光の数理

光の数理

光学における数学や物理的意味と数学のもつ性質との橋渡しを行い,横断的に理解する書籍。

ジャンル
発行年月日
2021/09/10
判型
A5
ページ数
240ページ
ISBN
978-4-339-06658-6
光の数理
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3,740(本体3,400円+税)

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【本書の内容】
本書は,光学分野を俯瞰する立場で数学的内容を精査し,光学における数学や物理的意味と数学のもつ性質との橋渡しを行い,横断的理解を目指している。
1章「光の基礎事項」では,波面,位相,光路長やマクスウェル方程式,境界条件など,2章以降の内容を理解するのに必要な基本概念を説明する。
2章以降では,最初に簡単な数学的な説明を行い,以下の内容が理解しやすいようにする。
2章「光とベクトル」では,ベクトル単独で説明できる光学現象を対象とし,ベクトルの加・減算を利用して光学現象を半定量的に理解する方法を説明する。
3章「光と行列・ベクトル」では,行列を主体として利用して物理的内容を表す方法や,それらを関係づける内容を説明する。
4章「光と数列・級数」では,最初に干渉や回折でよく現れるsinc関数の発生要因を考察する。多重ピンホールによる干渉を説明した後,いくつかの回折現象で開口をピンホールの集合体としてとらえることにより,これらの特性でもsinc関数が現れる共通要因を説明する。また,干渉光強度や回折像光強度の極大・極小条件を,物理的考察により求める方法も述べる。後半では,平行平面板内の多重反射により発生する透過波や反射波に基づく干渉光強度も調べる。
5章「光と微積分」では,包絡線による光学特性の解釈としてホイヘンスの原理や群速度と関連づける。また,極値とプリズムにおける最小偏角の関連,条件付き極値問題へのラグランジュの未定乗数法の利用,部分積分の利用のされ方,鞍点法などを説明する。
6章「光とフーリエ変換」では,フーリエ変換が光学現象でも特に回折や干渉と親和性がよいことに着目して,光学系を用いたフーリエ変換,畳み込み積分の利用,フーリエ分光などを説明する。最後に,波動でのスペクトル幅と時間幅の積について考察する。
7章「光と微分方程式」では,微分方程式の解法やフーリエ変換を,光学分野でよく現れる波動方程式に適用し,さまざまな状況のもとで波動方程式から導かれる波動の物理的内容を説明する。後半では,光学分野でよく利用されるガウス関数を波動方程式から導き,最後に非線形波動方程式とそれに関連する光ソリトンを説明する。
8章「光と変分法」では,光線の経路を導く方法としてフェルマーの原理を軸に,光線方程式や幾何光学の三法則,無収差反射鏡,球面レンズによる結像特性,不均一媒質中での光線伝搬などを,オイラー方程式や第2変分と関連させて説明する。後半では,波動方程式に関する問題を汎関数に置き換えて変分法に帰着させる方法を,最後には固有値の変分表現を説明する。
9章「光と摂動法」では,摂動がある場合の具体例として,光ファイバのコアが円形から楕円に変化したときの伝搬定数の変化と,光導波路が直線路から曲げに変化したときの電磁界を求める方法を説明する。

【本書の特徴】
 (1) 本書全体を,光学における数理的内容と数学での用語で示される内容や性質などについて,
  その対応関係で整理している。そのため,数学の用語を軸として章を構成している。
 (2) 同じ現象を複数の見方,例えばベクトルとフーリエ変換で扱い,相互の関係を明らかにし
  て,一部の内容については見方を変えることによって,簡単な数学を用いても有用な結果が
  得られることを実例で示す。
 (3) 重要な内容では考え方のプロセスがわかるように,数理的結果を示すだけでなく,式の展開
  が容易に追えるように,できるだけ丁寧に記述している。
 (4) 数学と異なり,光学を含む物理では近似がしばしば使用される。近似を行う際の物理的根拠
  や意味を明確にする。
 (5) 重要な結果や意義は,節の冒頭や要所での箇条書きなどで示している。
 (6) 基本で重要と思われる内容は適宜,例題として学習の便を図っている。

光学の歴史は古く,その基幹部分の内容は確立されている。そのため,すでに出版されている大抵の光学の書籍では,屈折,反射,干渉,回折や偏光など内容が章ごとに体系立てて構成されている。そこでは現象の説明や用語の定義に加えて,物理的内容が定性的に説明され,さらに定量性をもたせるために数式で記述されているのが,一般的である。

このように,工学や物理学ではその技術的・物理的内容を数学的に表現することが多く,光に関連する内容を扱う光学もその例外ではない。各分野では特有の物理的内容を含む概念が存在し,当然,数学と関連がある。しかし,数学は抽象化されているため適用範囲が広い反面,各分野における内容に則した意味がわかりにくい。そこで本書では,光学分野を俯瞰する立場で数学的内容を精査し,光学における数学や物理的意味と数学のもつ性質との橋渡しを行い,横断的理解を目指すこととする。

数学のレベルは高校および大学の学部生を想定し,それらと光学の内容を関連付け,光学において数学がどのような形で活用されているかがわかるようにする。単に結果を示すだけでなく,物理的意味が明確になるように,途中の式変形もできるだけ丁寧に記述する。なお,題材は光学を中心として光工学からもとっている。

本書の概要はつぎのとおりである。1章では,波面,位相,光路長やマクスウェル方程式,境界条件など,以降の章の内容を理解するのに必要な基本概念を説明する。そのため,本書の主旨とは関係なく一般的な内容を述べている。2章以降の各章では,最初に数学的な説明を行うが,網羅的で厳密な内容ではなく,その章の内容を理解しやすくすることを目標としている。また,類似の内容では最初に詳しく説明し,その後にほかとの関係を説明する。

また,2章以降の各章では,光学の内容を,ベクトル,行列,微積分,微分方程式など,数学的内容を軸として分類している。そのため,同じ光学的・物理的内容を異なる角度から扱う場合もある。光学の内容は,その物理現象をできる限り原理から説明するように心掛ける。なお,本書では解析的内容のみを扱い,数値解法は含めない。

上記の目的を達成するため,本書に以下の特徴をもたせている。

(1) 本書全体を,光学における数理的内容と数学での用語で示される内容や性質などについて,その対応関係で整理している。そのため,数学の用語を軸として章を構成している。

(2) 同じ現象を複数の見方,例えばベクトルとフーリエ変換で扱い,相互の関係を明らかにして,一部の内容については見方を変えることによって,簡単な数学を用いても有用な結果が得られることを実例で示す。

(3) 重要な内容では考え方のプロセスがわかるように,数理的結果を示すだけでなく,式の展開が容易に追えるように,できるだけ丁寧に記述している。

(4) 数学と異なり,光学を含む物理学では近似がしばしば使用される。近似を行う際の物理的根拠や意味を明確にする。

(5) 重要な結果や意義は,節の冒頭や要所で箇条書きなどで示している。

(6) 基本で重要と思われる内容は適宜,例題として学習の便を図っている。

本書を出版するにあたり,終始お世話になったコロナ社の関係各位にお礼を申し上げる。

2021年7月
左貝潤一

1.光学の基礎事項
1.1 光の概要
 1.1.1 光の特徴
 1.1.2 屈折率と光速
1.2 光の基本概念
 1.2.1 波動の基礎
 1.2.2 波面と光線
 1.2.3 光路長
1.3 光学における基本原理・法則
 1.3.1 ホイヘンスの原理
 1.3.2 フェルマーの原理
 1.3.3 スネルの法則
 1.3.4 マリュスの定理
1.4 偏光
1.5 マクスウェル方程式と波動方程式
 1.5.1 マクスウェル方程式と構成方程式
 1.5.2 波動方程式
1.6 電磁波の基本的性質
 1.6.1 電磁波での電界と磁界
 1.6.2 電磁波エネルギーと光強度
1.7 境界条件

2.光とベクトル
2.1 ベクトルの基礎
 2.1.1 複素数とベクトル
 2.1.2 スカラー積とベクトル積
2.2 ベクトルの光学特性の半定量的理解への利用
 2.2.1 正弦波・余弦波の表示
 2.2.2 光波におけるスペクトル幅と時間幅の関係
 2.2.3 旋光性におけるベクトルの和の利用
 2.2.4 多重ピンホール干渉における合成波振幅が極大・ゼロの物理的意味

3.光と行列・ベクトル
3.1 行列・ベクトルの基礎
 3.1.1 ベクトルと行列
 3.1.2 行列と行列式の性質
 3.1.3 固有値と固有ベクトル
 3.1.4 行列の対角化
 3.1.5 2次曲面と2次曲線
3.2 異方性媒質における電磁波エネルギーとエルミート行列の関係
3.3 異方性媒質における伝搬特性の行列表示の対角化と固有偏光
 3.3.1 固有偏光
 3.3.2 行列の対角化と固有偏光の関係
 3.3.3 固有偏光の直交性と形状
 3.3.4 旋光性媒質における固有偏光の具体例
3.4 異方性媒質における屈折率楕円体と2次曲面・2次曲線
 3.4.1 異方性媒質での屈折率楕円体
 3.4.2 屈折率楕円体の標準形への変換
 3.4.3 直交変換の幾何学的意味
3.5 2次曲面とメタマテリアルでの分散曲線
3.6 球面レンズ光学系における結像特性の行列表現
 3.6.1 行列法を用いた球面レンズによる結像
 3.6.2 厚肉レンズにおける主要点と焦点距離
 3.6.3 厚肉レンズにおける像作図法

4.光と数列・級数
4.1 数列・級数の基礎
4.2 sinc関数の出現:干渉と回折
 4.2.1 多重ピンホールによる干渉
 4.2.2 有限幅単スリットによる回折
 4.2.3 複数開口による回折
 4.2.4 方形開口による回折
4.3 平行平面板による多重波干渉:無限等比級数の利用
 4.3.1 多重反射による透過波に基づく干渉
 4.3.2 多重反射による反射波に基づく干渉

5.光と微積分
5.1 微積分の基礎
 5.1.1 微分
 5.1.2 偏微分
 5.1.3 極値
 5.1.4 条件付き極値問題:ラグランジュの未定乗数法
 5.1.5 積分
 5.1.6 ベクトルの微積分
5.2 包絡線による光学特性の解釈
 5.2.1 ホイヘンスの原理と包絡線
 5.2.2 多色光における包絡線と群速度
5.3 プリズムにおける最小偏角
5.4 ラグランジュの未定乗数法の異方性媒質の特性解析への利用
 5.4.1 異方性媒質における電磁界の関係
 5.4.2 異方性媒質における屈折率楕円体の条件付き極値問題への置換
5.5 部分積分の利用
 5.5.1 導波構造における伝搬定数
 5.5.2 方形導波管における伝送エネルギー
5.6 鞍点法

6.光とフーリエ変換
6.1 フーリエ変換とフーリエ逆変換
 6.1.1 フーリエ変換とフーリエ逆変換の基礎
 6.1.2 デルタ関数とフーリエ変換の関係
6.2 畳み込み積分,相関関数とフーリエ変換の関係
 6.2.1 畳み込み積分
 6.2.2 相関関数
6.3 光学的フーリエ変換
 6.3.1 回折現象がフーリエ変換で表せることの半定量的説明
 6.3.2 レンズの位相変換作用と結像
6.4 凸レンズを用いた光学系におけるフーリエ変換作用
 6.4.1 球面凸レンズの前後焦点面における複素振幅の関係
 6.4.2 光学系におけるフーリエ変換とデルタ関数の関係
6.5 畳み込み積分の光画像評価への応用
 6.5.1 光学伝達関数
 6.5.2 点像分布関数
6.6 フーリエ分光における自己相関関数の利用
6.7 波動におけるスペクトル幅と時間幅の積
 6.7.1 方形波スペクトルの場合の積
 6.7.2 一般の場合のスペクトル幅と時間幅の積に対する表現
 6.7.3 ローレンツ形とガウス形スペクトルの場合のdodt

7.光と微分方程式
7.1 微分方程式の分類と解法
 7.1.1 微分方程式の分類
 7.1.2 定数係数の2階常微分方程式
 7.1.3 同次常微分方程式
 7.1.4 変数分離法
 7.1.5 非同次常微分方程式:定数変化法
7.2 変数分離法の波動解析への利用
 7.2.11 次元波動
 7.2.2 円筒座標系における波動
7.3 定数変化法の球面波解析への利用
7.4 フーリエ変換の非同次偏微分方程式解法への利用:電磁ポテンシャル
 7.4.1 電磁ポテンシャルに対する基本式
 7.4.2 フーリエ変換による定式化
 7.4.3 グリーン関数と波動に対する一般解の導出
7.5 ガウス関数:近軸近似での波動
 7.5.1 ガウス形ビームに対する波動方程式
 7.5.2 ガウス形ビームの基本式
 7.5.3 ガウス形ビームの物理的意味
 7.5.4 実用上現れるガウス形ビーム
7.6 非線形波動方程式
 7.6.1 光カー効果
 7.6.2 非線形波動方程式の導出
 7.6.3 光ソリトン

8.光と変分法
8.1 変分法の基礎:極値問題
8.2 フェルマーの原理と光線方程式
 8.2.1 フェルマーの原理の数式表現
 8.2.2 光線方程式
8.3 フェルマーの原理と幾何光学の三法則
 8.3.1 一様媒質中での光の直進:オイラー方程式の利用
 8.3.2 反射の法則
 8.3.3 屈折の法則
8.4 フェルマーの原理と2次曲線による反射鏡
 8.4.12 次曲線による無収差反射鏡
 8.4.2 球面反射鏡
8.5 球面レンズによる結像:第2変分の利用
 8.5.1 幾何学的関係による定式化の準備
 8.5.2 球面レンズ光学系における物点から像点までの光路長
 8.5.3 薄肉レンズによる結像
 8.5.4 厚肉レンズによる結像
8.6 オイラー方程式の不均一媒質中での光線伝搬への適用
8.7 波動方程式の変分問題への変換
 8.7.11 次元波動方程式
 8.7.2 2次元波動方程式:デカルト座標系
 8.7.3 2次元波動方程式:円筒座標系
 8.7.4 三つの変数がある場合のオイラー方程式
8.8 伝搬定数(固有値)の変分表現
 8.8.1 変分表現の一般式
 8.8.2 光導波路と光ファイバにおける変分表現

9.光と摂動法
9.1 摂動法
 9.1.1 摂動法における基本式
 9.1.2 伝搬定数と波動関数に対する表現
9.2 摂動法の楕円コア光ファイバの直線複屈折への適用
 9.2.1 楕円コア光ファイバに対する定式化
 9.2.2 楕円コア光ファイバにおける複屈折
9.3 摂動法の曲がり光導波路への適用
 9.3.1 等価直線導波路近似
 9.3.2 摂動法による基本式
 9.3.3 定数変化法による摂動解(電磁界)の導出手順
 9.3.4 三層スラブ光導波路の曲げ状態でのコア近傍における電磁界

付録:三層スラブ光導波路の特性
参考図書
索引

読者モニターレビュー【2954 様(ご専門:機械設計)】

タイトルからは一見して、光りというものを理解するに際して広範な数学的アプローチを試みているように思えるが、対象とする範囲は、著者の専門である光ファイバ通信の基礎となる光現象について、工学的扱いをするための数学的な記述法である。

伝播、屈折・反射・回折等光学現象の数学的記述を扱っている工学の入門書として購入されるとよいと思う。
大学学部生を対象として書かれているが、わかりやすく書かれていて高専生や専門学校の学生でも理解できる。
もちろん社会人になって勉強し始めた私のような素人でも入門書として非常に参考になった。

9章を摂動論に割かれているが、微分方程式の近似解を得る手段として数学的なアプローチとして紹介されている。
大変興味深い切り口で面白く読んだ、本章から量子光学としての光りの性質を学べると期待する人は、本書は必ずしも目的に叶わないので別の書籍をあたると良い。

本書の特筆すべき特徴は、数学的記述やテクニックの紹介にとどまらず、物理的性質からの考察からそれぞれ別のアプローチをとったとしても、同じ結論が導き出せることを示している点で、テクニックに偏っておらず物理的にも興味もって学べる点にある。

また光りの工学的な意味での現象に対して、(特に光ファイバのような伝達系に於ける工学的利用を考える場合の)、光りの振る舞いを記述するための数学的手法を過不足無く簡潔に示している点でよくまとまっている。
より深く学びたい学生向けに、文献や、論文をもっと紹介してあると良かった。

光学を学ばれるのであれば是非所蔵していたい本である。

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レビュー,書籍紹介・書評掲載情報一覧

左貝 潤一(サカイ ジュンイチ)

NTTの基礎研究所を退職後、立命館大学理工学部教授に奉職。
現在は立命館大学大学院名誉教授・工学博士。

以下の著書がある。
【光学全般】
『光学の基礎』,コロナ社(1997)
『光の数理』,コロナ社(2021)

【通信】
『光通信工学』,共立出版(2000)
『通信ネットワーク概論』,森北出版(2018)

【光ファイバ・光導波路】
『導波光学』,共立出版(2004)
『フォトニック結晶ファイバ』,コロナ社(2011)
『光導波路の電磁界数値解析法』,森北出版(2015)

【光工学】
『光エレクトロニクス入門』, 森北出版(2014)

【光学関連分野】
『位相共役光学』,朝倉書店(1990)
”Phase Conjugate Optics,” McGraw-Hill (1992).
『光学機器の基礎』,森北出版(2013)
『光計測入門』,森北出版(2016)
『メタマテリアルのための光学入門』,森北出版(2017)

【電磁波工学】
『電磁波工学エッセンシャルズ -基礎からアンテナ・伝送線路まで-』,共立出版(2020)

掲載日:2024/08/01

電子情報通信学会誌2024年8月号

掲載日:2023/10/10

日本光学会誌2023年10月号

掲載日:2023/06/01

電子情報通信学会誌2023年6月号

掲載日:2022/08/22

「数理科学」2022年9月号広告

掲載日:2021/11/01

「電子情報通信学会誌」2021年11月号広告

掲載日:2021/10/18

「数理科学」2021年11月号広告

掲載日:2021/09/01

「電子情報通信学会誌」2021年9月号広告

掲載日:2021/09/01

応用物理学会誌「応用物理」2021年9月号広告