その常識は本当か これだけは知っておきたい 実用オーディオ学
趣味性の高いオーディオの世界について、効率的に良い音を手にするためには「科学的発想は便利」という視点でまとめた書籍。
- 発行年月日
- 2019/01/25
- 判型
- A5
- ページ数
- 144ページ
- ISBN
- 978-4-339-00919-4
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- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
音響学とオーディオは,深い関連はありますが,同じではありません。オーディオは趣味性が高い世界でお金がかかるのは事実。限られた資金と時間で,効率的に良い音を手にするためには「科学的発想は便利」という視点でまとめた書籍。
音響学とオーディオは,非常に深い関連はありますが,同じではありません。オーディオは趣味性が高い世界なので,必ずしも物理学に支配される必要はなく,個人が良い音と感じればそれでよいし,第三者による再現性さえ要求されないこともありましょう。そこが学問としての音響学と異なります。だから,オーディオを探求することは,オーディオ学よりオーディオ道の名がふさわしいかもしれません。
例えば,部屋の照明を変えたら音が良くなったと感じたとしましょう。それはそれでよいと思います。音響学的,物理学的には考えにくいですが,オーディオ道としてはよくあることですし,否定される必要は何もありません。実は,昨今の科学では,このような人の感じ方も科学的に解析することは可能になっていて,むしろ重視されつつあるのですが,そんな難しいことを言わず,「趣味としてのオーディオ道は科学だけでは語れない」ということにしておいても別に構わないのです。
長年,趣味としてオーディオ道を楽しんできた筆者も,もちろんそれでよいと思っています。他人が良いと思う音に異論をはさむ気持ちはありませんし,私自身が良いと思った音が,他人にも良いとは限らないことはよく理解しています。しかし,それでも,私が科学者であるがゆえ,時としてオーディオに関しても,こう思うことがあるのです。「それは論理性がおかしくないか,人を惑わせていないか」と。
オーディオ道を楽しむのに必ずしも科学はいりませんが,他人にとっては一般性のない経験則に支配されたり,未確認なことを確認済と錯覚したりしてしまうことで,もっと近道があったのに,遠回りしてしまうなら,それは「趣味だから問題ない」とばかりは言えないのではないでしょうか。
科学的なオーディオというと,人に聞こえない20,000Hz(20kHz)以上を再生するハイレゾは意味がない,とか,高価なオーディオ機器でも数値特性は同じだから,音が良いと思うのは錯覚であり科学的ではない,などの論調を想像されてしまうかもしれません。しかし,本書の趣旨はそういうものではないことを最初にお断りしておきたいと思います。安くても良いものはあるにしても,高価な機器でなければ絶対に聴けない驚愕の音も確かにあるのです。オーディオは割とお金のかかる趣味だと言わざるをえません。どうしてもそれなりの資金の投入が必要になってしまう。そこで,限られた資金と時間で,効率的に良い音を手にするには,科学的発想は,少なくとも「便利」だ,というのが本書の趣旨なのです。
筆者の提案は,論理に沿った「科学の作法」の導入です。例えば,音が変わったなら,科学的な理由を考えてみましょう。その変化は条件を変えても再現できるか,あるいはできないか,も重要です。ある説について,「それは迷信だ」と思う前に,「本当なのだとしたらなぜか」と考えてみるのも大切です。頭から否定しないのも科学の作法だと思います。昨今は測定器も安くなりましたし,できれば測定もしてみましょう。仮説でもよいので,理由の説明を考えるうちに,科学的思考が身についていくように思います。
本書が,みなさんがより効率よくオーディオを改善していくための一助にでもなれば,大変にうれしく思います。
最後に,参考として,筆者のオーディオシステムの概要を図示(立ち読み参照)しておきました。本書は,これらのシステムを紹介するのが目的ではないので,個々の説明はしませんが,どのようなオーディオ感を持った人物かは,その装置構成を見ればある程度わかると思いますし,本書の読者ならきっとそこを知りたいと思うので,機材と接続方法だけは示しておくことにしました。アナログディスク,CD,SACD,ハイレゾファイルの音源が聞けます。アナログディスクとSACDもA/Dコンバーターでいったんデジタル化していて,上記の4音源はすべて,デジタルイコライザーとD/Aコンバーターを通した同じ経路で聞くという,かなり特殊なシステムになっています。接地の仕方も工夫していますが,これについては本文でも解説したいと思います。
2018年11月 岡野邦彦
1. アースと電源配線の科学
1.1 アースとは何だろう
1.2 アースに関するQ&A
1.3 信号線のアースと電源のアース
1.3.1 つなぐなら基本は一点接地
1.3.2 アースと信号線の両方がループを形成する例
1.3.3 電源プラグのアースはつなぐべきか
1.3.4 電源配線はタコ足配線がよいかも
1.3.5 家庭用交流電源の屋内配線
1.4 人間を接地する
1.5 アースと電源配線のまとめ
2. CDとハイレゾの科学
2.1 CDとハイレゾとは
2.2 CDとハイレゾに関するQ&A
2.3 CDに関する不可解な「常識」
2.4 サンプリングレートと信号の再現精度
2.5 D/Aコンバーターの波形は可聴域でも意外と異なる
2.6 サンプリング定理との関係
2.7 CDのエラー訂正への誤解
2.8 CDのパーフェクトリッピング
2.9 CDのエラー訂正の原理
2.9.1 ビット,符号,フレーム
2.9.2 エラー訂正のステップ
2.9.3 エラー訂正のイメージ
2.9.4 再生プロセス
2.9.5 読み出しドライブによるエラー
2.10 CDとハイレゾのまとめ
3. SACDの科学と高音質の秘密
3.1 SACDとDSD
3.2 SACDとDSDに関するQ&A
3.3 1ビットDSDによるA/D変換の概念
3.4 なぜSACDは良い音なのか
3.5 SACDとDSDのまとめ
4. 室内音響の科学
4.1 音響調整が必要なわけ
4.2 室内音響に関するQ&A
4.3 定在波の特性
4.4 補正してもよい節といけない節
4.5 スピーカー配置や聴取位置による周波数特性変化
4.6 周波数特性の測定方法と測定機材
4.7 イコライザーの種類
4.8 イコライザーの接続
4.9 共鳴ピークの除去
4.10 オーディオにおけるdBの話
4.10.1 dBの定義
4.10.2 音圧を考えるときのdB
4.10.3 アンプ類の入出力や増幅率(ゲイン)を考えるときのdB
4.11 ダイナミックイコライザーの効用
4.11.1 音楽鑑賞中に聞こえるダイナミックレンジ
4.11.2 写真の世界ではダイナミックレンジ調整は常識
4.11.3 聴感上のダイナミックレンジ拡大
4.12 スピーカーグリルによる特性変化の実測
4.13 室内音響のまとめ
5. 接続ケーブルの科学
5.1 接続ケーブルの役割
5.2 接続ケーブルに関するQ&A
5.3 インピーダンスとは
5.4 接続ケーブルの種類と特徴
5.5 アナログ接続のインピーダンス
5.6 デジタル接続のインピーダンス
5.7 光デジタルケーブル
5.8 デジタル接続での信号ロスと補間の可能性
5.9 接続ケーブルのまとめ
6. あると役立つ測定機材
6.1 リアルタイムアナライザー(RTA)
6.2 マルチチャンネルオシロスコープ
6.3 赤外線温度計
6.4 レーザー式精密距離計
参考文献
あとがき
索引
読者モニターレビュー【Y様(博士後期課程 学生,専門:信号処理)】
本書は,趣味としての扱いが一般的な “オーディオ” に関する事柄について,音響学・物理学の立場から解説したものです。オーディオにおける電源から音源,音響機器や設備までの情報が幅広く丁寧に解説されています。特に,近年盛り上がりを見せるハイレゾ音源の項目では,人間の可聴域を大幅に超えた周波数の音をなぜ音源に含める必要があるのかが述べられています。全体として,より良いオーディオ体験のために,理論的に一歩踏み込んで学びたい読者にとってぴったりの内容であると感じました。個人的な意見としては,ストリーミング配信やワイヤレス通信など,オーディオに関する最新の流行についても解説する内容が盛り込まれば,さらに広い世代に受け入れられるのではないかと感じました。
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