神経刺激インタフェース
VRで感覚を生じさせる仕組みが神経刺激インタフェースである。この分野を1冊で解説。
- 発行年月日
- 2024/03/28
- 判型
- A5
- ページ数
- 176ページ
- ISBN
- 978-4-339-02692-4
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
【読者対象】
本書は,バーチャルリアリティ(VR)やヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)に関心を寄せる方や,脳科学,神経科学に興味のある方を対象としています。本書はVRやHCIの応用を主眼に置いて,神経や脳に働きかける技術である神経刺激インタフェースを一つの領域とし,高校生や社会人,研究者など多くの方が分かりやすいように解説しています。
【書籍の特徴】
VRやHCIに関連する書籍は多数出版されており,その中の一部として神経刺激に関する解説も行われてきました。本書はこれまでに焦点の当たってこなかった神経刺激に主眼を置き,触覚や味覚,前庭感覚,脳をはじめとする様々な神経系に働きかける技術がどのように発展してきたのか,どのようにVR・HCIの分野で活用されているのかを解説したものになっています。神経刺激はVRを題材としたSF(サイエンスフィクション)小説でも取り扱われるような技術です。読者の方は,楽しみながらVRの先端的な領域である神経刺激の領域に対する理解を深めていただけるでしょう。
【各章について】
本書は5章で構成されていますが,VRやHCIで盛んに利用されるインタフェース技術である,3章の非侵襲刺激に多くの紙面を割いています。
1章では,「神経刺激とVRの歴史」として,後述の電気刺激の歴史について解説しています。
2章では,「侵襲性と非侵襲性の刺激」として,神経刺激の分類を解説しています。
3章では,VRやHCI分野で盛んに研究されている経皮電気刺激や磁気刺激について「非侵襲刺激」として解説しています。また,この章では筋や腱,触覚,味覚,前庭感覚等多様な感覚器・効果器に関連した神経刺激について解説します。
4章では,安全に配慮した研究を実施するために「神経刺激の安全性」について解説しています。
5章では,近年急激に身近になってきている経皮電気刺激の応用について解説しています。
【著者からのメッセージ】
神経は人の情報処理機構の実体であり,VRで扱う「体験」は全てこの神経系を通して得られた感覚や神経系を通して起こした行動などによってもたらされます。VRにおいて感覚をいかにして作り出すのか,行動をいかにして誘発するのかは,非常に重要なテーマとして扱われてきました。神経刺激はこれらを実現する一つの技術であると共に,それがVRにおいて十分に活用されるには,解決すべき課題がまだまだあります。VRやHCIと共に,これから更なる発展が期待される神経刺激について,初学者から研究者までの多くの方に楽しく理解していただき,神経刺激の魅力が多くの方に伝われば幸いです。
【キーワード】
神経刺激,インタフェース,バーチャルリアリティ,感覚ディスプレイ,ヒューマンコンピュータインタラクション,電気刺激,磁気刺激
本書は日本バーチャルリアリティ学会編のバーチャルリアリティ学ライブラリの第2巻として,同学会研究委員会の1つである,神経刺激インタフェース研究委員会にて企画した書籍である。この書籍では,VRの中でも先端的な内容である神経刺激インタフェースという分野を取り扱っている。
お読みいただくにあたり,できるだけ本書のみで神経刺激に関する基礎研究から実応用までおおよそ理解できるように構成した。一方で,バーチャルリアリティ(VR, virtual reality)という近年では耳なじみとなってきた技術・学術分野において,神経刺激がどのように研究されて発展してきたのか,現在の神経刺激技術はVR分野においてどのように考えられているのかといった,神経刺激以外の技術との対比の関係はVR技術に精通しなければ理解することが難しいだろう。神経刺激には刺激するための目的があり,その目的を達成するためには神経刺激を利用する利点と欠点が存在する。読者諸氏の神経刺激への理解を深め,今後神経刺激の研究や利活用を検討する際には是非とも『バーチャルリアリティ学』をご一読いただきたい。
昨今ではヘッドマウンテッドディスプレイ(HMD, head mounted display)が安価で販売されるようになり,さまざまなコンテンツも充実してきていることから,VRという用語からは頭にかぶって使う装置を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。一方で,VRを題材にしたアニメや小説,漫画などのコンテンツも数多く見受けられるようになってきている。そうしたコンテンツの中には,神経刺激を利用して高度なVR体験を実現しているという「背景設定」がなされており,神経刺激が未来のVRやAR(拡張現実,augmented reality)技術と目されているといってもよいだろう。このような背景設定をもつコンテンツとして有名なアニメーション作品としては,『攻殻機動隊』が挙げられる。比較的新しい作品としては『ソードアート・オンライン』や『アクセル・ワールド』が明示的に神経刺激を使っている設定であるといえる。どの作品も非常に素晴らしい作品であるので,本書読者には是非ともご覧いただくことをお勧めする。
このようにSF(science fiction)作品の世界でも取り上げられてきている神経刺激手法がこれまでどのようにVR分野にて発展し,どのように利活用されてきたのかを,本書では詳しく解説している。本書読者には神経刺激のこれまでを本書で学び,神経刺激インタフェースの未来を考える一助としていただきたい。
VRにおいて,感覚提示や感覚変容の技術が非常に重要であることは,本書読者は既にご理解いただいていることと思う。神経刺激インタフェース研究においては,感覚提示ディスプレイ技術として利用されている例が多く見受けられる。最もポピュラーなものとしては指や手などの皮膚上に電極を設置して電流を印加することで触覚を生起させるものだろう。経皮電気刺激のもつ能力は感覚の提示だけではない。近年では製品としてもよく見かけるようになってきたが,筋電気刺激は筋肉を電気刺激によって収縮させることで,運動を誘発する技術や,脳を電気刺激や磁気刺激によって刺激することで脳機能を高める刺激手法などが存在する。さらに,唾液腺などの漿液腺分泌に介入する電気刺激の研究なども存在する。
これらの多数の神経刺激はVR分野以外に利活用先があり,各分野で利用される刺激手法に関する知見が集約され,書籍やレビュー論文としてまとめられている。一方で,VR分野においては神経刺激による感覚提示手法や運動誘発手法に関してまとめられた書籍などはない。これは,利用される神経刺激が多種多様で,応用先も刺激の特性に合わせて多様だからと考えられる。このため神経刺激を広範に扱う研究に取り組むハードルは高いといえるだろう。本書が神経刺激インタフェースの研究を志す学生・研究者諸氏の手助けになる書籍となればよいと考えている。
また,神経刺激インタフェースの研究や開発を行う際に問題となりえるのが,その安全性である。安全性に関する知見は実施されたこれまでの研究によって日々更新されている。一方で,神経刺激インタフェース研究をこれから始めようと考えている学生・研究者諸氏には,ある程度専門の知識がなければ理解しにくいところもあるだろう。本書では神経刺激において世界的に受け入れられつつある安全性のガイドラインについても詳しく解説している。ご注意いただきたいのは,神経刺激はそのメカニズムが完全には解明されていないことや,手法によっては侵襲性が高いと考えられるものがあること,長期的な影響がわからないことから,本書で取りあげる既存のガイドラインが必ずしも安全性を保障するものではないということである。
神経刺激と一口に言っても,さまざまな神経刺激手法がある。最もわかりやすいものは電気刺激だろう。電気刺激はその名のとおり,身体に電圧や電流を印加して神経系に働きかける方法である。電気刺激以外にも,磁気刺激や超音波,ひいては薬剤を使った刺激も神経刺激ということができるだろう。本来であれば神経刺激はこれらすべてを網羅した技術領域であるが,本書はVRに関連した神経刺激を扱うものとする。VRにおいてよく使われる神経刺激としては,やはり電気刺激が他の刺激手法と比較してはるかに多いだろう。これは,電気刺激がコストの面でも扱いやすさの面でも,刺激装置のサイズの面でも他の手法より優れているためである。このため,本書では一部電気刺激以外の手法も解説するが,多くは電気刺激を対象としている。また,電気刺激もさらに細かく分類することができる。針などを電極として利用するために身体に挿入して刺激する侵襲的な手法と皮膚上にゲルや皿電極を設置して電流を印加する非(低)侵襲な手法である。非侵襲な手法を経皮電気刺激と呼ぶ。非侵襲な手法で神経を刺激することが可能であることから,VRやHCIの分野では非侵襲な経皮電気刺激が主として利用される。よって,本書でも経皮電気刺激による神経刺激インタフェースについて解説している。なお,経皮電気刺激は非侵襲とされる場合と低侵襲とされる場合があるが,本書では非侵襲として扱うものとする。
本書を通して,神経刺激インタフェースへの興味をもち,読者諸氏の勉学や研究開発の推進に寄与できればと願っている。
末筆となったが,本書を執筆するにあたり,多くの協力をしてくださった日本バーチャルリアリティ学会の関係者の皆様に深く感謝を申し上げる。また,本書内の図を作成してくださった,大阪芸術大学芸術学部アートサイエンス学科の井上七海氏,仁田脇珠惟氏の両氏にもここで深く感謝申し上げる。
2024年1月
著者を代表して 青山一真
第1章 神経刺激とVRの歴史
1.1 電気刺激の歴史を学ぶ重要性
1.2 電気の発見
1.3 ライデンびんの登場と静電気研究の発展
1.4 ガルヴァーニの発見と動物電気
1.5 神経刺激装置の起こり
1.6 バーチャルリアリティへの神経刺激の応用
第2章 侵襲性と非侵襲性の刺激
2.1 侵襲性神経刺激とその研究の実施
2.2 感覚受容細胞や軸索末端に対する襲性神経刺激インタフェース
2.3 感覚や運動の神経軸索に対する侵襲性神経刺激インタフェース
2.4 脳神経に直接接続する侵襲性神経刺激インタフェース
第3章 非侵襲性刺激
3.1 非侵襲性刺激の総論
3.1.1 非侵襲性刺激の定義
3.1.2 末端器官や末梢神経系への刺激
3.1.3 中枢神経系への刺激
3.2 筋電気刺激
3.2.1 筋電気刺激の定義と原理
3.2.2 侵襲性と非侵襲性の筋電気刺激の例
3.2.3 筋電気刺激による身体所有感への影響
3.3 触覚電気刺激
3.3.1 触覚電気刺激の概要
3.3.2 指先の触覚を提示するディスプレイ技術
3.3.3 皮膚電気刺激
3.3.4 刺激の安定化
3.3.5 皮膚電気刺激の応用
3.4 腱電気刺激
3.4.1 腱がもたらす感覚と反応
3.4.2 骨格筋周辺の自己受容器の構造と機能
3.4.3 腱への刺激と効果
3.5 味覚電気刺激
3.5.1 味覚の受容とおいしさ
3.5.2 味覚電気刺激の基礎
3.5.3 味覚電気刺激の応用
3.6 前庭電気刺激
3.6.1 前庭電気刺激の概要
3.6.2 GVSがもたらす平衡感覚の神経支配
3.6.3 GVSがもたらす加速度知覚と身体応答
3.6.4 電流刺激と前庭器官
3.6.5 身体応答の評価手法
3.6.6 VR等の感覚提示技術への応用
3.7 視覚電気刺激
3.7.1 視覚電気刺激の概要
3.7.2 眼球の構造
3.7.3 侵襲性神経刺激による視覚提示
3.7.4 非侵襲性神経刺激による視覚提示
3.8 嗅覚電気刺激
3.8.1 嗅覚電気刺激の概要
3.8.2 嗅覚の受容と情報伝達
3.8.3 中枢神経系への電気刺激
3.8.4 末梢神経系への電気刺激
3.9 経頭蓋電気刺激
3.9.1 経頭蓋電気刺激の概要
3.9.2 経頭蓋直流電気刺激
3.9.3 経頭蓋交流電気刺激
3.9.4 経頭蓋ランダムノイズ刺激
3.9.5 VRにおけるTCSの利用例
3.9.6 TCSを用いる際に考慮すべきこと
3.10 経頭蓋磁気刺激
3.10.1 経頭蓋磁気刺激の概要
3.10.2 刺激部位の同定
3.10.3 刺激強度
3.10.4 相関と因果
3.10.5 刺激方法の種類
3.10.6 VRにおけるTMSの利用例
3.10.7 TMSの安全性
3.10.8 TMSとTCSの比較
3.11 漿液分泌に影響を与える電気刺激
3.11.1 効果器としての漿液分泌腺
3.11.2 唾液腺への電気刺激
3.11.3 涙の分泌を調整する電気刺激
第4章 電気刺激の安全性
4.1 電気入力の安全性
4.1.1 電気入力の種類
4.1.2 電気入力の危険性
4.1.3 電流による影響
4.1.4 電圧による影響
4.1.5 周波数による影響
4.1.6 時間による影響
4.1.7 経路と身体部位
4.2 安全のために
4.2.1 設計指針
4.2.2 制約
第5章 神経刺激の応用
5.1 神経刺激の応用分野
5.2 XR技術と人間拡張への応用
5.2.1 視覚電気刺激
5.2.2 触覚電気刺激と筋電気刺激
5.2.3 味覚電気刺激
5.2.4 前庭電気刺激
5.3 医療・ヘルスケア・美容への応用
引用・参考文献
索引
読者モニターレビュー【 河本 倫 様(業界・専門分野:IT業界)】
ところどころ学習していないとわからない要素があるものの、その点について説明が都度あったため詰まらず読むことができた。
また、VR等のフィードバックデバイスを開発する際に提示する刺激についてどういった性質の刺激を与えることがより効果的なのかといったことや提示に関する留意点など、開発段階で検討する事がある程度詳細に書かれている。
それに加え、実際に過去に行われた実験や製品化された商品・機器、今後応用が期待される物など、開発の際に疑問に挙がるであろう事例も書かれているため参考になった。
また、フィードバックデバイスのフィードバックアプローチ方法やその原理等、ユーザー目線ではあまり意識しない点について理解することができた。
読者モニターレビュー【 N/M 様(業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】
本書は「バーチャルリアリティ学ライブラリ」の2巻目に位置する書籍である.神経刺激といえば,まず思いつくのがSFアニメ・映画・小説などで取り扱われていることを容易に想像できるだろうと思われる.そういった身近なVRの領域でも,本巻では,特に「神経刺激インタフェース」について基礎から解説がなされている.
1章では,神経刺激インタフェースについて扱う前の準備段階として,そもそも電気とは何か?という電気の発見の歴史から分かりやすく解説してある.よく実験系のバラエティ番組などで見かけるであろう,ライデン瓶を使った「人間電線(百人おどし)」という電気実験は身近な例で個人的には興味深く拝読させていただいた.その後は,バーチャルリアリティ学会に投稿された各種論文にはどのような種類のものが多いのかについての考察がなされている.
2章と3章では,侵襲性と非侵襲性の刺激について,身体の五感に関わる部分にそれぞれ侵襲性と非侵襲性の刺激を与えることによる,インタフェースとしての可能性について述べられている.本書のメインである3章では,その中でも非侵襲性刺激について詳細な解説がなされている.
4章では,電気刺激を身体の各部位に流すことになるため,電気刺激の安全性という,電流・電圧・周波数などによる身体への影響・起こり得る可能性について注意点などについて述べられている.
最後の5章では,神経刺激の応用ということで,これまでの章で述べられてきたことを振り返りつつ,各分野への応用例の紹介という形で締め括られている.
詳細はリンク先をご覧ください。
記事題名:VRで感覚を生じさせる仕組み「神経刺激インタフェース」について解説した書籍、コロナ社から発売
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