
音楽制作 - プログラミング・数理・アート -
人間とテクノロジーの調和による音楽表現の思考,理論,実践に触れ,未来を考察しよう
- 発行年月日
- 2025/04/25
- 判型
- A5
- ページ数
- 288ページ
- ISBN
- 978-4-339-01380-1
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
◯読者対象
本書は、理工系、文系、芸術系の大学で学ぶ学部生や大学院生を想定して書かれています。さらに大学の外の、テクノロジーを使った音楽制作に興味のあるすべての人々も読者対象となりうると考えています。
◯書籍の特徴
本書は様々な専門分野の執筆者が特定のテーマでもって各章を担当しております。もっとも大きな特徴は、全員が研究者であると同時に自ら音楽や作品を制作する「表現者」である点です。技術紹介だけに留まらず、自身の制作経験からテクノロジーを用いた音楽制作の哲学や視点について述べられています。
◯各章について
本書は順番に章を読み進めても構いませんし、気になった章から読んでいくのでも構いません。
第1章「電子音楽制作環境とツールの変遷」では、電子音楽制作における基本的な前提と概念、実現するテクノロジーについて解説し、さらにPure Dataを用いた「楽譜を時系列で再生する」概念から離れた音楽制作について記しています。
第2章「ライブコンピュータ・エレクトロニクス」では、Maxを用いた演奏の事例として、作曲家の作品、章担当筆者が携わったアンドロイドを用いた作品を挙げて論じています。
第3章「音響コンポジション」では、SuperColliderを用いたプログラミングによって直接的に音響を形作る作曲方法と概念について解説しています。
第4章「ライブコーディング」では、リアルタイムにコーディングをしながら音楽を作り上げていく音楽制作スタイルについて、定義、歴史、文化的醸成について紹介します。
第5章「音楽語法と数理」では、様々なアルゴリズムや数理的手法が音楽の作曲に応用された歴史を辿り、実例を挙げながら解説します。
第6章「メディアアートとミュージックテクノロジー」では、音楽とテクノロジー、センサーとロボット、メディアアートと作曲といったキーワードについて、章担当筆者による多く作品事例を参照しながら概観します。
◯著者からのメッセージ
音楽は「音に基づく、人間の積極的な表現および知覚活動のすべて」と定義される文化的産物であると同時に、現代の音楽制作分野はテクノロジーの影響を受けており、その話を抜きにして音楽制作の全体を語ることはできないほどです。しかし最近ではテクノロジーの中に生成AIが含まれるようになり、音楽制作分野は一種の混沌状態になりつつあるといえるでしょう。
そんな中、少し立ち止まるような形で、本書では生成AIの登場以前から用いられてきた音楽制作のテクノロジーや手法、プログラミングでもって音楽や音響を創り出す手法、作曲や音列の生成を数理の面から捉える分野、音を軸としたメディアアートなど、多岐に渡る分野についてそれぞれの世界観に基づいて解説されています。
いずれの章にも共通する要素は、特定の「表現」のための「音楽制作」について着目していること、テクノロジーと人間の一定のバランス感覚をもって共存して「音楽」「音響」を生み出すシステムを前提として「音楽制作」を論じていることです。いわば現在ホットな生成AIと音楽の関係を俯瞰している感覚を有していると言い換えることができるかもしれません。
「テクノロジーとともに音楽はこれからどのように形作られていくのか」
「今後,音楽で表現することの価値はどうなっていくのか」
本書『音楽制作—プログラミング・数理・アート—」は,上記の問いに対しての回答を模索したものと考えています。
最初にコンピュータを用いて音楽が作られて以降,これまで数十年かけて音楽制作に関連するテクノロジーの進化が続いてきました。そして現在はある一定の成熟の域に達しており,音楽制作にも変化がもたらされています。
例えば,以前は作曲家の手掛けた楽譜を演奏者が専用のレコーディングスタジオで演奏し,録音機材をスタジオエンジニアが操作して録音/ミックスするのが主流でした。しかし,テクノロジーが進化した現在はそうした方法に加えて,個人のコンピュータ上でDAWやエフェクタプラグイン(1章にて解説),マイクなどを駆使して自宅で楽曲録音・ミキシングまで行う「宅録(自宅録音)」という方法が定着しています。かつてはスタジオでしか使えなかった高価な音楽用のハードウェアの機材と同等の品質のものが,ミュージシャン自身が手に届く価格帯のハードウェアやソフトウェアとなったためです。安価になっただけではなく,音楽制作に関連するテクノロジーの用途も発達してきています。例えば,特定の楽器音の抽出,ボーカルのピッチ補正,サンプル音の伸縮といった,以前は研究所でしか扱えなかった技術が個人でも利用できるようになりました。
このあたりまでは音楽を作る主体が人間であり,その創作過程で主たる判断をするのが人間であることが前提となっているものです。しかし,ここ数年で生成系AI(以下,AI)を用いた音響処理や音楽創作支援,はたまた自律的な音楽生成といった話題を耳にする機会が多くなり,音楽制作の風景そのものに少
し変化がもたらされています。例えば
•ミキシングやマスタリングの音響面の処理についてAIが代替して処理を自動化するサービス。
•AIによる音楽生成を可能とするシステムとサービス。
といったものが実現して普及が始まっています。2025年2月現在はAIに「命令(プロンプト)」や「歌詞」を与えれば,それに応じた旋律や和音,リズム,歌声で構成された「音楽の音響」が短時間で複数個,出力されるようになっています。例えばCM広告映像のための「…風の音楽」を得るのに,ミュージシャンや作曲家に依頼して音楽を制作してもらうプロセスが必要なくなるかもしれない,という未来予想は技術面ではかなり現実的になってきています。先走った思考として,人間の「作曲家」や「音楽アーティスト」は職業として存在し得るのだろうか,という懸念も耳にします。進化しきったミュージックテクノロジーの存在意義はもはや「人間が音楽を作るため」ではなくなるかもしれないというわけです。
これまでも歴史的に音楽とテクノロジーは密接な関係を保ってきました。しかし,音楽を生み出す主体がなにかさえもが揺らぎ始めている現在ほど,パラダイムシフトのエッジに私たちが身を置いている感覚を味わう機会はなかったのではないでしょうか。
音楽を商業的に「利用する」か,リスナーとして「聴く」か,ミュージシャンとして「創る」かなど,おのおのの立場の違いによって,音楽の捉え方は驚くほど違うことに気づかされます。それは音楽になにを求めて期待しているか,なにを拠り所としているかが非常に多様であるためでしょう。
音楽は「音に基づく,人間の積極的な表現および知覚活動のすべて」と定義される文化的産物である一方で,AIが台頭してきている現状では,一種の中庸かつ混沌とした状態になっているのではないでしょうか。ゆえに冒頭の問いは避けられないものとなるでしょう。
そんな中で,本書では少し立ち止まるような形でAIの登場以前から用いられてきた音楽制作のテクノロジーや手法,プログラミングで音楽や音響を作り出す手法,作曲や音列の生成を数理の面から捉える分野,音を軸としたメディアアートなど,多岐に渡る分野についてそれぞれの章の担当著者の視点と世界観に基づいて解説されています。
いずれの章にも共通する要素は,特定の「表現」のための「音楽制作」について着目していること,テクノロジーと人間の一定のバランス感覚を持って共存して「音楽」「音響」を生み出すシステムに基づく「音楽制作」を論じていることです。いわば現在ホットな現象となっているAI,そのAIと音楽の関係から一歩引いて俯瞰している感覚と言い換えることができるかもしれません。
本書で扱うトピックは,AIを含めたテクノロジーの「技術面の最先端」とは定義できないかもしれませんが,人間が手の届く範囲での機械やテクノロジーとの調和の末の「表現の最先端」を模索していると言えるでしょう。その中身は思考と論理が渦巻いていますが,ブラックボックスではありません。
かつて,14~16世紀のヨーロッパ(おもにイタリア)において古代ギリシャ・ローマの文化を再評価し,個人の能力や知識を重視して「文芸復興」「文化再生」を掲げた「ルネッサンス」から芸術面で新たな波が起こりました。同様にバランスの取れた音楽とテクノロジーの関係に眼差しを向けることは,音楽表現の未来につながっていくものと信じています。
本書は以下のように構成されています。
1章「電子音楽の制作ツール」では,電子音楽の制作における基本概念とそれを実現するシステムの原理について解説します。前半は市販の電子楽器やツールを例に挙げながら,音源部(シンセサイザなど)と制御部(シーケンサ)の歴史と技術面について解説します。後半では対照的にアンダーグラウンドなシーンで発展を遂げてきたツール「ミュージックトラッカー」がもたらしたもの,「楽譜を時系列で再生する」概念から離れた音楽制作を可能にするプログラミング環境Pure Dataについて,著者の作品事例を示しながら述べます。
2章「ライブコンピュータ・エレクトロニクス」では,コンピュータを用いたライブ演奏であるライブコンピュータ・エレクトロニクスの概念と定義について述べることを出発点としています。作曲家ピエール・ブーレーズの作品例を通してリアルタイム・デジタル信号処理の技術面の解説,その後に登場したプログラミング環境Maxとそれを用いたコート・リッピの作品例について紹介していきます。最後に著者によるアンドロイド(ロボティクス)を用いた作品をはじめ,現在の主要技術と実践について論じます。
3章「音響コンポジション」では,おもにプログラミング環境SuperColliderを用いた,プログラミングコードによって直接的に音響を形作る作曲方法を「音響コンポジション」と定義し,実際のプログラミングコードを挙げながらその世界の概念について解説しています。後半は著者による音響コンポジションに基づいた数多くの作品,携わった事例について紹介します。音響コンポジションの中で実現したいアイデアを,実際にコードの中でどのように記述するかの実践的ヒントが多数述べられています。
4章「ライブコーディング」では,コンピュータでリアルタイムにコーディングをしながら音楽を作り上げていく音楽制作スタイル「ライブコーディング」について,その定義,成立の歴史と発展,コミュニティやオンラインのリソースなどの文化的醸成について紹介します。ライブコーディングの具体的なプログラミング言語やツール群について紹介したあと,代表的なライブコーディング環境であるTidal Cyclesについて,サンプルコードを用いて実践的に解説していきます。
5章「作曲技法と数理」では,コンピュータの登場によりさまざまなアルゴリズムや数理的手法が音楽の作曲に応用された際に,用いられた概念と論理について歴史をたどり実例を挙げながら解説します。調性音楽から無調音楽への移行,その後の12音技法とその延長としてのセリー主義音楽の数学的な思考へと至る歴史を概観し,ピッチクラス集合論を軸としたさまざまな数理の解説とポスト調性音楽の作曲の適用について,数式と証明を用いながら説明します。作曲家ピエール・ブーレーズの作品群の根底を支えるブロックソノールといった数理を対象として,それをPythonのコードで表した事例も交えて数学的音楽理論の世界に案内していきます。
6章「メディアアートとミュージックテクノロジー」では,音楽とテクノロジー,センサとロボット,メディアアートと作曲といったキーワードについて,著者による多く作品事例を参照しながら,メディアアートとミュージックテクノロジーの世界を概観します。これらの作品群は「仮説」とそれに対する「解」という形で展開されてきたものと言えます。本章では,実際に作品に実装された技術やシステム,それに至るまでの試行錯誤の過程をつぶさに解説することにより,「デジタルアートへの音楽的アプローチ」という命題に対峙する様子が示されています。
本書は順番に章を読み進めても構いませんし,気になった章から読んでいくのでも構いません。テクノロジーと結びついた音楽制作という人間の文化的な営みが今後も継続することを願いながら,その価値を見直す契機に本書がなれば幸いです。
2025年2月
編著者 松村誠一郎
1.電子音楽の制作ツール
1.1 電子楽器の登場
1.1.1 民生機のアナログシンセサイザ
1.1.2 民生機のデジタルシンセサイザ
1.2 シンセサイザの原理
1.3 DSPによる電子楽器
1.3.1 初期のDSP開発
1.3.2 ウェーブテーブルからPCMへ
1.3.3 デジタルシンセサイザの音源方式
1.3.4 ソフトウェアシンセサイザ
1.4 シーケンサ
1.4.1 シーケンサの芽生え
1.4.2 アナログシーケンサ(CV/GATE)
1.4.3 CV/GATEのデジタルシーケンサ
1.4.4 MIDIシーケンサの特徴
1.4.5 ハードウェアシーケンサ
1.4.6 ソフトウェアシーケンサ
1.4.7 リアルタイムレコーディングとステップレコーディング
1.4.8 MIDIイベントと分解能
1.4.9 MIDIトラックとオーディオトラック
1.4.10 プラグイン(インストルメント,エフェクト)
1.5 ミュージックトラッカー
1.5.1 トラッカーとは
1.5.2 サンプラーとシーケンサの組合せ
1.5.3 初期のトラッカー
1.5.4 現在のトラッカー
1.5.5 音楽教育ツールとしてのトラッカー
1.6 サウンドプログラミング
1.6.1 Pure Data
1.6.2 Pure Dataのプログラミング方法
1.6.3 MIDIの制御とDSPの制御
1.6.4 メッセージデータとDSPデータの境界
1.6.5 インタフェースの変化と固定化
1.6.6 BSDライセンスとPure Dataコミュニティ
1.6.7 Pure Dataのパッケージ
1.6.8 Dekenによるライブラリ追加
1.6.9 シーケンサの時間軸とインタラクションの時間軸
1.6.10 Pure Dataの作品事例
1.7 まとめ
2.ライブコンピュータ・エレクトロニクス
2.1 ライブコンピュータ・エレクトロニクスとはなにか
2.2 ライブコンピュータ・エレクトロニクスの誕生
2.2.1 ピエール・ブーレーズ
2.2.2 ブーレーズと電子音楽
2.2.3 IRCAMの設立と4Xの開発
2.2.4 『レポン』:ライブコンピュータ・エレクトロニクスの原点
2.2.5 デジタル信号処理による音の変形
2.2.6 楽器と電子音響の演繹的拡張と統一
2.2.7 『レポン』の空間性
2.2.8 託された課題
2.3 プログラミング環境 Max
2.3.1 Max とはなにか
2.3.2 Max 開発の背景
2.3.3 Max の登場
2.3.4 Max の実用化
2.3.5 Max の展開
2.3.6 Max の特徴
2.4 ライブコンピュータ・エレクトロニクスの実践
2.4.1 新しいミュジシャンコンプレ
2.4.2 ピアノとコンピュータのための音楽
2.4.3 上演プロセス:準備
2.4.4 上演プロセス:演奏
2.5 ライブコンピュータ・エレクトロニクスの現在
2.5.1 オペラの舞台に立つアンドロイド
2.5.2 歌唱システム
2.5.3 動きのシステム
2.6 まとめ
2.6.1 インタラクションとはなにか
2.6.2 ライブコンピュータ・エレクトロニクスの課題
2.6.3 ライブコンピュータ・エレクトロニクスの持続可能性
3.音響コンポジション
3.1 音と作曲
3.1.1 音「の」作曲
3.1.2 音のプログラミング
3.1.3 音と響き
3.1.4 音の存在論と作曲
3.2 SuperColliderの特徴
3.2.1 構成
3.2.2 実践
3.3 関連作品やプロジェクト
3.3.1 WFS
3.3.2 BEAST
3.3.3 『AudioScape』
3.3.4 norns
3.3.5 『breathing space』
3.3.6 空港のための音楽
3.3.7 AI×Beethoven
3.3.8 可聴化研究
3.3.9 『snr』
3.3.10 『spray』
3.3.11 『matrix』
3.3.12 『x/y』
3.3.13 『textures±』
3.4 まとめ
4.ライブコーディング
4.1 ライブコーディングとは
4.1.1 ライブコーディングの定義
4.1.2 プログラミング言語のライブ性
4.1.3 コンパイラとインタープリタ
4.1.4 プログラミング言語におけるライブコーディングの歴史
4.1.5 ライブパフォーマンスとしてのライブコーディング
4.1.6 ライブコーディングの世界への広がりとコミュニティ
4.1.7 Show us your screen(スクリーンを見せろ)
4.2 ライブコーディングのための主要なプログラミング言語
4.2.1 Max
4.2.2 Pure Data
4.2.3 SuperCollider
4.2.4 ChucK
4.2.5 OverTone
4.2.6 TidalCycles
4.2.7 Extempore
4.2.8 Gibber
4.2.9 Sonic Pi
4.2.10 FoxDot
4.2.11 Orca
4.2.12 Strudel
4.2.13 その他の環境
4.2.14 ライブコーディングによるパフォーマンス事例
4.3 TidalCyclesによるライブコーディング実践
4.3.1 TidalCyclesを構成するプログラミング言語,ライブラリ,アプリケーション
4.3.2 Windows,macOSへの手動インストール手順
4.3.3 TidalCyclesの起動と終了
4.3.4 TidalCyclesによるパターンの生成の基本
4.3.5 パターンを変化させる
4.3.6 シンセサイザを使う
4.3.7 ライブコーディングパフォーマンス実践
4.4 まとめ
5.作曲技法と数理
5.1 音楽と数学の歴史
5.2 ピッチクラス集合論
5.2.1 音高の同値類とその集合
5.2.2 教会旋法とダイアトニック集合
5.2.3 集合,部分集合,補集合
5.2.4 集合間の写像
5.2.5 共通音定理
5.3 ブーレーズのブロックソノール技法の数理
5.3.1 ブロックソノール
5.3.2 ブロックソノールの積の演算
5.3.3 ブロックソノールの代数学
5.3.4 ブロックソノールの組合せ論
5.4 作曲上の意思決定の数理
5.4.1 制約充足問題と制約最適化問題
5.4.2 ブロックソノールを用いた作曲への制約プログラミングの応用
5.4.3 ハーモニックドメインの割り当てによる大域構造の決定
5.4.4 ハーモニックドメイン内のブロックソノールの経路の決定
5.5 まとめ
6.メディアアートとミュージックテクノロジー
6.1 メディアアートとミュージックテクノロジーの関係
6.2 バーチャルミュージカルインストルメントとロボット工学の芸術的アプローチ
6.2.1 ロボットのインテリジェンス
6.2.2 バーチャルミュージカルインストルメントと『RoboticMusic』の開発
6.2.3 作品への応用と新たなメディアアート技術の適用
6.2.4 ロボティクスの展望
6.3 バーチャルミュージカルインストルメントの技術的側面と実装
6.3.1 ジェスチャーと音楽
6.3.2 マッピングインタフェース,アルゴリズム,サウンドシンセシス,映像
6.3.3 サウンドシンセシス,サウンドとジェスチャーによる音楽制作
6.3.4 音楽のコンテクストとインタラクションの課題
6.3.5 パフォーマンスの問題点:人間の知覚とコンピュータの限界
6.4 バーチャルミュージカルインストルメントを用いた作品例(初期の作品)
6.4.1 『L’homme transcendé』
6.4.2 『netBody』
6.5 バーチャルミュージカルインストルメントを用いた作品例(メディアアートとの関連作品)
6.5.1 『Cymatics』
6.5.2 『Hypnoïde』
6.5.3 『Body in Zero G』
6.5.4 『gravityZero』
6.6 まとめ
引用・参考文献
索引
読者モニターレビュー【 ルミナス 様(業界・専門分野:音楽、メディア・アート、映像)】
本書は多様なメディアテクノロジーの視点から音楽制作を論じており、著者陣には研究者とクリエイターの双方が名を連ねるため、記述が具体的で非常に興味深い。特に第3章「音響コンポジション」と第6章「メディアアートとミュージックテクノロジー」では、QRコードを通じて実際の音楽作品を視聴できる点が魅力的だ。中でもソニフィケーションの位相空間を視聴覚化した作品『x/y』(3.3.12) は、音の方向や位置を体感的に理解でき、文字情報だけでは得られない発見がある。どの章もテクノロジーが切り拓く音楽の新たな深淵を示し、何度も読み返したくなる一冊である。
読者モニターレビュー【 imdkm 様(業界・専門分野:ポピュラー音楽)】
音楽制作をめぐるテクノロジーは音楽のあり方そのものを大きく変化させるものである一方、「新しいテクノロジーが新しい音楽をつくる」という幻想が先走ってしまうこともしばしばあります。また、そうした議論の際にとりあげられるテクノロジーが、端的にいえば楽器産業やソフトウェア産業が売り出す特定のプロダクトにかたよりがちなことも非常に多いと思います。もちろんそうした市場に流通するようなプロダクトの歴史を追うことも興味深いですが、本書は音楽制作に用いられるテクノロジーをより俯瞰的に捉える具体的な事例が豊富に集められています。
個人的な関心からいえば、第一章でデモシーンに出自をもつミュージック・トラッカーについて少なくない紙幅が割かれている点が興味深いものでした。なんらかの音楽的な教育を受けていなくても音楽を制作することができるようになったことはテクノロジーの恩恵の最たるものですが、そこで DAW やワークステーション、グルーヴボックスといったいわば「主流」のソフトウェア/ハードウェアではなく、むしろトラッカーに着目する視点は示唆に富むものでした(私自身が長年のトラッカーユーザーというバイアスもあるかもしれませんが)。
作曲と音響の制作の境界が相対化された20世紀以後の視座を概観しつつ SuperCollider による音響プログラミングを紹介する第三章や、ライヴコーディングの歴史とプログラミング環境の具体的な紹介が簡潔にまとまった第四章(動画で見られるライヴコーディングによるパフォーマンスの具体例が紹介されているのもうれしい)なども、実際の音楽制作にも活かせる具体的な知見が多く、参考になりました。
参考文献等も含め、折をみて参照する書籍になりそうです。
読者モニターレビュー【 nasu 様(業界・専門分野:メディアアート(サウンド))】
本書を通して電子音楽の制作ツール各種、具体的な創作手法や発想(黎明期~現代)を網羅的に知ることができます。特に、プログラミング言語やロボット工学を活用してのライブ作品については、さまざま作品例や表現・技術上の課題点まで比較して見ることができます。
制作ツールに初めて触れる場合にも概要を辿りやすく、より素早く各々の興味へ発展させられるかと思います。また自身のように、メディアアート創作に直感的なプロセスを求めるばかりでなく、数理音響やプログラミングによる精緻なサウンド設計に関心を寄せる方にも、広く勧めたい一冊です。
詳細はリンク先をご覧ください。
記事題名:音楽制作にまつわるテクノロジーの隆盛や、多彩な音楽表現について論じる書籍『音楽制作 – プログラミング・数理・アート –』、コロナ社より4/8(火)に発売
-
掲載日:2025/03/27
-
掲載日:2025/03/05
★特設サイトはこちらから★
各書籍の詳細情報や今後の刊行予定,関連書籍などがご覧いただけます。