構造物のモニタリング技術
効率的で客観的な性能評価技術,無人評価法として注目されるモニタリング技術の概要を解説
- 発行年月日
- 2020/11/20
- 判型
- A5
- ページ数
- 306ページ
- ISBN
- 978-4-339-05272-5
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
モニタリング技術の知識は,これまで個々の研究開発者への依存性が高くその習得に多数の研究論文を必要としてきた。本書は土木・建築分野と情報分野の知識を体系的にまとめ,各技術の到達点と課題を大まかに理解できるよう解説した。
構造物には,家屋やビルなどの建物関連,橋梁や道路および鉄道関連,船舶関連,火力・水力・原子力・風力などのエネルギー関連,産業施設関連などさまざまなものがあり,その規模も小さいものから大きいものまで多岐にわたる。その量は膨大であり,資産総額は数千兆円にも達するであろう。
一つ一つの構造物には果たすべき機能があり,その機能が大幅に低下したり,さらには停止したりすると,往々にして社会システムの一要素であるため,さまざまな社会的影響が出ることになる。
構造物の機能低下や停止の要因には,大きく分けると内部的なものと外部的なものの二つがある。内部的要因とは,経年劣化や損傷などにより構造物自体が弱くなることである。わが国では高度経済成長期である1970年代前後に大量に構築された構造物が,いわゆる想定寿命に近づきつつある。また,この時代に作られたものには初期品質が高くないものも多い。劣化や損傷を確認するために,わが国でも道路橋において目視による定期点検が数年前から義務化されたが,目に見える所だけの目視点検には不安も多い。実際,最近の国内外での事故は目に見えない構造部分の劣化や損傷が原因となっている例が多い。センサーによる定量的客観的情報をベースにした構造物のモニタリングと,そのデータをベースにした予防保全管理が将来の方向であることは間違いない。
もう一つの外部的要因とは,構造物に作用する外乱(荷重)に起因するもので,地震,強風,洪水などの自然現象に加え,道路橋で言えば,設計時に想定した車両の数倍もの重量の過積載車が通行するなど人為的なものもある。これらを事前に予測することは不可能である。したがって,事象が発生してからの適切な対応が重要となってくる。そのときに,威力を発揮するのは,地震や強風などの外乱の状況把握や,構造物が外乱を受けた後の状態把握であるが,数多くの構造物が対象になるとき,人力による評価に頼ることはできず,センサーによる状態把握が欠かせない技術となってくる。先に外乱の予測は不可能と述べたが,風や降雨などであれば,衛星観測網の充実とともに,極近未来の予測が可能になりつつある。そのためにも,密なセンサーや広範囲が把握できる衛星観測などのモニタリングがますます重要になってくる。
センシングによる構造物の状態把握および監視は,構造健全性モニタリング(structural health monitoring,SHM)と呼ばれ,ここ20年で,長足の進歩を遂げてきた。2009年には,私自身も編者の一人として参加し,およそ3000ページにも及ぶ書籍『Encyclopedia of Structural Health Monitoring(全5巻)』が出版された。この書籍はきわめて網羅的な内容であるため,この分野に関心のある構造関係者が,気軽に手に取って読む手ごろな本があればと思っていたところに,コロナ社から出版の誘いを受けたのが2017年の春であった。
代表的な構造物である建物や橋梁はもとより,できれば船舶も対象から外せないとなると,とても一人で書けるものではない。日本鋼構造協会の会長を数年来務める中で,建築,土木という垣根にとらわれずに活動できるテーマを探していたこともあり,中堅の方を中心に協会内に「鋼構造物のモニタリング研究小委員会」を発足させて,そこでの成果をまとめれば…というのが本書の出版の経緯である。幸い,船舶が専門の方にも入っていただくことができた。
2016年に,総合科学技術イノベーション会議から,実(フィジカル)空間とサイバー空間とを情報を通じてつなぐ「Society5.0」構想が提出され,ほぼ同時期に始まった第三次AIブームの中で,「実空間のモニタリング」があらゆる分野で重要なキーワードになりつつある。実空間を表し,かつAI技術が威力を発揮するのが画像情報である。モニタリングを取り巻く新しい技術としての「情報」,「AI」,「画像」を扱っているのも本書の特徴と言えるであろう。
2年足らずの間に本書をまとめていただいた池田芳樹委員長,阿部雅人副委員長ならびに委員各位に,心から感謝を申し上げたい。コロナ社の皆さんには書籍実現のきっかけから発行までたいへんお世話になった。
本書が広く読まれ,この分野の発展に寄与することを心から期待するものである。
2020年9月
日本鋼構造協会会長,城西大学学長
東京大学名誉教授,横浜国立大学名誉教授
藤野陽三
1.はじめに
1.1 構造モニタリング技術とは
1.2 構造モニタリングの目的
1.3 技術発展の背景と現状
1.3.1 技術の変遷
1.3.2 持続性とモニタリング
1.4 本書の目的と構成
1.4.1 本書の目的
1.4.2 本書の構成
2.構造モニタリングの基礎知識:計測
2.1 構造モニタリングに用いられる計測量
2.2 計測方法
2.3 振動モニタリングで利用する外乱
2.3.1 外乱の種類と特徴
2.3.2 外乱とそれに対する応答のモニタリング
2.4 計測器の設置と運用
2.4.1 設置
2.4.2 運用
3.構造モニタリングの基礎知識:分析
3.1 計測データ処理
3.1.1 オフライン型とオンライン型
3.1.2 信号処理と波形処理
3.2 モデリング
3.2.1 モデリングのタイミングと活用
3.2.2 モニタリングの目的とモデル化
3.2.3 モデルの検証と妥当性の確認
3.3 システム同定
3.3.1 同定法の分類
3.3.2 代表的なシステム同定法
4.構造モニタリングの基礎知識:判断
4.1 判定基準
4.2 性能指標の選択とその具体例
4.2.1 性能指標の選択
4.2.2 性能指標の具体例
5.情報分野からの基礎知識
5.1 AIと機械学習法の解説
5.1.1 AIの定義
5.1.2 機械学習の学習形態
5.1.3 機械学習を用いた異常検知
5.1.4 ニューラルネットワークと深層学習
5.1.5 サポートベクトルマシンとランダムフォレスト
5.1.6 代表的な外れ値検出手法
5.1.7 異常検知の評価法
5.2 IoT技術とセンサーネットワーク(無線通信)
5.2.1 構造モニタリングにおける無線通信への要求
5.2.2 IoT向け通信規格LPWA
5.3 ビッグデータとデータ科学
5.3.1 データスキル
5.3.2 データ科学の技術活用
5.4 ドローン
5.4.1 ドローンの概要と長所
5.4.2 ドローンに関する規制
5.4.3 建物の調査や点検へのドローンの利用
5.4.4 建物の災害調査へのドローンの利用
5.4.5 土木構造物の点検へのドローンの利用
5.5 先進的なセンシング技術
5.5.1 非接触センシング
5.5.2 非破壊センシング
6.適用事例:橋梁の振動モニタリング
6.1 適用事例から見える技術の現状
6.1.1 コンクリート橋
6.1.2 鋼橋
6.1.3 モニタリングの目的と実際
6.2 実務上有用と考えられる事例
6.2.1 コンクリート上部構造における補修・補強効果の確認
6.2.2 洗掘モニタリングにおける鉄道橋の運行管理
7.適用事例:建築構造物の振動モニタリング
7.1 適用事例から見える技術の現状
7.1.1 強震観測と特性モニタリング
7.1.2 制振・免震効果のモード特性としての把握
7.1.3 応答モニタリングと実用化システム
7.1.4 震動台実験によるモニタリング技術の検証
7.1.5 限界耐力計算とモニタリング
7.2 構造モニタリングから得られる情報
7.2.1 建物の振動特性
7.2.2 応答値と構造被害
7.2.3 応答値と非構造被害
7.3 構造モニタリングの費用
7.3.1 初期費用
7.3.2 維持管理費用
7.3.3 更新費用
8.適用事例:船舶の構造モニタリング
8.1 船舶の構造の特徴
8.1.1 海上を移動する巨大な鋼構造
8.1.2 溶接による薄板防撓構造
8.1.3 船体構造の強度評価
8.1.4 船体構造の破損例
8.2 船舶の構造安全性と規則
8.2.1 国際条約の枠組みと船級
8.2.2 船級協会の規則
8.2.3 船体構造モニタリングと船級
8.3 船体構造モニタリング
8.3.1 船舶のモニタリングシステム
8.3.2 船体構造モニタリングシステム
8.4 船体構造モニタリングの方向性
9.画像に基づくひび割れと亀裂の点検評価システム
9.1 ひび割れ検出と定量化に関する実用化システム
9.2 Auto-CIMAのシステム構成とひび割れ検出手順
9.3 ひび割れ検出技術に関する近年の研究事例
9.3.1 structure from motionを利用した方法
9.3.2 AIと深層学習を利用した方法
9.3.3 YOLOによる一般物体検出技術を用いたひび割れ検出
9.3.4 デジタル画像相関法を用いたひび割れ検出の研究事例
10.モニタリングの利活用,マネージメントとその課題
10.1 技術検証の目的の分類
10.2 技術検証のレベル
10.3 技術検証の事例
10.3.1 実験室レベルおよび数値シミュレーションレベルでの検証例
10.3.2 実構造物レベルでの検証例
10.4 個別技術の統合,組合せ,および総合判断
11.将来展望
11.1 構造分野と情報分野の連携と融合
11.2 地震観測と地震時健全性モニタリング
11.3 データプラットフォーム
11.4 デジタルツイン
11.5 BIM,CIM
11.6 スマートシティー
11.7 構造モニタリングの将来
引用・参考文献
索引
「建築技術」2021年3月号 掲載日:2021/02/24
JSSC会誌 No.43,2020年10月(日本鋼構造協会) 掲載日:2020/12/18
監修者の藤野陽三先生の書籍紹介を掲載いただきました。
誌面PDFをこちらからご覧いただけます。
出典元:日本鋼構造協会『JSSC会誌』No.43,2020.10,p.42
【以下,出典元より転載】
藤野 陽三 一般社団法人 日本鋼構造協会会長
(城西大学学長 東京大学名誉教授 横浜国立大学名誉教授)
建築物、道路、鉄道、橋梁などの社会インフラ、船などの構造物の製作、施工の段階では計測という形で従来からもモニタリングが行われてきた。建築物や社会インフラにおける機能性、耐久性、レジリエンスなど要求性能がますます増大する中で、供用中の構造物やその周辺環境をセンシングし、状態監視を行う必要が高まり、現実になってきている。
センサー、通信、演算、情報の蓄積など、いわゆるICT 関連の技術革新に加えて、画像情報や人工知能AIの活用など新しい展開とのマッチングの中で、この分野は急速に進展し、イノベーションが期待される分野でもある。
逆に言えば、これからの構造技術者はICT 技術とも深く絡むモニタリング技術の基礎知識を修得し、電子、通信、情報などの専門家にすべてを委ねるのではなく、自らの発想で新しいシステムの構築が創造できるようになることが望まれるのだと思う。
急速に発展している分野だけにおびただしい数の論文は発表されているが、基礎から学ぼうとしたときの入門教科書のような本が無い状況にある。2017 年の春、コロナ社から出版の勧めがあったとき、鋼構造物を横断的に扱う日本鋼構造協会(JSSC)の場で、学際的な分野である、構造物のモニタリング技術を建築、土木以外の分野の方にも集まっていただき、議論し、本としてまとめるのが望ましいと考えて、建築系の池田芳樹先生、土木系の阿部雅人博士にお願いし、また、造船の方にも、無線センサーを専門とする電子工学の方にも加わっていただき、理想の陣容の中で、JSSC の委員会として活動し、2 年という短い期間にまとめていただいた。いわゆるセンシング技術に加えて情報、AI、画像など新しいテーマも触れており、先を見た内容となっている。執筆者の方々に深くお礼を申し上げたい。
この本が「構造物のモニタリング技術」の分野に関心のある多くの方々に読んでいただき、この分野必読の本として皆さんの本棚に並び、分野の発展に寄与することを心から望むものである。会員の皆さま方に、是非、購読くださいますようお願い申し上げます。
光ファイバセンシング振興協会ウェブサイト 掲載日:2020/11/13
ウェブサイトインフォメーションにてご紹介いただきました。
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掲載日:2024/09/03
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掲載日:2023/01/11
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掲載日:2022/09/01
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掲載日:2021/07/30
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掲載日:2021/06/09
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掲載日:2021/06/01
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掲載日:2020/12/02
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掲載日:2020/12/02
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掲載日:2020/10/20
下記資料より本書の構成とより詳しい内容をご覧いただけます。
購入ご検討用にぜひご覧ください。