大学講義テキスト 現代制御
現代制御の基礎が効率的に身につくよう,概念や定理,法則の使い方をわかりやすく解説
- 発行年月日
- 2020/10/08
- 判型
- A5
- ページ数
- 256ページ
- ISBN
- 978-4-339-03231-4
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 広告掲載情報
本書は,現代制御の基礎を学ぶのに必要最小限の内容に厳選したうえで,概念や定理をわかりやすく丁寧に解説している。また,大学の講義を意識して14章からなっていることと,各節ごとに「さらに詳しく」のコーナーを設けていることが構成上の特徴である。「さらに詳しく」では,文字通り,さらに一歩踏み込んだ解説をすることで,現代制御を学ぶ過程のつぎのステップに進むための橋渡しとなっている。
本書では,可制御,可安定,可観測,可検出について,これらの概念の説明とともに,伝達関数における極零相殺との関連について数値例を用いて検証している。可制御性と可観測性はシステムの構造に固有な性質であり,システム構造理論の中核をなしていることから,多くのページを割いている。
制御系設計法の一つである「折返し法」は,最適レギュレータでありながら,指定の領域に閉ループ系のすべての固有値を配置することができる。本書では,その原理を詳細に解説している。加えて,折返し法の発展形である「選択的折返し法」を適用した数値例も扱っている。
このように,多くの市販本には書かれていない事項が丁寧に解説されている本書は,参考書,独学書としても手元に置きたくなる,存在感のある1冊に仕上がっている。
制御工学の勉強は大変だという声をよく聞く。特に現代制御は数式を使っての証明ばかりで,まぶたが重くなるのに30分も掛からないらしい。著者が大学生で制御工学の勉強を始めた頃は,「やさしい」「わかりやすい」「はじめての」などという枕詞のついた市販本はなく,どれも詳細に書かれた分厚い本ばかりであった。何分で睡魔に襲われたかはあえていわないが,容易に想像できると思う。
現代制御は,制御対象として1入力1出力系と多入力多出力系を同じ理論の枠組みで扱うことができる。これは,古典制御にはない大きな魅力である。しかしながら,理論の枠組みは同じであっても,多入力多出力系では自由度が残るときがあって,一意に決まらないという事態になる。これに対して,1入力1出力系ではつねに一意に決まるので,わかりやすい。したがって,本書においては,制御対象を1入力1出力系に限定する。
また,多くの場合に,「固有値は相異なる」の条件をつけることとする。これにより,その後の理論展開を簡素化できる。
上記のように,きわめて都合のよい条件を設けることで枝葉がなくなり,現代制御の本質が見えてくる。ただし,適用範囲は狭く限られ,いろいろな制御対象を統一的に扱うことができるという長所が打ち消されてしまう。本書を使っての講義を受講した学生が制御の研究室を卒研部屋に選んだ場合は,研究室の輪講で上記の条件を外した理論を勉強する必要が生じるのは致し方ない。
本書「大学講義テキスト現代制御」は,好評をいただいている「大学講義テキスト古典制御」(コロナ社,2020年)の姉妹編であり,大学の講義を意識して14章からなっている。現代制御の基礎を学ぶのに必要最小限の内容に厳選したうえで,概念や定理の解説をわかりやすく丁寧にしている。また,数値例を多用して,定理や法則の使い方の習得を容易にしているなど,現代制御の基礎が効率的に身につくようにさまざまな工夫を凝らしている。
厳選された内容とそれらを理解させるために編み出した工夫は,著者が助教授となって現代制御の授業を担当して以来,30年間もの長きにわたって継続して講義してきた成果であるといえよう。著者は毎回の講義において,最初の10分間を使って前回の復習を行うのがつねであった。1週間ぶりに本講義を受ける学生に,前回の講義の内容を思い出させた後,今日講義する内容とその位置づけを説明してから本題に入るのである。この講義のやり方を本書に反映することを狙って,各章の冒頭と末尾に少しずつページを割いている。また,板書するとき,要となる箇所は目立つように黄色のチョークを使って囲った。本書においてもそれを踏襲して四角で囲っている。
本書の特長をもう一つ挙げるとすれば,それは構成である。大学の講義回数に合わせて14章からなっていることは,先に紹介した。また,各章は意識して細かく分割しており,節の数は2~4個である。この節がテーマに当たる。各テーマは「基本部分」と「さらに詳しく」の2部に分かれている。講義においては,「基本部分」を押さえたうえで,学生の反応と残り時間を見ながら,必要に応じて「さらに詳しく」を教授していただきたい。
大学の講義テキストとして十分に満足いただけるものを執筆できたと確信している。現代制御の基礎が丁寧にまとめられている本書が,本気で学ぼうとしている学生たちに勉学の意欲と勇気を少しでも与えることができれば,著者にとってこれほど幸せなことはない。
2020年8月
森泰親
1.システムの記述
はじめに
1.1 伝達関数表現と状態空間表現
1.2 システムの数式モデルを求める
まとめ,章末問題
2.状態遷移行列
はじめに
2.1 状態方程式の解を求める
2.2 状態遷移行列の性質
2.3 状態遷移行列を計算する
まとめ,章末問題
3.システムの応答と安定性
はじめに
3.1 モード展開する
3.2 固有値の位置と応答の関係
まとめ,章末問題
4.座標変換
はじめに
4.1 座標変換とは
4.2 対角正準形に変換する
4.3 可制御正準形に変換する
4.4 伝達関数と状態方程式の関係
まとめ,章末問題
5.可制御性
はじめに
5.1 可制御性と可安定性
5.2 可制御性グラム行列
5.3 可制御性行列
まとめ,章末問題
6.可観測性
はじめに
6.1 可観測性と可検出性
6.2 可観測性グラム行列
6.3 可観測性行列
まとめ,章末問題
7.行列のランクと双対性
はじめに
7.1 行列のランクとは
7.2 ランクを求めよう
7.3 双対性とは
7.4 可制御性と可観測性の判定
まとめ,章末問題
8.極配置法Ⅰ
はじめに
8.1 可制御なシステムに対する極配置
8.2 可安定なシステムに対する極配置
まとめ,章末問題
9.極配置法Ⅱ
はじめに
9.1 可制御正準形による極配置
9.2 アッカーマン法による極配置
まとめ,章末問題
10.最適レギュレータⅠ
はじめに
10.1 評価関数と最適制御
10.2 重み行列と正定・半正定
10.3 最適制御則の導出
まとめ,章末問題
11.最適レギュレータⅡ
はじめに
11.1 最適制御系の安定性
11.2 円条件
11.3 リカッチ代数方程式を解く
まとめ,章末問題
12.折返し法
はじめに
12.1 折返し法による制御系設計
12.2 折返し法による固有値の移動
12.3 選択的折返し法
まとめ,章末問題
13.サーボ系
はじめに
13.1 内部モデル原理とサーボ系の構造
13.2 サーボ系を設計する
13.3 サーボ系の設計条件
まとめ,章末問題
14.状態観測器
はじめに
14.1 状態観測器の構造
14.2 双対性を用いた設計
14.3 可検出なシステムに対する設計
14.4 併合系の固有値
まとめ,章末問題
参考文献
章末問題の解答
索引
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掲載日:2021/10/11
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掲載日:2020/11/12