音響情報ハイディング技術

音響テクノロジーシリーズ 20

音響情報ハイディング技術

音響情報ハイディング技術の概要と最新の研究動向について解説。

ジャンル
発行年月日
2018/03/30
判型
A5 上製
ページ数
172ページ
ISBN
978-4-339-01135-7
音響情報ハイディング技術
在庫あり

定価

2,970(本体2,700円+税)

カートに入れる

電子版を購入

購入案内

  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介
  • 広告掲載情報

埋め込まれた情報が伝送経路や第三者によって容易に変形,抽出されないことに加え,ヒトの聴覚特性を考慮して情報自体が音コンテンツに歪みを与えないことが要求される情報ハイディング技術の概要と最近の研究動向について解説する。

「マルチメディア情報ハイディング」という分野が広く知れ渡るようになったのは,ちょうど10年ほど前あたりだろうか。これは,マルチメディアコンテンツの中に意図的に情報を隠す技術の総称であり,その前身は「電子透かし(1990年代後半~2000 年代)」,さらにその前身は暗号分野の一部と見られた「画像深層暗号(1980 年代後半)」である。これらの名称の変遷は,情報通信技術の急速な発展やインフラ整備,インターネットの普及に伴い生じたさまざまな問題(例えば,著作権保護など)に起因しているものと考えられる。

現在,ネットワークを通じてやりとりされる膨大なマルチメディア情報を世界的規模で収集し,サイバーフィジカルシステムの構築やビッグデータを利活用した新たなイノベーションの創出も試みられている。これらは私たちの生活を快適で豊かなものにしてくれる反面,私たちの知らないところで,個人情報を含むマルチメディア情報が悪用されるリスクも急増している。そのため,マルチメディア情報を安心安全に利用する仕組みを実現することは喫緊の課題である。

情報セキュリティ技術,特に暗号技術は,これらの分野の安全性を保つための主要な技術である。しかし,メディア特有の性質やそのメディアに対するモダリティの関係から,情報セキュリティ技術,暗号技術と併用した技術の登場により,メディアに特化した安全性の担保も期待できる。マルチメディア情報ハイディングは,そのような技術の一つとして考えられており,マルチメディア情報を安心安全に利用するための仕組みを提供する基盤技術として期待されている。

マルチメディア情報ハイディングの一つである音響情報ハイディング技術はディジタル音響(音楽,音声)信号のデータそのものを操作してさまざまな情報を埋め込み,必要なときにその情報を検出,利用する技術である。音響情報ハイディング技術は,埋め込まれた情報が伝送経路や第三者によって容易に変形,抽出されないことに加え,情報自体が音コンテンツにひずみなどを与えないことが要求される。特に,音コンテンツを聴いた際に違和感がないよう,ヒトの聴覚特性を巧みに利用した技術が必要となる。本書では,1990年代後半から脚光を浴びた音響電子透かしの研究背景から現在に至る研究動向を概説するとともに,これまでに提案されたさまざまな音響情報ハイディング技術を紹介する。

本書は6章で構成される。1章では,音響情報ハイディング技術の概要と分類,評価法と1990年代後半からの研究動向について紹介する(西村竜一担当)。2章では,ディジタル音響信号の量子化における情報ハイディング技術を紹介し(伊藤彰則担当),3章では音楽の符号化技術における情報ハイディング技術(伊藤彰則担当)ならびに音声の符号化技術における情報ハイディング技術を紹介する(西村明担当)。4章では,音の知覚に焦点を当てるために,いくつかの聴覚特性を紹介するとともに,それらに基づいた音響情報ハイディング技術を紹介する(鵜木祐史担当)。5章では,音響情報ハイディング技術の評価に関わる歴史的背景から最近の動向まで紹介する(近藤和弘担当)。6章では,音響情報ハイディング技術の拡張応用について事例を踏まえて紹介する(薗田光太郎担当)。本書は,筆者らがはじめて音響情報ハイディングの研究に取り掛かったときに読んだ松井甲子雄氏の書籍のように,これから音響情報ハイディングの研究分野に入ってくる学生や若手研究者にとって道標になるような書籍になることを願って執筆されている。音響情報ハイディングに興味を持ってくれた読者全員にとって本書が研究あるいは実務の一助になれば幸いである。

最後に,本書の出版の機会を与えてくれた日本音響学会音響テクノロジーシリーズ編集委員会およびコロナ社の担当者各位に深甚なる感謝の意を表する。

2018年1月 鵜木祐史

1. 音響情報ハイディング技術の概要
1.1 音響情報ハイディング技術の概要と目的
 1.1.1 枠組みと用語
 1.1.2 電子透かし
 1.1.3 ステガノグラフィ
1.2 音響情報ハイディング技術の分類
 1.2.1 ディジタル通信に限定したハイディング
 1.2.2 アナログ通信も想定したハイディング
1.3 音響情報ハイディング技術の評価方法
 1.3.1 秘匿情報量
 1.3.2 攻撃耐性と信号処理耐性
 1.3.3 音質
1.4 音響情報ハイディングの展開
 1.4.1 黎明期
 1.4.2 攻撃や評価の標準整備
 1.4.3 実社会応用の動向
引用・参考文献

2. 量子化における音響情報ハイディング技術
2.1 LSB置換法
 2.1.1 スカラ量子化
 2.1.2 単純なLSB置換法
 2.1.3 頑健性の向上
 2.1.4 適応的LSB置換法
2.2 量子化インデックス変調(QIM)
 2.2.1 原理
 2.2.2 ディザ変調
2.3 可逆電子透かし
 2.3.1 可逆電子透かしとは
 2.3.2 差分拡大法
 2.3.3 予測誤差拡大法
引用・参考文献

3. 符号化技術における音響情報ハイディング技術
3.1 音楽符号化技術における音響情報ハイディング技術
 3.1.1 MP3符号化
 3.1.2 MP3Stegoと関連手法
 3.1.3 スケールファクタへの情報埋め込み
 3.1.4 MDCT係数への情報埋め込み
 3.1.5 ハフマン符号化コードブックへの情報埋め込み
3.2 音声符号化技術における音響情報ハイディング技術
 3.2.1 音声符号化手法
 3.2.2 AMR符号化
 3.2.3 秘匿処理の分類とその用途
 3.2.4 音声符号化への秘匿処理
引用・参考文献

4. 聴覚特性に基づいた音響情報ハイディング技術
4.1 聴覚特性
 4.1.1 可聴域
 4.1.2 音の知覚の3属性
 4.1.3 マスキング特性
 4.1.4 聴覚情景分析
 4.1.5 バイノーラル受聴における諸特性
4.2 1990年代~2000年初頭の方法
 4.2.1 オクターブ類似性を利用した音響情報ハイディング技術
 4.2.2 スペクトル拡散を利用した音響情報ハイディング技術
 4.2.3 心理音響モデルを利用した音響情報ハイディング技術
4.3 エコー知覚特性に着目した音響情報ハイディング技術
 4.3.1 エコー知覚
 4.3.2 単一エコーを利用した音響情報ハイディング技術
 4.3.3 エコー・カーネルを利用した音響情報ハイディング技術
4.4 振幅変調の知覚特性に基づいた音響情報ハイディング技術
 4.4.1 振幅変調の知覚
 4.4.2 振幅変調に基づく音響情報ハイディング技術
4.5 位相変調の知覚特性に基づいた音響情報ハイディング技術
 4.5.1 位相変調の知覚
 4.5.2 周期的位相変調に基づいた音響情報ハイディング技術
 4.5.3 蝸牛遅延特性に基づいた音響情報ハイディング技術
 4.5.4 群遅延操作に基づく音響情報ハイディング技術
引用・参考文献

5. 音響情報ハイディング技術の評価
5.1 評価の概要
5.2 音響情報ハイディング技術の評価基準
 5.2.1 評価音源
 5.2.2 音質
 5.2.3 外乱に対する頑健性の評価方法
 5.2.4 埋め込みデータのビットレート
5.3 音響情報ハイディング技術のコンペティション
 5.3.1 Secure Digital Music Initiative(SDMI) 
 5.3.2 STEP2000/STEP2001 
 5.3.3 Information Hiding and its Criteria for evaluation(IHC) 
引用・参考文献

6. 音響情報ハイディング技術の拡張応用
6.1 低位互換な帯域・チャネル拡張
 6.1.1 帯域拡張
 6.1.2 チャネル拡張
6.2 空間伝搬音によるディジタル情報伝送
 6.2.1 空間伝搬耐性の最適化
 6.2.2 ステガノグラフィック音響モデム
 6.2.3 音響モデムとのハイブリッド
 6.2.4 サイバー・フィジカル連携技術として
6.3 複数のステゴ信号の協調
 6.3.1 結託攻撃
 6.3.2 録音位置の推定
 6.3.3 秘密分散
引用・参考文献

索引

西村 竜一(ニシムラ リョウイチ)

掲載日:2020/03/04

日本音響学会 2020年春季研究発表会 講演論文集広告