ナノテクノロジーで花粉症を治せるか?

ナノテクノロジーで花粉症を治せるか?

ナノテクノロジーは薬の開発に一見関係なさそうだが,この開発の鍵となる。本書ではナノテクノロジーが鍵となるしくみについて解説。

ジャンル
発行年月日
2017/03/07
判型
B6
ページ数
136ページ
ISBN
978-4-339-06754-5
ナノテクノロジーで花粉症を治せるか?
在庫あり

定価

1,540(本体1,400円+税)

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国民病ともいえる花粉症を根本から治すために,DNAが最新の治療薬として開発されている。ナノテクノロジーは薬の開発に一見関係なさそうだが,この開発の鍵となる。本書ではナノテクノロジーが鍵となるしくみについて解説する。

花粉症の人にとって、二月中旬からの約二か月は憂鬱な期間であることはいうまでもないだろう。年が明けると、その年の花粉飛散量の予測が発表されるが、多いという予測だと、花粉が飛び始める前から憂鬱な気分にさせられる。実際に花粉が飛び始めると、くしゃみや鼻水、目のかゆみのため、不快になるのはもちろんであるが、なんといっても集中力が維持できなくなることが最大の問題である。二月から三月は受験のシーズンでもある。花粉症による不快感と集中力の低下により、試験で普段どおりの力を出せない受験生もいることだろう。花粉症の受験生が多くなれば、入試時期を変更するべきではないか、などと思ったりもする。

花粉の季節になると、花粉症の薬とともに、さまざまな花粉症対策のグッズが販売される。マスクはもちろんのこと、目を花粉から保護するゴーグルや、花粉を寄せ付けない静電気防止スプレー、室内の花粉を除去する空気清浄器まで、年を追うごとに多様な商品が店頭に並ぶが、これらのグッズは、花粉を体内に入れないためのものである。しかし、これらの対策を施しても花粉を完全にブロックすることは難しい。そうすると、今度は薬の出番である。市販の薬の多くは、抗ヒスタミン剤で、眠気を伴うという副作用がある。抗ヒスタミン剤によって、くしゃみや鼻水、目のかゆみといった症状は改善され、ひどい不快感からは解放される。この不快感がある程度解消されると治ったような気になるが、多くの人は、飲んだ薬で花粉症が治ったわけではないことは経験的にわかっているだろう。なぜなら、薬を飲まないと、また、くしゃみや鼻水、目のかゆみに襲われるからだ。これは、飲んだ薬が、くしゃみや鼻水、目のかゆみといった花粉症の症状を改善しているだけで、花粉症というアレルギーの病気そのものを治しているのではないからだ。

花粉症になっている人は、アレルギーになりやすい体質をもっている。つまり、花粉症を根治するためにはアレルギー体質を改善しなければならない。アレルギーは免疫の異常で起こる病気である。免疫は、外敵から身を守るための防御システムであるが、アレルギー体質ではこの防御システムが、本来は向かわない方向に向かって作動しているのである。すなわち、防御システムの方向を正常な方向に戻してやればアレルギー体質から脱却できる。しかし、「言うは易いが行うは難し」で、そう簡単にはいかないのだが、近年、DNAでそれができる可能性があることが示された。DNAは、生命の設計図である遺伝物質である。そのDNAがアレルギー治療のための薬となるかもしれないのである。しかし、DNAを薬として開発するためには、いくつかの問題がある。われわれの体の中にはDNAを分解する酵素が至る所に存在する。そのため、DNAを薬として投与しても、分解されて効果を発揮できない。また、DNAを薬として作用させる場合、DNAを免疫担当細胞に取り込ませなければならないが、DNAそのままだと、細胞はDNAを思うように取り込んでくれない。DNAを薬として開発するには、これらの問題を解決しなければならない。この問題解決の鍵となるのがナノテクノロジーなのである。

ナノテクノロジーとは、ナノ単位、すなわち一〇億分の一メートル︵m︶単位の物質や材料を作ったり、測ったりする技術である。イメージとしては、高度一〇〇〇キロメートルにいる人工衛星からパチンコ玉を操作することに相当する。ナノレベルの粒子を合成し、その粒子の中にDNAの薬を入れたり、あるいはその粒子の表面にDNAの薬を結合させることによって、分解酵素からDNAの薬は保護され、さらに細胞への取込み効率も格段に改善される。このようなナノレベルの粒子は、すでに抗ガン剤に利用されている。抗ガン剤を一〇〇ナノメートル以下の中空のリポソームというナノ粒子に内包してやると、抗ガン剤をガン組織のみに作用させることができ、抗ガン剤の副作用を低減することができる。血管は細胞でできている。正常な組織の血管は細胞どうしが密に接着しているのに対し、ガン組織の血管は細胞どうしの接着が弱く、隙間がある。ナノ粒子は、その隙間を通過できるため、ガン細胞にのみ抗ガン剤を運ぶことができる。ナノ粒子を使わない抗ガン剤は、ガン細胞以外の正常な細胞にも作用して、それが副作用として現れるのである。薬の開発とナノテクノロジー、一見するとなんの関係もなさそうだが、アレルギー治療のためのDNA医薬実用化にとってナノ粒子は重要な開発要素となる。

本書のタイトルからわかるように、DNA医薬とナノ粒子を複合化した花粉症の薬はまだ開発途上にある。日本では花粉症というとスギの花粉がおもな原因であるが、欧米ではブタクサ花粉がおもな原因である。また、海外では花粉と同様に、ダニが原因のハウスダストアレルギーも大きな問題となっている。ハウスダストアレルギーも花粉症と同じ原理でDNA医薬で予防あるいは治療することができる可能性がある。そのため、本書では、ハウスダストアレルギー治療のためのナノ粒子化したDNA医薬に関する開発についても紹介している。ハウスダストアレルギーで効果が認められれば、それは花粉症に対しても応用できる可能性が高いからだ。

本書により、異なる技術分野の融合によって花粉症をはじめとするアレルギー治療のための薬の研究開発が行われていることを垣間見ていただければ幸いである。

二〇一七年一月 花方信孝

1章 なぜ花粉症になるのか
 花粉症とは
 アレルギーとはなにか
 花粉症の発症メカニズム
 細菌やウイルスに感染したときの免疫システム
 ヘルパーT細胞
 制御性T細胞
 樹状細胞の抗原提示
 抗ヒスタミン剤による花粉症の治療
 ステロイド薬
 抗体の抗体で花粉症を治療する
 減感作療法

2章 「奇妙だけれどすごい」受容体
 樹状細胞が細菌やウイルス、花粉を見分ける仕組み
 トール様受容体
 アトピー性皮膚炎と花粉症
 DNAを認識するTLR
 細胞内にあるTLR

3章 DNAで花粉症の薬を作る
 花粉症の新しい治療戦略
 CpGODNを薬として使うときの問題点
 クラスBのCpGODNの作用
 クラスAのCpGODNの作用
 クラスAのCpGODNは複雑な構造を形成する
 ホスホジエステル結合のみでできたCpGODN
 クラスAとクラスBのCpGODNの細胞内の局在

4章 CpGODNのナノ粒子化による作用変換
 クラスBのCpGODNのペプチドによるナノ粒子化
 シリコンのナノ粒子
 蛍光を発するシリコンナノ粒子
 CpGODNはシリコンナノ粒子に結合したままTLR9に認識される
 クラスBの性質を残すための結合方法
 クラスBのCpGODNの金ナノ粒子への結合
 クラスBのCpGODNのカーボンナノチューブへの吸着
 クラスBのCpGODNのカーボンナノチューブへの「髪の毛状」の結合

5章 ナノ粒子化したCpGODNの前臨床試験
 ナノ粒子化のメリット
 CpGODNを放出するナノ粒子
 クラスBのCpGODNを内包したPLGA粒子のマウスへの投与
 クラスBのCpGODNを内包したPLGA粒子はアレルギー性喘息をも予防する
 クラスAのCpGODNもアレルギー疾患を改善する
 カチオン性ペプチドによるクラスBのCpGODNのナノリング化
 ナノリング化CpG-K23はIgG2a抗体の生産を促進する

6章 ナノ粒子化したCpGODNのヒトへの応用
 臨床試験中のナノ化CpGODN
 QβG10
 意外な結果
 CpGODNの副反応

おわりに
索引

日刊工業新聞2017年4月21日 「話題の本」欄