フォトニック結晶ファイバ

フォトニック結晶ファイバ

フォトニック結晶ファイバ(PCF)は,次世代の光ファイバとして近年注目されている。本書は,基本特性と応用の結びつき,周期性から派生する物理とファイバ特性の関連に留意し,基礎から多方面にわたる応用までを体系化した一冊。

ジャンル
発行年月日
2011/01/21
判型
A5
ページ数
224ページ
ISBN
978-4-339-00818-0
フォトニック結晶ファイバ
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定価

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フォトニック結晶ファイバ(PCF)は,次世代の光ファイバとして近年注目されている。本書は,基本特性と応用の結びつき,周期性から派生する物理とファイバ特性の関連に留意し,基礎から多方面にわたる応用までを体系化した一冊。

ミリ波・マイクロ波や光波などの電磁波を利用する際,まず自由空間での伝搬で発展してきた。電磁波の振舞を記述するマクスウェル方程式は,古く1864年に導かれているが,現在も使用され続けている。電磁波をより意のままに操るために,電磁波を閉空間に閉じ込めることが考案され,ミリ波・マイクロ波導波管や光導波路,光ファイバが使用されるようになった。これらを構成してより望ましい特性を実現するためには自然界に存在する材料の中から良好な材料を選択するという手順をとってきた。その結果,銅や石英,半導体などが広く使われるに至っている。

自然からそのまま得られる恩恵には限界があり,材料の選択から,構造の人為的制御へと移行してきた。電子を対象とする分野では,結晶成長,3元および4元化合物半導体の作製,超格子構造などと進展してきた。半導体は周期構造を有しているため,バンド構造やバンドギャップをもつ。そのため,従来の固体物理ではなし得ない,多くの有用な応用を生み出し,近代技術を先導してきた。

光波は,ミリ波・マイクロ波に比べて,波長が極端に短いという特徴をもつので,光部品はかなり小さくなる。光波を導波するために,半導体が使用されることもあるが誘電体つまり絶縁体が使用されることが多い。光導波路や光ファイバには石英つまり非晶質(アモルファス)が多用されている。

このような状況の中で,誘電体で周期構造を形成すれば,半導体におけるバンドギャップと類似の「フォトニックバンドギャップ」が発生することが1987年に明らかにされた。このような構造をもつ媒質を「フォトニック結晶」という。その特異な性質ゆえに,従来の技術ではできない分野への応用も進み,現在も研究・開発が活発に繰り広げられている。

1995年には「フォトニック結晶」を特定の方向に伝搬するように限定した「フォトニック結晶ファイバ」の概念が提案された。光波領域で「フォトニック結晶ファイバ」を作製するには微細加工技術が必要とされるが,半導体などで培われたナノ技術が生かせる。

「フォトニック結晶ファイバ」の特徴の一つは空孔をもつことであり,これは従来形光ファイバにはない。空孔の大きさや位置の制御により,新機能や従来形光ファイバを凌ぐ特性が得られている。一部の「フォトニック結晶ファイバ」では従来形石英光ファイバに匹敵する低損失化がすでに実現している。また,「フォトニック結晶ファイバ」の基礎理論や伝搬特性解析技術もある程度確立されているが,現在でも発展途上にある。応用分野も,新規光源の開発,センサ,エネルギー伝送,通信など,多方面にわたっている。

本書の目的は,現状のフォトニック結晶ファイバ技術をできるかぎり体系化し,その基礎から応用までを学習できるようにすることである。「フォトニック結晶ファイバ」の本質は周期性にあるので,周期性から派生する物理とファイバ特性の関連に留意して記述した。また,基本特性と応用との結びつきにも注意を払った。当然のことながら,わかりやすさを心掛けるが,できるかぎりオリジナルな仕事を伝えるように努めた。また,式がもつ物理的意味を伝えるようにし途中の章からでも読めるように工夫した。

本書は,筆者がフォトニック結晶ファイバの一種である,ブラッグファイバの伝搬特性解析を中心として研究してきたことが基礎となっている。著者の研究室に所属して,研究に貢献された多くの諸氏の研究結果も本書に反映されている。まだ本書を執箪するにあたっては,コロナ社の関係各位にもお世話になった。ここに深謝の意を表する。

2010年11月
左貝潤一

1 フォトニック結晶ファイバの概要
1.1 フォトニック結晶ファイバの歴史
1.1.1 フォトニック結晶ファイバの誕生前
1.1.2 フォトニック結晶ファイバの誕生
1.2 フォトニック結晶ファイバの範疇
1.3 フォトニック結晶ファイバの分類
1.4 2次元でのフォトニックバンドギャップの発現
1.5 主なフォトニック結晶ファイバの概要
1.5.1 屈折率導波形ホーリーファイバ
1.5.2 中空コアフォトニックバンドギャップファイバ
1.5.3 ブラッグファイバ
1.5.4 全固体フォトニックバンドギャップファイバ
1.6 フォトニック結晶ファイバの応用
 
2 周期構造の物理
2.1 ブロッホの定理
2.2 逆格子ベクトル
2.3 フォトニックバンドギャップの起源と性質
2.4 1次元周期構造におけるブラッグ回折
 
3 波動の基礎と導波構造による光閉じ込め
3.1 波動の基礎
3.1.1 マクスウェル方程式と構成方程式
3.1.2 波動方程式
3.1.3 境界条件
3.1.4 電磁界に対する諸概念
3.2 導波構造による光閉じ込めの幾何光学的扱い
3.2.1 全反射による光の閉じ込め
3.2.2 位相計算によるスラブ導波路の固有値方程式の導出
3.3 2次元波動の基礎
3.4 単一スラブ導波路の基本特性と分散曲線
3.4.1 単一スラブ導波路での基本式
3.4.2 TE・TMモードの基本特性
3.4.3 単一スラブ導波路での分散曲線
3.5 1次元周期構造における分散曲線とフォトニックバンド構造
3.5.1 1次元周期構造での電磁界の表示
3.5.2 1次元周期構造での固有値方程式の導出
3.5.3 1次元周期構造での分散曲線
 
4 フォトニック結晶ファイバの伝搬特性の解析方法
4.1 解析方法の概要
4.2 平面波展開法
4.2.1 誘電体に対する波動方程式
4.2.2 周期構造中での電磁界表現と固有値方程式
4.2.3 固有値方程式の補足
4.2.4 ブラッグの回折条件とフォトニックバンドギャップの関係
4.2.5 1次元周期構造における平面波展開法
4.3 等価屈折率法
4.4 有限差分法
4.4.1 FDTD法のアルゴリズムの概要
4.4.2 吸収境界条件と安定化条件
4.5 有限要素法
4.5.1 波動方程式と汎関数
4.5.2 要素内の波動関数の設定法
4.5.3 有限要素法における固有値方程式
4.6 転送行列法
4.6.1 電磁界の表示
4.6.2 固有値方程式の導出
4.7 多重極法
4.8 その他の手法
 
5 屈折率導波形ホーリーファイバ
5.1 屈折率導波形ホーリーファイバの概要
5.2 全反射による光の閉じ込め
5.3 広波長域単一モード動作と実効的V値
5.3.1 実効的V値の定義
5.3.2 空間充填モードと実効的V値の表現
5.3.3 実効的V値の近似式
5.4 実効コア断面積
5.5 群速度分散特性
5.5.1 群速度分散の基本特性
5.5.2 分散制御光ファイバ
5.6 損失特性
5.6.1 損失要因の概略
5.6.2 ファイバ作製例と損失波長特性
5.6.3 閉じ込め損失
5.6.4 曲げ損失
5.6.5 接続損失
5.7 光非線形特性
5.8 複屈折特性
5.8.1 複屈折の性能評価パラメータ
5.8.2 複屈折特性の実例
5.9 平面波展開法による2次元周期構造に対する伝搬特性解析
5.9.1 固有値方程式の導出
5.9.2 円形空孔の三角格子配列における比誘電率の逆数のフーリエ係数
5.10 本章のまとめ
 
6 中空コアフォトニックバンドギャップファイバ
6.1 中空コアフォトニックバンドギャップファイバの概要
6.2 2次元フォトニックバンドギャップの起源と評価
6.2.1 2次元で単位格子が無限に分布する構造
6.2.2 2次元でコアがある構造
6.3 モードの説明
6.3.1 モードの分類
6.3.2 表面モード
6.3.3 モードの可視化
6.4 群速度分散特性
6.5 損失特性
6.5.1 ファイバ作製例と損失波長特性
6.5.2 閉じ込め損失
6.5.3 曲げ損失
6.5.4 極限損失の評価
6.6 光非線形特性
6.7 複屈折特性
6.8 本章のまとめ
 
7 ブラッグファイバ
7.1 ブラッグファイバの概要
7.2 1次元周期構造による光の閉じ込め原理
7.3 伝搬特性の漸近展開近似法
7.3.1 電磁界の表示
7.3.2 周期クラッド層における振幅係数の関係
7.3.3 ブロッホの定理の適用
7.3.4 固有値方程式と振幅係数の導出
7.4 フォトニックバンド構造
7.5 4分の1波長積層条件下の伝搬特性
7.5.1 4分の1波長積層条件下での固有値方程式
7.5.2 4分の1波長積層条件の吟味
7.5.3 フォトニックバンドギャップの端点
7.6 分散曲線と電磁界分布
7.7 光パワ閉じ込め係数
7.8 群速度分散特性
7.8.1 群速度分散の性質
7.8.2 導波路分散と光パワ閉じ込め係数の関係
7.9 損失特性
7.9.1 ファイバ作製例と損失波長特性
7.9.2 閉じ込め損失
7.9.3 曲げ損失
7.10 円形金属導波管の伝搬特性との類似点と相違点
7.10.1 固有値方程式とモード特性
7.10.2 諸特性
7.11 本章のまとめ
 
8 全固体フォトニックバンドギャップファイバ
8.1 全固体フォトニックバンドギャップファイバの概要
8.2 全固体フォトニックバンドギャップファイバの光閉じ込め原理
8.2.1 反共振反射モデルによる光の閉じ込め:スラブ導波路
8.2.2 反共振反射モデルによる光の閉じ込め:ファイバ構造
8.2.3 光閉じ込めに対する他の手法による説明
8.2.4 フォトニックバンドギャップ
8.3 群速度分散特性
8.4 損失特性
8.4.1 ファイバ作製例と損失波長特性
8.4.2 曲げ損失
8.4.3 閉じ込め損失
8.5 その他の特性
8.6 本章のまとめ
 
9 各種フォトニック結晶ファイバ
9.1 二重クラッド形フォトニック結晶ファイバ
9.2 カゴメ格子フォトニック結晶ファイバ
9.3 正方形格子フォトニック結晶ファイバ
9.4 ハイブリッド形フォトニック結晶ファイバ
 
10 フォトニック結晶ファイバの材料と作製方法
10.1 フォトニック結晶ファイバの材料
10.1.1 材料特性
10.1.2 各種材料に対する非線形屈折率
10.2 フォトニック結晶ファイバの作製方法
10.2.1 キャピラリ積層法
10.2.2 穴空け法
10.2.3 押し出し法
10.2.4 蒸着法
 
11 フォトニック結晶ファイバの応用
11.1 概要
11.2 光の発生
11.2.1 広帯域白色光
11.2.2 光ソリトン
11.2.3 その他
11.3 センサ
11.3.1 化学センサ
11.3.2 光ジャイロ
11.3.3 そ の 他
11.4 光デバイス
11.4.1 ファイバレーザ・アンプ
11.4.2 光スイッチ
11.4.3 波長変換器
11.4.4 その他
11.5 計測
11.6 通信
11.7 光配送

付録
A 円筒座標系におけるブロッホの定理
B 2波動の結合系方程式 (2.18) の導出
C ステップ形光ファイバの伝搬特性
D 三角格子配列における比誘電率逆数のフーリエ係数[式 (5.33)]の導出
E ブラッグファイバ特性の漸近展開近似法

参考書
参考文献
索引

左貝 潤一(サカイ ジュンイチ)

NTTの基礎研究所を退職後、立命館大学理工学部教授に奉職。
現在は立命館大学大学院名誉教授・工学博士。

以下の著書がある。
【光学全般】
『光学の基礎』,コロナ社(1997)
『光の数理』,コロナ社(2021)

【通信】
『光通信工学』,共立出版(2000)
『通信ネットワーク概論』,森北出版(2018)

【光ファイバ・光導波路】
『導波光学』,共立出版(2004)
『フォトニック結晶ファイバ』,コロナ社(2011)
『光導波路の電磁界数値解析法』,森北出版(2015)

【光工学】
『光エレクトロニクス入門』, 森北出版(2014)

【光学関連分野】
『位相共役光学』,朝倉書店(1990)
”Phase Conjugate Optics,” McGraw-Hill (1992).
『光学機器の基礎』,森北出版(2013)
『光計測入門』,森北出版(2016)
『メタマテリアルのための光学入門』,森北出版(2017)

【電磁波工学】
『電磁波工学エッセンシャルズ -基礎からアンテナ・伝送線路まで-』,共立出版(2020)

「光学」(日本光学会) 2012年5月 vol.41 No.5 掲載日:2012/05/31

上記学会誌に書評が掲載されました。
「Electoronic Journal」 2011年5月号 掲載日:2011/04/24

特集:JPCA Show 2011
日刊工業新聞2011年1月26日 掲載日:2011/04/13


掲載日:2022/11/02

電子情報通信学会誌2022年11月号

掲載日:2020/10/30

「電子情報通信学会誌」2020年11月号広告