高齢社会における人と自動車

モビリティイノベーションシリーズ 2

高齢社会における人と自動車

高齢者は運転をやめるべきか。加齢変化から心理・哲学的側面も含めて研究動向を解説した。

ジャンル
発行年月日
2021/01/18
判型
B5
ページ数
240ページ
ISBN
978-4-339-02772-3
高齢社会における人と自動車
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定価

4,510(本体4,100円+税)

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交通事故,渋滞,環境破壊,エネルギー資源問題などの自動車の負の側面を大きく削減し,人間社会における多方面での利便性がより増すと期待される道路交通革命がCASE化である。CはConnected(インターネットなどへの常時接続化),AはAutonomous(またはAutomated,自動運転化),SはServicized(またはShare & Service,個人保有ではなく共有によるサービス化),EはElectric(パワートレインの電動化)を意味し,自動車の大衆化が始まった20世紀初頭から100年ぶりの変革期といわれる。

第2巻「高齢社会における人と自動車」では,CASE化された車を使う人や社会の観点から社会科学的な切り口で,高齢ドライバによる交通事故が社会的課題の一つとなっている背景を踏まえ,加齢変化による身体機能や認知機能,持病や服薬の運転への影響など個人差に関する研究動向と知見をまとめる。また,免許返納や運転制限による健康への影響や哲学的な側面も俯瞰する。このような観点から,以下の構成で解説した。

1章では,自動車の運転に関わる人間特性について,最新の知見を含め概説する。高齢者特性に関して,視覚機能や認知機能の加齢変化が自動車の運転に与える影響を解説するとともに,その対処方法としてインタフェースや支援システムのデザインや,運転特性の評価・教育についての最新知見を紹介する。
2章では,自動車運転と健康との関係について概説する。自動車などを使った移動によって生活空間が広がることによる健康への効果,移動制限による健康への影響,加齢に伴う運転への影響,各種疾患の運転への影響,服薬による運転への影響,運転中の健康状態の変化とその運転への影響について述べる。
3章では,自動車を運転すること自体の価値について,運転者の心理に関する議論や,運転の能力とタスクの関連性,さらに運転の手応えや楽しさについての認知心理学的知見について述べる。また,自動運転技術の発展に伴うライフスタイルの変化を考察するとともに,人々の幸せやwell―being に与える影響を概説する。
4 章では,モビリティにおける哲学的な視点からの問題について述べる。移動の歴史を概説しながら,人間にとって移動がもつ意味とは何かや,移動に伴う人間同士のコミュニケーションの変遷などについて,技術の発展を視野に入れつつ議論する。

わが国の65歳以上の総人口に占める割合,すなわち高齢化率は,2015年には25%を超え,2060年には40%に至ることが推計されている。このような背景のもと,高齢ドライバによる交通事故が社会課題となっており,運転支援システムや自動運転技術の導入が進められる一方,免許返納の促進や規制強化により運転を制限する動きもある。

人口減少と都市化により,都市部以外での公共交通機関が衰退しているため,なんらかのモビリティを確保し,自らの意思で外出し社会との関りを保つことが,高齢になっても生活の質(QOL)を維持するためには重要である。すなわち,高齢ドライバの問題は,交通事故だけでなく,健康リスクを考慮する必要がある。

高齢社会におけるモビリティの問題を解決する手段として自動運転に対する期待は大きいが,技術的,法規的,倫理的,社会受容的に解決しなければならない課題が多く残っており,完全な自動運転化にはまだ時間がかかることが予想される。

したがって,高齢ドライバ問題はますます重要度を増すことから,本書の前半では自動車運転に関わる人間特性の加齢変化や個人差に関するこれまでの研究動向と最新知見をまとめた。

一方で,自動車産業は「100年に一度」の大変革期を迎えており,モビリティは単に自動車が人や物を運ぶという実世界(フィジカル)の移動だけでなく,ネットワークにより現実に近い仮想世界(サイバー)で移動することも含んできている。このように,移動に対する価値が変化しつつあることから,本書では移動について健康や心理的well―being,そして哲学的な側面からも俯瞰する。

1章では,自動車の運転に関わる人間特性について,最新の知見を含め概説する。高齢者特性に関して,視覚機能や認知機能の加齢変化が自動車の運転に与える影響を解説するとともに,その対処方法としてインタフェースや支援システムのデザインや,運転特性の評価・教育についての最新知見を紹介する。

2章では,自動車運転と健康との関係について概説する。自動車などを使った移動によって生活空間が広がることによる健康への効果,移動制限による健康への影響,加齢に伴う運転への影響,各種疾患の運転への影響,服薬による運転への影響,運転中の健康状態の変化とその運転への影響について述べる。

3章では,自動車を運転すること自体の価値について,運転者の心理に関する議論や,運転の能力とタスクの関連性,さらに運転の手応えや楽しさについての認知心理学的知見について述べる。また,自動運転技術の発展に伴うライフスタイルの変化を考察するとともに,人々の幸せやwell-beingに与える影響を概説する。

4章では,モビリティにおける哲学的な視点からの問題について述べる。移動の歴史を概説しながら,人間にとって移動がもつ意味とは何かや,移動に伴う人間同士のコミュニケーションの変遷などについて,技術の発展を視野に入れつつ議論する。

編集作業の最中には,新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大し,モビリティを取り巻く状況が世界的に変化している。本書にはその内容を取り込むことはできなかったが,新型コロナウイルス感染症は基本的にはこれまでのモビリティの変化を加速させる方向で,基本的な考え方は本書の内容に沿っているものと考えている。本書では,これまでの自動車運転に関するヒューマンファクターの枠を超えた,幅広い分野を網羅することを試みたため,ご多忙のところ多くの著者の皆様に執筆の労をいただいた。そのため,編集,執筆に時間を要し,コロナ社の皆様や名古屋大学COIの出版事務局にはたいへんご尽力をいただき,この場を借りてお礼を申し上げたい。

2020年10月
2巻編集委員 青木 宏文,赤松 幹之,上出 寛子

1.自動車運転に関わる人間特性
1.1 運転と人
 1.1.1 自動車の社会的位置付け
 1.1.2 高齢者特性
1.2 視覚機能と運転
 1.2.1 視覚の重要性
 1.2.2 視覚系の仕組み
 1.2.3 視覚機能と運転の関係
 1.2.4 シニアドライバの視覚特性と運転技術
 1.2.5 高解像度没入型ドライビングシミュレータを用いた視野欠損模擬
1.3 認知機能と運転
 1.3.1 運転を支える認知機能とその評価
 1.3.2 認知症,軽度認知障害と運転
1.4 運転特性評価・教育
 1.4.1 はじめに
 1.4.2 ドライバの情報処理プロセス
 1.4.3 事故を起こしやすいドライバ
 1.4.4 訓練や教育による改善
 1.4.5 実車による運転特性評価
 1.4.6 ドライビングシミュレータによる運転特性評価
 1.4.7 運転適性・検査
1.5 モビリティのインタラクション
 1.5.1 概説
 1.5.2 人とシステムとのインタラクション
 1.5.3 先進運転支援システムとドライバのインタラクション
引用・参考文献

2.移動と健康
2.1 移動と健康―特に高齢者の身体機能,認知機能を中心に
 2.1.1 超高齢社会の現状
 2.1.2 健康寿命と平均寿命の格差と健康寿命の延伸
 2.1.3 健康寿命の延伸とフレイル
 2.1.4 移動
 2.1.5 移動と生活空間
 2.1.6 移動に関連する因子
 2.1.7 移動と健康
 2.1.8 移動と社会性
 2.1.9 移動と認知機能
 2.1.10 生活空間移動と医療ならびに介護施設の利用
 2.1.11 歩行と健康
 2.1.12 フレイルの影響
 2.1.13 住居環境と高齢者の移動と健康
2.2 高齢者における運転の必要性と課題
 2.2.1 高齢者を取り巻く運転環境
 2.2.2 運転中止による弊害
 2.2.3 認知症予防と運転との関連
 2.2.4 運転寿命延伸における課題
 2.2.5 運転寿命延伸プロジェクト
 2.2.6 運転者のための運動トレーニング
 2.2.7 おわりに
2.3 運転と健康
 2.3.1 自動車の普及
 2.3.2 自動車の普及に伴う健康被害とその対策
 2.3.3 高齢化する車社会の新たな課題
 2.3.4 高齢者は運転をやめるべきか
 2.3.5 運転中止による健康への影響:疫学研究のエビデンス
 2.3.6 多様なモビリティ支援の拡充を
2.4 向精神薬と運転
 2.4.1 向精神薬とドライバ特性
 2.4.2 精神障害と運転
2.5 運転中の体調急変
 2.5.1 心疾患(不整脈),脳卒中,てんかん
 2.5.2 低血糖
 2.5.3 睡眠障害
引用・参考文献

3.移動と心理的well-being
3.1 自動車運転の楽しさ:ドライビング・プレジャー
 3.1.1 自動車のもつ機能と価値
 3.1.2 フロー理論
 3.1.3 能力とタスクの難しさのバランス
 3.1.4 運転の手応え
 3.1.5 状況を支配している感じ
 3.1.6 運転の楽しさについての調査
 3.1.7 フロー理論と自動車運転
3.2 心理的well-beingの概念と測定手法
 3.2.1 well-being概念に関する考え方
 3.2.2 well-beingを測定するための指標
 3.2.3 先進的な技術とwell-being
3.3 ムービング・プレジャー
 3.3.1 自動運転への移行の過渡期
 3.3.2 自動運転による安全向上
 3.3.3 自動運転によって変わるライフスタイル
 3.3.4 モビリティとwell-being
 3.3.5 人間の運転における自律性
 3.3.6 移動のwell-being
 3.3.7 全体論的なムービング・プレジャーに向けて
引用・参考文献

4.モビリティにおける哲学的諸問題
4.1 羽のない二本足の動物
4.2 想像の引力
4.3 移動とコミュニケーション
4.4 モビリティとモダニティ
4.5 つぎは何?
4.6 絶え間ない前進と終わりのない不満足
引用・参考文献

索引

青木 宏文(アオキ ヒロフミ)

上出 寛子(カミイデ ヒロコ)

佐藤 稔久(サトウ トシヒサ)

伊藤 逸毅(イトウ ヤスキ)

稲上 誠(イナガミ マコト)

岩瀬 愛子(イワセ アイコ)

寺崎 浩子(テラサキ ヒロコ)

尾崎 紀夫(オザキ ノリオ)

河野 直子(カワノ ナオコ)

島崎 敢(シマザキ カン)

米川 隆(ヨネカワ タカシ)

田中 貴紘(タナカ タカヒロ)

松林 翔太(マツバヤシ ショウタ)

三輪 和久(ミワ カズヒサ)

葛谷 雅文(クズヤ マサフミ)

島田 裕之(シマダ ヒロユキ)

市川 政雄(イチカワ マサオ)

岩本 邦弘(イワモト クニヒロ)

小峰 秀彦(コミネ ヒデヒコ)

有馬 寛(アリマ ヒロシ)

宮田 聖子(ミヤタ セイコ)

ドミニク チェン(ドミニク チェン)

久木田 水生(クキタ ミナオ)

「土木学会誌」2021年4月号 掲載日:2021/04/06

読売新聞夕刊パブ掲載(2021年3月2日) 掲載日:2021/03/02

掲載日:2021/03/09

「日本機械学会誌」2021年3月号広告

掲載日:2021/03/03

「自動車技術」2021年3月号広告

掲載日:2021/02/26

日刊工業新聞広告掲載(2021年2月26日)

掲載日:2021/02/08

読売新聞広告掲載(2021年2月8日)

掲載日:2021/01/28

日刊工業新聞広告掲載(2021年1月28日)

掲載日:2021/01/19

読売新聞広告掲載(2021年1月19日)

掲載日:2021/01/06

「電子情報通信学会誌」2021年1月号広告

掲載日:2020/12/14

「計測と制御」2020年12月号広告

掲載日:2020/12/03

応用物理学会誌「応用物理」2020年12月号広告

掲載日:2020/12/02

「土木学会誌」2020年12月号広告

掲載日:2020/11/16

情報処理学会誌「情報処理」2020年12月号広告

『モビリティイノベーションシリーズ』ラインナップ
  1. 1.モビリティサービス
  2. 森川高行・山本俊行 編著 
  1. 2.高齢社会における人と自動車
  2. 青木宏文・赤松幹之・上出寛子 編著 
  1. 3.つながるクルマ
  2. 河口信夫・高田広章・佐藤健哉 編著 
  1. 4.車両の電動化とスマートグリッド
  2. 鈴木達也・稲垣伸吉 編著 
  1. 5.自動運転
  2. 二宮芳樹 編著/武田一哉 編 

刊行のことば

人は新たな機会を得るために移動する。新たな食糧や繁殖相手を探すような動物的本能による移動から始まり,交易によって富を得たり,人と会って情報を交換したり,異なる文化や風土を経験したりと,人間社会が豊かになるほど,移動の量も多様性も増してきた。しかし,移動にはリスクが伴う。現在でも自動車事故死者数は世界で年間130万人もいるが,古代,中世,近世における移動に伴うリスクは想像を絶するものであったであろう。自分の意志による移動を英語でtravelというが,これはフランス語のtravailler(働く)から転じており,その語源は中世ラテン語のtrepaliare(3本の杭に縛り付けて拷問する)にさかのぼる。昔は,それほど働くことと旅することは苦難の連続であったのであろう。裏返していえば,そのようなリスクを取ってまでも,移動ということに価値を見出していたのである。

大きな便益をもたらす一方,大きな苦難を伴う移動の方法にはさまざまな工夫がなされてきた。ずっと徒歩に頼ってきた古代でも,帆を張った舟や家畜化した動物の利用という手段を得て,長距離の移動や荷物を運ぶ移動は格段に便利になった。しかし,何といっても最大の移動イノベーションは,産業革命期に発明された原動機の利用である。蒸気鉄道,蒸気船,蒸気自動車,そして19世紀末にはガソリンエンジンを積んだ自動車が誕生した。そして,20世紀初頭に米国でガソリン自動車が大量生産されるようになって,一般市民が格段に便利で自由なモビリティをもたらす自家用車を得たのである。自動車の普及により,ライフスタイルも街も大きく変化した。物流もトラック利用が大半になり,複雑なサプライチェーンを可能にして,経済は大きく発展した。ただ,同時に交通事故,渋滞,環境破壊という負の側面も顕在化してきた。

いつでもどこにでも,簡単な操作で運転して行ける自動車の魅力には抗しがたい。ただし,免許を取ったとはいえ素人の運転手が,車線,信号,標識という物理的拘束力のない空間とルールの中を相当な速度で走るからには,必ずや事故は起きる。そのために,余裕を持った車線幅と車間距離が必要で,走行時には1台につき100平方メートル近い面積を占有する。このため,人が集まる,つまり車が集まるところではどうしても渋滞が起きる。自動車の平均稼働時間は5%程度であるが,残りの時間に駐車しておくスペースもいる。ガソリンや軽油は石油から作られ,やがては枯渇する資源であるし,その燃焼後には必ず二酸化炭素が発生する。世界の石油消費の約半分が自動車燃料に使われ,二酸化炭素排出量の約15%が自動車起源である。

このような自動車の負の側面を大きく削減し,その利便性をも増すと期待される道路交通革命がCASE化である。CはConnected(インターネットなどへの常時接続化),AはAutonomous(またはAutomated,自動運転化),SはServicized(またはShare & Service,個人保有ではなく共有によるサービス化),EはElectric(パワートレインの電動化)を意味し,自動車の大衆化が始まった20世紀初頭から100年ぶりの変革期といわれる。CASE化がもたらすであろう都市交通の典型的な変化を下図(立ち読みページ参照)に示した。本シリーズ全5巻の「モビリティイノベーション」は,四つの巻をCASEのそれぞれの解説にあてていることが特徴である。さらに,CASE化された車を使う人や社会の観点から取り上げた第2巻では,社会科学的な切り口にも重点を置いている。

このような,移動のイノベーションに関する研究が2013~2021年度にわたり,文部科学省および科学技術振興機構の支援により,名古屋大学COI(Center of Innovation)事業として実施されており,本シリーズはその研究活動を通して生まれた「移動学」ともいうべき統合的な学理形成の成果を取りまとめたものである。この学理が,人類最大の発明の一つである自動車の革命期における知のマイルストーンになることを願っている。

2020年3月

編集委員長 森川高行