelというが,これはフランス語のtravailler(働く)から転じており,その語源は中世ラテン語のtrepaliare(3本の杭に縛り付けて拷問する)にさかのぼる。昔は,それほど働くことと旅することは苦難の連続であったのであろう。裏返していえば,そのようなリスクを取ってまでも,移動ということに価値を見出していたのである。
大きな便益をもたらす一方,大きな苦難を伴う移動の方法にはさまざまな工夫がなされてきた。ずっと徒歩に頼ってきた古代でも,帆を張った舟や家畜化した動物の利用という手段を得て,長距離の移動や荷物を運ぶ移動は格段に便利になった。しかし,何といっても最大の移動イノベーションは,産業革命期に発明された原動機の利用である。蒸気鉄道,蒸気船,蒸気自動車,そして19世紀末にはガソリンエンジンを積んだ自動車が誕生した。そして,20世紀初頭に米国でガソリン自動車が大量生産されるようになって,一般市民が格段に便利で自由なモビリティをもたらす自家用車を得たのである。自動車の普及により,ライフスタイルも街も大きく変化した。物流もトラック利用が大半になり,複雑なサプライチェーンを可能にして,経済は大きく発展した。ただ,同時に交通事故,渋滞,環境破壊という負の側面も顕在化してきた。
いつでもどこにでも,簡単な操作で運転して行ける自動車の魅力には抗しがたい。ただし,免許を取ったとはいえ素人の運転手が,車線,信号,標識という物理的拘束力のない空間とルールの中を相当な速度で走るからには,必ずや事故は起きる。そのために,余裕を持った車線幅と車間距離が必要で,走行時には1台につき100平方メートル近い面積を占有する。このため,人が集まる,つまり車が集まるところではどうしても渋滞が起きる。自動車の平均稼働時間は5%程度であるが,残りの時間に駐車しておくスペースもいる。ガソリンや軽油は石油から作られ,やがては枯渇する資源であるし,その燃焼後には必ず二酸化炭素が発生する。世界の石油消費の約半分が自動車燃料に使われ,二酸化炭素排出量の約15%が自動車起源である。
このような自動車の負の側面を大きく削減し,その利便性をも増すと期待される道路交通革命がCASE化である。CはConnected(インターネットなどへの常時接続化),AはAutonomous(またはAutomated,自動運転化),SはServicized(またはShare & Service,個人保有ではなく共有によるサービス化),EはElectric(パワートレインの電動化)を意味し,自動車の大衆化が始まった20世紀初頭から100年ぶりの変革期といわれる。CASE化がもたらすであろう都市交通の典型的な変化を下図(立ち読みページ参照)に示した。本シリーズ全5巻の「モビリティイノベーション」は,四つの巻をCASEのそれぞれの解説にあてていることが特徴である。さらに,CASE化された車を使う人や社会の観点から取り上げた第2巻では,社会科学的な切り口にも重点を置いている。
このような,移動のイノベーションに関する研究が2013~2021年度にわたり,文部科学省および科学技術振興機構の支援により,名古屋大学COI(Center of Innovation)事業として実施されており,本シリーズはその研究活動を通して生まれた「移動学」ともいうべき統合的な学理形成の成果を取りまとめたものである。この学理が,人類最大の発明の一つである自動車の革命期における知のマイルストーンになることを願っている。2020年3月