レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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音響入門シリーズ A-5
発音体の動きを表す微分方程式,解として得られる「発音体の固有振動」=「楽器の音響特性」の物理的な本質を理解することを目的とした。これは,楽器開発職人が直感的に理解していたことで,高校までの知識で十分理解可能である。
- 発行年月日
- 2024/06/21
- 定価
- 4,290円(本体3,900円+税)
- ISBN
- 978-4-339-01311-5
レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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読者モニターレビュー【 田中 翔大 様 スタンフォード大学(業界・専門分野:学生)】
掲載日:2024/06/28
私はバイオリンを演奏することが大好きな大学1年生です。本書は楽器を演奏している学生にぜひともお薦めしたい一冊です。
楽器の機構のみに焦点が当てられる書籍が多い中で、本書の第3章では楽器の演奏法について詳しく書かれている点に特徴があると考えます。そのため、演奏者にとって自身の楽器演奏経験と対応させて、理解がしやすくなっています。演奏をしたことがない楽器についての記述は、理解に苦労することもあります。しかし、本書は図を活用した説明が多く、それぞれの図に対応した音声資料がついているため、図を見ながら、音として聴きながら、統合的に理解を深めることができます。
特定の楽器の演奏者においては、まず初めに自分の演奏している楽器についての記述から読み進めていくのも良いかもしれません。一つの楽器について理解できると、他の楽器についても比較しながら読んでいくことができます。各楽器の解説はザックス=ホルンボステル分類をもとに区切られていますが、区分を横断して楽器に共通する性質があることが浮き彫りになって興味深いです。
本書は一貫して、難しい数式をあまり用いずに直感的にイメージを描きやすいように書かれてあります。さらに理解を深めたい人に向けては、驚くほど膨大な付録資料があることも特徴的です。付録では数式を用いた詳しい説明のみならず、楽器の構造についての歴史的な記述など豊富にまとめられています。演奏している楽器がなぜ現在のような構造になっているのか、疑念を抱きつつも、これまで「そういうものだ」と受け入れていた事柄について、理解を進めることができると考えます。
第2章の節々には各楽器における詳細は「複雑である」という言葉も見受けられます。楽器の多様な音の魅力と共に、まだ楽器の音響学において未解決の問題が大量に存在していることも想像できます。ぜひ楽器を演奏する学生に本書を手に取ってもらい、演奏者の観点から楽器の音響学に興味を持ってもらいたいです。
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読者モニターレビュー【 N/M 様(業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】
掲載日:2024/06/24
本書は「音響入門シリーズ」の中でもA(音響学にかかわる分野・事象解説の内容)とB(音響学的な方法にかかわる内容)に分かれているシリーズのうち,Aの5巻目に位置する書籍である.本巻では「楽器の音」という楽器に関する音についての記述がなされている.
まず,本書の特徴としては,大きく分けて2つある.1つ目は,以前までの本シリーズではCD-ROM付き(前の「A-4 音と生活 -CD-ROM付 -」の発行が,2016年11月であるので時代の流れを感じる)で,実際に音や画像,動画などのディジタルデータが提供されていたが,今回からWebサイト上から簡単にアクセスする方式に変更されている点である.
2つ目は,どちらが本編なのか見間違えるほど膨大な付録PDF(その数,全688ページ!!)の存在である.こちらのPDFは,より深く学びたい読者のためのものでもあり,読破には数式を読み解く力も含めて必要なので,根気がいるだろうと思われる.なお,本書(紙の書籍)の中でも数式がやや登場するが,高校数学と物理の知識があれば,付録ほど難解ではないので理解できるものと思われる.
それに加えて,図も多く記載されており,図3.1xxのような3桁台にも及ぶ図の量は初めて見た.なお,一部の図は,カラー画像としてWebサイトから閲覧できる.
1章では,「楽器」とは何かということで,どこまで(の範囲)が楽器としていえるか?という根本的な内容から,本書が取り扱う楽器について,そもそも「音」というものを人間の可聴域や,音の3属性などの観点から順を追って分かりやすく解説がなされている.
2章では,楽器の構造と発音機構,3章では,楽器の音ということで,各楽器に焦点を当てて,それぞれの楽器に対して,楽器の構造,発音機構,楽器そのものの音について,詳述されている.
本書だけでも,充分に詳述されている方だと個人的には思われるが,まえがきやあとがき,及び1章の最後の部分の記述から見ても分かる通り,著者の方々は,これでもまだ書き足らない!という想いみたいなものが,拝読させていただいている際に,ひしひしと感じ取られた次第である.紙面の都合上,泣く泣く紙の書籍上ではカットしたものが,付録PDFの膨大なページ数に大いに現れていると感じた.