確率・統計から始める エンジニアのための信頼性工学 - 身近な故障から宇宙開発まで -
最先端のシステム設計を実施する宇宙開発分野の安全,信頼性設計の事例を紹介
- 発行年月日
- 2021/07/28
- 判型
- A5
- ページ数
- 222ページ
- ISBN
- 978-4-339-02920-8
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
私たちの回りには、生活をサポートする多くのシステムがあります。最近は、それらのシステムが故障し、私たちの安全、安心な生活が脅かされるというニュースを毎日のように見聞きします。システム構築のためには、対象となる製品やシステム等についての固有の技術や知識に精通することが重要です。しかしながら、固有の技術だけでは不十分であり、故障しにくいシステムをどのように構築すればよいのか、安全なシステムとは何かなど、システムとして総合的に考え評価することが大事です。その答えを見出す考えを提供してくれるのが、信頼性工学です。
本書は、工学系統の学部学生向けの信頼性工学の入門書として執筆しました。信頼性工学の手法をうまく使用するためには、1)その手法の背景にある考え(理論)を知り、2)実際にどのようにして実際の現場に使用されているかを知ることが重要です。そのことを踏まえ、本書は大きく理論編(2章、3章、4章、5章)と実務編(6章、7章、8章)に分けています。
2章では、理論編の基礎的な事項として、簡単に確率について説明し、信頼性を考える上での基本要素である信頼度、故障率や累積分布関数について紹介しています。3章では、故障データ等の解析を行うために有用な統計手法について紹介しています。4章では、高信頼性システムの設計方法について紹介しています。5章では、修理を伴うシステムの評価について数理的評価方法を紹介しています。
6章以降は実務編として構成しています。6章では、信頼性設計と評価のために有用な手法を実例を用いて紹介しています。7章では、信頼性工学と深い関係にある安全工学の概要について解説しています。8章では、本書で述べた手法等の適用例として、日本の宇宙開発における安全・信頼性設計の事例を紹介しています。
本書は工学系統の分野の学科の学生のみならず、信頼性向上をめざす技術者にも読んでいただき、高信頼度の製品やシステムの開発の一助になることを期待します。
本書は,大学の工学系統の学部の信頼性工学の授業のテキストとして用いられることを想定し作成しました。信頼性工学は信頼性の向上を目指す工学です。信頼性向上の取組みは対象の製品やシステムにより千差万別であり,信頼性工学の技術を有効に活用するためには,対象となる製品やシステムなどについての固有の技術や知識に精通することが重要です。また,信頼性工学は実学ですので,理論から実務まで幅広く学ぶことが大事です。
本書の執筆者は,長年,経営工学系の学科,電子情報システム工学科,機械工学科,航空宇宙工学科,化学工学科など複数の学科にて信頼性工学の授業を行ってきた教員や企業において信頼性向上の実務を経験してきた技術者であり,信頼性工学の理論から実務までを対象としたテキストを執筆するのに適した陣容と考えます。
信頼性工学の手法をうまく使用するためには,①その手法の背景にある考え(理論)を知り,②どのようにして実際の現場に使用されているかを知ることが重要です。そのことを踏まえ,本書は大きく理論編(2,3,4,5章)と実務編(6,7,8章)に分けています。
2章は,理論編の基礎的な事項について紹介していますが,すでに確率の基本的なことを理解している読者にとっては,必要に応じて読み返してもよい内容となっています。3章は,故障データの解析を行うために有用な統計手法について,理論を交え実務での使い方を重点に紹介しています。4章は,システムの信頼度とシステムを構成する要素の信頼度の関係を明らかにし,高信頼性システムの設計方法について紹介しています。5章では,修理を伴うシステムの評価方法について述べています。
6章以降は実務編として構成しています。6章では,信頼性設計と評価のために有用なFMEA(故障モード・影響解析)などの手法について紹介しています。7章は,信頼性工学と深い関係にある安全工学の概要,そして,8章では,本書で述べた手法の適用事例として日本の宇宙開発における安全,信頼性設計の取組みを紹介しています。
本書の構成は,理論から実務まで広い内容を網羅するという少し欲張りな内容となっています。本書で信頼性や安全性に興味を持っていだいた読者は一歩進んでほかの専門書に進んでいただければと思います。また,製品やシステムの信頼性の向上のためには対象となる製品やシステム固有の技術や知識を持ったうえで,本書で紹介した信頼性工学の技術や知識がより有用となります。ぜひとも工学系統の多くの分野の学生に読んでいただき,高信頼度の製品やシステムの開発の一助になることを期待します。また,本書が信頼性工学への入門書として読者の一助となれば幸いです。
最後に,著者の遅筆にもかかわらず最後までお付き合いいただいたコロナ社の皆さん,また忙しい研究時間を割いて,本書の原稿,おもに2章,4章と5章の設問を確認していただいた,東京都立大学 博士研究員 周蕾氏に感謝します。
2021年5月
著者一同
1.信頼性と信頼性工学
1.1 信頼性工学を学ぶことの重要性
1.2 信頼性とその三つの要素
コラム1:総合信頼性
1.3 信頼性と品質管理
1.4 信頼性と固有分野の技術
1.5 本書の構成
章末問題
2.信頼性工学の基礎数理
2.1 確率の基礎
2.1.1 事象と標本空間
2.1.2 確率の公理
2.1.3 加法定理
2.1.4 条件付き確率と乗法定理
2.2 密度関数と分布関数
2.2.1 確率変数とは
2.2.2 離散確率変数
2.2.3 離散確率分布
2.2.4 連続確率変数
2.2.5 連続確率分布
コラム2:ワイブル分布の特徴
2.3 信頼性の評価指標
2.3.1 アイテムの修理を考えない場合における信頼性評価
2.3.2 故障率関数,累積ハザード関数とバスタブ曲線
2.3.3 アイテムの修理を考える場合における信頼性評価
章末問題
3.信頼性データの統計的解析
3.1 信頼性データの特徴
3.1.1 データの母集団とサンプリング
3.1.2 信頼性データの処理(ヒストグラムの作成)
3.1.3 信頼性データの分類方法
3.1.4 信頼性データの特徴と種類
3.2 信頼性試験の種類
3.3 取得した信頼性データの整理方法
3.4 基本的な信頼性データの構造とデータ解析方法
3.4.1 信頼性データの構造
3.4.2 故障率と平均故障寿命の推定(指数分布の場合)
3.4.3 信頼度の推定(ノンパラメトリック推定)
3.5 ワイブル確率紙の仕組みと使い方
3.5.1 ワイブル確率紙の仕組み
3.5.2 プロットの手順
3.6 加速試験
3.7 バーンインとスクリーニング,デバキング
章末問題
4.システム信頼性
4.1 信頼性ブロック図と直列システム,並列システム
4.1.1 直列システムの信頼度
4.1.2 直列システムの故障率
4.1.3 直列システムの高信頼度化
4.1.4 並列システムの信頼度
4.1.5 複雑な構造での信頼度
4.2 システム信頼性設計
4.2.1 並列冗長システムと待機冗長システム
4.2.2 k-out-of-n冗長システム(k/n冗長システム)
4.3 冗長システム設計の留意点
4.3.1 接点故障への配慮
4.3.2 空間冗長への配慮
4.3.3 駆動エネルギー源への配慮
4.3.4 日常使用時への配慮
4.3.5 共通原因故障への配慮
コラム3:福島第一原発事故と共通原因故障
コラム4:H-IIA6号機と共通原因故障
章末問題
5.保全性とアベイラビリティ
5.1 保全方法
5.1.1 保全の方法と選択
コラム5:予防保全の重要性
5.1.2 保全性設計
5.2 保全性の評価尺度
5.2.1 保全性と保全度関数
5.2.2 アベイラビリティ
5.3 システムのアベイラビリティ解析
5.4 保全方策の数理モデル
5.4.1 年齢取替え方策
5.4.2 ブロック取替え方策
5.4.3 小修理を伴う取替え方策
5.5 複雑な保全方策計画に向かって
章末問題
6.信頼性設計と評価
6.1 信頼性を担保する設計:信頼性設計
6.2 トラブルを未然に防止するボトムアップ信頼性解析:FMEA
6.2.1 FMEAの概要
6.2.2 FMEAの実施手順
6.2.3 FMEAの注意事項
6.3 トラブルを未然に防止するトップダウン信頼性解析:FTA
6.3.1 FTAの概要
6.3.2 論理記号と事象記号
6.3.3 FTAの実施手順
コラム6:0と1だけを扱う特別な数学!?−ブール代数−
6.3.4 FTAによる定性的解析
6.3.5 FTAによる定量的解析
6.4 トラブルを未然に防止する信頼性評価:DR
6.4.1 DRの概要
6.4.2 DRの実施手順
コラム7:一貫した設計・生産・信頼性活動−コンカレントエンジニアリング−
6.5 トラブルを未然に回避する信頼性概念:フェールセーフ,フールプルーフ
6.5.1 フェールセーフ
6.5.2 フールプルーフ
コラム8:信頼性の安全設計思想−フェールセーフとフールプルーフ―
章末問題
7.安全工学
7.1 安全工学の役割
7.1.1 安全の定義
7.1.2 システム安全
7.1.3 安全性と信頼性
7.2 リスクアセスメント
7.2.1 リスクアセスメントの基本的な考え方
7.2.2 ハザードの識別
7.2.3 リスクの見積りと評価
7.2.4 リスク低減方策
7.2.5 安全に関する国際規格
7.3 安全解析と設計手法
7.3.1 安全解析手法
7.3.2 安全設計手法
7.3.3 ソフトウェア安全
7.3.4 安全性の検証
7.4 危機管理
コラム9:事故のきっかけ
7.5 リスクの受容性
章末問題
8.宇宙における安全・信頼性確保の取組み
8.1 宇宙開発の特徴
8.2 宇宙開発手法
8.3 宇宙開発における安全・信頼性
8.3.1 安全設計
8.3.2 信頼性設計
8.3.3 ソフトウェア信頼性
8.3.4 安全・信頼性管理技術
8.3.5 部品管理
8.3.6 試験検証
8.3.7 品質保証
8.4 宇宙開発における安全・信頼性設計の具体例
8.4.1 ロケット
8.4.2 人工衛星
8.4.3 有人システム
8.5 今後の信頼性向上の取組み
引用・参考文献
章末問題解答
索引
読者モニターレビュー【 K.T. 様(ご専門:IT分野/業務内容:衛星データプラットフォームのビジネス開発)】
改めて信頼性工学について基礎から学び直したいと思い、本書を手に取りました。
本書は理論編と実務編から構成されています。
理論編では信頼性工学に関連する統計学をはじめとした数学から丁寧に解説してくださっているので、数学に久しく触れていない状態であったとしても、思い出しながら読み進めることができました。
実践編では、実務としてどのように信頼性工学を利用すれば良いか解説されているのはもちろんのこと、コラムとして原発や宇宙分野など各筆者による実事例も交えて紹介されています。このことにより、単なる知識としてのインプットだけでなく、実務としてどのようにアウトプットされるのか、というイメージも湧く作りになっていると思います。実務を経験している社会人の場合には、自身の業務だとこうだな、と想像しながら読み進めやすい構成になっているかと思います。
本書の特徴としては、理論が理論だけで完結せず、実務と結びついた形で解説されていることにあるかと思います。そのため、読者としてはここはここに役立つのね、と考えながら読み進めることができるため、知識としての吸収もしやすいと思います。また、演習問題も各章末に設けられており、理解度がどの程度あるのか確認しながら読み進めることもできるようになっているので、読み返しながら読み進めることもできるのも理解度向上のために良い作りだなと感じました。
大学の授業のテキストを想定して作られたようですが、社会人であっても読むことで信頼性工学についての知識と技術を手に入れることができる本だと思います。
読者モニターレビュー【 N/M 様(ご専門:総合情報学(情報科学))】
本書は,「まえがき」にも記載されている通り,大学の工学系の学部での「信頼性工学」の講義用テキストとして使用されることが想定されている.
学生時代に「総合情報学(学士)」,その中でも特に「情報科学」の分野を学んだ私が読んでも参考になる箇所が多く感じた.例えば,平均故障間隔(MTBF),平均修理時間(MTTR),直列システムや並列システムの信頼度を求める計算,バスタブ曲線,フォールトトレラント,フェールセーフ,フールプルーフ,状態遷移図,等である.また,これらの専門用語は,情報分野の国家試験である「基本情報技術者試験(FE)」の出題範囲でもあるので,「情報科学」を学ぶ上でも「信頼性工学」は大変重要な分野の一つだと認識できた.
本書の構成としては,どの分野でも学ぶ際に,最初にその分野を学ぶことの重要性,そしてその分野がどのような歴史的背景を持って確立されていたかを,まず第1章では,簡潔に記述されている.第2章では,本書を読む上で必要となる確率,集合などの基礎知識を簡潔に記述している.第3章では,信頼性を統計的に解析する手段として,統計学の基礎である度数分布表やヒストグラムの作り方などが記述されている.第4章では,システムの信頼性ということで,直列システムや並列システムの信頼度を求める計算を中心に,例題を用いて,分かりやすく記述されている.第2章の後半部分とこの章は,情報科学の分野の方には,参考になることが多いのではないかと思う.例えば,情報システムの信頼性の指標として,RASIS(または,RAS)という概念がある.その際に,信頼性を表す指標MTBF,保守性を表す MTTRが登場し,情報システムの稼働率の計算としてよく目にする機会があるだろう.第5章では,保全性についてや,アベイラビリティ解析の際に状態遷移図を用いて,バランス方程式なるものを構築して解くことで評価できることを学ぶ.ここまでで,理論的な背景を深く学ぶことができる.
また,第6〜8章では,実務編として,信頼性設計と評価,安全工学,宇宙における安全・信頼性確保の取組みなど,本書のサブタイトルである,「身近な故障から宇宙開発まで」とあるように,「航空宇宙学」での信頼性を高める各種取り組みが分かりやすく記述されてある.
本書の読書方法の一例として,まずは第1章から順番に読んでいき,第2章以降は数式がそれなりに出てくるので,私のように数式に苦手意識がある方は,1周目は,まず「信頼性工学」という分野の全体像を捉えるために,数式は雰囲気をつかむ程度で,理解できなくても気にせず最後まで読み進め,2周目以降に,Webページや他書で関連する分野(総和Σ,総乗 ∏,極限 lim,積分 ∫などの計算方法)をしっかり学んでから,復習を兼ねて読むと数式の深い意味を理解できるだろうと思われる.
最後に,各章末には,記述式や計算問題を中心に,4択問題,穴埋め問題など,いろいろな形式の「章末問題」も用意されている.本書ような講義用テキストには,解答例が付属していなかったり(一部の問題の解答例が省略されている場合も),略解として最終的な解答のみが記載されていたりして,不十分な書籍が多い(もちろん,教育的効果の意味合いもあることは事実ですが・・・)中,本書は,回答するのに必要な最低限度の解答例が記載されているので,自習する際には便利だと感じた.
読者モニターレビュー【星野秋人 様(ご専門:ロボット工学)】
高い信頼性を必要とするシステムの設計に際し、偶然本書を目にした。学生時代に疎かにしてしまった数学的な基礎知識から丁寧に記述されており、簡単な計算例を踏まえつつ、信頼性の計算や冗長設計の考え方が整理・系統立てて記述されており理解が捗った。4章では、冗長システムを設計する際に考慮すべき留意点が記述されており、実務経験のあるエンジニアにとっては自身の設計に対する理解が深められるのではないかと思う。6章では、設計に対する評価手法についてFMEA,FTAなどの解析手法についてその考え方から実例に至るまで示されており、今まで漠然と認識していた信頼性設計についてかなり理解が深まった。この一冊で冗長設計が実務レベルで分かるようになるというわけではないが、これから高い信頼性を必要とするシステムを扱うエンジニアや高い品質を実現する設計を理解したい方にはまず本書をお勧めしたい。
「ベアリング新聞」2021年8月20日 掲載日:2021/08/24
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掲載日:2021/11/17
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掲載日:2021/10/18
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掲載日:2021/10/14
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掲載日:2021/10/11
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掲載日:2021/10/06
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掲載日:2021/09/30
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掲載日:2021/08/02
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掲載日:2021/07/30
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掲載日:2021/07/28