シリアスゲーム

メディアテクノロジーシリーズ 5

シリアスゲーム

シリアスゲームの入門的内容から具体的な開発方法,導入時の論点まで事例を交えて解説

ジャンル
発行年月日
2024/03/18
判型
A5
ページ数
236ページ
ISBN
978-4-339-01375-7
シリアスゲーム
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定価

3,960(本体3,600円+税)

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【読者対象】
本書は,教育や社会的なテーマでのゲーム開発や利用に関心を持つ読者を対象としています。この分野に関心のある学生や研究者,開発者,教育者などの幅広い読者が,本書を入口にシリアスゲームやゲーミフィケーションの開発や導入に取り組むために必要な知識を楽しんで学べる内容になっています。

【書籍の特徴】
「シリアスゲーム」は社会的な問題解決のためのゲームの開発・利用を総称する用語として提唱され,娯楽を超えたゲームの多様な可能性を広げる概念として普及しました。本書では,シリアスゲームの成り立ちからこれまでの展開を概観し,各分野における事例や新たな取り組みを整理して解説しています。2000年代からの約20年間の変遷の中で生じた多様な分野におけるシリアスゲームの拡がりや,その後のゲーミフィケーションへの展開についてテーマごとに整理して解説しました。

【各章について】
1章では,本書の導入としてシリアスゲームの定義や概念的な整理を行いました。これまでのシリアスゲーム研究の議論を発展させて,その後のシリアスゲーム研究の論点や近年の事例を踏まえた再検討を行っています。(藤本徹担当)
2章では,シリアスゲームの初期の事例や各分野への展開を概観し,ゲーミフィケーションへの展開とともにシリアスゲームの取り組みが社会に与えた意義や影響を解説しました。(藤本徹担当)
3章では,シリアスゲームデザインの枠組を検討し,歴史学習の分野の事例を中心に解説しました(池尻良平担当)。
4章では,シリアスゲームのメディアの性質について検討し,アナログゲーム,デジタルゲーム,アナログゲームのデジタル化の側面から事例を取り上げて考察を行いました(福山佑樹担当)。
5章では,シミュレーション開発を応用したシリアスゲームの開発方法の各分野への応用について,豊富な事例を交えて解説しました(古市昌一担当)。
6章では,医療現場や福祉現場に向けて開発されたシリアスゲーム導入のコミュニティ形成の重要性について議論しました。(松隈浩之担当)
7章では,地域課題解決のためのシリアスゲームである「地方創生ゲーム」の展開について取り上げて主要な事例を取り上げて解説しました。(小野憲史担当)
最後の8章では,各章で挙げられた論点を整理して総括的な検討を行うとともに,今後のシリアスゲームの開発や実践における課題と可能性について考察しました。(藤本徹担当)

【著者からのメッセージ】
ゲームを取り入れた社会課題解決や,ゲームを入口とした学びの場づくりなど,多様なゲームの可能性に期待する方がまずは手に取るべき一冊として執筆しました。大学でシリアスゲームを教えたい教員の方や開発者研修の講師の方,地域振興や事業開発の企画担当者の方など,ゲームを軸に新しい取り組みを始めたい方が,次の一歩に進むための入門書として手に取っていただければ幸いです。

【キーワード】
シリアスゲーム,ゲーミフィケーション,ゲーム学習,ゲームと教育,シミュレーションゲーム,エデュテインメント,エクサゲーム,地方創生ゲーム

「社会的な問題解決のためのゲームの開発・利用」を総称する用語として提唱されたシリアスゲーム(serious games)は,従来の教育・学習ゲーム,シミュレーションなど,各分野でおもに教育的な文脈で扱われてきたゲームの応用の可能性を広げる概念として提唱された。2000年代前半にゲーム産業や学術界を巻き込んだ一つのムーブメントとして展開され,それまでの教育的なゲーム利用を超え,さまざまな社会的なテーマにゲームが活用される流れを生んだ。

この当時の国内外のシリアスゲームの状況は,2007年に刊行された拙著『シリアスゲーム―教育・社会に役立つデジタルゲーム』(東京電機大学出版局)で解説した。デジタルゲーム技術の急速な発展と普及に後押しされ,その当時すでにシリアスゲームのムーブメントは世界的に認知されつつあった。その後,景気後退などの社会情勢もあって勢いは落ち着いた。2010年代に入り,シリアスゲームよりも概念的に広いゲーミフィケーション(gamification)が提唱されて,さらに社会的な関心が高まる動きとなり,ゲームの社会的な応用の取組みが加速した。

2000年代前半のシリアスゲームの初期の展開から20年近くが経過した今日,すでにゲームコンソール機は,NINTENDO GAMECUBEからNintendo DS,Wii,Nintendo Switchへ,PlayStation2からPlayStation5,初代XboxからXbox Series Xへと,数世代発展した。PC向けゲームの多くが開発されていたAdobe Flashは姿を消した。モバイル端末向けゲームは3Gから4G,5Gと,大容量通信を前提にしたスマートフォンゲームアプリの時代になり,ソーシャルゲームの主要プラットフォームも変遷した。オンラインゲームの世界も,『Ever Quest』や『World of Warcraft』に代表される人気の大規模マルチプレイヤーオンラインロールプレイングゲーム(MMORPG)が隆盛した時代から,バトルロイヤル形式のファーストパーソン・シューティングゲーム(FPS)やマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA)の人気ゲームが主流のオンラインゲームとして認識される状況に移り変わった。2000年代に『Second Life』が注目を集めたメタバースへの関心は,VRなどの技術の普及により,今日ではさらに社会的な関心が高まっており,eスポーツもこの数年で一つの産業として認識されるに至った。

シリアスゲームは,このようなデジタルゲーム産業におけるニッチな分野として着実に成果を重ねてきた。従来の教育用ゲームに限らず,さまざまな社会課題へのゲームの応用を目指すことで,デジタルゲーム産業がほかの分野とつながる新たな経路が生まれた。

シリアスゲームを軸とした研究者,開発者のコミュニティが形成され,多くの資金やリソースが投じられ,世界中で研究プロジェクトが立ち上がり,研究開発が進められた。シリアスゲーム専門の開発会社が設立され,研究機関にはシリアスゲームに特化した研究センターが設置された。産業振興のテーマとしてシリアスゲームに取り組む国や地域も現れ,関連分野とゲーム産業をつなぐコンセプトとして機能した。

本書では,そうしたシリアスゲームの成り立ちからこれまでの展開や,各分野における新たな取組みを整理して論じ,シリアスゲームの意義や社会に起こした影響を概観し,その成果や可能性と課題を検討した。特に,2000年代からの約20年間の変遷の中で生じた多様な分野におけるシリアスゲームの広がりをテーマごとに整理して検討し,今後この分野の研究や開発に取り組む人々に共通基盤となる知見を提供することに主眼を置いた。

本書の執筆にあたり,シリアスゲームやゲーミフィケーションを扱う大学の授業などで入門書として利用してもらえるように,事例を交えてできるだけ理解しやすくなるように配慮した。この分野に関心のある学生や研究者が,本書を入口にさらに詳しい文献をたどれるように専門的な内容を扱いつつ,シリアスゲームの開発に取り組む開発者にとっても有用な知見を提供できるよう,開発方法や導入時の論点なども具体的な事例を交えて解説することに努めた。

本書はつぎのような章と内容で構成している。まず1章では,本書の導入としてシリアスゲームの定義や概念的な整理を行う。これまでに筆者が発表した関連論文^{1)~5)},での議論を発展させて,その後のシリアスゲーム研究の論点や近年の事例を踏まえた再検討を行う。2章では,初期の事例や各分野への展開を概観し,その意義や影響を解説する。

3~5章は,シリアスゲームの開発者側の立ち位置からの各論として,シリアスゲームのデザイン,メディア,開発方法にそれぞれ焦点を当てて議論を深める。3章はシリアスゲームデザインの枠組みを検討し,歴史学習の分野の事例を中心に解説する。4章はシリアスゲームのメディアの性質について検討し,アナログゲーム,デジタルゲーム,アナログゲームのデジタル化の側面から事例を取り上げて考察を行う。5章はシミュレーション開発を応用したシリアスゲームの開発方法の各分野への応用について,豊富な事例を交えて解説する。

6~7章は,シリアスゲームのユーザーやスポンサー側の立ち位置に焦点を当てて,医療現場や福祉現場に向けて開発されたシリアスゲームを導入することによるコミュニティ形成,地域課題解決のためのシリアスゲームである「地方創生ゲーム」の展開について取り上げる。

最後に8章で,各章で挙げられた論点を整理して総括的な検討を行うとともに,今後のシリアスゲームの開発や実践における課題と可能性について考察する。著者一同を代表し,本書の出版にご協力くださった方々へ心から感謝を述べるとともに,本書が関連する分野の次代を担う研究者や開発者たちの学びにつながり,より良い社会を目指す活動に貢献できることを願っている。

2024年1月
編著者 藤本徹

第1章 シリアスゲームとは
1.1 シリアスゲームの定義と対象
 1.1.1 「ゲーム」の概念的な定義
 1.1.2 シリアスゲームの定義
 1.1.3 シリアスゲームの範囲
1.2 関連用語との類似点と相違点
 1.2.1 ゲーミングシミュレーション
 1.2.2 エンターテインメントエデュケーション
 1.2.3 エデュテインメント
 1.2.4 シリアスゲームとともに提唱された概念・用語
 1.2.5 ゲーミフィケーション
 1.2.6 その他の関連用語

第2章 シリアスゲームの展開
2.1 シリアスゲームの歴史的展開
 2.1.1 シリアスゲーム登場の発端とコミュニティ形成
 2.1.2 初期の代表的事例
 2.1.3 シリアスゲームが起こした変化
2.2 国内における展開
 2.2.1 国内大手ゲーム会社の動向
 2.2.2 産学連携によるシリアスゲーム開発の取組み
2.3 ゲーミフィケーションへの展開
2.4 シリアスゲームの残した成果

第3章 シリアスゲームのデザイン
3.1 シリアスゲームの一般的なデザイン論
 3.1.1 ゲーム学習のフレームワーク
 3.1.2 学習に効果的なゲーム要素
 3.1.3 シリアスゲームの一般的なデザイン論のまとめ
3.2 学習領域に合わせたシリアスゲームの事例紹介
 3.2.1 防災の学習領域のシリアスゲーム『StopDisasters!』
 3.2.2 歴史の学習領域のシリアスゲーム『MissionUS』
3.3 学習領域に合わせた独自なデザインについての考察
 3.3.1 二つの事例における学習領域ならではのデザイン
 3.3.2 各学習領域におけるキー概念の抽出方法
3.4 学習領域に合わせた効果的なシリアスゲームのデザイン論
 3.4.1 学習領域に合わせた効果的なシリアスゲームのデザイン手順
 3.4.2 熟達者研究を活用した歴史領域のシリアスゲームのデザイン事例

第4章 シリアスゲームのメディア
4.1 シリアスゲーム研究におけるメディア
4.2 アナログゲームとデジタルゲームの特徴
4.3 シリアスゲームとメディアの特性:『ジョブスタ』を対象として
 4.3.1 事例1:『ジョブスタ(アナログ版)』
 4.3.2 事例2:『ジョブスタオンライン(アプリ版)』
 4.3.3 事例3:『ジョブスタオンライン(ビデオ会議版)』
 4.3.4 事例4:『ジョブスタ(ハイフレックス版)』
 4.3.5 メディアの特性の影響についての考察
4.4 教育目的のシリアスゲームのメディア比較研究
4.5 メディア特性を活かしたシリアスゲームの展望

第5章 シリアスゲームの開発方法
5.1 シリアスゲーム開発方法普及の重要性
 5.1.1 ソフトウェア工学とゲーム開発
 5.1.2 一般的なゲーム開発とシリアスゲームの開発の相違点
 5.1.3 シリアスゲーム開発プロセスSGDP
5.2 シリアスゲーム開発の実際
 5.2.1 開発者自ら課題に対して調査を行う場合
 5.2.2 ユーザーと専門家の協力を得て開発する場合
 5.2.3 専門のSEと共同で開発する場合
コラム:シリアスゲーム命名クラーク・アプト博士
5.3 シリアスゲーム開発法の普及活動:シリアスゲームジャム

第6章 エクサゲーム
6.1 エクサゲーム研究の現状
6.2 エクサゲームの利用者と環境
6.3 事例1:『リハビリウム起立くん』
 6.3.1 ゲーム概要
 6.3.2 検証
6.4 事例2:『ロコモでバラミンゴ』
 6.4.1 ゲーム概要
 6.4.2 検証
6.5 事例3:『たたけ!バンバン職人』
 6.5.1 ゲーム概要
 6.5.2 検証
6.6 コミュニティ形成
 6.6.1 施設内でのコミュニケーション
 6.6.2 地域における健康運動サークル
 6.6.3 スマホとクラウドを用いたオンラインコミュニティ
6.7 エクサゲーム研究の展望

第7章 地方創生とゲーム
7.1 企業と個人,双方の地方創生ゲーム
7.2 ご当地ゲームの広がり
7.3 ご当地ゲームの先行研究と先行事例
7.4 インディゲームが切り開いた「地方創生ゲーム」への展開
7.5 公費投入型地方創生ゲーム
 7.5.1 種類
 7.5.2 公費投入型地方創生ゲームの背景
 7.5.3 開発事例
 7.5.4 長所と課題
7.6 インディゲーム型地方創生ゲーム
 7.6.1 事例1:『岐阜クエスト』
 7.6.2 事例2:『まるがめクエスト』
7.7 産業育成型地方創生ゲーム
7.8 地方創生ゲームの未来

第8章 今後の課題と展望
8.1 各章の論点の整理
8.2 これまでの課題と展望を振り返る
 8.2.1 シリアスゲームを軸とした異分野連携
 8.2.2 ゲーム業界におけるシリアスゲームの可能性
 8.2.3 ゲームに対する認識の社会的変化
8.3 これからの課題と展望
 8.3.1 開発と導入のための方法論の充実
 8.3.2 効果に関する知見の共有
 8.3.3 支援の仕組みと導入のための基盤整備

引用・参考文献
用語索引
ゲーム索引

【書評】日本大学理工学部 松野 裕 教授

本書は近年日本においても広く認識されつつあるシリアスゲームに関する最新の知見や動向がまとめられており、シリアスゲームの教育、研究、開発に関わりたい学生や教員、企業の方に最適である。

1章では、シリアスゲームとはなにか、概念の整理から類似概念との関係がまとめられている。シリアスゲーム(Serious Games)という言葉自体は1970年代にはじめて登場し、2000年代に研究が活発になったことが示されている。本書ではシリアスゲームは狭義には(1)娯楽を超えた特定の効能や用途的意図を伴い、(2)ゲームプレイに関係する形でデザインされた、ゲームの開発・利用と定義されている。特に興味深いのは、シリアスゲームでは開発者が娯楽以外の意図(学習)を持つ場合と持たない場合、利用者が娯楽以外の意図を持つ場合と持たない場合で、4つの場合があることが図で示されていることである。狭義のシリアスゲームは、開発者と利用者双方が学習などの娯楽以外の目的を明示的に持っている場合である。一方、開発者と利用者双方が娯楽のみを目的としたゲームは一般的なゲームとされる。評者は素朴に、ゲームとは楽しむものであり、娯楽よりも学習など他の目的を持つシリアスゲームは、果たしてゲームなのかという疑問を持っていた。この疑問に答える回答を評者はまだ持っていないが、本書で示されている従来のゲームとシリアスゲームの対比は示唆に富んでいる。

2章ではシリアスゲームが提唱された時期からの歴史的展開や初期の代表的な事例、国内での展開が概観されている。シリアスゲームへの関心の高まりは2000年前後の時期に米国で行われた産官学連携による2つのゲーム開発プロジェクト、大学経営シミュレーション「Virtual U」および米陸軍が新兵募集マーケティングのために開発した「America’s Army」がその流れを作ったことが書かれている。Virtual Uは250以上の大学で利用された。America’s Armyは2,700万ドル以上の予算を使って開発され、2,000万人を超えるアクティブユーザーに利用された。この2作品は従来のゲーム会社ではなく、大学や非営利組織、デジタルゲーム開発会社などの連携により開発された。2,000年代はゲーム機の高性能化が進んだ時期であり、デジタルゲーム会社は娯楽以外の新たな領域を求め、研究者や教育者、行政担当者はエンターティメントの枠を超えたゲームの利用への理解が進み、シリアスゲームの大きな流れが生まれたことが解説されている。2001年9月11日に起きた同時多発テロで多くの経験豊かな消防士を失い、新たな訓練方法へのニーズが高まる中、消防士訓練シリアスゲーム「Hazmat: Hotzone」がニューヨーク消防局で採用されるなど、米国におけるシリアスゲームの広範囲な活用が紹介されている。これらのシリアスゲームの開発や応用は、諸領域横断的なコミュニティ形成によりなされてきたことが紹介されている。評者はシリアスゲームに関わる前は、シリアスゲームの欧米での活用は知っておらず、2章で紹介されている事例は非常に興味深かった。

3章ではシリアスゲームのデザインについて解説されている。3.1節では、これまでシリアスゲームやゲーム学習の一般的なデザインモデルが提案されており、本書ではスタールダイネン&でフレイタスの「ゲームをベースにした学習のフレームワーク」が紹介されている。シリアスゲームのデザインを始めるにあたって、まず本書の3章をスタート地点にするとよい。3.2節では学習領域に合わせたシリアスゲームの事例として、防災の学習領域のシリアスゲームとして「Stop Disasters!」、歴史の学習領域のシリアスゲーム「Mission US」を取り上げ、それぞれ3.1節で紹介されたフレームワークに沿いながら、[1]学習目的・ゲームゴール・学習コンテンツ、[2]プレイの流れ・インストラクション、[3]フィードバック・ディブリーフィングをそれぞれのゲームで解説している。評者は人が熱中する、面白いゲームを作るための方法論は存在しないのではないかと考えるが(もし存在するならば、すべてのゲームは面白くできるはずだが、残念ながらそうではない)、本章のようなゲームデザインの方法論は、面白いゲームを作るための前提知識として、非常に重要である。

4章ではデジタルゲームやカードゲームなどのアナログゲームの、ゲームの形態、メディアによるシリアスゲームの学習効果などの評価が解説されている。例として「ジョブスタ」という、新しい仕事を発想することを競うゲームの、カードゲーム版、オンライン版、ビデオ会議版の比較が解説されている。

5章ではシリアスゲームの開発論として、従来のソフトウェア工学の手法をもとにしたSLCPと呼ばれる手法が解説されている。シリアスゲーム開発もソフトウェア開発であり、評者はソフトウェア工学の知見が活かせる分野ではないかと考えていたが、SLCPの解説を読み、シリアスゲームが、ソフトウェア工学を含む様々な分野の学際横断的な研究領域になりうることを確信した。

6章ではシリアスゲームを運動と関連付けた、エクサゲームについての紹介がされている。リハビリテーションや高齢者の運動促進などにエクサゲームが活用されている事例や、エクサゲームを通じたコミュニティ形成について述べられている。

7章では地方創生のためのシリアスゲームの活用事例が多く紹介されている。地域の課題解決のためにシリアスゲームを地方創生ゲームと定義している。岐阜県を題材として「岐阜クエスト」、群馬県をテーマとした「ぐんまのやぼう」など、地方創生のために様々なシリアスゲームが紹介されている。本章では地方創生ゲーム開発の事例を公費投入型地方創生ゲーム (地方創生RPGシリーズ、VRを用いた「タイムトリップ堺」、ARを用いた「AR長岡京」など)、個人・インディーゲーム会社による開発(「コロニーな生活」、「ぐんまのやぼう」など)、および産業育成型地方創生ゲーム(「喰人記」など)などにわけて紹介している。地方創生のためのゲーム開発が多くなされていることは、評者は知っておらず、非常に参考になった。

8章ではシリアスゲームの今後の展望と課題が述べられている。
筆者はソフトウェア工学および信頼性や安全・安心をテーマとして研究しており、学生が興味を持ちそうなテーマとして、防災をテーマとしたシリアスゲームを2018年より学生の卒論、修論のテーマとして研究開発を行ってきた。さらに2022年に著者の一人である日本大学生産工学部の古市昌一特任教授から、ゲームジャムを紹介していただき、2024年の3月には日本大学理工学部で防災シリアスゲームジャムを開催した(https://www.matsulab.org/#/event )。参加者は総数で60名になり、有意義なイベントになった。しかしながら「ゲーム」と名前がつくと、いまだそれは大学で行うものではない、研究ではないという雰囲気を大学で感じることもある。また、シリアスゲームはゲームであり、本当に面白くなければ、やがて誰も遊ばなくなる。残念ながら「面白い」ゲームを作る方法(その方法に従えば必ず面白いゲームが作れるという意味での方法論)は存在しない。ゲームは学問化、形式化しにくい分野であると評者は考えるが、本書はそのような現状において、ゲームの持つ力を様々な分野で活用するための最新の情報が記されている。一読を勧めたい。

読者モニターレビュー【 N/M 様(業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】

本書は「メディアテクノロジーシリーズ」の5巻目に位置する書籍である.本巻では「シリアスゲーム」についての記述がなされている.

1章では,シリアスゲームとは何かということを理解する上で,そもそも「ゲーム」というものの概念的な定義や,「シリアスゲーム」の定義・範囲及び,それに関連した「ゲーミフィケーション」等の関連用語の類似点や相違点についての解説がなされている.

私が「ゲーミフィケーション」という用語を初めて知り,その概念に興味深いと感じたのは,自身が卒業した大学のWebシラバスであった.閲覧可能な年度でみると,少なくとも2018年度頃から現在まで『ゲーミフィケーション』という名の反転学習型の講義(事前に教科書を読んで,事前学習個所の内容を問う問題に解答し,その内容をグループ討論や,自身の考案したゲーミフィケーションをプレゼンするような)が行われているようだ(因みに使われているテキストは,本書でも1章の引用・参考文献21),2章の引用・参考文献32)にも挙げられている『井上明人(著):「ゲーミフィケーション<ゲーム>がビジネスを変える」,NHK出版』).学習内容を見ていると,この講義の教科書,若しくは参考文献になりそうな気が個人的にはしている.

2章では,シリアスゲームの歴史的背景について書かれており,この1章と2章で,シリアスゲームというもの概念とその広がりが理解できるようになっている.

3章〜5章では,シリアスゲームのデザインやシリアスゲーム開発のためのメディア,開発方法などが解説してある.それらを踏まえて,6章〜7章では開発例として健康をテーマとした,リハビリやヘルスケアを行うエクサゲーム,地方創生ゲームを取り上げて,これらの事例についての解説なされている.個人的には,「PokémonGO」や「Pokémon Sleep」を愛用しているが,これらも社会全体(や個人)が抱える問題(運動不足や睡眠障害など)を解決するシリアスゲームの一種では思った.

最後の8章では,今後の課題と展望ということで各章の論点のまとめと,これまでの課題と展望を振り返りつつ,これからの課題と展望という未来に向けた内容で締め括られている.

最後に,日本におけるシリアスゲームやゲーミフィケーションに関連した専門書は,現段階(2024年3月現在)ではあまり多く出版されていないような状況のように,個人的には思われる.そういった状況から,本書はシリアスゲームやゲーミフィケーションについて丁寧な記述がなされており,初学者の方にもオススメできると思う.また,上記にも挙げたように大学等の講義の教科書や参考書としても十分活用できるものと思われる.

読者モニターレビュー【 てらマン 様(業界・専門分野:教育関係 )】

本書は「メディアテクノロジーシリーズ」の中でも,現時点における日本語で書かれた「シリアスゲーム」の貴重な書籍となっている。

編著の藤本徹先生は2007年にも「シリアスゲーム」という書籍を出版されているが,そこから17年が経過した現時点までの「シリアスゲーム」の広がり,特に日本国内での事例が豊富に紹介され,その広がりを知ることができる。また,特に第5章ではシリアスゲームの制作技法が説明されるなどこれからシリアスゲームを制作したい方にとっても有用な情報が記載されている。

第1章では「シリアスゲーム」とその周辺概念,特に2010年代に活発となった「ゲーミフィケーション」との対比がなされている。またアナログゲームも包含されることを述べている。第2章ではシリアスゲームの歴史が述べられ,第3章では学習理論と関連させながら実際のシリアスゲームの活用例が記されている。第4章では同じゲームを異なるメディアで展開した事例が説明されているが,アナログゲームも触れられている点や利用したメディアによって効果が異なることが実証的に示されており興味深い。第5章は上述のとおりである。

第6・7章は具体例としてエクサゲーム(エクササイズのゲーム),地方創生ゲームが取り上げられており,シリアスゲームの幅広い展開を知ることができる。ただし,これらはゲーミフィケーションの事例として扱われるものでもあり,第1章での「シリアスゲーム」と「ゲーミフィケーション」との対比を考えると少々混乱してしまった。第8章は全体のまとめと今後の展望である。

以上のように,特に日本におけるシリアスゲームの現在地を知るうえで本書は入門書であり専門書でもある。シリアスゲームやゲームの教育・実社会への活用を考えているすべての方に一読をおすすめする。

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報一覧

藤本 徹

藤本 徹(フジモト トオル)

東京大学大学院情報学環 准教授。専門はゲーム学習論,教育工学。慶應義塾大学環境情報学部卒。ペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。著書に「シリアスゲーム」(東京電機大学出版局),「ゲームと教育・学習」(共編著,ミネルヴァ書房)訳書に「テレビゲーム教育論」,「デジタルゲーム学習」(東京電機大学出版局),「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(早川書房)など。

池尻 良平

池尻 良平(イケジリ リョウヘイ)

東京大学大学院情報学環 客員准教授。東京大学文学部卒。東京大学大学院学際情報学府 博士課程を経て2014年に博士号(学際情報学)取得。専門は歴史教育,教育工学,ゲーム学習。主に歴史のゲーム教材やデジタル教材を開発しつつ,高校で実践・評価している。日本教育工学会 論文賞(2018年,2023年),全国社会科教育学会 研究奨励賞(2016年),日本教育メディア学会 井内賞(2013年)を受賞。共著に「歴史を射つ: 言語論的転回・文化史・パブリックヒストリー・ナショナルヒストリー」(御茶の水書房),「ゲームと教育・学習(教育工学選書Ⅱ)」(ミネルヴァ書房)など。

福山 佑樹

福山 佑樹(フクヤマ ユウキ)

関西学院大学 ライティングセンター 教授。東京大学大学院学際情報学府修士課程・早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。専門分野は教育工学(ゲーム学習・高等教育)。ゲームやゲーミフィケーションを利用した社会問題の学習手法など,ゲームと教育・学習の関係性について研究しているほか,民間企業や行政と共同で研修や教育用のゲーム開発にも携わっている。共著書に「ゲームと教育・学習(教育工学選書Ⅱ)」(ミネルヴァ書房),「残された酸素ボンベ:主体的・対話的で深い学びのための科学と社会をつなぐ推理ゲームの使い方」(ナカニシヤ出版)など。

古市 昌一

古市 昌一(フルイチ マサカズ)

日本大学生産工学部 教授,広島大学総合科学部総合科学科卒業,イリノイ大学アーバナシャンペン校でコンピュータサイエンス修士号,慶應義塾大学で博士号を取得。専門はモデリング&シミュレーションとシリアスゲームの構築法,三菱電機(株)在職時にはウォゲームシステムの研究開発に従事,日本大学では教育・研修,医療健康福祉等を目的としたシリアスゲームの開発を学生達と行っている他,TVの歴史番組(NHKの歴史探偵,英雄達の選択等)で過去の戦いを多数再現。

松隈 浩之

松隈 浩之(マツグマ ヒロユキ)

社会問題の解決を目的とした「シリアスゲーム」やゲームの要素を他の領域で活用する「ゲーミフィケーション」が専門領域。具体的な活動として高齢者のリハビリ・ヘルスケアを支援するゲームを開発・研究するシリアスゲームプロジェクトを推進している。また、福岡ゲーム産業機構というゲーム企業、福岡市、九州大学の産官学連携による活動にも参加している。関連して、メディア芸術分野の活性化を標榜した『アジアデジタルアート大賞展』というアートコンペティションの運営にも力をいれている。

小野 憲史

小野 憲史(オノ ケンジ)

東京国際工科専門職大学工科学部デジタルエンタテインメント学科講師。ゲーム教育ジャーナリスト,NPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名誉理事・事務局長,一般社団法人日本ゲームシナリオライター協会監事としても活動中。主な連載記事に「小野憲史のゲーム時評」(まんたんウェブ),「リーダーのためのメディアガイド」(教育新聞)などがある。

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電子情報通信学会誌2024年4月号

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掲載日:2024/03/04

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