IoT通信性能解析

IoT通信性能解析

IoT全体のシステムにおけるデータ伝送性能を計画設計する上で重要な伝送解析技術を扱う

ジャンル
発行年月日
2021/04/30
判型
A5 上製
ページ数
256ページ
ISBN
978-4-339-00944-6
IoT通信性能解析
在庫あり

定価

4,180(本体3,800円+税)

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介

【書籍の特徴】
クラウド側インターネット通信を代表するTCP通信性能解析技術はすでに確立された感があり,専門書も過去に多く出版されている。しかし,loTのThings側となる機器やセンサとのエッジ側の低速な制御ネットワークやセンサネットワークにおけるデータ伝送性能解析に関する書籍はあまり出版されていない。さらに,高速なクラウド側通信から低速なエッジ側通信へのエッジゲートウェイ性能解析に関しては,まったく出版されていない。
本書は,IoTが今後進化したとしても,その基礎となる一生モノの通信性能解析手法を示すというコンセプトのもと,これまで多く出版されてきたloTビジネス本あるいは実装ハウツー本とは一線を画し,loT全体システムにおけるデータ伝送性能を計画設計するうえでの肝である,過渡的通信性能解析のための稀有な専門書である。
具体的には, IoTクラウド側TCP, UDP, Web, SOAPデータ伝送性能,および,IoTエッジ側CSMA型,マルチホップ型データ伝送性能,さらに,ゲートウェイ受信バッファ,送信パケット組立データ伝送性能の解析技術を扱った。また,その通信性能解析の数理的ツールとしては,確率過程,待ち行列,マルコフ過程,通信トラフィックシミュレータといった普遍的な解析手法を実際の例に当てはめて,その使い方を詳述している。

【読者へのメッセージ】
私は,メーカ技術者として長年にわたり通信制御の開発に携わり,その後,大学教員に転身しました。ともすれば早急な解決を迫られる開発現場の状況も熟知しています。その経験の中で,通信特性や過渡現象の予測の重要性を強く意識してきました。
通信システムの計画設計では,建築構造設計や電気回路設計という工学分野に比べて,「通信接続させてみて状況をみる」という文化が根強いように思われます。また,通信システムを計画設計するとき,「どうせ通信トラフィックを事前解析しても・・・・」「平常状態でなく過渡状態の解析モデルがない・・・」などという悩みがあることでしょう。
たしかに,現実の通信性能は,確率事象がからみあって起こっている複雑で不確定な事象ですね。単純化したモデルでは,予測と現実の性能数値が合うことは,限られた条件だけであることは同感です。
しかし,そこでシミュレーションや理論解析を「役に立たない」と切り捨てるのではなく,必要な精度で合わなくても振舞いの大局的な理解を我慢強く追及してほしいです。特に,学生の皆さんには,本書の基本理論を身に着けて,その先の何十年ものキャリアの中で,現実の複雑さと折り合いをつけながら基本理論を育てていってほしいと思います。
技術者や研究者や大学院生の皆さんが,実際のIoTシステム開発や運用において,本書で示した通信性能解析手法を使用してみて,その有用性を評価していただければ,私にとってこんなうれしい人生はありません。

これまで,IoT(Internet of Things)と題する本がたくさん出版されてきた。しかし,そのほとんどがIoTビジネス本あるいは実装ハウツー本であり,制御通信とインターネットという異種統合されたシステムの通信性能解析を扱った工学書は見当たらない。5Gをはじめとした近年のクラウド側通信の高性能化は目を見張るものがあり,通信性能解析する必要もないという考えからかもしれない。

しかし,IoTのThings側となる機器やセンサのエッジ側通信は必ずしも高性能ではない。組込み制御ネットワークやセンサネットワークなどリソースが乏しい場合や,建物や設備にすでに内蔵装備されており最新の通信システムに置き換えられない場合も少なくない。そうした低速なエッジ側通信と高速なクラウド側通信を統合した,いわば「ヘテロ接合通信」がIoTのデータ伝送性能の決定的特徴である。

クラウド側インターネット通信を代表するTCP通信性能解析はすでに確立された感があり,専門書も過去に多く出版されている。しかし,エッジ側の低速な組込み制御ネットワークやセンサネットワークにおけるデータ伝送性能解析に関する書籍はあまり出版されていない。さらに,高速なクラウド側通信から低速なエッジ側通信へのエッジゲートウェイ性能解析に関する書籍はまったく出版されていない。

ギガビットレートのクラウド側からキロビットレートのエッジ側通信へのゲートウェイに通信負荷が集中したときは,数千倍から数万倍のデータ伝送速度を吸収する必要がある。かつ,このような集中的通信負荷に対しては,定常状態解析でなく過渡解析でないと意味がない。この過渡的通信性能解析こそが,IoT全体システムにおけるデータ伝送性能を計画設計する上の肝となると思われる。

本書は,IoTクラウド側TCP,UDP,Web,SOAPデータ伝送性能,および,IoTエッジ側CSMA型,マルチホップ型データ伝送性能,さらに,エッジゲートウェイにおける受信バッファおよび送信バッファの伝送性能に関する解析技術を扱う。

その通信性能解析の数理的ツールとしては,確率過程,待ち行列,マルコフ過程,通信トラフィックシミュレータといった普遍的な解析手法を実際の例に当てはめて詳述した。もって,本書は,IoTが今後進化したとしても,その基礎となる一生モノの通信性能解析手法を示すことをめざす。

本書をまとめるにあたり多くの方々のご協力があった。特に,東京大学大学院情報理工学研究科の江崎浩教授,岐阜大学工学部電子情報工学科の原山美智子准教授,IIJ基盤エンジニアリング本部長の山井美和氏,NTTデータデジタルプラットフォーム課長の小山雅人氏には具体的な記述への助言やご指摘をいただいた。また,コロナ社には著者の熱意を汲んで出版への道を開いていただいた。ここに,皆様に御礼申し上げる次第である。

最後に,長時間にわたる自宅での執筆を許してくれた妻に感謝する。
2021年2月25日
蜷川 忠三

1.IoT通信性能解析
1.1 IoTの概要
 1.1.1 IoTとは
 1.1.2 IoT応用サービス
1.2 IoT通信の特徴
 1.2.1 IoT通信アーキテクチャ
 1.2.2 IoT通信プロトコル
1.3 IoTの通信性能解析
 1.3.1 通信性能解析は必要か
 1.3.2 通信トラフィック過渡状態
1.4 通信性能解析法
 1.4.1 通信性能シミュレーション
 1.4.2 性能理論解析
引用・参考文献

2.エッジ側制御ネットワーク通信性能解析
2.1 IoTにおけるエッジ側制御ネットワーク通信
 2.1.1 エッジ側制御ネットワーク
 2.1.2 CSMAメディアアクセス方式
2.2 組込み制御ネットワークの定常性能理論解析
 2.2.1 組込みシステムのシリアルデータ伝送
 2.2.2 データ伝送性能解析モデル
 2.2.3 データ伝送スループットの解析式
 2.2.4 データ伝送遅延の解析式
 2.2.5 データ伝送遅延解析式の検証
2.3 組込み制御ネットワークの過渡性能シミュレーション
 2.3.1 制御ネットワーク過渡的通信性能シミュレーション
 2.3.2 過渡的バースト通信負荷のモデル化
 2.3.3 バースト通信負荷シミュレーション
 2.3.4 データ伝送遅延時間の評価
2.4 組込み制御ネットワークの過渡性能理論解析
 2.4.1 過渡性能理論解析の負荷モデル
 2.4.2 過渡性能理論解析モデル
 2.4.3 漸近近似状態方程式
 2.4.4 漸近近似法解析例とシミュレーション検証
 2.4.5 過渡的バースト負荷の通信性能
2.5 センサネットワークの性能理論解析
 2.5.1 マルチホップ無線データ伝送方式
 2.5.2 センサ配置分布モデル
 2.5.3 センサ配置疎密の定量化
 2.5.4 各センサ配置モデルの最近隣距離比較
 2.5.5 マルチホップ無線データ伝送の理論解析式
 2.5.6 確率分布関数によるマルチホップデータ伝送時間解析
 2.5.7 マルチホップデータ伝送時間の統計フィッティング
2.6 センサネットワークの性能シミュレーション
 2.6.1 nsネットワークシミュレータ
 2.6.2 マルチホップデータ伝送シミュレーション
 2.6.3 マルチホップデータ伝送時間分布
引用・参考文献

3.クラウド側ネットワーク通信性能解析
3.1 IoTにおけるクラウド側インターネット通信
 3.1.1 インターネット通信性能評価の重要性
 3.1.2 インターネット遠隔監視における通信遅れの実例
3.2 インターネット通信のTCPプロトコル
 3.2.1 TCPプロトコルの基礎
 3.2.2 TCPプロトコルの動作
 3.2.3 TCPプロトコルのコネクション
 3.2.4 TCPプロトコルのウィンドウとフロー制御
 3.2.5 TCPプロトコルの輻輳アルゴリズム
3.3 TCPデータ伝送の理論解析モデル
 3.3.1 TCP/IP通信プロトコルの確率過程モデル
 3.3.2 TCP/IPトリプルACKパケットロス検出モデル
 3.3.3 TCP/IPのタイムアウトパケットロス検出モデル
 3.3.4 TCP/IP輻輳ウィンドウ制限のモデル
 3.3.5 TCP/IPデータ伝送フローのスループット
3.4 TCPデータ伝送性能の理論解析
 3.4.1 TCPデータ伝送性能の理論解析式
 3.4.2 TCPデータ伝送性能理論解析式の実測検証
引用・参考文献

4.エッジゲートウェイ通信性能解析
4.1 エッジゲートウェイの特徴と制約
 4.1.1 エッジゲートウェイの待ち行列モデル
 4.1.2 想定するエッジ側制御ネットワーク
 4.1.3 エッジゲートウェイ送信性能解析の必要性
4.2 エッジゲートウェイのクラウド側性能解析
 4.2.1 ゲートウェイ受信待ち行列モデル
 4.2.2 ゲートウェイ受信待ち行列の過渡解析
 4.2.3 ゲートウェイ受信バッファの過渡特性計算
 4.2.4 ゲートウェイ受信バッファ特性計算の検証
 4.2.5 ゲートウェイ過渡解析モデルの効果
4.3 エッジゲートウェイのエッジ側性能解析
 4.3.1 エッジ側制御ネットワークの制約
 4.3.2 エッジ側送信バッファの優先づけ
 4.3.3 エッジ側送信性能の理論解析モデル
 4.3.4 エッジ側送信優先バッファの遅延計算
引用・参考文献

5.IoT通信性能解析の応用例
5.1 設備制御システムのエッジ通信解析
 5.1.1 ビル設備監視制御システム
 5.1.2 BACnet設備制御エッジ通信
 5.1.3 BACnet/IPエッジ通信プロトコル
 5.1.4 BACnet/IP通信トラフィックシミュレーションモデル
 5.1.5 BACnet/IP通信トラフィックシミュレーション実行例
5.2 インターネット遠隔監視のクラウド通信性能解析
 5.2.1 インターネット遠隔電力監視制御
 5.2.2 IEEE 1888通信プロトコルとは
 5.2.3 IEEE 1888電力監視制御Webサービス
 5.2.4 IEEE 1888テストベンチ通信性能実験
 5.2.5 IEEE 1888通信性能シミュレーション
5.3 スマートグリッドのクラウドWebサービス性能解析
 5.3.1 スマートグリッド電力需要制御
 5.3.2 FastADR Webサービス通信の通信性能要求
 5.3.3 FastADRクラウドサーバの待ち行列モデル
 5.3.4 FastADRクラウドサーバの過渡通信理論解析
 5.3.5 FastADRクラウドサーバの過渡通信性能シミュレーション
引用・参考文献

付録
 付録A M/M/1待ち行列過渡解の逐次導出
 付録B ns-2シミュレーションスクリプトコード

あとがき
索引

蜷川 忠三

蜷川 忠三(ニナガワ チュウゾウ)

私は、三菱重工業で通信ネットワークを使った制御設計を30年間経験してきました。その後、岐阜大学電気電子工学科教授に転進し、最近は、IoTによる次世代電力系統における需要家電力制御システムの学術研究をしています。学術分野における系統だった理論を、開発分野における現実に合った実務に結び付けることが私の信念です。