電磁波による生体内イメージング - 原理からMATLABを用いた数値解析まで -

電磁波による生体内イメージング - 原理からMATLABを用いた数値解析まで -

  • 桑原 義彦 静岡大名誉教授・愛知医科大客員教授 博士(工学)

ミリ波・マイクロ波イメージングシステムに必要な知識・技術を系統的に解説した一冊

ジャンル
発行年月日
2022/03/08
判型
A5
ページ数
254ページ
ISBN
978-4-339-00981-1
電磁波による生体内イメージング - 原理からMATLABを用いた数値解析まで -
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【本書の特徴】
本書が扱う内容は,電磁波を用いた生体内部のイメージングです。X線を使わず,携帯電話の出力電力程度の小さな装置で生体内部のイメージングができれば,医学に革新的な変化をもたらすでしょう。しかし,この研究領域は難解な電波伝搬,信号処理,数値解析が絡み合い,初学者がこの領域に入るには非常にハードルが高いのが現実です。そのため,これまでの研究で得た知見をプログラムとともに公開しています。電波伝搬解析や逆散乱問題を扱う場合,難解な数式から逃れることはできませんが,プログラムを見てそれを実行することで,具体的な解析手法を確実に理解することができます。
本書は基礎から解説していますが,解析手法を限定し,できるだけ踏み込んだ解説を心がけました。使用するプログラムの動作も詳しく説明しています。プログラムは科学技術計算で使われることの多いMATLAB上で動作します。複雑な構造のセンサやオブジェクトの解析は市販の電磁界解析シミュレータCST Studio Suiteが必要ですが,これがなくても簡単な構造のセンサやオブジェクトの解析は可能です。その他,コラムを設けて研究開発のエピソードを紹介するとともに,付録を設け,本文では取り扱えなかった技術を解説しています。

【各章の概要】
第1章では電磁波を用いた生体内部のイメージングの研究開発の意義と,現在の研究開発状況を紹介しています。第2章では理論の基本となる生体組織の電気的特性について解説します。第3章では電波伝搬解析理論を説明した後,シミュレーションプログラムとその動作例を示しています。複雑なオブジェクトを解析するためにCST Studio Suiteを使用しますが,MATLABと連接して機能を拡張する方法も解説しています。第4章以降でイメージングの各論に入り,第4章では共焦点イメージングの理論とその限界について計算機シミュレーション結果に基づいて解説します。第5章が本書のハイライトで,逆散乱問題の理論,MATLABとCST Studio Suiteを使用した画像再構成プログラムとその解析結果を紹介します。第6章では近年注目されているマイクロ波ホログラフィの理論と画像再構成プログラムを紹介します。第7章で第4章から第7章で述べた3つのイメージング手法を実装した実験システムとその実験結果を紹介し,第8章で本書のまとめと将来の展望を述べています。

【著者からのメッセージ】
本書の執筆の動機は,電磁界解析や逆散乱問題のハードルを下げ,多くの研究者・技術者がこの分野の研究開発に取り組んでほしいとの願いです。電波応用機器の開発は,機能の明確化,目標仕様決定,計算機シミュレーションによる性能予測評価,(部分)試作評価,製品設計・製造のステップを踏みます。特に機能の明確化,目標仕様決定,計算機シミュレーションによる性能予測評価が装置開発では重要なステップです。本書は初期の3つの開発ステップで大いに活用できると思います。本書の内容は生体内部のほか,地下や構造物の非破壊イメージングなど幅広い分野での活用ができます。プログラムコードもどんどん改変し,読者ご自身の研究分野にあったものにしていただきたいと願っています。

【キーワード】
電磁界解析,数値シミュレーション,共焦点イメージング,逆問題,逆散乱問題,悪条件問題,校正,ホログラフィ,複素誘電率,分散性媒質,乳がん,脳血管障害,地中レーダ,モーメント法,FDTD法,ニュートン法,独立成分分析,超分解法,アンサンブル経験的モード分解,MATLAB,CST Studio Suite

電波を使ったイメージング技術の開発は宇宙開発や軍事研究から始まった。すなわち,人工衛星や航空機からの資源探査や植生の調査,船舶,航空機,車両の敵味方識別である。その後,これらの研究成果が計算機の発展と相まって民生分野にも展開され,空港でのセキュリティシステムや,構造物の非破壊検査システム,地中レーダなどが商品化され,社会で活躍している。

電波による生体内イメージングに関する論文は1980年頃から発表され始め,2000年代になるとさらにその数を増やしている。電波を使ったイメージング技術を生体に適用する利点は,X線被ばくがなく安全なこと,機器構成が比較的単純で安価なこと,3次元断層像が得られることである。一方で,高い周波数の電波は,水分が多い生体を通過しにくく組織構造に基づく散乱波が小さい,生体内で多重反射が起こり直進性に欠ける,分解能が低いなど解決すべき課題が多くあるのが実情である。

著者は長らく,各種レーダアンテナの開発・設計に携わってきた。2005年夏,UWB(ultra wide band:超広帯域)衝突防止レーダの研究のため文献を調査していた際,初期乳がんの検出技術を紹介した文献が目に入り,興味を持ったことがこの分野の研究のきっかけである。この分野を研究するためには,生体の電気的性質,生体内の電波伝搬,センサ(アンテナ),測定,画像再構成法など幅広い知識が必要となる。これらの技術についてまとめられた書籍はなく,発表されている論文も扱う技術が断片的で絞られているか,開発システムの全体紹介のいずれかで,この分野の研究を1から始めるにはハードルがきわめて高い。

静岡大学の定年退官を機にこのハードルを下げたいとの思いが通じ,2021年5月,電子情報通信学会アンテナ・伝搬研究専門委員会が主催する「アンテナ・伝搬における設計解析手法ワークショップ(第66回)」で,これまでの研究をまとまった形で紹介する機会を得た。ここでは基礎理論や実際の機器の紹介のほか,研究を加速させる一助とするためのプログラムも紹介した。本書はワークショップで用いたテキストをベースに見直したものである。

著者が最初に開発したのは,UWBレーダによる乳がん検出システムである。2012年,浜松医科大学医学部放射線腫瘍学講座の協力を得て7名のがん患者を撮像し,乳がん周囲の強い散乱像を確認することができた。しかしその像はがんの形を再現するものではなく,臨床的にがんを判別することは困難であった。

アンテナで観測する組織構造による散乱は,組織の電気的特性の差によって生じる。著者は2018年から愛知医科大学医学部外科学講座乳腺・内分泌外科の協力を得て,乳がんの手術で取り出したがん,乳腺・脂肪組織の複素誘電率を測定し,データを蓄積している。そのデータによれば,脂肪組織とがんのコントラストは高いが,がんと乳腺組織のコントラストは低い。乳腺組織の複素誘電率ががんのそれを上回ることもある。このことからも組織像を正確に再構成できる画像再構成技術の確立が必要である。

組織像を忠実に再構成できる手法が,逆散乱問題を解くマイクロ波トモグラフィである。マイクロ波トモグラフィでは,一定の計算条件の下において組織像が正確に再構成される。しかし,これを現実の機器で実現するに至っていない。その原因は,現在の数値電磁界解析技術では装置・生体を完全にモデル化できず,その電波伝搬現象を完全に再現できないこと,組織構造による散乱信号がきわめて小さく,モデル化誤差や計測誤差の影響がきわめて大きいことである。著者の最近の研究で,予備知識を効果的に活用することで,この問題を緩和できることがわかってきた。これについては別の機会に紹介したい。

マイクロ波トモグラフィの実現の困難さを克服できる技術として,近年マイクロ波ホログラフィが注目されている。マイクロ波ホログラフィの画像再構成はフーリエ変換に基づくので耐雑音性に優れ,再構成に要する時間もきわめて短い。一方,再構成においてボルン近似が前提となっているため,この影響を見極める必要がある。また,標本化定理に基づく膨大な測定データをいかに取得するかも解決すべき課題の一つである。

本書では,著者の15年余りの研究で蓄積した技術を,MATLABのプログラムを含め紹介している。プログラムコードはコロナ社の書籍紹介ページで配布している。本書が,この分野に取り組む技術者・研究者の一助となれば幸いである。最後に,本書を出版する機会を与えていただいた電子情報通信学会アンテナ・伝搬研究専門委員会の関係者の方々,臨床研究に協力いただいた浜松医科大学医学部放射線腫瘍学講座と愛知医科大学医学部外科学講座乳腺・内分泌外科の皆様,研究を推進した静岡大学工学部電気電子工学科桑原研究室の卒業・修了生諸君,つねに研究生活の支えとなった妻の緑に感謝いたします。

2022年1月
桑原義彦

1.マイクロ波・ミリ波イメージング
1.1 マイクロ波・ミリ波イメージング技術の医用イメージングへの展開の期待
 1.1.1 乳がん
 1.1.2 脳血管障害
1.2 マイクロ波・ミリ波イメージングと既存の医用画像装置の比較
1.3 マイクロ波・ミリ波イメージングの概要
 1.3.1 データ取得システム(ハードウェア)
 1.3.2 画像再構成(ソフトウェア)
1.4 研究の動向
 1.4.1 乳房イメージング
 1.4.2 頭蓋内イメージング
1.5 本書の構成

2.生体組織の電気的特性
2.1 複素誘電率
 2.1.1 デバイモデル
 2.1.2 生体組織の誘電率と導電率
2.2 複素誘電率の測定
2.3 乳房組織の測定と分析
2.4 数値ファントム
 2.4.1 公開情報
 2.4.2 オリジナルの乳房数値ファントムの作成
コラム1 生体から切り離した検体の比誘電率や導電率は変化するか?

3.生体内部での電磁界解析
3.1 概論
3.2 モーメント法
 3.2.1 定式化
 3.2.2 プログラム例
3.3 電磁界解析シミュレータの活用
 3.3.1 CSTStudioSuiteを使った散乱場の取得
 3.3.2 計算例

4.コンフォーカルイメージング
4.1 前処理
 4.1.1 不要信号の除去
 4.1.2 伝搬速度の推定
4.2 DAS
 4.2.1 基本アルゴリズム
 4.2.2 改良アルゴリズム
4.3 ビームフォーミング法
 4.3.1 MIST
 4.3.2 MAMI
4.4 超分解法
4.5 計算例
 4.5.1 数値乳房ファントム
 4.5.2 シミュレーション評価
コラム2 マルチスタティックMISTを使った画像再構成実験

5.逆散乱問題
5.1 逆問題の基礎
 5.1.1 条件数
 5.1.2 逆問題の解法
 5.1.3 最適化の手法
5.2 逆散乱問題
 5.2.1 ニュートン法に基づく方法
 5.2.2 BIM/DBIM
 5.2.3 計算例
5.3 CSTStudioSuiteを使用した画像再構成
 5.3.1 アンテナの入出力の扱い
 5.3.2 画像再構成プログラム
 5.3.3 実行例
5.4 キャリブレーション
5.5 課題
コラム3 地中のオブジェクトのイメージング

6.近傍界マイクロ波ホログラフィ
6.1 2次元イメージング
 6.1.1 反射率関数の再構成
 6.1.2 Sパラメータの利用
6.2 3次元イメージング
6.3 分解能
6.4 キャリブレーション
6.5 円筒スキャン
6.6 プログラム例

7.マイクロ波イメージングシステムの実際
7.1 コンフォーカルイメージング
 7.1.1 マイクロ波マンモグラフィ
 7.1.2 臨床撮像例
 7.1.3 所見
7.2 マイクロ波トモグラフィ
7.3 近傍界マイクロ波ホログラフィ
 7.3.1 測定システム
 7.3.2 測定

8.今後の展望

付録
A.1 FDTD法:1次元モデルによる周波数依存性媒質の評価
 A.1.1 1次元モデル
 A.1.2 分散性媒質の扱い
 A.1.3 プログラミング
 A.1.4 計算例
A.2 アンサンブル経験的モード分解
 A.2.1 EMDの手順
 A.2.2 EEMDの手順
 A.2.3 EEMDを用いた不要信号除去
A.3 独立成分分析
A.4 MUSIC法による平均誘電率推定
引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【 m 様(ご専門:IT)】

本書の電磁波による生体内イメージングは、乳がんを主に扱っている。
マイクロ波・ミリ波による生体内イメージングを行うには、生体の電気的性質や電波伝搬、センサ、測定、画像再構成など、幅広い知識が必要となり、ハードルが高い。
筆者は、このハードルを下げる為、長年の研究で蓄積したMATLABのプログラムやカラー図表を公開している。本書の中でも、図表(モノクロ)やプログラム例や計算式を多用し、理解しやすさに配慮して説明している。
電磁界解析では、MATLABとのやり取りや制御の容易さからシミュレータにエーイーティ(日本)のCST STudio Suiteを使用。その他の代表的シミュレータとの比較もある。
研究結果から見えた課題や限界にも触れている。

本書は、電磁波による生体イメージングに必要な基礎技術や工程を横断的に学べ、そこで使うプログラムや計算式なども掘り下げて理解を深められる点が、他に無い魅力だと思う。
プログラムや計算式は初学者には難しいが、避けて通れない道であり、答えだけでなく、過程の解説がある点も本当に有難い。
課題についても考えるきっかけになると思う。

読者モニターレビュー【アールエフ 様(ご専門:高周波回路設計)】

本書で取り扱う生体内部(特に乳癌)の電磁波イメージングには、電波伝搬・測定アンテナなどマイクロ波・ミリ波工学のハードウェアと、信号処理などのソフトウェアの技能をともに必要とし、筆者の述べるように、どちらかを専門とすることの多い、本領域の初学者にとってハードルが高い。しかし、筆者による長年にわたる研究成果をベースとした、各種Matlabプログラムやカラー図面の提供、本書中でのプログラム例の詳細な解説がなされており、初学者にとっても大変理解しやすく配慮されている。上記プログラム例には、人体や乳癌などを再現する電磁界解析モデル(本書ではMatlabとの親和性や導入コストなどを理由とし、CST Studio Suiteを選定している)との練成解析を含み、ハードウェア技術者、ソフトウェア技術者の両者においても、本領域の理解に大いに寄与するものと思う。

また筆者の研究成果を羅列、解説するだけでなく、それらをベースとし、現時点での限界なども正直に述べられている。実用化に向けた研究開発に向けて、それらを踏まえ、本書で紹介された各種イメージング方式の更なる探求、あるいは新規方式の着想を目指すうえで、本書による基礎固めが大変有益であると感じた。

一方で、本書のイメージングで用いた各種広帯域アンテナに関しては、利用したアンテナの言及に留められており、選定の指針など、本領域の更なる理解のため、今後の本書のベースとなったという電子情報通信学会アンテナ・伝搬研究専門委員会でのセミナーや、本書の続編などを期待したい。

桑原 義彦

桑原 義彦(クワハラ ヨシヒコ)

専門はアンテナ・電波伝搬,マイクロ波応用システム。1978年慶応義塾大学工学部電気工学科卒業。1978年日本電気株式会社に入社。航空管制・航法援助装置の電子走査アンテナ,ミリ波フェーズドアレー,アダプティブアンテナ,電波到来方向推定や空間多重分割通信技術の研究開発に従事。この間1995年に埼玉大学より博士(工学)の学位を授与。設計した航空管制・航法援助装置は全国の空港や艦船に設置され,今でも第一線で活躍している。1999年静岡大学助教授,2006年静岡大学教授,2021年静岡大学名誉教授。大学ではメーカでの設計開発の経験を活かし,机上計算のみならず試作実験を伴う研究開発に取り組んだ。企業との共同研究も多数。2011年マイクロ波マンモグラフィを開発し,日本発の乳がんの検出に成功。2020年ミリ波レーダを用い,遠方からの電線の課電状態の検出に世界で初めて成功。2017-18年IEEE APS Nagoya Chapter Chair,2021-22年電子情報通信学会東海支部長,2022年IEEE MTTS Nagoya Chapter Chairを歴任。現在,愛知医科大学医学部外科学講座乳腺・内分泌外科客員教授。

「電子情報通信学会誌」105巻,12号,2022/12/1,1481頁,copyright(c)2023 IEICE 掲載日:2023/01/16

MathWorks「MATLAB/Simulink 関連書籍」電磁波による生体内イメージング 掲載日:2022/02/18

MathWorks 様にプロモーション用ページを制作いただきました。

掲載日:2023/03/20

令和5年 電気学会全国大会プログラム広告

掲載日:2022/11/15

「生体医工学」60巻4-5号

掲載日:2022/06/20

第61回日本生体医工学会大会 大会プログラム広告

掲載日:2022/06/01

「電子情報通信学会誌」2022年6月号広告

掲載日:2022/04/25

「生体医工学」60巻1号

掲載日:2022/03/02

「電子情報通信学会誌」2022年3月号広告

掲載日:2022/03/01

「電気学会誌」2022年3月号広告

掲載日:2022/02/28

日刊工業新聞広告掲載(2022年2月28日)