メタマテリアルアンテナの基礎

メタマテリアルアンテナの基礎

メタマテリアルの構造や特性を理解し,初心者でもメタマテリアルアンテナが設計できる。

ジャンル
発行年月日
2021/09/27
判型
A5
ページ数
304ページ
ISBN
978-4-339-00948-4
メタマテリアルアンテナの基礎
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定価

4,840(本体4,400円+税)

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メタマテリアルの工学的応用に関する研究は,特にマイクロ波デバイスやアンテナなどの分野で急速に進みつつある。このような背景から,電子情報通信学会アンテナ・伝播研究専門委員会において,著者の一人を講師とするメタマテリアルのアンテナおよび関連分野への応用に関するワークショップが開催された。本書はワークショップのテキストを整理し,いくつかの話題を追加したもので,メタマテリアルの特徴を理解するとともに,初心者でもメタマテリアルアンテナの設計ができるようになることを目的に書かれている。

1章「アンテナとメタマテリアル」では,電磁気学と電気回路の初歩的知識だけを前提として,メタマテリアルあるいはアンテナを初めて学ぶ読者を対象に,それらの基本的な性質と考え方をできるだけ簡単に説明する。
2章「電磁界およびアンテナの基礎」では,メタマテリアルアンテナを理解するうえで必要最小限と思われる電磁界とアンテナに関する基礎的事項をまとめた。メタマテリアルアンテナの設計には,メタマテリアル内の電波伝搬や電磁波散乱などの電磁現象を正確に理解することが必要不可欠である。また,本書で用いる記号や内容に慣れるために,アンテナと電磁界理論に習熟している読者も復習を兼ねて一読をお願いしたい。
3章「CRLH伝送線路」は本書を理解するうえで欠かせない章である。メタマテリアルアンテナの放射特性を正しく理解するためには,電磁界とアンテナに関する知識が不可欠で,アンテナ構造の具体的な設計のためには,それに加えてメタマテリアル素材の構造パラメータと実効誘電率および透磁率の関係を知る必要がある。このためには,電磁現象を等価的な回路パラメータに置き換えて考察するのが有効で,これによって物理現象を定性的に捉えることが容易になる。本章では,メタマテリアルアンテナ設計に不可欠なCRLH伝送線路理論を中心に解説するとともに,具体的なメタマテリアルアンテナの構造決定法を紹介する。
4章「メタマテリアルベースアンテナの設計」では,メタマテリアル構造が組み込まれたメタマテリアルベースアンテナの設計法を詳細に解説する。最初にアンテナに求められる一般的な性能をまとめ,従来の右手系アンテナとメタマテリアルアンテナおける小形化と広帯域化手法の違いを比較する。つぎにメタマテリアル特有の原理を利用したアンテナ設計法とそれを利用したアンテナの実現例を紹介する。同時に広帯域化だけではなく,偏波の制御にも応用できることを示す。最後に,周波数によってビーム走査可能な漏れ波アンテナへ応用した例をいくつか紹介する。
5章「メタサーフェス」では,平面構造のメタマテリアルであるメタサーフェスとその応用例を紹介している。メタマテリアルの一形態ではあるが平面構造特有の原理と特徴があることから,章を改めることにした。本章ではメタサーフェス固有の原理とその関連技術を解説するが,これがアンテナに応用されれば,全体システムとしてはメタマテリアル融合アンテナの一種と解釈できる。本章では,これをメタサーフェス融合アンテナと呼んで簡単に紹介する。

電磁気学で学んだように,物質(マテリアル)の誘電率や透磁率とは,物質を構成する原子や分子の電気分極と磁気分極に起因し,それらを巨視的な意味で平均した電磁特性である.また,それらの値は分極の大きさや並び方に依存する.一方,帯電した導体やループ状の電流は十分遠い場所から観測すると,等価的に誘電体や磁性体のように振舞う.したがって,適当な大きさの材料を配列することによって材料自体には備わっていない新しい電気的性質を持たせることが可能であり,その性質は材料自体の形や並べ方を工夫することによって変えることができる.このような人工構造体をメタマテリアルと呼び,その構成要素を物質の例にならってメタアトム,あるいはユニットセルという.一方,書名のメタマテリアルアンテナとはアンテナの名称ではなく,メタマテリアルを用いた,あるいはその特性を利用したアンテナという意味である.前者はアンテナ自体にメタマテリアル構造が組み込まれたアンテナのことで,本書では「メタマテリアルベースアンテナ」と呼ぶ.後者のメタマテリアルアンテナとは,アンテナ自体には特別な工夫はされていないものの,周囲にメタマテリアルがあるために相互結合して,全体システムとして特徴的な振る舞いをするアンテナのことであり,「メタマテリアル融合アンテナ」と呼ぶことにする.

メタマテリアルの工学的応用に関する研究は,特にマイクロ波デバイスやアンテナなどの分野で急速に進みつつある.このような背景から,電子情報通信学会アンテナ・伝播研究専門委員会において,著者の一人を講師とするメタマテリアルのアンテナおよび関連分野への応用に関するワークショップが開催された.本書はワークショップのテキストを整理し,いくつかの話題を追加したもので,メタマテリアルの特徴を理解するとともに,初心者でもメタマテリアルアンテナの設計ができるようになることを目的に書かれている.このため,いたずらに専門的になりすぎないように注意しながら,電磁気学を一通り修了した学部学生や若手の技術者でも容易に理解できるように工夫している.1章と2章はメタマテリアルアンテナを理解するうえで必要不可欠な電磁界の性質やアンテナの基礎,およびメタマテリアル構造の紹介とその基本的な考え方を述べている.したがって,これらに十分習熟している読者も復習を兼ねて一読をお願いしたい.3章からはメタマテリアルアンテナの設計法とその実用例を紹介しているが,3章はその最も基本的な考え方を述べており,本書を理解するうえで欠かせない章である.4章はメタマテリアル構造が組み込まれたメタマテリアルベースアンテナの設計法を詳細に述べている.5章は平面構造のメタマテリアルであるメタサーフェスとその応用例を紹介している.メタマテリアルの一形態ではあるが平面構造特有の原理と特徴があることから,章を改めることにした.一方,電磁波との類似性から光や音響,あるいは熱の分野でもメタマテリアルが考えられるが,本書ではそれらには触れず,もっぱらコヒーレントなマイクロ波帯のメタマテリアルアンテナだけを取り扱う.

メタマテリアルアンテナの設計には,自作あるいは市販電磁界シミュレータの使用が不可欠である.しかしながら,読者の置かれている環境はさまざまであろうし,シミュレータだけに頼っていては,結局本質を見失ってしまうことも少なくない.そのため,簡単なコメントは加えたものの大きく取り上げるのは適当でないと判断した.この分野の専門書や学術論文などで補っていただきたい.

最後に,本書はいろいろな方々からのご協力,ご支援によって完成させることができた.有益なご助言をいただいた電子情報通信学会アンテナ・伝播研究専門委員の皆さん,研究室の学生諸君に感謝する.また,出版に際し,著者らのわがままなお願いを聞いてくださったコロナ社の皆さんには大変お世話になった.ここに記して深く謝意を表する.

2021年7月
宇野亨・道下尚文

1.メタマテリアルとアンテナ
1.1 物質の巨視的電磁特性とメタマテリアル
 1.1.1 構成方程式
 1.1.2 メタマテリアル
1.2 メタマテリアル素材とその特性
 1.2.1 実効誘電率・実効透磁率と等価回路
 1.2.2 細線導体とスプリットリング共振器
 1.2.3 格子構造体
 1.2.4 誘電体共振器アレー
 1.2.5 セラミックコンデンサ
 1.2.6 電磁界解析とメタアトム
1.3 アンテナと基本定数
 1.3.1 入力インピーダンス
 1.3.2 指向性
 1.3.3 利得
 1.3.4 受信アンテナ
 1.3.5 アンテナの回路論的取り扱い
1.4 メタマテリアルのアンテナ応用
 1.4.1 レンズアンテナ
 1.4.2 小形アンテナの限界

2.電磁界およびアンテナの基礎
2.1 基本電磁法則
 2.1.1 マクスウェルの方程式
 2.1.2 境界条件
 2.1.3 エネルギー保存則とポインティングベクトル
 2.1.4 波動方程式と放射条件
 2.1.5 電磁ポテンシャル
 2.1.6 電磁界の双対性
 2.1.7 相反定理
 2.1.8 相似の理
2.2 平面波
 2.2.1 平面波の伝搬
 2.2.2 偏波
 2.2.3 平面波の反射と屈折
 2.2.4 位相速度と群速度
2.3 表面波
 2.3.1 境界に捕捉された表面波と漏れ波
 2.3.2 ツェーネック波と表面プラズモンポラリトン
2.4 左手系媒質
 2.4.1 ポインティングベクトル
 2.4.2 分散性媒質のエントロピー条件
 2.4.3 平板レンズ
 2.4.4 漏れ波アンテナ
2.5 電磁波の放射と散乱
 2.5.1 波動方程式の解
 2.5.2 波動方程式の解表現と等価定理
 2.5.3 遠方界
 2.5.4 散乱と断面積
2.6 アンテナの基本特性
 2.6.1 微小ダイポールアンテナ
 2.6.2 微小ループアンテナ
 2.6.3 アンテナのインピーダンス
 2.6.4 指向性と指向性利得
 2.6.5 アンテナの利得
 2.6.6 放射効率
2.7 基本アンテナ
 2.7.1 ダイポールアンテナ
 2.7.2 モノポールアンテナ
 2.7.3 ループアンテナ
 2.7.4 マイクロストリップアンテナ
 2.7.5 進行波形アンテナ

3.CRLH伝送線路
3.1 右手系伝送線路
 3.1.1 伝送線路の種類とその特徴
 3.1.2 TEM線路の電磁界と伝送線路方程式
 3.1.3 回路論的伝送線路方程式
 3.1.4 伝送線路と平面波のアナロジー
 3.1.5 無損失伝送線路と基本定数
3.2 CRLH伝送線路
 3.2.1 理想左手系伝送線路
 3.2.2 右手左手系複合伝送線路
 3.2.3 バランス型CRLH伝送線路
3.3 CRLH伝送線路と1次元メタマテリアル
 3.3.1 周期回路網の分散関係式
 3.3.2 T形CRLH等価回路
3.4 左手系素子の実装とその特性解析
 3.4.1 回路素子の実装
 3.4.2 回路パラメータの抽出
3.5 CRLH伝送線路の設計
 3.5.1 準回路理論的設計
 3.5.2 準電磁界理論的設計
 3.5.3 設計フローチャート
3.6 2次元CRLH伝送線路
 3.6.1 分散関係式
 3.6.2 ブリルアンゾーンと分散特性
 3.6.3 マッシュルーム構造の分散特性

4.メタマテリアルベースアンテナの設計
4.1 分散特性とアンテナ
4.2 アンテナの小形化とその設計事例
 4.2.1 基本設計法
 4.2.2 同軸モノポールアンテナ
 4.2.3 平行2線型ダイポールアンテナ
 4.2.4 マイクロストリップアンテナ
4.3 偏波制御とその設計事例
 4.3.1 ループアンテナ
 4.3.2 スパイラルアンテナ
4.4 ビーム走査と漏れ波アンテナの設計事例
 4.4.1 漏れ波と右手・左手系放射
 4.4.2 基本設計法
 4.4.3 導波管スロットアレー漏れ波アンテナ
 4.4.4 マイクロストリップ型漏れ波アンテナ
 4.4.5 はしご型漏れ波アンテナ
 4.4.6 マッシュルーム型漏れ波アンテナ
 4.4.7 コプレーナストリップ漏れ波アンテナ

5.メタサーフェス
5.1 周波数選択板
 5.1.1 動作原理
 5.1.2 設計手順
5.2 自己補対メタサーフェス
5.3 リフレクトアレー
5.4 クローキング
 5.4.1 リフレクトアレーによるイリュージョンクローキング
 5.4.2 変換電磁気学
5.5 電波吸収板
 5.5.1 FSS型ソールズベリー電波吸収体
 5.5.2 マッシュルーム型電波吸収体
5.6 メタレドーム
5.7 人工磁気導体
 5.7.1 AMCの実現例と設計法
 5.7.2 アンテナの低姿勢化
5.8 メタサーフェス融合アンテナ
 5.8.1 EBG特性を利用した表面波の低減
 5.8.2 マイクロストリップアンテナの高利得化
 5.8.3 アンテナ相互結合の低減
5.9 メタサーフェスの設計

付録A 物理定数と物質の電気定数
A.1 基本定数
A.2 物質の電気定数
付録B 導体ストリップと細線導体
B.1 無限長ストリップ導体の静電容量
 B.1.1 無限長導体スリットの静電ポテンシャル
 B.1.2 ストリップ導体間の静電容量
B.2 周期細線導体のインダクタンス
 B.2.1 無限長導体アレー
 B.2.2 有限長細線導体
B.3 マッシュルーム型EBG
付録C 2端子対回路網
C.1 集中定数回路
 C.1.1 インピーダンス行列とアドミタンス行列
 C.1.2 縦続行列
 C.1.3 行列間の関係
 C.1.4 等価回路変換
 C.1.5 散乱行列
C.2 分布定数線路
 C.2.1 Z行列
 C.2.2 F行列
 C.2.3 S行列
付録D ベクトル公式
D.1 座標系と単位ベクトル
D.2 ベクトルの積
D.3 微分公式
D.4 積分公式
 D.4.1 体積積分と面積分
 D.4.2 面積分と線積分
 D.4.3 グリーンの定理
付録E 数値積分

引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【 N/M 様(ご専門:総合情報学(情報科学))】

本書は,電磁気学を学習した学生や若手技術者を対象とした,メタマテリアルアンテナに関する書籍である.

この書籍のレビューを選んだ理由としては,本書のWebページにて,5Gというキーワードが付与されていたからという安易な動機で応募したが,全くの基礎知識のない私が読むには,かなり困難を極めたのが正直な感想である.おそらく,義務教育レベルの電気系の分野における,電流とは何か?ということや,磁力とは何か?という根本的な部分及び,オームの法則あたりの知識から再学習の必要性を感じた.正直なところ,電磁気学,もしくは物理学に関する知識(もっと言うなら数学(数式)に明るく)のない方にとっては,理解が難しいだろうと本書をパラパラとめくった時に感じてしまった.

第1章〜第3章では,メタマテリアルベースアンテナの設計に必要な知識を数式ベースに順を追って解説がなされている.第4章では,メタマテリアルベースアンテナの設計について,各種アンテナについて数多くの図を用いて,イメージがしやすいように工夫しながら解説がなされている.第5章では,メタサーフェスに関する解説がなされている.

他にも,「付録A 物理定数と物質の電気定数」では,よく見かけるであろうと思われる数学・物理定数の名称・記号・具体的な数値の対応関係を表形式でまとめてあり,リファレンスとしても活用できるだろう.また,「付録B,C」に関しては,本書をさらに深く学びたい方に向けて発展的な記述がなされている.「付録D,E」では,ベクトル公式の基礎,微分・積分公式,数値積分といった,数値解析の分野についても簡単にではあるが,取り上げられている.

最後に,各章末にその章の簡単なまとめや確認(正誤)問題のような,知識の定着を確認できるものがあれば,理解が曖昧な部分を洗い出せ,より理解が深まるのではないかと思った.

宇野 亨(ウノ トオル)

掲載日:2022/08/01

「電子情報通信学会誌」2022年8月号広告

掲載日:2021/12/01

「電子情報通信学会誌」2021年12月号広告

掲載日:2021/09/30

「電子情報通信学会誌」2021年10月号広告

掲載日:2021/09/01

「電子情報通信学会誌」2021年9月号広告

掲載日:2021/09/01

応用物理学会誌「応用物理」2021年9月号広告

掲載日:2021/08/31

日刊工業新聞広告掲載(2021年8月31日)