株式会社コロナ社

バーチャルリアリティ学ライブラリ

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2024.2.21 更新

刊行のことば

今日,バーチャルリアリティ(VR, virtual reality)は誰もが知り,多くの人々が使う技術となった。特に,ヘッドマウントディスプレイ(HMD, head mounted display)を用いたゲームやスマートフォン向けの360°動画などは広く普及しつつある。安価なHMD が普及し始めた2016 年はいわゆる「VR元年」などと呼ばれ,2020 年からのコロナ禍ではリモートで現実さながらの活動を支援するVR技術にさらに注目が集まった。現在では,医療,建築,製造,教育,観光,コミュニケーション,エンタテインメント,アートなど,さまざまな分野でVRの活用が進んでいる。VRは私たちの社会生活に少しずつ,かつ確実に浸透しつつあり,今後はメタバースのような社会基盤の基幹技術としてさらに重要度を高めていくと考えられている。

The American Heritage Dictionary によれば,バーチャル(virtual)とは「みかけや形は現物そのものではないが,本質的あるいは効果としては現実であり現物であること」とされており,これがそのままVRの定義を与える。端的に言えば,VRとは「現実のエッセンス」である。すなわち,VRは人間のありとあらゆる感覚や体験,その記録,再生,伝達,変調などに関わるものである。一般にイメージされやすい「HMDを用いたリアルな視覚体験」は,きわめて広範なVRのごく一部を表現しているにすぎない。

日本バーチャルリアリティ学会は,黎明期のVRを育んだ研究者が中心となって「VR元年」のはるか20年前の1996年に発足した。以来,学問としてのVRは計算機科学,システム科学,生体工学,医学,認知心理学,芸術などの総合科学としてユニークな体系を築いてきた。学会発足から14年後の2010年に刊行された「バーチャルリアリティ学」は,当時の気鋭の研究者が総力を挙げて執筆したものである。同書では,VRの基礎から応用までを幅広く取り扱っている。「トピックや研究事例は最新のものではないが,本質的あるいは効果としてはVRを学ぶこと」ができ,時代によって色褪せることのない「VRのエッセンス」が詰まっている。しかしながら,近年のVRの進展はあまりにも目覚ましく,「バーチャルリアリティ学」を補完し,最新のトピックや研究事例をより深く取り扱う書籍への要望が高まっていた。

「バーチャルリアリティ学ライブラリ」はそのような要望に応えることを目的として企画された。「バーチャルリアリティ学」のようにさまざまなトピックをコンパクトに一括して取り扱うのではなく,分冊ごとに特定のトピックについてより深く取り扱うスタイルとした。これにより,急速に発展し続けるVRの広範で詳細な内容をタイムリーかつ継続的に提供するという難題を,ある程度同時に解決することを意図している。今後,「バーチャルリアリティ学ライブラリ」編集委員会が選定したさまざまなテーマについて,そのテーマを代表する研究者に執筆いただいた分冊を順次刊行していく予定である。くしくも「バーチャルリアリティ学」の刊行からちょうど再び14年が経過した2024年に,編集委員や執筆者,また学会の協力を得て「バーチャルリアリティ学ライブラリ」の刊行を開始できる運びとなった。今後さらにVR分野が発展していく様をリアルタイムで理解する一助となり,VRに携わるすべての人々の羅針盤となることを願う。

2024年1月 清川 清

出版委員会

委員長
清川 清(奈良先端科学技術大学院大学)
副委員長
北崎充晃(豊橋技術科学大学)
委員
青山一真(群馬大学)
山岡潤一(慶應義塾大学)

シリーズラインナップ

以下続刊

  • ヘッドマウントディスプレイ
  • 拡張認知インタフェース
  • アート・エンタテイメントとXR

バーチャルリアリティ学ライブラリseries2

神経刺激インタフェース

  • 青山一真 編著/ 安藤英由樹・玉城絵美・Yem Vibol・高橋哲史・中村裕美・前田太郎・武見充晃・雨宮智浩・河野通就・北尾太嗣 著
  • A5サイズ/176頁
  • 予定価格2,970円
  • ISBN 978-4-339-02692-4

機械学習の基本タスクである回帰と識別のための様々な手法について,その本質と特性を解説

近刊
バーチャルリアリティ学ライブラリ2 神経刺激インタフェース
  • 青山一真 編著/ 安藤英由樹・玉城絵美・Yem Vibol・高橋哲史・中村裕美・前田太郎・武見充晃・雨宮智浩・河野通就・北尾太嗣 著
  • A5サイズ/176頁
  • 予定価格2,970円
  • ISBN 978-4-339-02692-4
書籍の特徴
VRにおいて,感覚提示や感覚変容は非常に重要である。このような感覚を生じさせる仕組みが神経刺激インタフェースである。神経刺激には刺激するための目的がある。どのように研究されてきたのかを1冊で理解できるようまとめた。
目次 ☆発行前情報のため,一部変更となる場合がございます
第1章 神経刺激とVRの歴史
1.1 電気刺激の歴史を学ぶ重要性
1.2 電気の発見と実験遊戯
1.3 ライデンびんの登場と静電気研究の発展
1.4 ガルヴァーニの発見と動物電気
1.5 神経刺激装置の起こり
1.6 バーチャルリアリティへの神経刺激の応用

第2章 侵襲性と非侵襲性の刺激
2.1 侵襲性神経刺激とその研究の実施
2.2 感覚受容細胞や軸索末端に対する襲性神経刺激インタフェース
2.3 感覚や運動の神経軸索に対する侵襲性神経刺激インタフェース
2.4 脳神経に直接接続する侵襲性神経刺激インタフェース

第3章 非侵襲刺激
3.1 非侵襲刺激の総論
 3.1.1 非侵襲刺激の定義
 3.1.2 末端器官や末梢神経系への刺激
 3.1.3 中枢神経系への刺激
3.2 筋電気刺激
 3.2.1 筋電気刺激の定義と原理
 3.2.2 侵襲タイプと非侵襲タイプの筋電気刺激の例
 3.2.3 筋電気刺激による身体所有感への影響
3.3 触覚電気刺激
 3.3.1 触覚電気刺激の概要
 3.3.2 指先の触覚を提示するディスプレイ技術
 3.3.3 皮膚電気刺激
 3.3.4 刺激の安定化
 3.3.5 皮膚電気刺激の応用
3.4 腱電気刺激
 3.4.1 腱がもたらす感覚と反応
 3.4.2 骨格筋周辺の自己受容器の構造とその機能
 3.4.3 腱への刺激とその効果
3.5 味覚電気刺激
 3.5.1 味覚の受容とおいしさ
 3.5.2 味覚電気刺激の基礎
 3.5.3 味覚電気刺激応用
3.6 前庭電気刺激
 3.6.1 前庭電気刺激の概要
 3.6.2 GVSをもたらす平衡感覚の神経支配
 3.6.3 GVSがもたらす加速度知覚と身体応答
 3.6.4 電流刺激と前庭器官
 3.6.5 身体応答の評価手法
 3.6.6 VR等の感覚提示技術への応用
3.7 視覚電気刺激
 3.7.1 視覚電気刺激の概要
 3.7.2 眼球の構造
 3.7.3 侵襲型神経刺激による視覚提示
 3.7.4 非侵襲型神経刺激による視覚提示
3.8 嗅覚電気刺激
 3.8.1 嗅覚電気刺激の概要
 3.8.2 嗅覚の受容と情報伝達
 3.8.3 中枢神経系への電気刺激
 3.8.4 末梢神経系への電気刺激
3.9 経頭蓋電気刺激
 3.9.1 経頭蓋電気刺激の概要
 3.9.2 経頭蓋直流電気刺激
 3.9.3 経頭蓋交流電気刺激
 3.9.4 経頭蓋ランダムノイズ刺激
 3.9.5 TCSのVR分野への応用事例
 3.9.6 TCSを用いる際に考慮すべきこと
3.10 経頭蓋磁気刺激
 3.10.1 経頭蓋磁気刺激の概要
 3.10.2 刺激部位の同定
 3.10.3 刺激強度
 3.10.4 相関と因果
 3.10.5 刺激方法の種類
 3.10.6 VRにおけるTMSの利用例
 3.10.7 TMSの安全性
 3.10.8 TMSとTCSの比較
3.11 漿液分泌に影響を与える電気刺激
 3.11.1 効果器としての漿液分泌腺
 3.11.2 唾液腺への電気刺激
 3.11.3 涙の分泌を調整する電気刺激

第4章 電気刺激の安全性
4.1 電気入力の安全性
 4.1.1 電気入力の種類
 4.1.2 電気入力の危険性
 4.1.3 電流による影響
 4.1.4 電圧による影響
 4.1.5 周波数による影響
 4.1.6 時間による影響
 4.1.7 経路と身体部位
4.2 安全のために
 4.2.1 設計指針
 4.2.2 制約

第5章 神経刺激の応用
5.1 神経刺激の応用分野
5.2 XR技術ならびに人間拡張への応用
 5.2.1 視覚電気刺激
 5.2.2 触覚電気刺激,ならびに筋電気刺激
 5.2.3 味覚電気刺激
 5.2.4 前庭電気刺激
5.3 医療・ヘルスケア・美容への応用

引用・参考文献
索引
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