モータ駆動システムのための 磁性材料活用技術
高効率小型化の要求が益々高まる電気モータ駆動システムについて,磁性材料に関するモータ駆動システム技術の融合を幅広く解説。
- 発行年月日
- 2018/09/27
- 判型
- A5
- ページ数
- 464ページ
- ISBN
- 978-4-339-00912-5
- 令和4年度 日本磁気学会出版賞
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
本書では,モータ駆動システムの小型・高効率化を磁性材料の視点で捉え,その基礎から応用まで述べる。五つのPart に分け,その詳細を記す。
まず,Part I では総論として,パワーエレクトロニクスによる磁性材料への改革要求の背景について述べる。併せてモータ駆動システムを構成するモータ,パワーエレクトロニクス,磁性材料の三つの要素技術について,必要最低限の基礎技術について概括する。特に,モータ,パワーエレクトロニクスと磁気との間には,電気工学と磁気工学という大きな技術の障壁が想定されるので,それぞれの分野にとって大事な概念に特化して記す。最後に機器,応用,材料の電磁界の融合学について述べる。
つぎに,Part II では磁性材料の活用技術として,パワーエレクトロニクス励磁特性と磁性材料のモータ活用について述べる。パワーエレクトロニクス励磁特性としては,まず磁性材料の損失増加現象およびそこでの磁気現象について述べ,その後モータでのコア損特性について述べる。つぎに磁性材料の活用技術として市販されている低鉄損材料のモータ適用について述べ,モータにおける鉄損低減策について述べる。
Part III では,モータ駆動システムの関係者に磁性材料をより深く理解してもらえるように,磁性材料の基礎および磁気特性のモデル化について述べる。まず電子スピンによる磁化の発現,磁区構造および多結晶磁性体といった磁性体マルチスケールの視点で広い意味での磁化現象をより深く捉える。その後,磁気ヒステリシス現象のモデル化,高周波磁気特性のモデル化,パワーエレクトロニクス回路における半導体特性と磁気特性との連成解析のモデル化について言及する。最後に磁気特性のベクトル性について述べる。
さらにPart IV では,将来の磁性材料について述べる。まず磁性材料のこれまでと今後について概括し,低損失な軟磁性材料について述べる。モータの小型高効率化に大きく貢献してきた永久磁石,つまりその焼結材,ボンド材について述べ,そこにおけるレアアース問題も含めて言及する。最後にパワーエレクトロニクス励磁問題となる高周波磁気について述べる。
最後にPart V として磁気応用について述べる。磁性材料のモータ応用およびリアクトル応用について研究状況を述べ,磁性材料を利用した電気機器の応用として電気自動車およびリニアモータの応用について述べる。
(本書1章2節 本書の構成より抜粋)
内燃機関と電気モータとをハイブリッドさせる電気自動車の商用化・販売は,自動車だけではなく,船・飛行機といった移動手段全般の適用となり,移動体を電気モータにて駆動させる方向付けを行ったものといえる。これは,内燃機関の駆動から電気モータの駆動という移動手段の革命とも考えられる。バッテリーといった電気エネルギーの蓄積技術の問題は本質的に残るとしても,高効率・高応答な電気モータへのこの流れは,パワーエレクトロニクス技術によるものともいえ,今後ますます普及拡大していくものといえる。
電気モータ自体は100年以上前から使用され,これまで第二次産業革命の一つの主役となっていた。しかし,今回移動革命を引き起こすモータ駆動システムは,その固有の技術から出てきており,それによる新たな技術的な要請が出てきている。一つは当時なかったパワーエレクトロニクスによる可変速駆動技術であり,それによりモータの動作点・動作環境の変動という新たな要請が出てきた。もう一つは,モータの設置場所が従来の地上置きから移動手段に搭載される機上置きとなることであり,これによりモータ駆動システムのさらなる小型・高効率化の要請が出てきた。
こうした中,モータの高効率化は,省エネルギー技術の社会的要請と相まってこれまで幅広く研究開発がなされてきた。現時点でもかなりの小型・高効率化は実現されてきたものといえる。しかし,移動革命によりさらなる応用展開の拡大はモータ駆動システムにこれまで以上の小型・高効率化を要求しているものといえる。こうした中,これまで技術的難解さにより磁性材料に起因する鉄損のほうはあまり研究が見られなかったが,こうした要請のもと,モータ駆動システムにおける磁気特性の研究は,これから本格的に行うべき技術課題となってきた。
そこで本書は,モータ駆動システムの高効率化を磁性材料の観点で述べるものである。そこにはモータ,パワーエレクトロニクス,磁性材料といった異なる技術分野が重要な要素技術として存在する。それぞれの要素技術の高効率化はそれぞれの研究開発で深く進行しているが,ここで見落としがちなのは.モータ駆動システムを全体像として見た場合に,その高効率化がどこまで得られるかということである。それらは電磁界現象として,電気回路を介して相互に関連しているものといえ,それらの融合化が強く求められる。
技術の融合化には,それぞれの技術の本質をよく理解することが重要で,その上での相互作用の影響を論じることができる。そこで本書は,モータ駆動システムに関するモータ,パワーエレクトロニクス,磁性材料といった異なる分野の技術者・研究者にとって,磁性材料に関するモータ駆動システムの技術の融合を幅広く理解することを目標に執筆を試みたものである。
モータ駆動システムは,いまや家庭,自動車,オフィス,製造現場といったところで大小さまざまなモータが応用されており,モータ駆動システム技術の研究開発だけではなく,その製造,設置,運用,保守および管理,経営に至る幅広い立場の方々が関与している。技術的進歩の激しいモータ駆動システムの各応用先において,立場の異なる方々が正しく判断し遂行していくためには,相互の技術的議論が不可欠である。
そこで本書では,モータ駆動システムに関する必要最低限の内容を記載することにした。このため,概念を先行としたところがあり,かなり「ざっくり」とした議論となっている。詳細は各専門書に譲るとしても,各専門家から見れば議論の粗さが目につくかといえるが,上記の主旨ということでご容赦いただきたい。各読者の琴線に触れることができれば幸いである。
最後に,本書の執筆を快諾していただいた執筆者各位,および出版に運んでいただいたコロナ社に改めて謝意を表し,はじめの言葉とする。
2018年7月 藤﨑 敬介
1. モータ駆動システムと磁性材料:本書の構成
1.1 モータとパワーエレクトロニクスと磁性材料
1.2 本書の構成
引用・参考文献
Part I 総論(パワーエレクトロニクスによる磁性材料への改革要求の背景)
2. モータ駆動システムにおける磁性材料への技術要請
2.1 これまでのモータとこれからのパワーエレクトロニクス励磁モータ
2.2 移動とは
2.3 電気エネルギーとパワーエレクトロニクス技術
2.4 パワーエレクトロニクスにおける高周波化要求と磁性材料
2.5 電気エネルギー応用における磁性材料
2.6 モータ研究の今後
引用・参考文献
3. 磁性材料
3.1 磁性体マルチスケール
3.2 磁化過程
3.3 鉄損
3.4 高周波磁化
3.5 応力の影響
3.6 磁気異方性
3.7 磁気計測
3.8 情報系磁気と電力系磁気
引用・参考文献
4. 電気モータ
4.1 電気モータの原理と基本構造
4.2 三相交流と移動磁界
4.3 交流モータ
4.4 永久磁石型同期モータ
引用・参考文献
5. パワーエレクトロニクス
5.1 パワーエレクトロニクス技術の概要
5.2 電力用半導体のスイッチング動作
5.3 インバータ回路とその動作
5.4 パワーエレクトロニクスの意義
引用・参考文献
6. 電磁界融合学
6.1 マルチスケール,マルチフィジックス,マルチタイム(第一種の融合)
6.2 第二種の融合学(目的と手段の融合)
引用・参考文献
Part II 活用技術(パワーエレクトロニクス励磁と磁性材料の活用)
7. PWMインバータ励磁による磁気特性と計測技術
7.1 インバータ励磁による磁気特性の計測装置
7.2 インバータ励磁によるマイナーループの発生
7.3 インバータ励磁によるキャリヤ周波数特性
7.4 電力用半導体のオン抵抗によるマイナーループの発生
7.5 電力用半導体特性と鉄損
7.6 インバータ励磁現象の計測技術
7.7 磁性材料に要求される磁気特性
引用・参考文献
8. インバータ励磁時のモータコアの鉄損特性
8.1 埋込み式永久磁石型同期モータ
8.2 測定方法
8.3 解析モデルおよび解析方法
8.4 IPM-SMのコア損評価結果
引用・参考文献
9. 材料特性を活かしたモータ
9.1 方向性電磁鋼板を用いた異方性モータ
9.2 アモルファスモータ
9.3 ナノ結晶モータ
引用・参考文献
Part III 磁化現象とそのモデル化
10. 磁化の発現と高飽和磁化の可能性
10.1 多体問題の困難さ
10.2 原子から分子や結晶ができるときに起こることの真実
10.3 原子1個だって多体問題
10.4 ビリアル定理
10.5 磁性はハイゼンベルグの交換相互作用では説明できない ─原子に対するフント則の解釈─
10.6 分子に対する磁性の精密計算
10.7 Cr@Sinクラスター
10.8 まとめ ─十分条件を求めて─
引用・参考文献
11. 磁区構造とマイクロマグネティクス計算
11.1 方向性電磁鋼板の磁気構造
11.2 磁区と磁壁
11.3 磁化過程
11.4 マイクロマグネティクス
11.5 1階の初期値問題に対する数値解法
11.6 LLG方程式の計算例
引用・参考文献
12. 多結晶磁界解析
12.1 多結晶磁界解析モデル
12.2 モデルの妥当性検証
引用・参考文献
13. プレイモデルによる磁気ヒステリシスモデル
13.1 プレイモデルの原理
13.2 プライザッハモデルとの比較
13.3 プレイモデルの同定
13.4 B入力プレイモデル
13.5 ベクトルプレイモデル
引用・参考文献
14. 熱力学モデルによる磁気ヒステリシスモデル
14.1 磁性体の熱力学
14.2 自由エネルギーとヒステリシス
14.3 ヒステリシスの摩擦モデル
15. 等価回路による高周波電磁気特性の表現
15.1 渦電流場と複素透磁率
15.2 複素透磁率の等価回路表現
15.3 等価回路による磁界分布の表現
15.4 電線のモデリング
15.5 任意の渦電流場の等価回路表現
引用・参考文献
16. 半導体特性と磁気特性との連成解析
16.1 半導体特性と磁気特性
16.2 半導体特性と磁気特性を相互に考慮できる数値計算手法
16.3 種類の異なる半導体素子を用いたインバータ励磁下での磁気特性計算例
引用・参考文献
17. 二次元ベクトル磁気特性
17.1 磁性材料の構成方程式
17.2 磁気抵抗率テンソル
17.3 二次元ベクトル磁気特性の評価測定法
17.4 電磁界解析から磁気特性解析へ
17.5 電気機器の低損失・高効率化へのベクトル磁気特性活用技術
17.6 計測は羅針盤
引用・参考文献
Part IV 将来の磁性材料
18. 磁性材料のこれまでと今後
18.1 ソフト磁性材料とハード磁性材料
18.2 ソフト磁性材料
18.3 ハード磁性材料
18.4 磁性材料の今後
引用・参考文献
19. 低損失な軟磁性材料
19.1 おもな軟磁性材料とその位置付け
19.2 アモルファス軟磁性合金
19.3 ナノ結晶軟磁性合金
引用・参考文献
20. Nd-Fe-B系焼結磁石
20.1 Nd-Fe-B系焼結磁石を理解する上での基礎知識
20.2 Nd-Fe-B系焼結磁石の高性能化技術
20.3 まとめ
引用・参考文献
21. 希土類ボンド永久磁石
21.1 磁石の基本特性
21.2 磁石粉の種類
21.3 バインダ
21.4 成形法
21.5 配向技術
21.6 着磁技術
21.7 経時変化
21.8 温度特性
21.9 表面コート
21.10 耐候性
引用・参考文献
22. 永久磁石のレアアース問題
22.1 レアアースリスクと磁石材料
22.2 おもな永久磁石とレアアース
22.3 モータ用永久磁石材料に課せられる要請
22.4 レアアース問題を解決するための磁石材料研究の展望
引用・参考文献
23. 高周波磁気
23.1 一軸磁気異方性を有する軟磁性薄膜
23.2 磁性薄膜インダクタの開発例
23.3 まとめ
引用・参考文献
Part V 磁気応用
24. モータの鉄損計算
24.1 鉄損の各成分と計算法の概略
24.2 高調波を考慮したモータ鉄損の算定法
24.3 機械応力を考慮したモータ鉄損の算定法
24.4 鉄損算定事例
引用・参考文献
25. インダクタのコアロス
25.1 PWMインバータにおけるインダクタの励磁状態
25.2 直流磁界バイアス条件下での鉄損の計測方法
25.3 インダクタの鉄損計算方法と評価方法
引用・参考文献
26. 自動車での磁気応用
26.1 「走る」
26.2 「曲がる」
26.3 「止まる」
26.4 自動車用磁性材料の進化
引用・参考文献
27. リニアモータでの磁気応用
27.1 リニアモータとリニアドライブシステム
27.2 リニアモータの特性評価
27.3 LSM高性能化のための磁気回路
引用・参考文献
おわりに
索引
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