現代光コンピューティング入門

現代光コンピューティング入門

  • 成瀬 誠 元東大大学院教授 博士(工学)

現代の光コンピューティング技術について,その基礎から先端技術までを速習する。

ジャンル
発行年月日
2024/05/07
判型
A5
ページ数
144ページ
ISBN
978-4-339-02941-3
現代光コンピューティング入門
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定価

2,640(本体2,400円+税)

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近年の人工知能(AI)の進歩に見られる社会の一層の情報化は,情報通信量やコンピューティング需要を劇的に増大させている。そのため,従来技術の限界を克服し,今後の情報社会を支える新たなコンピューティングの原理と技術の創出が期待されている。その中の一つが,光を使ったコンピューティング―光コンピューティング―である。

光コンピューティングとは,光の役割が,光通信に見られる通信,あるいは画像センサに見られる計測だけでなく,コンピューティングや知的機能にまで期待されていることの現れでもある。量子コンピューティングは,最近ではメディアでも盛んに取り上げられているが,光コンピューティングについてはわが国ではまだあまりよく知られてはいないかもしれない。一方,海外の光コンピューティングの研究は2010年代以来きわめて活発になっており,欧米ではスタートアップ企業も多数生まれている。

光コンピューティングという研究領域は,「光」と「コンピューティング」という,一見だいぶ性質が異なる学術領域を基礎としているため,初学者にとっては,研究の前提知識を効率的に収集することは簡単ではないと思われるかもしれない。しかし両者に関して必要最小限の知識や勘所さえつかみ取れれば,光コンピューティング研究の最前線になじむことはそれほど難しくはない。

そこで,本書では「光」―物理学的な側面― と「コンピューティング」― 情報学的な側面― を織り交ぜながら,順を追ってじわじわと議論を進めていく。まず,光コンピューティングが着目している光の代表的な性質を振り返る。そこで扱う内容の一部には,中学や高校の理科や物理で習うことも含まれているが,「光をコンピューティングに応用する」という展望を見据え,光の性質を「情報」という観点で捉えていく。つぎに,光コンピューティングを視野に入れながら現代の情報通信技術を俯瞰する。現状のコンピュータの構造的課題やコンピューティング需要の爆発的増大などの背景を概観するとともに,現代のコンピューティングの構造としての方向性をレビューする。
そののち,本書の主題である現代の光コンピューティング研究を俯瞰する。最先端のフォトニクスを駆使した行列ベクトル演算やニューラルネットワークの実現,リザーバコンピューティング,イジングマシン,意思決定などの原理とシステムのメカニズムをできるだけ簡潔に説明する。光の基礎的な性質が情報機能とさまざまに融合し,光コンピューティングの新たな潮流がつぎつぎと生まれている様子が感じられるだろう。

AIやBeyond 5Gなどに見られる先端情報通信技術の社会における重要性から,コンピューティングへの強い要求は今後もとどまることなく進展すると考えられる。そのため光を含め,物理系を活用するコンピューティングの研究の活性度は今後も高い状態で推移すると期待される。本書をきっかけとして,このような研究領域の存在が認知され,研究者の知的好奇心が惹起され,ひいては新たな視点に基づく革新的な光コンピューティングの研究が次々に生まれるという好循環につながれば幸いである。

近年の人工知能(articial intelligence:AI)の進歩に見られる社会のいっそうの情報化は,情報通信量やコンピューティング需要を劇的に増大させている。そのため,従来技術の限界を克服し,今後の情報社会を支える新たなコンピューティングの原理と技術の創出が期待されている。そのなかの一つが,光を使ったコンピューティング―光コンピューティング(photonic computing)―である。

光は,英語ではlightやphoton,光に関連した技術領域(光技術)は,英語ではフォトニクス(photonics)と呼ばれる。光やフォトニクスはすでに情報通信社会に不可欠な基盤となっており,身近なところでは,光通信は現代のインターネットの根底を支え,携帯電話などに搭載されている画像センサなどはフォトニクスの典型例といえる。

光コンピューティングとは,光の役割が,光通信に見られる通信だけでなく,あるいは画像センサに見られる計測だけでなく,コンピューティングや知的機能にまで期待されていることの現れでもある。量子コンピューティング(quantum computing)は,最近ではメディアでも盛んに取り上げられるようになったが,光コンピューティングについてはわが国ではまだまだあまりよく知られてはいないかもしれない。一方,海外に目を向けると,光コンピューティングの研究は2010年代以来きわめて活発になっており,欧米ではスタートアップ企業も多数生まれている。

このような背景の下,本書は光コンピューティングの基礎から先端研究までを速習することを目指す。

光コンピューティングという研究領域は,「光」と「コンピューティング」という,一見するとだいぶ性質が異なる学術領域を基礎としている。そのため,初学者にとっては,このような研究の前提知識を効率的に収集することは簡単ではないと思われるかもしれない。しかしながら,両者に関して必要最小限の知識や勘所さえつかみ取ってしまえば,光コンピューティング研究の最前線になじむことはそれほどに難しいことではない。

そこで,本書では「光」―物理学的な側面―と「コンピューティング」―情報学的な側面―を織り交ぜながら,順を追ってじわじわと議論を進めていく。まず,光コンピューティングが着目している光の代表的な性質を振り返る。そこで扱う内容の一部には,中学や高校の理科や物理で習うことも含まれているが,「光をコンピューティングに応用する」という展望を見据え,光の性質を「情報」という観点で捉えていく。つぎに,光コンピューティングを視野に入れながら現代の情報通信技術を俯瞰する。現状のコンピュータの構造的課題やコンピューティング需要の爆発的増大などの背景を概観するとともに,現代のコンピューティングの構造としての方向性をレビューする。

そののちに,本書の主題である現代の光コンピューティング研究を俯瞰する。最先端のフォトニクスを駆使した行列ベクトル演算やニューラルネットワークの実現,リザーバコンピューティング,イジングマシン,意思決定などの原理とシステムのメカニズムをできるだけ簡潔に説明する。光の基礎的な性質が情報機能とさまざまに融合し,光コンピューティングの新たな潮流がつぎつぎと生まれている様子が感じられるだろう。

AIやBeyond 5Gなどに見られる先端情報通信技術の社会における重要性から,コンピューティングへの強い要求は今後もとどまることなく進展すると考えられる。そのため光を含め,物理系を活用するコンピューティングの研究の活性度は今後も高い状態で推移すると期待される。本書をきっかけとして,このような研究領域の存在が認知され,研究者の知的好奇心がじゃっき惹起され,ひいては新たな視点に基づく革新的な光コンピューティングの研究がつぎつぎに生まれるという好循環につながれば幸いである。

本書の執筆は,石川正俊東京大学名誉教授,大津元一東京大学名誉教授,堀裕和山梨大学名誉教授という著者にとっての研究メンターによるご指導と,数多くの協働研究者との研究協力を通じて得られた知見によるものである。関係各位に深く感謝申し上げる。また,内田淳史埼玉大学教授,鯉渕道紘国立情報学研究所教授,砂田哲金沢大学教授,菅野円隆埼玉大学准教授,川上哲志九州大学准教授には,本書について有益なフィードバックをいただき,深く感謝申し上げる。また,研究の実施に当たって,日本学術振興会科学研究費補助金,科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CRESTなどの研究資金に支えられた。

2023年7月
成瀬 誠


誠に残念ながら,本書の著者である成瀬誠先生が書籍製作中にご逝去されました。本書発行に当たっては,ご遺族の了解を得て出版することができました。
最後に,成瀬誠先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

2024年1月
成瀬研究室プロジェクトシニアマネージャー 中田 俊彦

1. 光コンピューティングにおける光の基礎
1.1 「現代光コンピューティング入門」に向けて
1.2 現代光コンピューティングを見据えた光の基本的性質
 1.2.1 光速とは何か
 1.2.2 広帯域性
 1.2.3 並列性
 1.2.4 コヒーレンス
 1.2.5 量子性と偏光
 1.2.6 次元,自由度,多重化
1.3 光コンピューティングを見据えた光デバイス概観
 1.3.1 レーザ
 1.3.2 レーザカオス
 1.3.3 光ファイバ
 1.3.4 光回路
 1.3.5 ビームスプリッタ,光カップラ
 1.3.6 光アイソレータ,光サーキュレータ
 1.3.7 回折,ホログラム
 1.3.8 近接場光と励起移動型デバイス
 1.3.9 光の階層性とシステム機能

2. 現代光コンピューティングのための情報通信技術の俯瞰
2.1 コンピューティング需要の拡大とアーキテクチャ革新の必要性
 2.1.1 コンピューティング需要の爆発的増大
 2.1.2 従来技術の限界
 2.1.3 電力消費の増大
 2.1.4 アーキテクチャ革新の必要性
2.2 フォンノイマンアーキテクチャ
2.3 領域特化アーキテクチャ
 2.3.1 領域特化アーキテクチャの概要
 2.3.2 ニューラルネットワーク
 2.3.3 シストリックアレー
2.4 光コミュニケーションの基盤
 2.4.1 シャノンの定理
 2.4.2 光インターコネクション

3. 現代光コンピューティング
3.1 光行列ベクトル演算,光ニューラルネットワーク
 3.1.1 空間並列活用型
 3.1.2 コヒーレンス活用型
 3.1.3 波長多重活用型
3.2 光リザーバコンピューティング
 3.2.1 リザーバコンピューティングの基本構造
 3.2.2 時間遅延型
 3.2.3 空間並列型
 3.2.4 導波路型
 3.2.5 リザーバの構成方式の拡張
 3.2.6 リザーバコンピューティングの機能の拡大
3.3 イジングマシン
 3.3.1 イジングモデルの基底状態探索
 3.3.2 フラストレーション
 3.3.3 組合せ爆発
 3.3.4 シミュレーテッドアニーリング
 3.3.5 コヒーレントイジングマシン
 3.3.6 空間光並列イジングマシン
3.4 強化学習,意思決定
 3.4.1 単一光子を用いた意思決定
 3.4.2 レーザカオスを用いた超高速意思決定
 3.4.3 カオス的遍歴を用いた意思決定
 3.4.4 もつれ光子を用いた協力的意思決定
 3.4.5 光を用いた意思決定の応用
3.5 粘菌コンピューティングから光コンピューティングへの展開
 3.5.1 粘菌コンピューティング
 3.5.2 粘菌とエネルギー移動の時空間ダイナミクス
 3.5.3 バウンスバック則と解探索
3.6 シューベルトマシン
 3.6.1 フォトクロミック材料における複雑な構造の形成
 3.6.2 シューベルト多項式の生成
 3.6.3 フォトクロミック結晶と近接場光を用いた順序認識機能

4. さらなる発展に向けて

引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【 N/M 様(業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】

本書は,物理学(光)と,情報学を合わせた「光コンピューティング」という技術について書かれた入門書である.個人的には,光とコンピュータとの関係でまず思いつくのが,ネットワーク通信において光ファイバを用いている,という理解であったのが正直な感想だった.

本書は,全4章で構成されており,1章では,光コンピューティングを学ぶ上で必要となる光に関する基礎知識が概論的に解説されている.

2章では,コンピューティングの基礎として,従来の技術とアーキテクチャ革新の必要性として,光コンピューティングや量子コンピューティングなどの「物理系の特徴を活かす」という視点が必要になるという議論になり,本書のメインテーマである3章の現代光コンピューティングの話に繋がっている.個人的には,ムーアの法則や,フォンノイマンアーキテクチャ,シャノンの定理,AIなど,情報科学の分野でもおなじみの用語も登場し興味深かった.

3章では,現代光コンピューティングに関する研究例が数多く詳細に紹介されている.個人的には,特に3.4節の強化学習や意思決定,3.5節の粘菌コンピューティングから光コンピューティングについて,AI技術や意思決定,生物の粘菌など,自身の注目している技術と,粘菌コンピューティングという意外性のある研究もされており,大変興味深く拝読させていただいた.

最後の4章では,さらなる発展に向けてということで,これまでの章で述べられてきたことを振り返りつつ,「光の極限性能を生かすフォトニックコンピューティングの創成」という研究プログラムにおける方向性として3つの視座及び,それらに対応した3つの研究柱を設定し,研究に取り組んでいる,という形で締め括られている.

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報一覧

成瀬 誠(ナルセ マコト)

1994年 東京大学工学部計数工学科卒業
1996年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了(計数工学専攻)
1999年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(計数工学専攻)博士(工学)
1999年 東京大学国際・産学共同センターリサーチ・アソシエイト
2000年 東京大学大学院助手
2002年 情報通信研究機構研究員(着任時は通信総合研究所)
2003年 情報通信研究機構主任研究員
2017年~2018年 情報通信研究機構プランニングマネージャー
2017年 情報通信研究機構総括研究員
2019年 東京大学大学院教授
2023年 逝去

掲載日:2024/06/01

電子情報通信学会誌2024年6月号

掲載日:2024/05/01

電子情報通信学会誌2024年5月号

掲載日:2024/03/12

2024年 電子情報通信学会 総合大会プログラム