物性・光学のための電磁気学 - 基礎から量子化まで -

物性・光学のための電磁気学 - 基礎から量子化まで -

マクスウェルの方程式までの解説後,輻射,導波路,アンテナの理論を詳述し,その方程式を量子化して電磁波が光子となることを解説。

ジャンル
発行年月日
2018/07/06
判型
A5
ページ数
250ページ
ISBN
978-4-339-00911-8
物性・光学のための電磁気学 - 基礎から量子化まで -
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本書は,大学の理工学部や工業高等専門学校の教科書としてまとめたものである。前半は,電磁気学の基礎を理解できるように,実験結果をもとに種々の法則を導出し,マクスウェルの方程式にまとめあげている。後半は,大学院の講義として利用することを念頭に,輻射,導波路,アンテナの理論を詳述し,最後に,マクスウェルの方程式を量子化して,電磁波が光子(フォトン)となることを証明している。また,電磁気学の理解を深める最も優れた手段は,最適の例題や問題を解いてみることであり,各章には理解を助けるための例題や章末問題を多数掲げ,その詳解からより深い理解が得られるように工夫した。全体の構成は以下の通りである。

1章は,ベクトル解析をまとめたもので,電磁気学の理解に必要でかつ十分な内容とした。例題を解きながら進めば,ベクトルの概念は十分に理解できるものと思われる。
2章では,荷電粒子間に働く力のクーロンの法則から出発して,電界(電場ともいう)や電束密度など定義を述べる。ガウスの定理と発散の定理を導き,電磁気学の電界に関する方程式を説明する。その結果はマクスウェルの方程式に採り入れられ,電磁波の解析に用いられる。
3章では,磁界(磁場ともいう)中での荷電粒子の運動,ビオ・サバールの法則やアンペールの法則など電流が作る磁界の強さを表す重要な現象について述べる。磁石に関する磁気モーメントなどについては触れない。電流を流すとその周りに磁界を発生する現象について詳述する。また,ベクトルの線積分を面積分に置き換えるストークスの定理の証明を導く。
4章では,ファラデーの電磁誘導から種々の現象を説明するとともにアンペールの法則との関連,マクウェルの変位電流とベクトル・ポテンシャルによる磁界の定義などを述べる。
5章は,電気エネルギーと磁気エネルギーの定式化の内容とした。静電容量とソレノイドのインダクタンスを解説し,問題ではこれらを含む回路の解析方法を挙げ,種々の回路での電気エネルギーの時間変化を理解する。
6章では,これまでに求めた電界と磁界に関する法則をマクスウェルの方程式と呼ばれる四つの方程式にまとめ,その解析から電磁波の伝搬を説明する。電磁波の伝搬速度から光が電磁波であることを示し,電界と磁界の偏向方向や境界面で入射,反射と透過の法則を導く。また,導波管内の電磁波の解析法についても述べる。
7章では,電磁波の輻射とアンテナの理論を述べ,ヘルツのダイポールアンテナや半波長アンテナの解析法を概説している。
8章では,マクスウェルの方程式を量子化して,電磁波が粒子のようにエネルギーωの量子からなることを証明し,プランクの輻射理論を導く。ここでは,ばねの運動に相当する単純調和振動子のことを述べ,マクスウェルの波動方程式が調和振動子のハミルトニアンとまったく同じ式で表されることを示す。
付録では,電磁気学の解析に必要なオイラーの公式を述べ,オイラーの式が三角関数と互換性のあることが示している。

本書「物性・光学のための電磁気学──基礎から量子化まで──」は,大学の理工学部や工業高等専門学校の教科書としてまとめたものである。前半は,電磁気学の基礎を理解できるように,実験結果をもとに種々の法則を導出し,マクスウェルの方程式にまとめあげている。後半は,大学院の講義として利用することを念頭に,輻射,導波路,アンテナの理論を詳述し,最後に,マクスウェルの方程式を量子化して,電磁波が光子(フォトン)となることを証明している。各章には理解を助けるための例題や章末問題を多数掲げ,その詳解からより深い理解が得られるように工夫した。

電磁気学は,電気系学生に必須の科目であり,内容は理学部の物理系で学ぶ内容とそれほど差異はない。内容を理解するにはベクトル解析を理解することが必須である。大学での講義などでは,最初にベクトル解析を学ぶが,見慣れない記号が用いられるため,講義の初期段階でその扱いに戸惑い,結果として電磁気学はむつかしい学問であるという感想を抱いてしまう学生が多い。また,電磁気学の総括であるマクスウェルの方程式なるものは,非常に理解困難な内容であると思ってしまう学生も多い。この傾向はここ数十年変わっていない。ところが電気,材料,応用物理系の学生,特に電子物性や光学を学ぶ学生は,電磁気学の公式の理解が必須である。また,電磁波の輻射と伝搬,導波回路,アンテナなどを理解するには電磁気学の修得が必要不可欠である。最近の通信技術の進歩はきわめて速く,無線技術が有線通信(ケーブル通信を含む)にとって代わろうとしている。また,市販の電子レンジはマイクロ波を用いたものであり,マイクロ波レーダは気象観測や空の安全のみならず,自動車の安全運転に欠かせない技術となりつつある。つまり,電磁気学は古くてなお新しい学問なのである。大学の講義は,いま変革期に遭遇しつつある。時間の制約のために十分に教えられないと不満を漏らす教官も多い。電磁気学の理解を深める最も優れた手段は,最適の例題や問題を解いてみることである。そのため,本書では多くの重要な問題と,その詳細な解法を示している。

本書は,つぎのような方針で編集している。電磁気学の完成,つまりマクスウェルの方程式の導出までを,その完成に寄与して科学者の業績を時系列に沿って理解することを念頭においた。代表的な科学者の伝記の要約と写真を挿入した。まず。クーロンの法則の発見から,ガウスの定理による解釈を述べる。電磁気学の完成には,直流電源の発明が欠かせない。ボルタはガルバーニのカエルの脚から電気が発生するという報告に疑問を抱き,種々の実験後,1800年にボルタの電池を発明する。この装置がヨーロッパに知れわたり,種々の実験がなされた。電流が磁界を誘起することをデンマークのエルステッドが1820年に発見した。この興味ある成果は,瞬く間にヨーロッパ中の科学者の興味を引きつけた。フランスのビオとサバールは,電流素による磁界の式を導き,アンペールは電流の流れている2本の導線間に働く力を計算し,その成果は電流の単位のアンペア〔A〕の決定に至る。一方,磁界から電流を取り出すことは,1831年にイギリスのファラデーによってなされた。これで基本となる電磁気学の現象はそろった。その後,多数の理論家が種々の定式化を行い,ついに1865年にイギリスのマクスウェルが,いわゆるマクスウェルの方程式にまとめあげた。このマクスウェルの方程式から,電磁波が存在するという予言がなされ,1887年にドイツのヘルツが電磁波の確認に成功した。1900年,輻射に関する実験の解析から,ドイツのプランクが輻射スペクトルの説明に成功し,その結果から輻射波(電磁波)は粒子(フォトン)として働くとの予言を発表した。その後,ディラックによるマクスウェルの方程式の量子化がなされ,1930年頃にはその定式化が完成した。

上記の成果を,まとめあげたのが本書である。その内容は大学における学部学生や高等専門学校の学生が理解できるように配慮した。本書の1章から8章までの内容をまとめるとつぎのようになる。

1章は,ベクトル解析をまとめたもので,電磁気学の理解に必要でかつ十分な内容とした。例題を解きながら進めば,ベクトルの概念は十分に理解できるものと思われる。特筆すべきことは,電磁気学で∇,div,rotなる演算子の取扱いである。これはあくまでも,記号を定義したものであって,数学的な証明は一切不要である。間違っても理解困難な数式であるなどと思わないでほしい。
2章は,電荷の間に働く力は,電荷の積に比例し,電荷の間の距離の2乗に反比例するという,実験結果を表すクーロンの法則の内容とした。電界を定義する。この式からガウスの定理や発散の定理を導く。
3章は,電流が誘起する磁界を定式化する内容とした。ビオ・サバールの法則とアンペールの法則を導く。電磁気学でよく使われるストークスの定理について証明が示されている。この式はマクスウェルの方程式をベクトル・ポテンシャルを用いて解析するのに欠かせない定理である。
4章は,ファラデーの電磁誘導の定式化の内容とした。磁界中に置かれた導線が磁力線を切るとき電流,電圧を誘起する実験結果の定式化がファラデーなどによりなされた。また,磁界中で電荷に働くローレンツの力について詳述している。電流の単位アンペア〔A〕の決定に用いられたアンペール・バランスの実験装置の原理を説明する。ローレンルツ力の式は物性のホール効果や磁気抵抗,高エネルギー加速器の原理などの理解にも必要である。問題を解くことによってより深い理解が得られるであろう。マクスウェルは直流電流が流れない誘電体でも,時間変化したり交流の電界の下では変位電流が流れるという現象を取り入れた。これによりマクスウェルの方程式が完成する。ベクトル・ポテンシャルの定義を述べているが,これは電磁波の輻射や伝搬を解析するのに不可欠である。また,後半のマクスウェルの方程式を量子化して,フォトンとプランクの輻射理論を理解するには必要不可欠である。この章の後半は,後述のように大学院の講義内容あるいは,量子論に興味のある学生のために役立つはずである。
5章は,電気エネルギーと磁気エネルギーの定式化の内容とした。静電容量とソレノイドのインダクタンスを解説し,問題ではこれらを含む回路の解析方法を挙げ,種々の回路での電気エネルギーの時間変化を理解する。
6章は,マクスウェルの方程式を解いて,電磁波が横波であることを示す内容とした。電磁波の伝搬に伴う電磁エネルギー密度の伝達に関するポインティングの定理を導く。光は電磁波の一種であるので,マクスウェルの方程式を解くことにより,光学的な性質,反射,屈折や回折現象に関するスネルの法則,フレネルの法則とヘルムホルツの方程式を理解する。また,導波管を伝搬するTEモード波やTM モード波について論じている。
7章は,アンテナの理論を述べ,ヘルツのダイポールアンテナや半波長アンテナの解析法を概説している。無線通信に必須の内容である。
8章は,マクスウェルの方程式を量子化して,電磁波が粒子のようにエネルギー_ωの量子からなることを証明し,プランクの輻射理論を導く。ここでは,ばねの運動に相当する単純調和振動子のことを述べ,マクスウェルの波動方程式が調和振動子のハミルトニアンとまったく同じ式で表されることを示す。付録は,電磁気学の解析に必要なオイラーの公式を述べ,オイラーの式が三角関数と互換性のあることが示している。
本書は以上の内容を含んでいるが,大学の理工学部の学生や工業高等専門学校の学生には1 章から6 章までを学んでほしい。多くの例題と問題を含んでおり,特にこれらの問題は種々の実験を理解するために設けたもので,授業の演習時間に利用すれば,電磁気学のみならず広範囲の領域の理解に役立つものと確信している。そのため,問題には詳細な解答を示している。
6章の後半,7章と8章は大学院レベルであるが,意欲のある学生が高度な内容にチャレンジするためのものと理解していただければ幸いである。これまでに出版された多くの電磁気学のテキストを読んでみたが,マクスウェルの方程式を量子化する手法を詳述したテキストには出会えなかった。筆者は学部の量子力学の講義で電磁波は粒子性を持つことを教えられ,マクスウェルの方程式の量子化が可能ではないかと思っていた。この疑問を理解するにはやはり,ディラックのような天才のひらめきが必要であることを後年知って,その定式化の美しさに感銘を覚えたものである。学生諸君はこれまでに出版された教科書をもとに勉強されていたり,これから勉強されるものと思われるが,より深い理解を得るために,本書の内容や例題,問題とその解答例を参考にしていただければよいのではと考えている。これにより多くの疑問や難解の内容を理解できるようになれば筆者の喜びとするところである。


本書を執筆するきっかけを与えてくれた,群馬大学名誉教授の安達定雄氏に感謝する。長年,学部の電磁気学の講義を担当して来られたが,最近の授業時間の制約で十分に教えることができない。数学嫌いの学生が増えたことで,電磁気学のベクトル解析や演算手法にうんざりするものが増えている。学生に教えるよい教科書がなく,いろいろな教科書を用いてきたが満足できなかったことなど現状を伝えていただきました。それなら,これまでの経験から,理論式をこね回すより,実験事実を理解するための式の導出をもとにしてまとめれば学生の理解に役立つのではと考え,本書の執筆を企画したのである。この教科書の校正の際,たいへん貴重な意見をいただいたので,紙面を借りてお礼を述べたい。

教科書を最初にまとめ上げて,大阪大学大学院の森伸也教授に相談したところ,多くの矛盾,誤解を指摘していただいた。これらの指摘がなければ,本書の完成には至らなかった。森伸也教授の寄与は筆舌に尽くしがたい。まだまだ,筆者の誤解や記述ミスなどがあるものと思われるが,読者の皆さんの指摘によってより良い教科書にしたいと願っている。最後に,コロナ社の関係各位には,企画校正でたいへんお世話になり,お礼申し上げる。

2018年3月 浜口 智尋

1. ベクトルの公式
1.1 ベクトルの和,差と積
1.2 ベクトルのスカラ積(内積)とベクトル積(外積)
1.3 単位ベクトル
1.4 ベクトル演算子
章末問題

2. 電界
2.1 電界,電気力線,電束密度,電気変位,電位
2.2 ガウスの定理
2.3 発散の定理
章末問題

3. 磁界
3.1 磁石が作る磁界と電流が誘起する磁界
3.2 ビオ・サバールの法則
3.3 磁界に関するガウスの法則
3.4 アンペールの法則
3.5 ストークスの定理
章末問題

4. 電磁誘導
4.1 ファラデーの電磁誘導の法則
4.2 ファラデーの法則の定式化
4.3 電磁誘導
 4.3.1 磁束の時間変化割合
 4.3.2 定常磁界中のローレンツ力
 4.3.3 電流が流れている導体に外部磁界が作用する電磁力
 4.3.4 閉回路の運動による電磁誘導
 4.3.5 有限長直線導体の運動による電磁誘導
4.4 レンツの法則
4.5 アンペールの法則とファラデーの法則
4.6 アンペールの実験と電流の単位アンペア
4.7 電流連続の式と変位電流
4.8 ベクトル・ポテンシャル
4.9 陰極線
章末問題

5. 電気エネルギーと磁気エネルギー
5.1 静電容量と電気エネルギー密度
 5.1.1 電界と電気ポテンシャル
 5.1.2 静電容量と電気エネルギー密度
 5.1.3 電気エネルギー密度
5.2 インダクタンスと磁気エネルギー密度
 5.2.1 巻線コイルのソレノドとトロイドにおける磁界
 5.2.2 ソレノイドとトロイドのインダクタンス
 5.2.3 磁気エネルギー密度
5.3 電気エネルギー密度と磁気エネルギー密度の和
5.4 オームの法則とジュールの法則
章末問題

6. 電磁波
6.1 マクスウェルの方程式
6.2 自由空間における平面波解析
6.3 SI単位系
6.4 電界と磁界の偏波方向
6.5 ポインティングの定理とポインティング・ベクトル
6.6 スネルの法則とフレネルの法則
 6.6.1 境界条件
 6.6.2 スネルの法則
 6.6.3 フレネルの法則
 6.6.4 複素誘電率と電磁波の吸収
6.7 導波管を伝搬する電磁波とヘルムホルツの方程式
6.8 導波管を伝搬する電磁波のモード
 6.8.1 TEモード
 6.8.2 TMモード
 6.8.3 TE10波のエネルギー密度とエネルギー伝送
 6.8.4 マイクロ波発生装置
章末問題

7. 輻射とアンテナ
7.1 スカラ・ポテンシャルとベクトル・ポテンシャル
7.2 ローレンツ・ゲージとゲージ変換不変の法則
7.3 ソースを含む波動関数と遅延ポテンシャル
7.4 ヘルツのダイポールとアンテナ
7.5 半波長ダイポールアンテナ
章末問題

8. 輻射場の量子論
8.1 量子力学の背景
8.2 調和振動子の量子化とボゾン・オペレータ
 8.2.1 単純調和振動子の波動方程式と解
 8.2.2 ボゾン・オペレータを用いた調和振動子の量子化
8.3 電磁波の正準方程式
8.4 電磁界の量子化
8.5 プランクの法則
章末問題

付録
A.1 テイラー展開
A.2 オイラーの公式
A.3 双曲線関数
A.4 フェルミ粒子とボーズ粒子
A.4.1 フェルミ粒子とパウリの排他律
A.4.2 フェルミオンの生成と消滅のオペレータ
A.4.3 ボーズ粒子
A.5 物理定数表

引用・参考文献
章末問題解答
索引

代表的な科学者の伝記(五十音順)
 アンペール
 エルステッド
 クーロン
 サバール
 ディラック
 ビオ
 ファラデー
 プランク
 ヘルツ
 ボルタ
 マクスウェル

浜口 智尋(ハマグチ チヒロ)

掲載日:2019/10/01

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