レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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今後この分野の研究・開発に取り組む方々の共通基盤となる知見を提供する事に主眼を置き,シリアスゲームの成り立ちから展開,各分野の事例や新たな取組みを整理して論じるとともに,その意義や社会に起こした影響を解説。
- 発行年月日
- 2024/03/18
- 定価
- 3,960円(本体3,600円+税)
- ISBN
- 978-4-339-01375-7
レビュー,書籍紹介・書評掲載情報
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【書評】日本大学理工学部 松野 裕 教授
掲載日:2024/05/01
本書は近年日本においても広く認識されつつあるシリアスゲームに関する最新の知見や動向がまとめられており、シリアスゲームの教育、研究、開発に関わりたい学生や教員、企業の方に最適である。
1章では、シリアスゲームとはなにか、概念の整理から類似概念との関係がまとめられている。シリアスゲーム(Serious Games)という言葉自体は1970年代にはじめて登場し、2000年代に研究が活発になったことが示されている。本書ではシリアスゲームは狭義には(1)娯楽を超えた特定の効能や用途的意図を伴い、(2)ゲームプレイに関係する形でデザインされた、ゲームの開発・利用と定義されている。特に興味深いのは、シリアスゲームでは開発者が娯楽以外の意図(学習)を持つ場合と持たない場合、利用者が娯楽以外の意図を持つ場合と持たない場合で、4つの場合があることが図で示されていることである。狭義のシリアスゲームは、開発者と利用者双方が学習などの娯楽以外の目的を明示的に持っている場合である。一方、開発者と利用者双方が娯楽のみを目的としたゲームは一般的なゲームとされる。評者は素朴に、ゲームとは楽しむものであり、娯楽よりも学習など他の目的を持つシリアスゲームは、果たしてゲームなのかという疑問を持っていた。この疑問に答える回答を評者はまだ持っていないが、本書で示されている従来のゲームとシリアスゲームの対比は示唆に富んでいる。
2章ではシリアスゲームが提唱された時期からの歴史的展開や初期の代表的な事例、国内での展開が概観されている。シリアスゲームへの関心の高まりは2000年前後の時期に米国で行われた産官学連携による2つのゲーム開発プロジェクト、大学経営シミュレーション「Virtual U」および米陸軍が新兵募集マーケティングのために開発した「America’s Army」がその流れを作ったことが書かれている。Virtual Uは250以上の大学で利用された。America’s Armyは2,700万ドル以上の予算を使って開発され、2,000万人を超えるアクティブユーザーに利用された。この2作品は従来のゲーム会社ではなく、大学や非営利組織、デジタルゲーム開発会社などの連携により開発された。2,000年代はゲーム機の高性能化が進んだ時期であり、デジタルゲーム会社は娯楽以外の新たな領域を求め、研究者や教育者、行政担当者はエンターティメントの枠を超えたゲームの利用への理解が進み、シリアスゲームの大きな流れが生まれたことが解説されている。2001年9月11日に起きた同時多発テロで多くの経験豊かな消防士を失い、新たな訓練方法へのニーズが高まる中、消防士訓練シリアスゲーム「Hazmat: Hotzone」がニューヨーク消防局で採用されるなど、米国におけるシリアスゲームの広範囲な活用が紹介されている。これらのシリアスゲームの開発や応用は、諸領域横断的なコミュニティ形成によりなされてきたことが紹介されている。評者はシリアスゲームに関わる前は、シリアスゲームの欧米での活用は知っておらず、2章で紹介されている事例は非常に興味深かった。
3章ではシリアスゲームのデザインについて解説されている。3.1節では、これまでシリアスゲームやゲーム学習の一般的なデザインモデルが提案されており、本書ではスタールダイネン&でフレイタスの「ゲームをベースにした学習のフレームワーク」が紹介されている。シリアスゲームのデザインを始めるにあたって、まず本書の3章をスタート地点にするとよい。3.2節では学習領域に合わせたシリアスゲームの事例として、防災の学習領域のシリアスゲームとして「Stop Disasters!」、歴史の学習領域のシリアスゲーム「Mission US」を取り上げ、それぞれ3.1節で紹介されたフレームワークに沿いながら、[1]学習目的・ゲームゴール・学習コンテンツ、[2]プレイの流れ・インストラクション、[3]フィードバック・ディブリーフィングをそれぞれのゲームで解説している。評者は人が熱中する、面白いゲームを作るための方法論は存在しないのではないかと考えるが(もし存在するならば、すべてのゲームは面白くできるはずだが、残念ながらそうではない)、本章のようなゲームデザインの方法論は、面白いゲームを作るための前提知識として、非常に重要である。
4章ではデジタルゲームやカードゲームなどのアナログゲームの、ゲームの形態、メディアによるシリアスゲームの学習効果などの評価が解説されている。例として「ジョブスタ」という、新しい仕事を発想することを競うゲームの、カードゲーム版、オンライン版、ビデオ会議版の比較が解説されている。
5章ではシリアスゲームの開発論として、従来のソフトウェア工学の手法をもとにしたSLCPと呼ばれる手法が解説されている。シリアスゲーム開発もソフトウェア開発であり、評者はソフトウェア工学の知見が活かせる分野ではないかと考えていたが、SLCPの解説を読み、シリアスゲームが、ソフトウェア工学を含む様々な分野の学際横断的な研究領域になりうることを確信した。
6章ではシリアスゲームを運動と関連付けた、エクサゲームについての紹介がされている。リハビリテーションや高齢者の運動促進などにエクサゲームが活用されている事例や、エクサゲームを通じたコミュニティ形成について述べられている。
7章では地方創生のためのシリアスゲームの活用事例が多く紹介されている。地域の課題解決のためにシリアスゲームを地方創生ゲームと定義している。岐阜県を題材として「岐阜クエスト」、群馬県をテーマとした「ぐんまのやぼう」など、地方創生のために様々なシリアスゲームが紹介されている。本章では地方創生ゲーム開発の事例を公費投入型地方創生ゲーム (地方創生RPGシリーズ、VRを用いた「タイムトリップ堺」、ARを用いた「AR長岡京」など)、個人・インディーゲーム会社による開発(「コロニーな生活」、「ぐんまのやぼう」など)、および産業育成型地方創生ゲーム(「喰人記」など)などにわけて紹介している。地方創生のためのゲーム開発が多くなされていることは、評者は知っておらず、非常に参考になった。
8章ではシリアスゲームの今後の展望と課題が述べられている。
筆者はソフトウェア工学および信頼性や安全・安心をテーマとして研究しており、学生が興味を持ちそうなテーマとして、防災をテーマとしたシリアスゲームを2018年より学生の卒論、修論のテーマとして研究開発を行ってきた。さらに2022年に著者の一人である日本大学生産工学部の古市昌一特任教授から、ゲームジャムを紹介していただき、2024年の3月には日本大学理工学部で防災シリアスゲームジャムを開催した(https://www.matsulab.org/#/event )。参加者は総数で60名になり、有意義なイベントになった。しかしながら「ゲーム」と名前がつくと、いまだそれは大学で行うものではない、研究ではないという雰囲気を大学で感じることもある。また、シリアスゲームはゲームであり、本当に面白くなければ、やがて誰も遊ばなくなる。残念ながら「面白い」ゲームを作る方法(その方法に従えば必ず面白いゲームが作れるという意味での方法論)は存在しない。ゲームは学問化、形式化しにくい分野であると評者は考えるが、本書はそのような現状において、ゲームの持つ力を様々な分野で活用するための最新の情報が記されている。一読を勧めたい。
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読者モニターレビュー【 N/M 様(業界・専門分野:総合情報学[情報科学])】
掲載日:2024/03/14
本書は「メディアテクノロジーシリーズ」の5巻目に位置する書籍である.本巻では「シリアスゲーム」についての記述がなされている.
1章では,シリアスゲームとは何かということを理解する上で,そもそも「ゲーム」というものの概念的な定義や,「シリアスゲーム」の定義・範囲及び,それに関連した「ゲーミフィケーション」等の関連用語の類似点や相違点についての解説がなされている.
私が「ゲーミフィケーション」という用語を初めて知り,その概念に興味深いと感じたのは,自身が卒業した大学のWebシラバスであった.閲覧可能な年度でみると,少なくとも2018年度頃から現在まで『ゲーミフィケーション』という名の反転学習型の講義(事前に教科書を読んで,事前学習個所の内容を問う問題に解答し,その内容をグループ討論や,自身の考案したゲーミフィケーションをプレゼンするような)が行われているようだ(因みに使われているテキストは,本書でも1章の引用・参考文献21),2章の引用・参考文献32)にも挙げられている『井上明人(著):「ゲーミフィケーション<ゲーム>がビジネスを変える」,NHK出版』).学習内容を見ていると,この講義の教科書,若しくは参考文献になりそうな気が個人的にはしている.
2章では,シリアスゲームの歴史的背景について書かれており,この1章と2章で,シリアスゲームというもの概念とその広がりが理解できるようになっている.
3章〜5章では,シリアスゲームのデザインやシリアスゲーム開発のためのメディア,開発方法などが解説してある.それらを踏まえて,6章〜7章では開発例として健康をテーマとした,リハビリやヘルスケアを行うエクサゲーム,地方創生ゲームを取り上げて,これらの事例についての解説なされている.個人的には,「PokémonGO」や「Pokémon Sleep」を愛用しているが,これらも社会全体(や個人)が抱える問題(運動不足や睡眠障害など)を解決するシリアスゲームの一種では思った.
最後の8章では,今後の課題と展望ということで各章の論点のまとめと,これまでの課題と展望を振り返りつつ,これからの課題と展望という未来に向けた内容で締め括られている.
最後に,日本におけるシリアスゲームやゲーミフィケーションに関連した専門書は,現段階(2024年3月現在)ではあまり多く出版されていないような状況のように,個人的には思われる.そういった状況から,本書はシリアスゲームやゲーミフィケーションについて丁寧な記述がなされており,初学者の方にもオススメできると思う.また,上記にも挙げたように大学等の講義の教科書や参考書としても十分活用できるものと思われる.
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読者モニターレビュー【 てらマン 様(業界・専門分野:教育関係 )】
掲載日:2024/03/12
本書は「メディアテクノロジーシリーズ」の中でも,現時点における日本語で書かれた「シリアスゲーム」の貴重な書籍となっている。
編著の藤本徹先生は2007年にも「シリアスゲーム」という書籍を出版されているが,そこから17年が経過した現時点までの「シリアスゲーム」の広がり,特に日本国内での事例が豊富に紹介され,その広がりを知ることができる。また,特に第5章ではシリアスゲームの制作技法が説明されるなどこれからシリアスゲームを制作したい方にとっても有用な情報が記載されている。
第1章では「シリアスゲーム」とその周辺概念,特に2010年代に活発となった「ゲーミフィケーション」との対比がなされている。またアナログゲームも包含されることを述べている。第2章ではシリアスゲームの歴史が述べられ,第3章では学習理論と関連させながら実際のシリアスゲームの活用例が記されている。第4章では同じゲームを異なるメディアで展開した事例が説明されているが,アナログゲームも触れられている点や利用したメディアによって効果が異なることが実証的に示されており興味深い。第5章は上述のとおりである。
第6・7章は具体例としてエクサゲーム(エクササイズのゲーム),地方創生ゲームが取り上げられており,シリアスゲームの幅広い展開を知ることができる。ただし,これらはゲーミフィケーションの事例として扱われるものでもあり,第1章での「シリアスゲーム」と「ゲーミフィケーション」との対比を考えると少々混乱してしまった。第8章は全体のまとめと今後の展望である。
以上のように,特に日本におけるシリアスゲームの現在地を知るうえで本書は入門書であり専門書でもある。シリアスゲームやゲームの教育・実社会への活用を考えているすべての方に一読をおすすめする。
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ゲームメーカーズ 様による本書プレゼントキャンペーン
掲載日:2024/03/05
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