ヘッドマウントディスプレイ
HMDの性能・違い・選択・進化などを網羅的に取り上げた初めての書籍
- 発行年月日
- 2024/10/07
- 判型
- A5
- ページ数
- 238ページ
- ISBN
- 978-4-339-02691-7
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
【読者対象】
本書は,バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実感(AR)に関心を寄せる方や,ウェアラブルコンピュータや先端技術に興味のある方を対象としています。VRやARを実現する代表的デバイスであるヘッドマウントディスプレイ(HMD)を取り上げ,高校生から,社会人,研究者まで,幅広い層がHMDの技術とその進化を理解しやすいように解説しています。
【書籍の特徴】
VRやARといえばHMDをつけたユーザをイメージする人が多いと思います。これまでにVRやARに関する書籍は数多く出版されていますが,HMDはその中の一部として取り上げられるだけでした。本書は,HMDのみを深く掘り下げて様々な角度から一般向けに解説した初めての書籍であると言ってよいでしょう。HMDの仕組みや典型的な光学系を解説するだけではなく,HMDがどのように発展してきたのか,そもそもHMDを見る眼の仕組みはどうなっているのか,さらには映像視聴に留まらないHMDの新しい機能や用途についてどのような研究がなされているのか,といった多岐にわたる話題を取り上げています。読者の皆様には,HMDについての深い理解を得るだけでなく,HMDがもたらす未来の可能性に触れ,その魅力を感じていただけることを願っています。
【各章について】
本書は6章で構成されており,それぞれの章でHMDの重要な側面を詳しく解説しています。
1章では,まず本書の導入としてHMDの歴史や基本概念について紹介します。
2章では,HMDの性能や機能を理解するための基礎となる人間の視覚について解説しています。
3章では,古典的な光学系から最新の光学系まで,多様な実例を交えて紹介します。
4章では,執筆時点の最先端の研究事例を通じてHMDの進化の方向性を浮き彫りにします。
5章では,HMDを用いて視覚機能を自在に補正・矯正したり拡張したりする様々な試みについて紹介します。
6章では,視覚以外の感覚を提示する様々な多感覚HMDについて取り上げます。
あとがきでは,本書全体を振り返り,HMDの進化がもたらす生活や社会の未来像について展望します。
【著者からのメッセージ】
HMDはVRやARの体験だけではなく,私たちの未来を左右するかもしれないとても重要なデバイスです。本書を通じて,HMDの技術とその進化,そしてそれがもたらす未来についての理解を深めていただければ幸いです。エキサイティングなHMDの世界を感じ取っていただけたなら,執筆陣としてこれほどの喜びはありません。
【キーワード】
HMD,バーチャルリアリティ,拡張現実感,視覚ディスプレイ,光学系,視覚機能,視知覚の補正・矯正,視覚拡張,マルチモーダル
ヘッドマウントディスプレイ(HMD, head mounted display)は,バーチャルリアリティ(VR, virtual reality)や拡張現実感(AR, augmented reality)を実現するための代表的なデバイスである。HMDによって,コンピュータグラフィクスや実写の映像をあたかも空間の一部であるかのようにユーザーの視界に提示することができる。視覚は人間の情報入力の8割を占めるといわれており,HMDはVRやARのユーザー体験を大きく左右する重要なデバイスといえる。HMDにはスマートフォンをはじめとする他の視覚ディスプレイにはない特徴がある。まず,HMDはユーザーの頭部に固定され視界に直接働き掛けるデバイスであり,本質的にVRやARとの相性が良い。また,HMDは個人向けであり,他人の視界に影響を与えたり覗き込まれたりする心配がない。さらに,装着型でハンズフリーのため,利用場所の制約が少なく,広範囲に利用できる。
HMDは1960年代の登場後,大きな注目を集めるサイクルを何度か繰り返してきた。90年代前半のブームを経て,現在再びHMDに大きな注目が集まっている。2010年頃までは,民生用HMDの多くは,あくまでも映画などの既存の映像コンテンツを手軽に楽しむ「パーソナルテレビ」的な用途を想定していた。2010年代半ばから,VR用のHMDがOculus VR社(当時)やHTC社などから,また,AR用のHMDがMicrosoft社やMagic Leap社などから次々に登場し,現在に至るまで活況を呈している。
一定のクオリティのVRやARが身近になってきた一方で,近年はHMDの新製品や新サービスがさらに続々と登場し,学術界においてもHMDの研究開発が右肩上がりに増えている。多種多様なHMDは,それぞれ何が異なるのだろうか。特定の用途に最適なHMDは,どのような基準で選択すればよいのだろうか。HMDの性能や機能はどのように進化し,どこに向かおうとしているのだろうか。HMDが進化することで,われわれの生活や社会はどのように変化するのだろうか。本書は,こうした疑問に答えるべく,HMDの概要や歴史,典型的な光学系から最新の研究開発事例,さらには生活や社会の未来像まで,HMDに関する話題を網羅的に取り上げた初めての書籍である。
本書では,まず1章でHMDの定義や概要について述べ,大まかな分類や用途について説明する。また,これまでのHMDの発展の歴史を振り返る。2章では,人間の視覚機能について述べる。HMDの性能や機能は,人間の視覚機能と照らし合わせて理解する必要がある。具体的には,眼の構造や視機能,奥行き知覚などについて説明する。3章では,典型的なHMDの光学系について述べる。古典的な光学系から近年注目されている新しい光学系まで,多様な光学系の特徴をそれぞれの実例を交えて紹介する。4章では,より先進的な特徴や機能を備えたHMDの研究開発の最新事例を紹介する。「最新」事例はいずれ陳腐化するが,これらを紹介することで普遍的なHMD進化のベクトルが浮き彫りになることを狙っている。5章では,HMDを用いて人間の視覚機能を自由自在に編集するさまざまな試みについて述べる。特に,視知覚の困りごとを解決する視覚補正・矯正の試みと,人間拡張の観点からより柔軟に視覚機能を再設計する視覚拡張の試みを紹介する。6章では,視覚以外のさまざまな感覚を提示するマルチモーダル(多感覚)HMDについて取り上げる。あとがきでは,本書全体を振り返り,HMDの進化によって切り拓かれる生活や社会の未来像に思いを馳せる。
本書を通じてエキサイティングなHMDの世界を感じ取っていただけたなら,執筆陣としてこれほどの喜びはない。
2024年8月
清川清
1.ヘッドマウントディスプレイの概要
1.1 ヘッドマウントディスプレイの歴史
1.1.1 ヘッドマウントディスプレイの先史時代
1.1.2 ヘッドマウントディスプレイの誕生
1.1.3 ヘッドマウントディスプレイの黎明期
1.1.4 ヘッドマウントディスプレイの普及期
1.2 さまざまなヘッドマウントディスプレイ
1.2.1 VR用ディスプレイとしてのHMD
1.2.2 AR用ディスプレイとしてのHMD
1.2.3 透過性と映像チャネル数による分類
1.2.4 多様なヘッドマウントディスプレイの必要性
2.人間の視覚
2.1 眼の構造
2.1.1 眼球と外眼筋
2.1.2 角膜
2.1.3 虹彩と瞳孔
2.1.4 水晶体
2.1.5 網膜
2.1.6 視細胞
2.2 視機能
2.2.1 視力
2.2.2 視野
2.2.3 色覚
2.2.4 光覚
2.2.5 調節
2.2.6 眼球運動
2.3 奥行き知覚
2.3.1 単眼性の手がかり
2.3.2 両眼性の手がかり
2.3.3 奥行き感度
3.ヘッドマウントディスプレイの光学系
3.1 屈折型
3.1.1 視距離と視野角
3.1.2 アイボックス
3.1.3 接眼レンズ
3.2 反射屈折型
3.2.1 平面ハーフミラー型
3.2.2 Bird Bath型
3.2.3 曲面ミラー型
3.3 自由曲面プリズム型
3.4 ウェーブガイド型
3.4.1 曲面ハーフミラーによるコンバイナ
3.4.2 HOE/DOEによるコンバイナ
3.4.3 EPE光学系
3.4.4 LOE光学系
3.4.5 ピンミラーアレイ型
3.5 網膜投影型
3.6 ライトフィールド型
3.6.1 インテグラルフォトグラフィ
3.6.2 2枚スクリーンによるライトフィールド光学系
3.7 ホログラフィック型
3.8 ピンライト型
3.9 頭部搭載型プロジェクタ
4.ヘッドマウントディスプレイの最新研究事例
4.1 位置合わせ
4.2 光学的歪み
4.3 時間的整合性
4.4 色再現性
4.4.1 ディスプレイ色再現
4.4.2 色混合
4.5 ダイナミックレンジ
4.6 焦点奥行再現
4.6.1 調整可能焦点型HMD
4.6.2 多焦点型HMDおよび可変焦点型HMD
4.6.3 ライトフィールド型HMDとホログラフィック型HMD
4.6.4 フォーカスフリー型HMD
4.7 画角
4.8 解像度
4.9 光学遮蔽
5.ヘッドマウントディスプレイによる視覚の解放
5.1 視覚を解放するための要素技術
5.2 視知覚の補正・矯正
5.2.1 視知覚の補正・矯正のプロセス
5.2.2 視力の矯正
5.2.3 色覚異常の補正
5.2.4 斜視・斜位の矯正
5.2.5 変視症の矯正
5.2.6 視覚過敏の矯正
5.2.7 視機能検査
5.3 視覚拡張
5.3.1 視力の拡張
5.3.2 視野角の拡張
5.3.3 可視波長の拡張
5.3.4 動体視力・時間感覚の拡張
5.3.5 視点の拡張
5.3.6 視覚シミュレーション
5.3.7 視覚的ノイズの軽減
5.3.8 視界の多様な変調・置換
6.ヘッドマウントディスプレイと多感覚情報提示
6.1 ヘッドマウントマルチモーダルディスプレイ
6.1.1 深部感覚
6.1.2 表在感覚
6.1.3 前庭覚
6.1.4 嗅覚
6.2 ヘッドマウントディスプレイによる感覚間相互作用の活用
6.2.1 感覚間相互作用
6.2.2 Pseudo-haptics
6.2.3 リダイレクテッドウォーキング
6.2.4 感覚間相互作用による嗅覚提示
6.2.5 感覚間相互作用による食体験の提示
引用・参考文献
あとがき
索引
読者モニターレビュー【 N/M 様(業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】
本書は「バーチャルリアリティ学ライブラリ」の1巻目に位置する書籍である.本巻では,特に「HMD (Head Mounted Display;ヘッドマウントディスプレイ)」に関連して基礎から最新の研究事例まで幅広い解説がなされている.
まず,本書の特徴としては,まえがきにも記載されているが,『HMDに関する話題を網羅的に取り上げた初めての書籍である』という点である.こういった特定の分野について,網羅的に取り上げた初めての書籍という記述を目にすると,私自身,そういった書籍が出版された時代に出会うことができた,という特別感みたいなものを特に感じる(余談ではあるが,過去のレビューでも挙げたが,学生時代(2009年頃)にも,情報科学技術の応用例として教育工学の分野で何かと話題のブレンディッドラーニングに関する,日本における研究成果を取り入れた,日本で初の書籍にも出会ったことがある).そういったご縁みたいな感情がわき,いつも以上に丁寧に拝読させていただいた.
1章では,ヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)の概要として,HDMの歴史やいろいろなHMDについての記述がなされている.頭部に何かを装着して見え方を変化させようという考え方自体は,大昔からあったようで,虫眼鏡(ルーペ)のような光学レンズや視力の補正用にメガネといったものがそれに該当する.興味深いのは,18世紀にはメガネ屋というものが浮世絵に描かれ,大衆向けの読み物に「掛けた人が見たいものを何でも映し出すメガネ」という,今で言うところのVRやARを連想させるような内容が記載されている点である.
4章〜6章では,HMDに関連するさまざまな最新研究の事例が取り上げられている.個人的に興味深かったのは,5章の視覚の開放として,視力の補正・矯正や,実際に目に関連した疾患などで不自由している方々の視界をシミュレーションするといった単にエンタテイメントの分野だけでなく,医療の分野にまでHMDが活用できる事例には大変興味深いものがあった.
他にも6章のHMDを用いた多感覚情報提示の味覚や食体験の提示をHMDを用いた事例である「おばけジュース」,「メタクッキー」,「拡張満腹感システム」なども興味深かった.特に,「拡張満腹感システム」では,健康面でのダイエット効果にも一役買いそうだなと思った.また,本書にも記述があるが,実際に自身が食べているものがどのようにして身体に取り入れられていくかという大人だけでなく子どもへの食育教育にもHMDの可能性を感じた.
また,あとがきには,電気的な信号に変換して,視神経に刺激を与えることによる可能性も挙げられている.神経刺激による事例を深く知りたい方は,本シリーズの2巻目に位置する書籍である『神経刺激インタフェース』もぜひ読まれることをオススメする(こちらも,拙い文書ではあるが,私がレビューをさせていただいている).
読者モニターレビュー【 りん 様(業界・専門分野:IT関係)】
他のVR関連書籍が必須ではなくこれ単体である程度完結しており、また他関連書籍よりも深掘りされている分、HMDの仕組みや開発に関する実用的な知識を得ることができた。
HMDやソフトウェアをを開発する際の問題点や、問題解決の方向性などを具体的に示しており、VR等を使用する際の背景技術から現実空間と仮想空間との差異が開発の問題となるときに、解決策を見出すきっかけにすることができそうだと感じた。
特にコンシューマ向けというよりは業務向けの正確性をある程度求められるようなソリューション開発する際、気をつけるべき基本的な要素を本書を読めば理解できそうだと感じた。
また、ヘッドマウントディスプレイの仕組みや用途、将来こうなっていくであろうという形について本書を読み進めていくうちにイメージが形成され、個人的にワクワクした。
詳細はリンク先をご覧くだ。
記事題名:「HMD」にのみフォーカスした解説書籍『ヘッドマウントディスプレイ』、9/19(木)にコロナ社から発売
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