信号・データ処理のための行列とベクトル - 複素数,線形代数,統計学の基礎 -
数学書と技術専門書の間を埋めることを目的とし,機械学習や最適化と密接につながる現代の信号処理の理解に必要な基礎数学を網羅。
- 発行年月日
- 2019/08/05
- 判型
- A5
- ページ数
- 224ページ
- ISBN
- 978-4-339-01401-3
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 広告掲載情報
【書籍の特徴】
ディジタルの時代には,信号は数ある「データ」の一種にすぎなくなり,これを適切に処理・解析するには,数学の知識がますます重要になってきています。特に,線形代数や統計学は重要で,その理解なしには研究開発が困難になるだけでなく,既存のアルゴリズムの理解や実装も難しいでしょう。本書では,信号処理研究者として長年研究してきた筆者独自の視点で,機械学習や最適化と密接につながっている現代の信号処理を理解するために必要な基礎数学を網羅しました。
【著者からのメッセージ】
一般的に,数学書はとてもレベルが高く,現実の課題に直面している技術者,研究者にとっても難しく感じられます。また個別技術の専門書は,数学の解説が断片的で,知識の点と点がなかなかつながっていきません。本書は,数学書と技術専門書の間を埋めることを目的としています。信号処理技術者や研究者,またこの分野に参入しようとしている大学生や大学院生が,高等学校の数学知識(プラスα)で読めるように配慮してあります。また,一通り大学初年度の数学を学んだものの,数年後に研究や開発で必要となったとき,どのように学び直したらいいのかわからない,という人でも理解しやすいように記述しました。なお,本書では直接触れていませんが,プログラミング言語のPython やMATLAB を意識した表記や構成になっています。
アナログの時代には,信号処理技術の理解には複素関数論が重要でした。しかし,ディジタルの時代には,信号は数ある「データ」の一種にすぎなくなりこれを適切に処理・解析するには,数学の知識がますます重要になってきています。特に,線形代数や統計学は重要で,その理解なしには研究開発が困難になるだけでなく,既存のアルゴリズムの理解や実装も難しいでしょう。本書では,信号処理研究者として長年研究してきた筆者独自の視点で,機械学習や最適化と密接につながっている現代の信号処理を理解するために必要な基礎数学を網羅しました。
一般的に,数学書はとてもレベルが高く,現実の課題に直面している技術者研究者にとっても難しく感じられます。また個別技術の専門書は,数学の解説が断片的で,知識の点と点がなかなかつながっていきません。本書は,数学書と技術専門書の間を埋めることを目的としています。信号処理技術者や研究者またこの分野に参入しようとしている大学生や大学院生が,高等学校の数学知識(プラスα)で読めるように配慮してあります。また,一通り大学初年度の数学を学んだものの,数年後に研究や開発で必要となったとき,どのように学び直したらいいのかわからない,という人でも理解しやすいように記述しました。なお,本書では直接触れていませんが,プログラミング言語のPythonやMATLABを意識した表記や構成になっています。
本書の特徴は,複素数から始めることです。通信や音声・音響を扱う場合,一度複素数を介した処理をする必要があります。したがって第1章で必要な複素数の知識が得られるようになっています。
第2章は,ベクトルの話です。高等学校の数学ではベクトルを平面・空間上の「長さを持った矢印」として習いますが,むしろ数列やプログラミング言語における配列とみなすべきです。また,単なる数の集まりではなく,連続関数もベクトルとしてみなすことができる点が,線形代数の醍醐味であり,そのことについて理解できるようにしてあります。
第3章では行列について,一通りの知識を得られるようになっています。行列に関しては,高等学校で行列を習っていない人にもわかりやすい説明を心がけました。なぜ行列などという演算を考えるのかを明確にするために,ベクトルの線形結合の観点から導入しました。行列を導入することで,連立1次方程式の見通しがよりクリアになります。
第4章からいよいよ抽象的な数学に突入します。基底と部分空間の概念は信号やデータの背後に存在する構造を理解するのに非常に有用です。特にランクや次元の概念により,信号やデータの見かけの次元と本当の次元を明確に区別することができるようになるのです。
第5章では,ベクトルどうしの位置関係を決める内積の概念を導入します。別々のデータの近さを測るための基礎概念を習得します。
第6章と第7章が本書での最初の山場です。固有値と固有ベクトルから固有値分解を定義できます。そして固有値分解を通じて,矩形行列に特異値分解を導入できます。特異値分解を用いると,連立1次方程式の解が一意に決まらない場合,または存在しないような場合にも何らかの「解」を得ることができます。この見通しをクリアにする道具が一般化逆行列と射影行列です。
第8章からは,データが不確かな振舞いをする場合について述べます。実際の信号やデータは観測するまでわからないので,何らかの「傾向」があるものとして信号処理アルゴリズムを組み立てる必要があります。その「傾向」が確率と呼ばれるものです。
そして第9章で,確率的な対象を処理するための基礎的な方法であるパラメータ推定を学びます。パラメータ推定とは,処理アルゴリズムに特性を調整できるツマミ(パラメータ)をつけて,そのツマミを観測信号やデータから決定する方法のことです。この考え方は,統計学や機械学習と大きな共通点を持っています。
最後の付録には,ベクトルや行列の関数の微分についてまとめました。ベクトルや行列の関数は,信号処理や機械学習では頻出の数学的テクニックです。本書では,トレースと全微分を用いた形式的な求め方について触れました。2乗誤差を扱う場合,この方法は非常に有用ですが,これについてまとめられている成書は多くないようです。
伝統的な信号処理に必要な数学であるフーリエ解析は,第1章で簡単に触れるに留めました。フーリエ解析の成書はすでにたくさん出版されているためです。
本書を執筆するにあたって,多くの方の協力を得ました。特に,新潟大学の村松正吾先生,大阪市立大学の林和則先生,東京工業大学の小野峻佑先生には大変有益なコメントをいただきました。付録のベクトル関数の微分については,林和則先生の助言が大変役に立ちました。図の作成には,筆者の研究室の山本紗有さんに助けてもらいました。筆者には画才がないので,とても助かりました。
2019年6月 田中聡久
1. 複素数
1.1 実数,虚数,複素数
1.2 複素数の演算
1.2.1 共役
1.2.2 複素数の加算
1.2.3 複素数の乗算
1.2.4 複素数の有理化と除算
1.3 複素数平面と極座標表示
1.3.1 複素数平面
1.3.2 極座標
1.3.3 複素数演算の複素数平面における意味
1.4 フーリエ級数
1.4.1 複素正弦波
1.4.2 フーリエ級数
1.5 むすび
章末問題
2. ベクトル
2.1 ベクトルとは
2.2 ベクトルの基本演算
2.3 ベクトルの幾何的解釈
2.3.1 和算
2.3.2 スカラ積
2.3.3 減算
2.3.4 ベクトルの長さ
2.4 ベクトル空間
2.5 むすび
章末問題
3. 行列
3.1 行列の基本
3.1.1 行列の考え方
3.1.2 行列の定義
3.1.3 行列の線形写像性
3.2 行列の基本演算
3.2.1 行列の和
3.2.2 行列の転置
3.2.3 行列の積
3.2.4 特別な行列
3.3 連立1次方程式と行列
3.3.1 連立方程式の行列記法
3.3.2 ガウスの消去法と階数
3.4 逆行列
3.4.1 逆行列の定義
3.4.2 2×2行列の逆行列
3.4.3 逆行列の性質
3.4.4 連立方程式の求解による逆行列の求め方
3.4.5 ユニタリ行列
3.5 行列式
3.5.1 行列式の定義
3.5.2 行列式の性質
3.5.3 逆行列と行列式
3.6 むすび
章末問題
4. 基底と部分空間
4.1 一次独立性と基底
4.1.1 ベクトルの一次独立性
4.1.2 基底
4.1.3 基底の交換と展開係数
4.2 部分空間
4.2.1 部分空間の定義
4.2.2 部分空間どうしの関係
4.2.3 行列により決まる部分空間
4.3 むすび
章末問題
5. 内積と直交性
5.1 内積とノルム
5.1.1 ユークリッド空間
5.1.2 正定値行列
5.1.3 内積の公理
5.1.4 ノルム
5.1.5 内積とノルムの性質
5.1.6 コサイン類似度
5.1.7 さまざまな内積空間
5.2 正規直交基底とその応用
5.2.1 正規直交展開
5.2.2 ユニタリ行列
5.2.3 正射影
5.2.4 グラム・シュミットの正規直交化
5.2.5 部分空間の直交性と直交補空間
5.3 ユークリッド空間への変換
5.4 むすび
章末問題
6. 固有値分解
6.1 固有値問題
6.1.1 固有方程式,固有空間
6.1.2 固有値・固有ベクトルの図形的意味
6.1.3 固有値分解と対角化
6.2 エルミート行列の固有値問題
6.2.1 固有値の実数性
6.2.2 固有ベクトルの直交性と対角化
6.2.3 固有値分解
6.2.4 正定値行列と固有値
6.2.5 行列平方根
6.3 一般化固有値問題
6.3.1 一般化固有値分解
6.3.2 エルミート行列の同時対角化
6.4 むすび
章末問題
7. 特異値分解,一般逆行列
7.1 特異値分解
7.1.1 特異値と特異ベクトル
7.1.2 特異値分解の導出
7.1.3 特異値と特異ベクトルによる表現
7.1.4 特異値分解は値域の正規直交基底を与える
7.2 一般逆行列
7.2.1 ムーア・ペンローズ一般逆行列
7.2.2 特異値分解による表現
7.2.3 逆行列を介した表現
7.2.4 一般逆行列による正射影の表現
7.2.5 連立1次方程式の解
7.3 むすび
章末問題
8. 確率ベクトル
8.1 確率
8.1.1 標本空間と事象
8.1.2 確率の公理
8.1.3 多変量の確率
8.2 確率密度関数と正規分布
8.2.1 累積分布関数
8.2.2 確率密度関数
8.2.3 多変量の確率密度関数
8.2.4 正規分布
8.3 平均と分散
8.3.1 平均と期待値
8.3.2 分散と共分散
8.3.3 白色化
8.4 むすび
章末問題
9. パラメータの推定
9.1 最尤推定
9.1.1 確率分布のパラメータ
9.1.2 尤度関数
9.1.3 正規分布の最尤推定
9.2 回帰モデルの最尤推定
9.2.1 回帰分析
9.2.2 最尤推定と最小2乗法
9.3 線形回帰の最小2乗法
9.3.1 単回帰の2乗誤差関数
9.3.2 重回帰の2乗誤差関数
9.3.3 射影定理
9.3.4 正規方程式と最小2乗解
9.4 主成分分析と次元削減
9.5 むすび
章末問題
付録:ベクトル・行列関数の微分
A.1 実数パラメータによる微分と最急降下法
A.1.1 評価関数の微分
A.1.2 最急降下法
A.2 全微分による勾配の求め方
A.2.1 全微分
A.2.2 トレース
A.2.3 全微分を用いた微分計算例
A.3 複素数パラメータによる微分
A.4 むすび
章末問題
引用・参考文献
章末問題解答
索引
読者モニターレビュー【Y.N.様(大学生)】
コロナ社様の次世代信号情報処理シリーズの入門ともなる1冊だと感じました。
今までになかった数学書と技術書の架け橋になる内容で,高校数学から発展した内容まで丁寧に解説されているのが魅力です。理工系の大学で授業についていけない場合にも役に立つのはもちろん,信号処理分野に馴染みのなかった人が必要な数学の知識を習得するのにとてもわかりやすい本だと思います。
まえがきにあったように,プログラミング言語PythonやMATLABで実装するときに役に立つ表記が用いられており,数学書よりもわかりやすい書き方で理解が進みます。基礎を学んだ後でプログラミングをする人も,今までプログラミングをやってきたけど信号処理はあまり触れてこなかった人にも役立つのではないでしょうか。数学書と技術書の架け橋という位置付けのため,プログラムのコードは載っていません。基礎知識を本書で理解しながら『Python信号処理』で手を動かすのが,最初のステップとして良いのではないかと読んでいて思いました。
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