レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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音響テクノロジーシリーズ 27
音楽を研究対象として考えた場合,一つの学問分野でそのすべてを説明することは難しい。本書では,物理学や心理学,音楽学,情報工学など,音楽にまつわる学問分野について,その基礎理論と応用例を横断的に解説している。
- 発行年月日
- 2024/01/26
- 定価
- 3,410円(本体3,100円+税)
- ISBN
- 978-4-339-01166-1
レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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読者モニターレビュー【 wasp9277 様(業界・専門分野:音楽・ソフトウェア開発)】
掲載日:2024/01/30
まえがきに「読者が自分の専門分野以外の分野について概観できることを期待し, 執筆している」とあるように多角的な視点で音響と音楽を扱っています。私自身、DAWで作曲するDTMユーザーであり、弦などの物理モデルのシミュレーションを行う一人でもあります。
第一章の「楽器の物理」では弦や気柱、板などの振動の仕組みとシミュレーション例もしっかりと取り上げており、二章「演奏音の物理」ではAMDFなどの自己相関関数を使ったピッチ検出もわかりやすく解説しています。全体的に非常によくまとまっており、深く立ち入り過ぎていないのも好印象です。
研究者や開発者などは勿論、一般の音楽制作のユーザー、特にMaxやPure Dataなどのユーザーに手に取ってもらいたいと思います。古典的な技術や手法かもしれませんが、別の分野からみるととても新鮮です。参考文献の論文やその他の文献を読む必要はあるかと思いますが、弦のシミュレーションでピアノやギターを、板のシミュレーションでプレートリバーブなど、オリジナルの楽器やエフェクトを作るきっかけになると思います。
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読者モニターレビュー【 N/M 様(業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】
掲載日:2024/01/25
本書は「音響テクノロジーシリーズ」の27巻目に位置する書籍である.本巻では「物理と心理から見る音楽の音響」というタイトルから,単に音楽・音響にまつわる学問分野に特化したものではなく,物理学や心理学,情報工学などの他分野と融合した形での記述がなされている.
私自身,情報科学分野が守備範囲であるので,簡単ではあるが5章及び6章を中心にレビューさせていただく.
5章の5.1節では,音というものをディジタル電気信号として扱う際に登場する「MIDI」という規格についての解説がなされている.まず個人的には,「M・I・D・I」とアルファベット読みしていたものが,実は「ミディ」と読むということレベルの理解であったため,MIDIについての概論が学べるであろう.
ただ,細かいことになり大変恐縮だが,『MIDI1.0規格書のPDF版がホームページで公開されており,ダウンロードして読める』という部分に「ホームページ」という記述がある.この「ホームページ」という用語について,世間一般では,「ホームページ」というと,Webブラウザで表示されているものすべてを指すが,情報系の専門分野では,「ホームページ」は「ホーム(Home)」とあるように,任意のWebサイトの最初(トップ,ホーム)のページを指す,という認識の違いがあるので,専門書としては「Webサイト」と記載する方がベストであるという部分には,気をつけていただきたかったのが正直なところではある.
5.4節では,音楽情報処理応用システムの例として,ギター演奏におけるタブ譜自動生成システムや,ギターコード演奏する際の弦を押さえる(押弦)際の手の位置の最適化システム,年代測定システム,サビメドレーシステムなど,音楽情報処理の応用システムの例が紹介されており,情報系の分野の方にも,音楽情報処理系のシステムを考える上でも参考になるのではないかと思われる.例えば.サビメドレーシステムは,聴取状況をユーザの内的要因(「良い気分」,「元気がない」など)や,外的要因(「朝起きてすぐ」,「寝る前」など)によって,分割したものをユーザの聴取状況を基に音楽推薦を行う推薦システム(レコメンドシステム)であるが,この推薦の過程において,何かと話題のAI(人工知能)や機械学習(深層学習[ディープラーニング])などの技術とも関連性があるので興味深いと思われる.
6章の6.1節では,音楽音響学から芸術へということで,音楽と科学との接点を,紀元前6世紀ギリシャの哲学者ピタゴラスのピタゴラス音律から,順を追って解説がなされている.個人的には,テープ録音機の完成の裏には,第二次世界大戦前後の軍事技術の開発が大きく関わっていたことには驚かされた(詳しくは,是非とも本書を読んでいただきたい〔他にも同じ箇所で,本書内に挙げられている暗号に関連して少し挙げると,ナチス・ドイツが用いた「エニグマ(Enigma)」という暗号機も同じ頃〕).
6.2節では,音というものを記録するための録音技術の発展として,蓄音機・テープ録音機などを取り上げた後,電気・電子楽器と続き,ディジタル信号処理という順に解説がなされている.6.2.2項では,情報理論の分野で有名な人物シャノン氏の名や標本化定理(サンプリング定理)などの,おなじみの用語も登場する.
6.3.3項では,先程述べた,深層学習や人工知能を音楽音響分野への可能性についても述べられている.