聞くと話すの脳科学

音響サイエンスシリーズ 17

聞くと話すの脳科学

  • 日本音響学会
  • 廣谷 定男 日本電信電話(株)コミュニケーション科学基礎研究所 博士(工学) 編著
  • 筧 一彦 中京大人工知能高等研究所 博士(工学)
  • 辰巳 格 LD・Dyslexiaセンター理事 医博
  • 皆川 泰代 慶大教授 博士(医学)
  • 持田 岳美 日本電信電話(株) 博士(システム情報科学)
  • 渡辺 眞澄 県立広島大准教授 博士(学術)

脳科学の観点から音声コミュニケーションの仕組みを紹介した。

ジャンル
発行年月日
2017/11/06
判型
A5
ページ数
256ページ
ISBN
978-4-339-01337-5
聞くと話すの脳科学
在庫あり

定価

3,850(本体3,500円+税)

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介

音声コミュニケーションでは「話す」と「聞く」を一連の過程として考えることが必要となる。また,脳は「話す」と「聞く」の両方に中心的役割を持つ。これらを踏まえ,脳科学の観点から音声コミュニケーションの仕組みを紹介した。

音声はいうまでもなく人間のコミュニケーションにおける最も重要なメディアの一つである。最近の情報処理技術と機器の進歩によって文字・画像メディアによる伝達・表示が容易になり盛んに使われるようになってきているが,音声がコミュニケーションの中心であることに変わりはない。音声コミュニケーションにおいては「話す」と「聞く」を一連の過程としてとらえることが必要となる。「話す」過程では人が伝えたい意図は脳から始まり音声の形をとって空間に放射され,「聞く」過程ではそれを聴覚器官で受けて脳情報処理によって理解される。この途中の音声という形態は一連の過程の中で容易に観測,記録され,また刺激としての操作も簡単に実現されるため,これまでほとんどの音声研究(特に工学的音声情報処理)では,音声信号を中心として,「生成(合成)」と「知覚(認識)」を個別に扱ってきた。

これまでも音声知覚に関して,1960年代から運動理論(the motor theory of speech perception)という生成と知覚を結びつけた説が提唱されたが,具体的内容を欠いたために一種の哲学ととらえられ,1990年代以降は風化しかけていた。しかし,脳科学の進展によりミラーニューロンが発見され,再び運動理論が注目を集めている。

また,音声生成に関して,「話す」ことは自らの音声を「聞く」ことが含まれるため,ロンバード効果や遅延聴覚フィードバックなど,知覚が生成に影響を及ぼすことが古くから知られている。しかし近年,音声信号処理技術の進歩により,リアルタイムに音声を変換することが可能となり,音声生成における聴覚フィードバックの研究に再び注目が集まっている。

当然ながら,脳は「話す」と「聞く」の両方に対して中心的役割を果たしている。これらをふまえ,本書では,「生成」と「知覚」を一体化し,脳を中心とする見方で音声研究を記述することを目指した。その構成は以下のようになっている。

1章は,まず音声生成と知覚の仕組みについて述べた。この分野を専門としない人でも2章以降の理解が容易となるように生成と知覚の機構についての基本的な解説を行うとともに,調音器官への神経指令および聴覚末梢系より高次の神経機構について述べた。また,音声知覚の課題とそれらがどのように解決されるべきかについての考え方を解説した。
2章は,音声知覚の運動理論とその根拠となる両耳分離聴,正弦波音声,マガーク効果などの知覚現象について,聴覚説と対比しつつ説明した。また,ミラーニューロンや脳機能計測による活動部位と知覚の関係について述べた。 
3章は,発話時の自己音声のモニタリングシステムが,発話に与える影響について,遅延聴覚フィードバック(DAF),変形聴覚フィードバックなどがもたらす効果から発話経路と知覚の関係を論じた。
4章は,言語獲得段階にある乳幼児の発話と聴覚の発達の関係から発話機能と知覚の関係について解説した。音声言語の獲得にはある程度の時間を要する。獲得過程を知ることは,音声の生成・知覚系の解明にとって重要である。
5章は,加齢による聴覚機能の低下と音声知覚特性を解説した。また,失語症における脳内の言語情報処理ルートのモデルについて述べた。
6章は,今後の音声科学,特に脳科学が果たしうる役割とこれからの展望を論じた。 
本書では,最新の音声脳科学の研究成果を多く取り上げ,これらに共通のメカニズムを論じることに努めた。50年以上続く人間の「話す」と「聞く」のメカニズムの解明においては,この10年で大きな進展が見られたが,いまなお道半ばである。今後のさらなる発展に向けて,本書が役に立てば幸いである。

2017年9月 著者一同

1. 音声生成と知覚の仕組み
1.1 音声生成と知覚研究の流れ  
1.2 音声生成機構  
 1.2.1 音声器官  
 1.2.2 音声の生成過程  
 1.2.3 音声生成の神経基盤  
1.3 聴覚の機構  
 1.3.1 聴覚器官の構造  
 1.3.2 機械的振動から神経信号への変換  
 1.3.3 音声知覚の神経基盤  
 1.3.4 総合的な聴覚特性(心理物理的特性)  
1.4 音声コミュニケーション  
1.5 音声生成・知覚の特性とそのモデル化  
 1.5.1 音声生成の特性  
 1.5.2 音声生成のモデル  
 1.5.3 音声知覚の特性とそのモデル  
 1.5.4 音声コミュニケーションとしての課題  
引用・参考文献  

2. 発話から音声知覚へ
2.1 運動理論の展開  
 2.1.1 音声処理の特殊性と処理の枠組み  
 2.1.2 運動理論の変遷  
 2.1.3 生理的知見と運動理論の見直しへの展開  
2.2 発話から音声知覚における諸現象と運動理論  
 2.2.1 音声知覚における処理  
 2.2.2 カテゴリー知覚  
 2.2.3 部分情報しか持たない音声  
 2.2.4 二重知覚  
 2.2.5 マガーク効果  
2.3 音声知覚とミラーニューロン  
 2.3.1 脳機能計測による検証  
 2.3.2 音声知覚の二重経路モデル  
 2.3.3 新しいアプローチによる検証  
 2.3.4 脳機能計測における今後の課題  
引用・参考文献  

3. 音声生成における聴覚フィードバック
3.1 運動制御の観点から見た音声生成  
3.2 聴覚フィードバック摂動環境での発話運動  
 3.2.1 フォルマント周波数摂動  
 3.2.2 基本周波数摂動  
 3.2.3 タイミング摂動  
 3.2.4 周波数摂動とタイミング摂動の併用  
 3.2.5 最近の新しいアプローチ  
3.3 体性感覚フィードバック摂動環境での発話運動  
3.4 聴覚フィードバックに関与する脳内メカニズム  
 3.4.1 フィードバック摂動時の脳機能計測  
 3.4.2 発話脳機能モデル  
 3.4.3 発話障がい者に対する変形聴覚フィードバック実験  
引用・参考文献  

4. 乳幼児の発達における音声知覚生成相互作用
4.1 乳幼児の音声言語脳機能研究  
4.2 音声言語知覚の発達  
 4.2.1 分節音(音韻)  
 4.2.2 分節音:音韻知覚の脳反応と後の言語発話能力  
 4.2.3 超分節音:語彙的アクセント  
 4.2.4 超分節音:センテンスの韻律  
 4.2.5 声の認識と感情プロソディ  
 4.2.6 分節音・超分節音の獲得と左右大脳半球の側性化  
 4.2.7 単語の切り出し  
 4.2.8 音素配列規則  
 4.2.9 語彙獲得  
 4.2.10 規則の抽出・学習と文法  
4.3 母子愛着,対乳児音声と音声獲得  
 4.3.1 母子愛着が音声獲得の脳内機構に与える影響  
 4.3.2 対乳児音声が音声獲得の脳内機構に与える影響  
4.4 音声の知覚生成相互作用と多感覚統合  
 4.4.1 知覚的狭小化とシナプスの刈り込み  
 4.4.2 マガーク効果  
 4.4.3 発話者の顔の注視特徴と音声獲得  
 4.4.4 音声口形マッチング  
 4.4.5 連続音声知覚と視聴覚情報  
 4.4.6 感覚運動情報としての視聴覚知覚  
4.5 まとめと展望  
引用・参考文献  

5. 脳における音声の知覚と生成―言語の加齢変化と失語症―
5.1 加齢と脳損傷が脳内での音声言語情報処理に与える影響  
5.2 老人性難聴と音声知覚  
 5.2.1 老人性難聴の出現率  
 5.2.2 加齢による聴力低下の速さ  
 5.2.3 残響の影響  
 5.2.4 雑音の影響  
 5.2.5 補聴器  
 5.2.6 発話への影響  
5.3 脳における音声言語情報の流れ  
 5.3.1 古典論  
 5.3.2 失語症のおもな言語症状  
 5.3.3 現代版の音声言語処理ルート―腹側路の登場  
5.4 失語症状のシミュレーション  
 5.4.1 単語の復唱,理解,発話のコネクショニストモデル  
 5.4.2 ネットワークを損傷させる―失語症状のシミュレーション  
5.5 まとめと課題  
引用・参考文献  

6. 音声脳科学研究の課題と今後の展望
6.1 「聞くと話す」の相互作用の時間発展  
6.2 外国語音声学習  
 6.2.1 外国語音声学習と「聞くと話す」の相互作用  
 6.2.2 発話リズム  
6.3 コンピュータの「聞くと話す」  
6.4 おわりに  
引用・参考文献  

索引

筧 一彦(カケヒ カズヒコ)

辰巳 格(タツミ イタル)

持田 岳美(モチダ タケミ)