原理から学ぶ光学
原理を学ぶことで多くを覚えずに多様な現象を理解する,新しいアプローチの光学入門書
- 発行年月日
- 2025/02/17
- 判型
- B5
- ページ数
- 222ページ
- ISBN
- 978-4-339-00995-8
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 広告掲載情報
光学における重要な原理(ホイヘンス-フレネルの原理,フェルマーの原理,重ね合わせの原理)に基づき,光学現象を学ぶ。同一現象を代数的立場と物理的・幾何学的立場で説明し,内容を多面的に捉えて定性的に理解できるよう努めた。
現代でも通用する光学の概念が誕生したのは17世紀である。それ以降,光学は顕微鏡や望遠鏡,カメラ,分光器などを通じて,天文学,分光学,計測などの進展に寄与してきた。光学は光の関連分野だけでなく,20世紀初頭には幾何光学を通じて量子力学の発展に貢献した。1960年の可干渉性に優れたレーザの誕生を契機として,光学はその内容と応用範囲が質的な変革を遂げた。近年では,電気・電子工学や機械工学との境界領域であるオプトエレクトロニクスやオプトメカトロニクスが進展している。また,光技術が電気・電子・通信工業,機械工業,自動車産業,建設業,化学産業などの分野へ広がっている。
光ファイバは通信インフラを支えており,光ディスク,レーザプリンタ,バーコードリーダなどは日常眼にすることが多い。このように,光学は身近な領域まで進出してきている。さらには,人工物質であるフォトニック結晶やメタマテリアル,変換光学,構造色に関するナノフォトニクスなどの新規分野の萌芽がみられる。
光学の関連領域の広がりに応じて,企業でも光学に素養のある人材が求められている。しかし,学生時代に光学を学習した人数は少なく,電気系出身者があてられている場合が多く,入社後の研修や自己啓発により,光学を学んでいるのが実情である。光学の既習者でも,光学現象を原理から学習し直すことは,理解度を深め,視野を広げる意味でも有意義である。
原理を理解していれば,多くのことを覚えることなく,そこから派生する多様な現象を理解するのが容易になる。このような考え方から,本書では光学における重要な原理,つまりホイヘンス-フレネルの原理,フェルマーの原理,重ね合わせの原理に基づき,多くの光学現象を学べるようにしている。重要で基本的な内容では,同じ題材を代数的立場と物理的・幾何学的立場で説明し,内容を多面的に捉えて定性的に理解できるように努めている。
対象とする読者は学部3・4年生,大学院生,技術系社会人である。
各章の概要は次の通りである。1章では,2章以降の議論が理解しやすいように「光の基本事項」を配置している。2~4章では,波面の伝搬に関するホイヘンス-フレネルの原理に基づいて,反射・屈折,結像特性などを説明している。5章と6章では,光波の最小伝搬時間や変分に関係するフェルマーの原理に基づいて,反射・屈折,結像特性などを説明している。7~10章では,光波の重ね合わせの原理に基づいて,干渉,回折,偏光などを説明している。
11章と12章では,上記現象に関連する光学での重要な概念を扱っている。13章では光学の理論的基礎である,マクスウェル方程式や境界条件などの電磁波に関する内容を扱っている。
本書の特徴は以下の通りである。
(1)従来の光学書では光学が分かりにくかった読者に対して,既存の書籍とは異なるアプ
ローチの光学の入門書を提供する。
(2)光学における主要な現象が理解できるように,本書全体を三つの原理を基にして系統
的に構築している。
(3)いかに考えるかを主眼としているので,基本的な内容では,同一の題材を複数の立場
で捉えて多様な見方ができ,自分に合った形で学習・理解できるようにしている。
(4)電気系学生・出身者も学びやすいように,フェーザ表示を多用している。
(5)光学における重要な概念を習得,あるいは具体的な数値に対する感覚を磨くため,例
題や演習問題を配置し,解答を丁寧に示している。
本書を出版するにあたり,終始お世話になったコロナ社の関係各位に感謝申し上げる。
2024年12月
左貝潤一
1.光の基本事項
1.1 光の基本的性質
1.1.1 光波と光線 / 1.1.2 光の特性
1.2 屈折率と光速
1.3 光波の表示
1.3.1 1次元波動と基本パラメータ / 1.3.2 光強度
演習問題
2.ホイヘンス-フレネルの原理から学ぶ基本現象
2.1 ホイヘンス-フレネルの原理
2.1.1 ホイヘンスの考え方による波面形成 / 2.1.2 フレネルによる2次波面形成の精密化
2.2 ホイヘンス-フレネルの原理による波面の伝搬
2.2.1 平面波の伝搬 / 2.2.2 球面波と一般の波面の伝搬
2.3 平面波と球面波の伝搬特性
2.3.1 前進波と後進波 / 2.3.2 3次元での平面波 / 2.3.3 球面波
2.4 ホイヘンス-フレネルの原理の回折問題への展開
2.4.1 フレネルの輪帯による考え方 / 2.4.2 回折問題への適用
演習問題
3.ホイヘンス-フレネルの原理から学ぶ反射と屈折特性
3.1 ホイヘンス-フレネルの原理の屈折と反射への適用
3.1.1 スネルの法則:平面境界での平面波の屈折と反射 / 3.1.2 全反射
3.1.3 球面境界での光の反射 / 3.1.4 球面境界での光の屈折
3.2 フレネルの公式:振幅反射率と振幅透過率
3.2.1 フレネルの公式導出のための準備 / 3.2.2 振幅反射率と振幅透過率の表現と特性
3.3 ストークスの関係式
3.4 ブルースターの法則
3.5 全反射:波動的振る舞い
3.5.1 全反射時の光波の浸み込み32/3.5.2全反射時の光波の反射による位相変化
3.6 光強度反射率と光強度透過率
演習問題
4.ホイヘンス-フレネルの原理から学ぶ球面光学系による結像特性
4.1 球面反射鏡による結像特性
4.1.1 球面における光線の反射法則の幾何学的説明
4.1.2 球面反射鏡の球面での反射法則を用いた結像特性
4.2 単一球面での屈折による結像特性
4.3 薄肉レンズによる結像特性
4.3.1 薄肉レンズの結像式と横・角倍率 / 4.3.2 ニュートンの公式ほか
4.3.3 薄肉凹レンズによる結像特性
演習問題
5.フェルマーの原理から学ぶ反射と屈折特性
5.1 フェルマーの原理
5.1.1 フェルマーの原理の基本 / 5.1.2 フェルマーの原理の光路長による表現
5.2 幾何光学の三法則とマリュスの定理
5.2.1 幾何光学の三法則(直進性,屈折と反射) / 5.2.2 マリュスの定理
5.3 フェルマーの原理と変分原理
5.4 フェルマーの原理と光線方程式の関係
演習問題
6.フェルマーの原理から学ぶ非球面・球面光学系による結像特性
6.1 フェルマーの原理と結像特性の関係
6.2 非球面反射鏡による結像特性
6.3 球面反射鏡による結像特性
6.4 薄肉レンズによる結像特性
6.5 球面レンズの波面変換作用
演習問題
7.重ね合わせの原理から学ぶ光学現象の基礎
7.1 重ね合わせの原理と波動方程式の線形性との関連
7.2 重ね合わせと関係する数学的手法
7.2.1 複素数とベクトル表示での演算 / 7.2.2 フェーザ表示による扱い
7.2.3 フーリエ級数・変換
7.3 群速度と位相速度
7.3.1 多色光に対する時空間波形:フーリエ変換の利用
7.3.2 群速度と位相速度の関係
7.4 反射による定在波
演習問題
8.重ね合わせの原理から学ぶ干渉
8.1 二光波干渉:反射がない場合
8.1.1 二光波干渉の基礎 / 8.1.2 ヤングの干渉実験(二光波干渉)
8.2 多重ピンホールによる干渉
8.2.1 多重ピンホールによる干渉:標準的解法による扱い
8.2.2 多重ピンホールによる干渉:フェーザ表示による扱い
8.2.3 フェーザ表示による干渉光強度の極大・極小条件の解釈
8.2.4 物理的意味による干渉光強度の極大・極小条件の解釈
8.3 二光波干渉:反射を伴う場合
8.3.1 平行平面板による二光波干渉
8.3.2 平行平面板による干渉光強度の極大・極小条件
8.4 等厚干渉
8.4.1 等厚干渉での考え方 / 8.4.2 ニュートンリング
8.5 3層構造での多重反射による干渉
8.5.1 平行平面板の透過光による干渉 / 8.5.2 平行平面板の反射光による干渉
8.6 3層構造に対する干渉理論の応用
8.6.1 ファブリ-ペロー干渉計 / 8.6.2 反射防止膜
8.7 可干渉性を考慮した干渉
演習問題
9.重ね合わせの原理から学ぶ回折
9.1 回折の基礎:キルヒホッフの理論
9.1.1 キルヒホッフ近似 / 9.1.2 バビネの原理
9.2 回折の分類と概要
9.2.1 回折の分類 / 9.2.2 フラウンホーファー回折の概要
9.2.3 凸レンズを用いた回折 / 9.2.4 フレネル回折の概要
9.3 単スリットによるフラウンホーファー回折
9.3.1 単スリットによる回折:多重ピンホールによる干渉からの拡張
9.3.2 回折限界とその意義
9.3.3 フェーザ表示による回折像光強度の極大・極小条件の解釈
9.3.4 物理的意味による回折像光強度の極大・極小条件の解釈
9.3.5 単スリットによるフラウンホーファー回折:標準的解法
9.4 方形・円形開口によるフラウンホーファー回折
9.4.1 方形開口による回折 / 9.4.2 円形開口による回折:フェーザ表示による解法
9.5 複数開口によるフラウンホーファー回折
9.5.1 任意形状の周期的開口:多重ピンホールによる干渉からの拡張
9.5.2 スリットの周期的開口
9.6 フレネル回折
9.6.1 フレネル積分 / 9.6.2 半無限開口からのフレネル回折
9.6.3 単スリットによるフレネル回折
9.7 回折を用いた結像作用
9.7.1 フレネルの輪帯板による結像作用 /9.7.2 位相型回折光学素子による結像作用
9.8 反射型回折格子
演習問題
10.重ね合わせの原理から学ぶ偏光
10.1 偏光の形状
10.2 偏光度の記述法
10.2.1 完全偏光と非偏光 / 10.2.2 偏光状態の表現方法
10.3 円偏光の重ね合わせによる直線偏光と楕円偏光の表示
10.4 異方性物質での偏光の振る舞い
10.4.1 異方性物質における光波伝搬の解析 / 10.4.2 固有偏光
10.4.3 複屈折 / 10.4.4 旋光性
10.5 偏光の変換とその記述法
10.5.1 偏光素子 / 10.5.2 ジョーンズベクトルと行列
10.5.3 ジョーンズベクトルによる固有偏光の表現
10.5.4 ジョーンズ行列による各種偏光変換
演習問題
11.行列法による厚肉レンズ等の結像特性
11.1 薄肉レンズと厚肉レンズの関係
11.2 行列法での基本式
11.2.1 行列法における光線伝搬に関する基本行列と基底ベクトル
11.2.2 球面単レンズのシステム行列とガウス定数の関係
11.3 厚肉レンズによる結像特性
11.3.1 理想光学系における結像特性 / 11.3.2 横倍率と角倍率
11.3.3 主要点の位置 / 11.3.4 厚肉単レンズの結像式と横・角・縦倍率
11.3.5 基準座標の変換
11.4 球面反射鏡による結像特性
11.5 合成光学系の結像特性
演習問題
12.光学系に関する諸概念
12.1 開口絞りと瞳
12.2 焦点深度と被写界深度
12.3 測光
12.3.1 光束と比視感度 / 12.3.2 光度・輝度・照度
12.4 光学系の明るさ
12.5 収差
12.5.1 光線収差 / 12.5.2 波面収差
12.5.3 色収差と色消しレンズ / 12.5.4 光線追跡
12.6 光学系の空間分解能
12.6.1 二つの円形開口からのフラウンホーファー回折像 / 12.6.2 レイリーの分解能
12.7 光学伝達関数(OTF)
12.7.1 光学伝達関数の点像分布関数による記述:インコヒーレント結像
12.7.2 光学伝達関数の瞳関数による記述:インコヒーレント結像
12.7.3 インコヒーレント結像での光学伝達関数の数値例
12.7.4 コヒーレント結像での光学伝達関数
演習問題
13.電磁波の特性
13.1 媒質中のマクスウェル方程式と構成方程式
13.2 無損失・等方性物質での波動方程式
13.3 電磁波を形成する電磁界の関係式
13.4 電磁波エネルギーとポインティングベクトル
13.5 不連続面での境界条件
演習問題
付録
A. SI(国際単位系)での接頭語
B. ラプラシアンの表現とベクトル公式
C. 波動方程式(13.11)のスカラー解の導出
D. 正弦条件の式(12.25)の導出
参考図書
演習問題解答
索引
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掲載日:2025/01/14