実践ロバスト制御

システム制御工学シリーズ 11

実践ロバスト制御

与えられた制御問題にいかにして答えを求めるかという実践的な側面から,H∞制御およびμ設計法について平易に解説した。

ジャンル
発行年月日
2017/04/17
判型
A5
ページ数
228ページ
ISBN
978-4-339-03311-3
実践ロバスト制御
在庫あり

定価

3,410(本体3,100円+税)

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
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本書では,与えられた制御問題にいかにして答えを求めるかという実践的な側面から,H∞制御およびμ設計法について,これらの設計法をロバスト制御系設計のツールとして使いこなせるようにすることに主眼を置いて平易に解説した。

工作機械,ロボット,ハードディスクや光磁気ディスクなどの情報機器,およびステッパなどの半導体製造装置の位置決め制御においては,高性能化に対する要求から,高速,高精度,高信頼性の実現が求められている。そのためには,制御系の広帯域化が不可欠となるが,モデル化誤差や制御対象が持つ機械共振モードの影響などから必ずしも容易ではない。そのため,今まで設計時に考慮しなかった,もしくはそれが難しかったモデル化誤差や摂動要素を何とか設計時に考慮し,より不確実さに強い頑健な制御系を設計しようという考えが生まれた。これらがロバスト制御であり,90 年代後半までにH∞ 制御やμ設計法などとして体系化された。それまでは,制御系設計において理論と実際には大きなギャップがあり,設計どおりの制御性能はなかなか得られないという共通の認識が制御系設計技術者の間にはあったが,ロバスト制御の出現でこうした「理論と実際のギャップ」はしだいに少なくなっている。これは,ロバスト制御がギャップの存在をいかにして埋めるかということに力が注がれたからにほかならない。

当初,ロバスト制御は簡単な問題であっても解の計算が非常に難しかった。しかしながら,2リッカチアルゴリズムが導出されたことに加えてMATLABなどの制御系設計支援ツールも整い,今では誰もがすぐに設計に取りかかれるようになっている。制御器の計算部分が制御系設計支援ツールの関数としてあらかじめ用意されているため,難しい理論書を読んで内容を完全に理解しなくても解が求められるからである。したがって,現場の制御技術者は,H∞制御解の導出を理解することより,むしろ制御系設計者の立場から,与えられた制御問題をいかにしてH∞制御問題として定式化し,さらにそれらをMATLABなどの制御系設計支援ツールを使ってどのように答えを求めるか,といった実践的な側面が重要になってきている。そのためには,極端な話,最初のうちは解の導出過程はブラックボックスであってもよいといえる。

そこで,本書では,H∞制御およびμ設計法について,これらの設計法をロバスト制御系設計のツールとしていかに使いこなすかという点に主眼を置いて平易に解説することを試みた。まず,第1章で,実際の制御系設計の流れの中で,ロバスト制御がなぜ必要になるかを説明する。そして,第2章でH∞制御理論について説明する。まず,問題設定と定式化およびH∞ノルムについて説明した後,通常よく用いられる標準H∞制御問題とそこで置かれるさまざまな「仮定」について,できるだけ詳しく説明する。H∞制御では制御器設計のための「一般化プラント」の構成が重要となるが,そのためには仮定の意味をきちんと理解しておく必要がある。一方,解法については,MATLABを使えば解が求まるので,必要最低限の説明にとどめた。

第3章では,不確かさの表現について説明した後,それら不確かさに対して制御系がロバスト安定となるための条件をスモールゲイン定理を使って導出する。その結果を使って,第4章では,混合感度問題と呼ばれる典型的なH∞制御問題とその問題点および解決方法について説明する。また,H∞制御が苦手とする時間応答の改善によく用いられる2自由度制御についても説明する。

第5章では,具体的な設計例としてハードディスクドライブ(HDD)のヘッド位置決め制御を取り上げ,HDDベンチマーク問題で定義された制御対象に対し,一般化プラントの構成および重みの選択から制御器の実装までを,MATLABのプログラムを示しながら説明を加える。さらに,オーバーシュートを抑えた設計や,ゲイン余裕や位相余裕の条件を満たす設計,そして,制御器の離散化など,より実践的な内容についても触れる。

最後の章である第6章では,μ設計法について説明する。μ設計法では,H∞制御では取り扱うことの難しい構造的摂動やロバスト性能問題を扱うことができる。特に,MATLABのRobust Control Toolbox(以下,RCT)を使うと,H∞制御とほぼ同じ感覚でμ設計が行えることから,RCTの使用を前提とし,MATLABのプログラムを示しながら設計手順をできるだけ詳しく説明する。さらに,RCTではバージョンR2009aから実数の摂動がある場合のμ設計(混合μ設計)が行えるようになったことから,このパワフルな機能を活用できるよう,混合μ設計の設計例も紹介する。

本書を理解するためには,線形システムの基礎に関する知識が必要となることから,特に本書と関連の深い内容について付録Aにまとめた。また,第6章で用いる線形分数変換については付録Bにまとめた。必要に応じて参照されたい。演習問題については,単なる内容の確認だけでなく,本文で書ききれなかった内容を演習問題の形にしたものも含まれることから,すべての問題に取り組まれることをお勧めする。本書を片手に,ぜひ,ロバスト制御系の設計に挑戦していただきたい。

最後に,本書を執筆する機会を与えてくださった『システム制御工学シリーズ』の編集委員会委員各位に深く感謝する。特に,東京工業大学藤田政之先生には,ドラフト原稿をていねいに読んでいただき,不適切な表現や誤りなどを数多くご指摘いただいた。また,この場を借りて,筆者をロバスト制御の分野に導いてくださった故・美多勉先生に心より感謝する。そして,原稿の完成を長きにわたって辛抱強く待っていただいたコロナ社に厚く感謝する。

2017年2月平田光男

1. ロバスト制御のシナリオ
1.1 ロバスト制御とは
1.2 フィードバック制御系
1.3 モデル化誤差とロバスト性
1.4 摂動の種類とロバスト制御の代表的な方法
 1.4.1 構造的摂動と非構造的摂動
 1.4.2 H∞制御とμ設計法
1.5 ロバスト制御系設計のためのソフトウェア
演習問題

2. H∞制御理論
2.1 問題設定および定式化
2.2 一般化プラント
2.3 標準H∞制御問題
2.4 H∞制御問題の解法
2.5 MATLABによるH∞制御器設計
演習問題

3. 不確かさの表現とロバスト安定化
3.1 乗法的摂動と加法的摂動
 3.1.1 乗法的摂動
 3.1.2 加法的摂動
 3.1.3 乗法的摂動と加法的摂動の見積もり
3.2 ロバスト安定化問題
 3.2.1 スモールゲイン定理
 3.2.2 乗法的摂動に対するロバスト安定化
 3.2.3 加法的摂動に対するロバスト安定化
 3.2.4 ロバスト安定化条件の意味
演習問題

4. H∞制御系設計
4.1 混合感度問題
4.2 2自由度振動系に対する設計例
 4.2.1 摂動を持つ制御対象の定義
 4.2.2 乗法的摂動の見積もりと重み関数
 4.2.3 感度関数に対する重みとH∞制御器の計算
 4.2.4 閉ループ特性の評価
4.3 修正混合感度問題
 4.3.1 混合感度問題の問題点と解決方法
 4.3.2 一般化プラントの構成
4.4 2自由度制御による目標値応答の改善
演習問題

5. ハードディスクドライブのH∞制御
5.1 制御対象
5.2 修正混合感度問題による設計
 5.2.1 設計I
 5.2.2 設計II(WPSの変更)
 5.2.3 設計III(WTの変更)
5.3 安定余裕を考慮した設計
 5.3.1 はじめに
 5.3.2 安定余裕と円条件
 5.3.3 設計IV(設計例)
5.4 制御器の実装
 5.4.1 最適解と準最適解
 5.4.2 制御器の離散化
 5.4.3 制御器実装と演算量の低減
演習問題

6. μ設計法
6.1 構造化特異値μ
6.2 パラメータ摂動のLFT表現
6.3 構造的摂動に対するロバスト安定化
6.4 ロバスト性能とμ
6.5 D-Kイタレーションによるμ設計
6.6 設計例
 6.6.1 はじめに
 6.6.2 3慣性系ベンチマーク問題
 6.6.3 問題設定
 6.6.4 設計I(非構造的摂動+ロバスト性能)
 6.6.5 設計II(構造的摂動+ロバスト性能)
 6.6.6 設計III(実数の構造的摂動+ロバスト性能)

付録A. 線形システムの基礎
A.1 システムの表現
 A.1.1 線形時不変システム
 A.1.2 伝達関数
 A.1.3 状態空間実現
 A.1.4 伝達関数と状態空間実現の関係
A.2 システムの解析
 A.2.1 安定性
 A.2.2 可制御性
 A.2.3 可観測性
 A.2.4 多入出力システムの零点
A.3 基本的なフィードバック制御系
 A.3.1 フィードバック制御系の適切さ
 A.3.2 内部安定性

付録B. 線形分数変換
B.1 準備
B.2 上側線形分数変換(upperLFT)
B.3 下側線形分数変換(lowerLFT)
B.4 LFTの表現自由度

引用・参考文献
演習問題の解答
あとがき
索引

掲載日:2020/03/16

「計測と制御」2020年3月号広告