メディアのための物理 - コンテンツ制作に使える理論と実践 -

メディア学大系 17

メディアのための物理 - コンテンツ制作に使える理論と実践 -

  • 大淵 康成 東京工科大教授 博士(情報理工学)
  • 柿本 正憲 東京工科大教授 博士(情報理工学)
  • 椿 郁子 東京工科大准教授 博士(科学)

メディアコンテンツの制作に携わる人が,身に付けておくべき物理学の基礎をまとめた教科書

  • 口絵
ジャンル
発行年月日
2022/04/22
判型
A5
ページ数
240ページ
ISBN
978-4-339-02798-3
メディアのための物理 - コンテンツ制作に使える理論と実践 -
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定価

3,520(本体3,200円+税)

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介
  • 広告掲載情報

【読者対象】
ゲーム、動画、音楽などのコンテンツ制作を学びたい学生。特に、作品のリアリティに興味を持ち、現象の背後にある物理法則を理解したい学生。

【書籍の特徴】
「物理なんて勉強しても何の役に立つのかわからない」と思っている人に、「物理を勉強するとコンテンツ制作の役に立つ」ということを伝えたいと思って書いたのが本書です。物が動く、見える、聞こえるといったことの背後にある物理法則を、具体的な制作手法と関連付けながら解説します。また、撮影や録音などに用いる機器の動作原理についても説明します。

【各章について】
1章は物理の基礎で、2章以降に進むために必要な最低限の内容がまとめられています。2章は画像処理に関する章で、人間の視覚と画像の表現、そして様々な映像機器に関連する内容が集められています。3章はCGに関する章で、物の見え方や動き方を再現するために必要な理論を扱います。4章は音に関する章で、空気の粗密波としての音の性質と聞こえ方、そして録音再生機器の原理が述べられています。5章はゲームとVRに関する章で、仮想空間の中での物体の動きや、それを再現するための機器の原理を説明します。6章は作品のストーリーに関する章で、相対性理論や量子力学といった物理理論が、SF的な要素を持つ作品の中にどのように関わっているかを紹介します。

【著者からのメッセージ】
ゲームの中で投げたボールが、放物線を描かずにまっすぐ飛んでいったら、なんだか不自然だと思いませんか。でも、みんなが投げたときは放物線を描くのに、特定のキャラが投げたボールだけはまっすぐ飛んでいくのであれば、そのキャラの凄さが引き立つと思いませんか。物理を学ぶというのはそういうことです。現実世界を十分に理解したうえで、ときにはあえてそれを踏み外す、そんなコンテンツ制作のために本書を活用してもらえたら幸いです。

メディアの中の世界は,現実世界から自由であると同時に,束縛も受けている。人間が宙に浮くアニメや,エネルギーが無尽蔵に作られるゲームを作るのは作者の自由だが,そこには「非現実的だ」という批判がつねに伴う。なにが現実的で,なにが非現実的であるかを知るためには,現実世界を説明する理論を知っておく必要がある。そして,そのような理論こそが物理学である。

本書は,メディアコンテンツの制作に携わる人が,前提として身に付けておくべき物理学の基礎をまとめた教科書である。リアルなコンテンツを作ろうとする人には,直接的な制作技術ガイドとして役立つだろう。物理的に正しいコンテンツを作る最も簡単な方法は,現実を表面的に観察して真似ることではなく,その背景にある理論に従って物や人を動かすことである。一方,ありえない世界を描くコンテンツを作る人には,現実世界をリアルに描くこととの対比において,非現実的なアイディアがより輝くということを知ってほしい。いずれの場合にも,物理学の知識は必ずや制作物のクオリティを上げることに役立つはずである。

1章は,メディアのすべての分野に共通する物理学の基礎のまとめである。高校で習っているはずの内容も多く含まれるが,前提知識としてしっかりと身に付けてほしい。

2章では,画像処理に関わる物理を扱う。マルチメディアという言葉が当たり前の時代にあっても,画像情報は依然としてメディア処理の中心であり,カメラやディスプレイの背景にある物理法則を知ることはきわめて有用である。

3章は,コンピュータグラフィクス(CG)に関連する章である。物がどのように見えるかをシミュレートするためには,気体や液体を含む物体がどのように運動し,それがどのような光との反応を経てわれわれの目に入るかを知ることが重要である。

4章は,音に関する物理の章である。音は,ともすると直感的な鑑賞の対象となってしまいがちであるが,波としての性質を理解することにより,さまざまな音の加工が系統的に行えるようになるはずである。

5章では,ゲームとバーチャルリアリティ(VR)に特化した内容を扱う。ゲームやVRで描かれる世界の中では,さまざまな物の複雑な運動をリアルタイムで描く必要がある。そのために必要となるさまざまな運動法則について本章で解説する。

6章は少し趣向を変えて,視聴覚に直接訴える内容というよりは,作品のストーリーを支える物理法則について述べることにした。物理学としてはやや難しい内容も含まれるが,ストーリー設定にリアリティを与えるための知識として読んでほしい。

本書は,1,4,6章を大淵が,2章(2.1~2.2節)と3章を柿本が,2章(2.3~2.5節)と5章を椿が担当した。1章以外はそれぞれ独立した内容になっており,どの章から読んでも構わない。本書が,より豊かなメディアコンテンツの制作のための一助となれば幸いである。

2022年2月
著者を代表して 大淵康成

1.物理の基礎
1.1 さまざまな運動
 1.1.1 力と運動
 1.1.2 運動方程式
 1.1.3 力積と運動量
 1.1.4 仕事とエネルギー
 1.1.5 万有引力
1.2 波
 1.2.1 光と音
 1.2.2 波長・周波数・速度
 1.2.3 反射と屈折
1.3 電磁気学
 1.3.1 静電場とクーロンの法則
 1.3.2 定常電流と回路
 1.3.3 電場と磁場
演習問題

2.画像のための物理
2.1 色の理論
 2.1.1 色の知覚
 2.1.2 表色系
 2.1.3 分光と等色関数
 2.1.4 xy色度図と色域
2.2 ディジタル画像
 2.2.1 標本化と解像度
 2.2.2 量子化と画素
 2.2.3 HDR画像
 2.2.4 3次元画像
2.3 映像機器のための電子工学
 2.3.1 半導体
 2.3.2 ダイオード
 2.3.3 トランジスタ
 2.3.4 イメージセンサ
 2.3.5 AD変換
 2.3.6 SN比
2.4 映像機器のための光学
 2.4.1 プリズム
 2.4.2 偏光
 2.4.3 光学フィルタ
 2.4.4 カラーフィルタ
 2.4.5 レーザ
2.5 映像機器の原理
 2.5.1 カメラ
 2.5.2 ディスプレイ
 2.5.3 プロジェクタ
演習問題

3.CGのための物理
3.1 幾何光学とディジタル画像
 3.1.1 ピンホールカメラと投影および撮影の原理
 3.1.2 投影変換
 3.1.3 レンズ
3.2 光の反射モデル
 3.2.1 拡散反射と鏡面反射の近似モデル
 3.2.2 レイトレーシング法
 3.2.3 完全鏡面反射と屈折
 3.2.4 配光特性
 3.2.5 光の散乱と吸収
 3.2.6 レンダリング方程式と経路追跡法
 3.2.7 ボリュームレンダリング方程式とレイキャスティング法
 3.2.8 物理ベースレンダリング
 3.2.9 波動光学とCG
3.3 計測技術
 3.3.1 形状の計測
 3.3.2 反射特性の計測
 3.3.3 モーションキャプチャの原理
3.4 動力学
 3.4.1 動きの計算の基本
 3.4.2 有限要素法
 3.4.3 ばねモデル
3.5 流体力学
 3.5.1 流体方程式
 3.5.2 格子法と粒子法
 3.5.3 stablefluids法
 3.5.4 粒子法による応用例
演習問題

4.音響処理のための物理
4.1 運動方程式と振動現象
 4.1.1 空気の振動としての音
 4.1.2 単振動
 4.1.3 単振動のエネルギー
 4.1.4 減衰振動
 4.1.5 強制振動
 4.1.6 連成振動
 4.1.7 波動方程式
4.2 音の伝搬
 4.2.1 音の速さ
 4.2.2 縦波と横波,変位波と密度波
 4.2.3 球面波と平面波
 4.2.4 進行波と定常波
 4.2.5 音の反射・回折・屈折
 4.2.6 二つの音の干渉
 4.2.7 ドップラー効果
 4.2.8 衝撃波
4.3 共鳴と音階理論
 4.3.1 管楽器の共鳴
 4.3.2 弦楽器の共鳴
 4.3.3 ハーモニーと音律
4.4 音響機器のための電磁気学
 4.4.1 電磁誘導と電磁力
 4.4.2 電気回路
 4.4.3 マイクロフォンとスピーカー
 4.4.4 アンプ
演習問題

5.ゲームとVRのための物理
5.1 衝突の理論
 5.1.12 物体の衝突と運動量保存則
 5.1.2 壁や床への衝突と反発係数
 5.1.3 力積と運動量との関係
5.2 質点系
 5.2.1 外力と内力
 5.2.2 質点系の質量中心と運動方程式
 5.2.3 質点系の運動量保存則
5.3 回転と角運動量
 5.3.1 角速度と角加速度
 5.3.2 角運動量
5.4 剛体の力学
 5.4.1 剛体と質点系
 5.4.2 剛体の並進運動と回転運動
 5.4.3 作用線の定理と力のつり合い
 5.4.4 トルク
 5.4.5 剛体の角運動量
 5.4.6 角運動量保存則と回転運動の運動方程式
 5.4.7 回転運動の運動エネルギーと慣性モーメント
5.5 VR機器の原理
 5.5.1 ヘッドマウントディスプレイの構成
 5.5.2 加速度センサ
 5.5.3 ジャイロセンサ
演習問題

6.作品世界の中の物理
6.1 相対性理論と宇宙論
 6.1.1 相対性理論とは
 6.1.2 ウラシマ効果
 6.1.3 E=mc
 6.1.4 ブラックホールとワームホール
 6.1.5 因果律の破れ
6.2 量子力学と素粒子論
 6.2.1 波なのか粒子なのか
 6.2.2 シュレディンガー方程式と波動関数
 6.2.3 タイムマシンとパラレルワールド
演習問題

引用・参考文献
演習問題解答
索引

大淵 康成

大淵 康成(オオブチ ヤスナリ)

大学では物理学科に所属し、光物性の研究をしていました。その後、会社に入って情報分野に進み、ニューラルネットワークの研究をするようになりました。始めてみてわかったのですが、ニューラルネットワークの世界では、大学で学んだ統計力学の知識が多いに役立ちました。その後、再度研究分野を変更し、音声認識の研究に携わるようになりました。その頃、音声認識にニューラルネットワークを使うのは、やや時代遅れという感じでしたが、それから15年ぐらいたって、深層学習という言葉とともに、ニューラルネットワークが脚光を浴びる時代が再び訪れました。

2015年に大学に移ってからは、音声認識だけでなく、音響信号処理や音楽情報処理など、音に関わる様々な分野を対象に研究を続けています。自分の住み慣れた分野を離れて新しい分野に進むのは勇気がいりますが、これまでの経験から、様々な研究分野は思いがけないところで繋がっていて、他分野の経験はきっとどこかで役に立つと思っています。

私自身は楽器の演奏は全くできないのですが、研究室には楽器が得意な学生さんも多く、自分の演奏を題材とした研究テーマなども提案してくれます。そういったテーマでも、技術や理論の側から支援できることが沢山あります。もちろん、昔からやっている音声認識の分野でも、まだまだやってみたいテーマはあって、あれやこれやと考えながら楽しい研究生活を送っています。

柿本 正憲

柿本 正憲(カキモト マサノリ)

大学4年生のとき、NASAのジェット推進研究所が制作した宇宙船と土星のコンピュータグラフィックス作品に衝撃を受けました。CGを使えば自由に世界や宇宙を飛び回れることを知り、自分もこんな映像を作ってみたいと思いました。卒業後は企業の研究所、ベンチャー企業、外資系企業で研究やソフトウェア開発を行うほか顧客支援の技術者も務めましたが、一貫してCG技術に関わってきました。特に私が20代30代だった1980~90年代はCG技術が急速に発展し普及した時代です。新しい技術との遭遇の連続でエキサイティングな日々を過ごしました。

ディジタル技術の専門家として大学で講義をしたりCG技術の研究を行ったりする一方、趣味でアルペンスキー競技を長年続けています。技能や筋力や技術を磨き、道具を調整し、コース状況を予測してタイムを競うことは仕事とは対照的なアナログの世界ですが、深く考えるのが重要、という点で共通です。いずれはCGやVRの仕組みで競技スキー技能を向上させタイムを縮めるシステムを作りたいと思っています。

椿 郁子

椿 郁子(ツバキ イクコ)

学部で物理学を、大学院で情報科学を専攻しました。現在、本書タイトルと同じ名前の講義を担当しています。コンテンツ制作に役立つという目標のもと、講義で扱う項目を、物理学がカバーする広範な分野の中から大いに悩んで選択してきました。直接役立つ項目もあれば、本質の理解のために間接的に役立つようなものもあります。本書も同じ観点で内容を選びました。
ずっと後に思わぬところで役立つことも多いのが物理の特徴だと思います。本書が、後からじわじわと思い出すような学びの助けになることを願っています。

掲載日:2023/08/01

電子情報通信学会誌2023年8月号

掲載日:2022/10/17

情報処理学会誌「情報処理」2022年11月号広告

掲載日:2022/07/04

「電子情報通信学会誌」2022年7月号広告

掲載日:2022/07/04

「日本音響学会誌」2022年7月号広告

掲載日:2022/05/07

読売新聞広告掲載(2022年5月7日)

掲載日:2022/04/18

情報処理学会誌「情報処理」2022年5月号広告

掲載日:2022/04/01

「電子情報通信学会誌」2022年4月号広告

☆シリーズ特設ページ☆