ネットワークシステムの分散協調制御

シリーズ システム・制御のニューフロンティア D-1

ネットワークシステムの分散協調制御

システム制御の研究を行う上で必須の知識であるネットワークシステムの分散協調制御を解説

ジャンル
発行年月日
2026/05/28
判型
A5
ページ数
236ページ
ISBN
978-4-339-03404-2
ネットワークシステムの分散協調制御
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定価

4,290(本体3,900円+税)

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【読者対象】
本書は、工学・情報系の大学院生・学部生、ロボット工学や制御工学、関連分野に関心を持つ研究者・技術者を幅広く対象としています。

【書籍の特徴】
・本書はネットワークシステムにおける分散協調制御を体系的に扱った書籍です。
・動的システムのエネルギーに着目した統一的な基盤理論に基づいて、同期制御・分散最適化・被覆制御といった主要課題を一冊で俯瞰できる構成を採用しています。限られた前提知識を元に、過去から現在までを一貫して理解できます。
・同期制御と分散最適化の構造的等価性を明示し,問題間の本質的な関係を理解できます。
・近年重要性が高まる制御バリア関数に基づく制御を体系的に紹介した初の邦書であり、本書出版時点における最先端の研究成果までを網羅的に紹介しています。

【各章について】
1章では、ネットワークシステムとは何か、分散協調制御とは何かを明らかにし、本書の目的と全体像を示しています。
2章では、本書を通底する基盤理論である受動性と保存則、動的システムの安定論、そしてその両者の関係について詳述します。ここを乗り越えれば、一部の発展的な内容を除き、本書の主要部は理解することができます。
3章では、最も基本的な分散協調制御である同期制御を対象に、受動性に基づく解析・設計論が展開されます。冒頭に練習として合意アルゴリズムに対する受動的解釈を与え、その後受動システムが構成するネットワークシステムの出力同期制御、さらにその様々な発展が網羅的に紹介されます。この内容は後の4章へと引き継がれます。
4章では、分散最適化を対象に、その解法がすべからく受動性に基づく設計論に基づいて構築されていることを明らかにします。さらに、3章を引用しつつ、同期制御との構造的等価性を見通すことができる構成を採用しています。
5章では、被覆制御の基礎を与えた後、領域の巡回等への発展についても紹介しています。
6章では、制御バリア関数に基づく制御に関して、基礎的な内容から最先端の研究成果までを、具体的な事例を示しつつ、網羅的に紹介します。

【著者からのメッセージ】
ネットワークシステムの分散協調制御は20年にも及ぶ研究の中で様々な方向に枝分かれし、その主幹を見通すことが必ずしも容易ではなくなりました。多分に主観を含みますが、著者らは本書で解説した内容がネットワークシステムの分散協調制御の本質であると確信しています。加えて、本書の基盤理論は将来の研究に対しても重要なヒントを与えてくれるはずです。例えば、受動性の本質はその保存則から来るモジュール化と合成可能性(composability)にあります。したがって、本書で紹介したネットワークシステムを一つのモジュールと捉え、別のモジュールと有機的に合成ないしは階層的に接続することで、新たな研究の扉が開かれる可能性があります。著者らの思いができるだけ多くの読者に伝わることを祈念します。

【キーワード】
システム制御,ネットワーク,分散協調制御,マルチエージェントシステム,分散最適化,被覆制御,制御バリア関数,安全制御,フィジカルAI

「…(農業用の)自律型ロボットは小型で電動式になることは,すでに明白になりつつある。(中略)広い農地への拡張は,より大型で高速な機械によって達成されるのではなく,同種の小型ロボットの群れが互いに協調することによって達成される。…」

これはドイツ農業協会が2019年に発表したレポート"Digitalisation in agri-culture"の一節である。農業に限らず,広域でのロボット運用には複数ロボットの協力・協調が欠かせない。その実現に向けては,個々のロボットがセンサを介して得た情報をロボット間で共有するネットワーキングの技術が必要であることは論を俟たない。また,システムの大規模化に従って,場合によってはエッジコンピューティングやクラウドコンピューティングの技術も必要になるであろう。しかしながら,果たしてそれで十分であろうか。これらはシステム構築の重要な要素ではあるものの,「目的を達成するために,取得した情報を基にロボットはどのように行動すべきか」については解を与えない。そして,これこそが本書の主題である。

本書のタイトルは『ネットワークシステムの分散協調制御』とした。ネットワークシステムとは,複数の動的サブシステムがネットワークに接続されたシステムのことである。ネットワークシステムでは,各サブシステムがネットワークで接続されたサブシステムの情報のみを利用して,ネットワーク全体の目的を達成することが求められる。このような制御のことを分散協調制御という。ネットワークシステムの分散協調制御は2000年代以降,システム制御分野において一大ブームとなり,現在ではシステム制御の研究を行う上で必須の前提知識といって差し支えない。

本分野の初の邦書は,2015年に「マルチエージェントシステムの制御」(システム制御工学シリーズ22)と題してコロナ社から出版されている。ここでは,合意制御(本書では同期制御とよぶ),被覆制御,分散最適化といった代表的な分散協調制御問題が体系的にまとめられており,日本語を母語とする学生や若手研究者の本分野への参入を大いに促進してきた。一方,それぞれの問題が立脚する理論基盤は必ずしも統一されておらず,合意制御は行列の固有値解析,被覆制御はリアプノフ理論,分散最適化では最適化論の手法に基づいて収束性が解析される。ここで,一つの疑問が生じる。すなわち,「これらの異なる分散協調制御問題を単一の基盤理論によって統一的に扱うことはできないのか?」という疑問である。本書を通じて,この疑問に対する著者なりの回答を試みる。

本書では,動的システムに定義される(広い意味での)エネルギーに基づく制御理論を基盤とする。前半では,受動性とよばれる動的システムの性質を基に,同期制御と分散最適化が統一的に理解できることを示す。それだけでなく,受動性を用いることで,この両者が本質的に同じであることまで見通せる。つぎに,リアプノフ関数を動的システムに定義されたエネルギーと捉えれば,被覆制御も矛盾なく本書の枠組みに包含される。最後に,本書では「マルチエージェントシステムの制御」の出版以降に整備された制御バリア関数に基づく制御に関する章を設けた。これは,2010年代中盤以降にシステム制御分野において提案された最も実用的な制御手法であると断言して差し支えない。制御バリア関数をエネルギーと表現するのは乱暴ではあるが,少なくとも必要となる理論基盤に共通項が多く,本書の枠組みときわめて相性が良い。すなわち,本書を通読すれば,限られた前提知識のみを基に,ネットワークシステムの分散協調制御の過去から現在までを網羅的に理解することができる。

本書の構成は以下のとおりである。2章では,本書で中心的な役割を果たす受動性の定義と保存則を導入し,受動性と動的システムの安定性の関係について解説する。3章では最も基本的な分散協調制御である同期制御について,受動性の役割に焦点を当てて説明する。4章では,分散最適化の基礎を成す主双対勾配法が受動的なシステムのフィードバック結合によって構成される事実を示し,既存の分散最適化手法が受動的なシステムの結合によって巧みに組み立てられていることを解説する。ここまでを本書の前半とする。初学者は各章の3.3節および4.4節までを通して分散協調制御における受動性の役割と,同期制御と分散最適化の構造的等価性を理解してもらえるはずである。3.4節および4.5節以降はやや発展的な内容であるので,初学者はこれらの節を飛ばしても差し支えないが,通読することで受動性に基づく視点の有用性と,同期制御と分散最適化の関係をさらに深く理解することができる。後半は5章で被覆制御,6章で制御バリア関数に基づく制御について解説する。特に6章は一部に高度な数学を含むが,結果として与えられる制御手法はきわめて実用性が高いものである。くじけずに読み進めてもらいたい。

最後に,本書の完成までに多くの方々のお世話になりました。東京科学大学畑中研究室,三平研究室の学生には多くの誤りや読みづらさの指摘とともに,図の作成に協力いただきました。また,宮野竜也博士,山下駿野博士にも改善に向けたコメントをいただきました。皆様に厚くお礼を申し上げます。

2026年4月
畑中健志
舩田陸

1.序論
1.1 ネットワークシステムの分散協調制御 
 1.1.1 同期制御問題 
 1.1.2 分散最適化問題 
 1.1.3 被覆制御問題 
 1.1.4 安全性/持続可能性の保証 
1.2 分散協調制御の設計ツール 
 1.2.1 受動性 
 1.2.2 勾配法 
 1.2.3 制御バリア関数に基づく制御 
1.3 本書で用いる記法と数学的基礎 

2.受動性と安定性
2.1 物理システムとエネルギー 
2.2 受動性 
2.3 受動性の保存則 
2.4 L₂安定性と受動性 
2.5 リアプノフ安定性と受動性 
2.6 受動的なシステムの制御 

3.同期制御
3.1 ネットワークシステムとグラフ 
3.2 合意アルゴリズムと受動性 
 3.2.1 合意アルゴリズムとグラフラプラシアン 
 3.2.2 受動性に基づく収束性解析:強連結かつ平衡なグラフの場合 
 3.2.3 受動性に基づく収束性解析:強連結なグラフの場合 
3.3 ネットワークシステムの出力同期制御 
3.4 相互フィードバック制御の一般化 
 3.4.1 重みつきの相互フィードバック 
 3.4.2 非線形の相互フィードバック 
 3.4.3 動的な相互フィードバック 
3.5 双方向テレオペレーション 

4.分散最適化
4.1 最適性条件と双対性 
 4.1.1 制約条件をもたない最適化問題 
 4.1.2 制約条件をもつ最適化問題 
4.2 勾配法と受動性 
4.3 主双対勾配法と受動性 
 4.3.1 主双対勾配法 
 4.3.2 主双対勾配法の受動性 
4.4 分散最適化と受動性 
 4.4.1 分解可能問題 
 4.4.2 合意最適化 
4.5 交互方向乗数法と受動性 
4.6 受動性に基づく主双対勾配法の一般化 
4.7 不等式制約をもつ問題に対する主双対勾配法 

5.被覆制御
5.1 ボロノイ図 
5.2 被覆制御とは 
 5.2.1 目的関数の構築 
 5.2.2 勾配法による被覆制御 
 5.2.3 目的関数の勾配計算 
5.3 さまざまな被覆制御 
 5.3.1 計測範囲が限られるロボットによる被覆制御 
 5.3.2 重要度関数の更新による領域の巡回 

6.制御バリア関数に基づく制御
6.1 安全性と前方不変集合 
6.2 制御バリア関数と二次計画問題 
6.3 制御バリア関数の発展例 
 6.3.1 ロボット複数台の衝突回避と制御バリア関数の分散化 
 6.3.2 運動する障害物の回避と時変制御バリア関数 
 6.3.3 充電基地への帰還と有限時間整定制御バリア関数 
 6.3.4 複数の制約と滑らかでない制御バリア関数 
 6.3.5 高次システムの安全性 
 6.3.6 入力を含む制約と積分制御バリア関数 

引用・参考文献
索引

畑中 健志

畑中 健志(ハタナカ タケシ)

「ネットワークシステムの分散協調制御」を基盤として、Cyber-Physical-Human Systemsに関する研究に取り組んでいます。
さらに、多様な異分野融合研究を通じて、基礎研究の成果をスマート農業、スマートオーシャン、衛星編隊制御、エネルギーマネジメントなど、幅広い分野における社会実装へとつなげる活動を行っています。このような実システムにおけるネットワークの構成要素は、必ずしも人工物に限られません。人や植物がAIや機械と共生するシステム、あるいは人と人とが相互につながる社会も、ネットワークシステムの一形態と捉えることができます。未来社会を構想する際、多くの人々は無意識のうちにこのようなシステム像を思い描いているのではないでしょうか。
現実の社会課題が本書の内容のみで解決できるとは考えていませんが、本書で示す理論的基盤が、そうした課題解決の一助となることを願っています。

掲載日:2026/05/01

電子情報通信学会誌2026年5月号

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