システム信頼性の数理

シリーズ 情報科学における確率モデル 7

システム信頼性の数理

信頼性工学の基盤をなす2状態単調システムから多状態システムに至るまでの議論を概観する。

ジャンル
発行年月日
2019/12/05
判型
A5
ページ数
270ページ
ISBN
978-4-339-02837-9
システム信頼性の数理
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定価

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★書籍の特徴:
本書は,信頼性理論について近年の話題である多状態システムに関する議論を,その背景となる2状態システムの議論と共に理論的側面に焦点を当てながらまとめたものである.
従来の信頼性理論は,故障と正常の2状態のみを前提とした複数の部品とそれらから構成されるシステムについて,部品の信頼性とシステムの信頼性の確率論的な関係を議論するものであった.実際には,これらの2状態に限定されず,多様な劣化状態を取ることから,近年では多状態システムとして,2状態の議論を多状態の議論に拡張することが試みられている.その際,部品やシステムの状態空間の構造として,順序集合が想定される.本書は,2状態から多状態に至るシステムの信頼性を順序集合論的・確率論的に議論し,実際のシステムの信頼性評価にとって有用な手法を解説する.
★読者対象:
安全・リスク解析や信頼性解析の基礎に興味をもつ研究者及び大学院の学生を対象とする.
読む上で,確率論についての基礎的素養は前提とするが,順序集合論については一応本書中で解説される.
★著者からのメッセージ:
実際に鉛筆(筆記用具)と紙(ノート)を手に,計算をフォローしながら読み進めて下さい.何事も書いてみることが大切かと思います.

本書では,2状態から多状態に至るシステムの信頼性に関する順序集合論的および確率論的な議論を概観する.

2状態システムではシステムおよび部品の状態として故障と正常のみを考え,システムの状態は部品の状態の組合せによって一意に定まるとされる.部品やシステムのそれぞれの状態空間は必然的にブール束になり,確率論的な議論は寿命分布関数によるものになる.このような枠組みでの議論は1950年代から始まり,おおよそ1980年代までの間に多くの研究者達によってなされてきた.2状態システムについての議論はほぼ収束し,その研究成果はBarlow andProschan4), 7)にまとめられており,故障木解析(fault tree analysis,FTA)や安全・リスク解析などの信頼性解析手法の基盤をなしている.

一方で,圧力や温度を考えるまでもなく,部品やシステムの状態が2状態のみであることはなく,劣化状態を含めさまざまな状態があり得る.多状態システムについての議論は,1980年代に始まり多くの研究がなされている.Lisnianski and Levitin60),Lisnianski, Frenkel and Ding61),Natvig67) のような実践的な立場からの書籍も出版されているが,理論としての体系化には未だ至っていない.

本書では,2状態システムでのさまざまな概念を拡張する立場で,部品およびシステムの状態空間を全順序集合とした場合の議論を紹介する.状態空間が半順序集合の場合についてはその必要性を示唆し,最近の論文を紹介するにとどめる.

2章で見られるように,2状態システムの理論においては極小パス集合(minimal path set)と極小カット集合(minimal cut set)が根幹的な役割を果たす.FTAはこのことに対する一つの根拠を与える.FTAは,多数の要素からなる複雑なシステムの故障や不具合事象(トップ事象と呼ばれるが)の原因を探し出すためのトップダウン的で実践的な手法であるが,このトップ事象に対する極小カット集合を最終的に与える.極小カット集合は,トップ事象を発生させるために必要な部品の事象の極小的な組合せであり,極小パス集合は極小カット集合に双対的な関係にある.極小カット集合や極小パス集合は,それぞれシステムに内在する並列システムや直列システムを定義し,システムの構造はこれらの直列または並列システムから再構成される.このことから,直列システムや並列システムなどの基本的なシステムによるシステムの分解と統合の観点が重要であり,確率的な信頼性評価方法の多くがこのような分解に依拠する.

本書の構成は以下のとおりである.信頼性理論では,順序集合論的な概念が,構造的および確率論的な議論の至るところでさまざまに姿を変えながら,基本的な道具として用いられる.1章では本書で用いる順序に関する基本的な概念を解説する.また信頼性理論に特有の状態ベクトルに対する切貼り的な操作について説明する.さらに統計的な正の相関性の概念の一つであるアソシエイション(association)を紹介する.これは,上記の直列システムまたは並列システムへの分解と統合を用いたシステムの信頼性評価において,重要な役割を果たす.2章では,信頼性理論において最も基本的である,2状態単調システムの順序集合論的および確率論的な議論を紹介する.2状態単調システムの構造は,極小パスベクトルあるいは極小カットベクトルから一意に決まる.このことは,2状態システムの信頼性を議論する際の基盤をなす.

実際的なシステムはモジュールの階層的な積上げで構成され,部品がむき出しの形で組み上げられているわけではない.この意味で,モジュール分解とそれを介したシステムの信頼性に関する議論は重要である.2章ではモジュールについての議論を紹介し,信頼性評価をモジュールの階層構造に従って積み上げることで,よりよい評価が得られることを証明する.

3章はエージング(aging)の概念を扱う.IFR(increaing failure rate)性はよく知られているエージングの一つであり直感的に理解しやすいが,システムの性質として考えた場合,むしろIFRA(increasing failure rate average)性が重要であり中心的な位置を占める.これに対して,IFR性は直列システムに密接に関係する.さらにシステムの寿命分布が指数分布であるとき,システムの構造は直列に限定されるだけでなく,部品の寿命分布も指数分布に限定される.これらのことについて,他のエージングの概念とともに3章で詳説する.3章では,ショックモデルについてもふれる.ショックモデルは,環境からのストレスとそれに対するシステムの耐性の二つの要素から構成されるが,この耐性がもつ離散的な分布関数としてのエージング性が,システムの寿命分布関数のエージング性に反映される.さらに,IFRA性がさまざまな確率過程の初期通過時間の性質として現れることから,そのいく分技巧的な定義にかかわらず自然な性質であることを示す.3章では,さらに,これらのエージングの概念を多変量の場合に拡張する.

4章,5章では2章,3章での議論を多状態に拡張する.多状態システムの順序集合論的な議論は4章で,信頼性評価方法とエージングの議論は5章で示される.2状態システムでの議論は,状態空間が二つの要素からなることからスムーズである.本書では状態空間を全順序集合とするが,比較的扱いやすいこのような場合でも,例えば,直列システムや並列システムの定義など,2状態では素朴に考えておけばよかったさまざまな概念が改めて問い直される.5章では,多状態システムの確率過程論的な議論を行う.エージング性については2状態の場合と同様にIFRA性が重要であり,IFR閉包の成立はシステムの構造を直列システムに限定することが示される.

6章では2状態システムにおける部品の重要度について,7章では6章の議論を拡張し,多状態システムでの重要度について述べる.部品の重要度は,システムにおいてその部品がどの程度重要であるかの指標である.Birnbaum重要度を基本とし,これから派生してくるいくつかの重要度が提案されており,システムの安全・リスク解析などに応用される.Birnbaum重要度は臨界状態ベクトルによって定義される.本書では,この臨界状態ベクトルを極小カットおよび極小パスベクトルから得るためのアルゴリズムを示し,さらに実際によく見られる構造である直・並列システムにおける一連の重要度の相互関係について議論する.

最後に,状態空間が半順序の場合の理論構築が求められることを簡単な例によって示唆し,その際のシステムの定義を作業仮説として与える.さらに,このような多状態システムのモデルが実際の多層的なネットワークのモデルになり得るとともに,さらに拡張が必要であることについてもふれる.レリバント(relevant)とアソシエイト(associate)の訳語について述べておく.いずれも「関係する」,「関連する」といった意味であるが,本書ではそれぞれの読みであるレリバントとアソシエイトを用いる.レリバントは部品に関する概念であり,システムの機能においてその部品を外せないことを意味し,その度合いが重要度の概念につながる.日本語の「関係する」や「関連する」といったイメージではなく,適切な日本語が見当たらないため,そのままの読みを用いることとした.

アソシエイトは確率変数間の相関性を意味する.二つの確率変数の場合,XとYがアソシエイトであるとは,任意の単調増加な関数fとgに対して,Cov[f(X,Y), g(X,Y)] >=0であるとして定義され,単純ではない正の相関性を意味する.Cov[f(X),g(Y)] >=0の場合を考えてみる.単調増加な関数fとgの選択によって,確率変数XとYの任意の部分を拡大・縮小できる.上の不等号関係は,それぞれの確率変数をどのように拡大・縮小してもそれらの間に正の相関があることを意味する.アソシエイトは,正の相関性が,XとYから単調増加関数によって生成されるどのような確率変数についても成立することを要請しており,XとYの多様な正の相互依存関係をイメージさせ,適切な訳語を見出せない.このため,本書ではレリバントと同様にその読みを用いることとした.本書では,一般的に順序集合上の確率についてアソシエイトを定義する.
広島大学の土肥正教授には本書執筆の機会をいただきました.ここに深く感謝致します.
2019年10月 著者

1.順序集合論の準備と記号
1.1 順序集合,全順序集合
 1.1.1 順序集合
 1.1.2 擬順序集合
 1.1.3 直積順序集合
 1.1.4 ハッセ図
1.2 極大元,最大元,極小限,最小元
1.3 上側単調集合と下側単調集合
1.4 上限と下限
 1.4.1 上限と下限の定義
 1.4.2 束
1.5 単調増加関数
1.6 アソシエイトな確率
1.7 状態ベクトルに対する操作と記号

2.2状態システム
2.1 構造関数
 2.1.1 2状態システムの定義
 2.1.2 コヒーレントシステムの例
 2.1.3 構造関数と直列,並列システム
 2.1.4 双対システム
2.2 極小パスベクトル,極小カットベクトル
 2.2.1 極小パスベクトルと極小カットベクトルの定義
 2.2.2 単調構造関数の直・並列表現と並・直列表現
2.3 モジュール分解
 2.3.1 モジュール
 2.3.2 極小カットベクトル,極小パスベクトルとモジュール分解
2.4 システムの信頼性の計算
 2.4.1 システムの信頼性
 2.4.2 包除原理
 2.4.3 排反積和法
 2.4.4 信頼度関数とブール変数による期待値計算
 2.4.5 k-out-of-n:Gシステムの信頼度によるシステム信頼度の凸表現
 2.4.6 信頼度関数のS形
2.5 システム信頼度の上界と下界
 2.5.1 極小パスおよびカットベクトルによるシステム信頼度の上界と下界
 2.5.2 モジュール分解によるシステム信頼度の上界と下界

3.2状態システムの劣化過程
3.1 寿命分布関数
 3.1.1 寿命分布
 3.1.2 バスタブ曲線
 3.1.3 寿命分布のパラメーター族
 3.1.4 ポアソン過程
3.2 エージングによる寿命分布関数のクラス分類
 3.2.1 エージング
 3.2.2 IFR分布と指数分布
 3.2.3 IFRA分布と指数分布
3.3 コヒーレントシステムの寿命分布
 3.3.1 コヒーレントシステムの寿命分布の上界と下界
 3.3.2 コヒーレントシステムと閉包性
3.4 エージングとシステムの構造
 3.4.1 指数分布とコヒーレントシステムの構造
 3.4.2 IFR分布とコヒーレントシステムの構造
 3.4.3 IFRA分布とコヒーレントシステム
3.5 エージング性の和に関する保存性
3.6 再生過程
 3.6.1 定義と再生回数の分布
 3.6.2 再生関数M(t)=E[N(t)]
3.7 ショックモデル
 3.7.1 ポアソンショックモデルのエージング性
 3.7.2 累積損傷臨界モデル
 3.7.3 一変量ショックモデルの拡張
 3.7.4 二変量ショックモデル
3.8 多変量エージングと正の相関
 3.8.1 多変量エージング
 3.8.2 境界分布
 3.8.3 二変量アーラン分布のNBU性とIFRA性
 3.8.4 多変量エージングの定義について
 3.8.5 正の相関性

4.多状態システム
4.1 多状態システムの定義
4.2 直列システムと並列システム
4.3 k-out-of-n:Gシステム
 4.3.1 内包されるシステム
 4.3.2 k-out-of-n:Gシステムの定義と性質
4.4 モジュール分解

5.多状態システムの確率的評価と劣化過程
5.1 多状態システムの確率的評価
 5.1.1 多状態システムの信頼性評価方法
 5.1.2 モジュール分解によるシステムの信頼性評価
 5.1.3 モジュール分解による上界と下界の計算
 5.1.4 数値例
5.2 多状態システムの劣化過程
 5.2.1 IFRA閉包定理とNBU閉包定理
 5.2.2 多状態システムのハザード変換
 5.2.3 IFRA過程とNBU過程

6.2状態システムにおける重要度
6.1 Birnbaum重要度
 6.1.1 臨界状態ベクトル
 6.1.2 臨界状態ベクトルを求めるためのアルゴリズム
 6.1.3 Birnbaum重要度
6.2 臨界重要度
6.3 狭義臨界重要度
6.4 Fussell-Vesley重要度
6.5 いくつかの例
6.6 モジュール分解を介した重要度の計算
6.7 直・並列システムにおける重要度の計算
 6.7.1 直・並列システムにおけるBirnbaum重要度
 6.7.2 直・並列システムにおける臨界重要度
 6.7.3 直・並列システムにおけるFussell-Vesely重要度
 6.7.4 Birnbaum,臨界およびFussell-Vesely重要度における大小関係の間の整合性
 6.7.5 直・並列システムにおける狭義臨界重要度
6.8 Barlow-Proschan重要度
 6.8.1 Barlow-Proschan重要度―修理を考慮しない場合―
 6.8.2 平均をとる場合―修理を考慮しない場合―
 6.8.3 Barlow-Proschan重要度―部品ごとに修理人が存在する場合―
 6.8.4 故障頻度とBirnbaum重要度

7.多状態システムにおける重要度
7.1 多状態臨界状態ベクトル
7.2 多状態Birnbaum重要度
7.3 多状態Birnbaum重要度とモジュール分解
7.4 多状態臨界重要度
 7.4.1 多状態臨界重要度の定義
 7.4.2 モジュール分解と臨界重要度との関係
7.5 多状態Barlow-Proschan重要度
 7.5.1 確率過程{Xi(t),t>=0}と保全
 7.5.2 時点重要度
 7.5.3 多状態Barlow-Proschan重要度―保全を考慮しない場合―
 7.5.4 平均をとる場合―保全を考慮しない場合―
 7.5.5 多状態Barlow-Proschan重要度―保全を考慮する場合―
7.6 二つの部品と修理人―人の場合の重要度について―

8.多状態システムの拡張―あとがきにかえて―
8.1 状態空間の順序構造
8.2 ネットワークとしての状態空間

引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【Y.N.様(大学生)】

オムニバス形式で,モデリングとアルゴリズムを主体に理論展開がされるので,要求される知識も大きい分,広い視野から今まで知らなかった内容を学べる良書です。
研究者及び大学院の学生を読者の対象と明記があるように,学部生にとって本書は,『シリーズ 情報科学における確率モデル』の他の本と大学での数学の授業をしっかり理解しておかないと難しい内容だと思いました。コロナ社から出版されている信頼性工学の本も参考になるので,そちらで研究領域の外観をつかみ,本書でより数学的に学ぶのも良いと思います。
文章だと抽象的で難解になる分野ですが,定義・定理・証明が丁寧に説明されているので,読むだけではなく「実際に手で計算をノートに書いてみること」が理解する時に役に立ちました。

大鑄 史男(オオイ フミオ)

信頼性理論,カオス・フラクタル的な時系列データの解析,セルオートマトンのカオスフラクタル的な特性,マルティエージェント的セルオートマトン法による避難流動や交通流のシミュレーション等,主に理論的な側面について研究を進めてきた.
近年は信頼性理論の理論的体系の構築を目指し,2状態から多状態への理論の枠組みの拡張と応用について研究を進めている.
一方では,工場などで観察される圧力データなどの時系列データのカオス・フラクタル的な解析手法の理論的な議論と共に実際の場面への適応を試みてきた.
セルオートマトンは,ライフゲームやシェルピンスキーガスケットに見られるようにその簡単なルールにもかかわらず,きわめて複雑な様相を呈する場合が存在する.このことにより,人工生命や複雑系の分野の樹立に多大の影響を与え,セルオートマトン自体の理論的な解明と共に実際の複雑な現象への応用には尽きせぬ興味が喚起させられる.

掲載日:2023/07/01

日本オペレーションズ・リサーチ学会誌「オペレーションズ・リサーチ」2023年7月号

掲載日:2023/01/11

「日本機械学会誌」2023年1月号

掲載日:2022/02/01

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掲載日:2021/12/28

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掲載日:2021/07/30

日本信頼性学会誌「信頼性」2021年7月号広告

掲載日:2020/06/18

「自然言語処理」27巻第2号(2020年6月)

掲載日:2020/01/31

2020情報・人工知能・経営工学書目録 広告

掲載日:2020/01/29

「日本信頼性学会誌」2020年1月号広告

掲載日:2020/01/09

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