基礎からわかる 自動車エンジンのモデルベースト制御

基礎からわかる 自動車エンジンのモデルベースト制御

内容に沿ってプログラムすればモデルベースト制御の基本形が構築できるよう、モデルの構築手法から制御システムの構築手法まで解説。

ジャンル
発行年月日
2019/02/25
判型
A5
ページ数
224ページ
ISBN
978-4-339-04661-8
基礎からわかる 自動車エンジンのモデルベースト制御
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定価

3,630(本体3,300円+税)

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本書ではエンジンの制御モデルの構築手法から,そのモデルを利用した制御システムの構築手法を解説しており,モデルベースト制御の基本形が構築できるようになることを目指している。実エンジンへの適用事例も紹介している。

自動車産業は大きな変革期を迎えている。演算速度の向上したGPU(graphics processing unit)などを活かした自動運転の導入,IoT(internet of things)による常時ネットワーク接続での新たなサービスの提供,とこれまでになかった新たなシステムの導入が始まろうとしている。このような状況のもと,パワートレインにも電動化の大きな波が来ており,これまでパワートレインとしてはもちろんのこと,自動車産業の中でも主要な装置,技術として大きな役割を果たしてきた内燃機関(エンジン)の役割や立場も変わろうとしている。このパワートレインの電動化の潮流は,2015年に米国で発覚したディーゼルエンジンの排出ガス規制に関するディフィートデバイスを用いた不正問題を機に拍車が掛かっている。

一方で,中国やインドなどでは経済的な発展が急速に進んでいるものの,先進国の自動車普及率(0.6台/人程度)にはまだ及んでいない。今後も経済発展に伴い先進国並みの自動車普及率に近づいていくことは間違いないと思われるが,その過程においては,現状安価なガソリンエンジンを搭載した自動車から普及しはじめる可能性が高い。また,IEA(International Energy Agency,国際エネルギー機関)の自動車用パワートレインの将来シナリオにおいては,エンジンのみを搭載した自動車の割合は開発途上国の経済発展に伴い,いったん増加するが,その後は減少し,代わって日本国内では一般的となっているが,世界的に見ると現時点ではその導入割合が高くないHV(hybrid vehicle)やPHV(plug-in hybrid vehicle)などの割合が増え,2050年で全体の7割近くになるとしている)。パワートレインの電動化といわれる場合,いかにもモータとバッテリーのみとなるEV(electric vehicle)になるであろうと認識されている方も多いと思うが,HV化することも電動化であり,使用形態は異なってもエンジンを搭載する自動車の割合は30年後においても大半を占めると考えられる。なお,EV の普及に関しては,電源構成がどのようになるかによって,二酸化炭素(CO2)の排出量が大きく異なることもあり,自動車産業の動きのみでは決められないといった側面もある。いずれにしても,エンジン技術の継続的な向上による熱効率向上や排気の浄化は,少なくともこの先30年は重要な課題となることは間違いない。

ディーゼルゲートの報道で知ることになった方もいると思うが,自動車の排出ガス規制や燃費,および基準達成の評価は,シャシダイナモ(台上試験)上である特定の速度パターンの評価走行モードを用いて行われる。評価走行モードの速度パターンは,路上の状況をできるかぎり評価できるように設計がされているものの,実際には路上の状況はさまざまであり,評価用の速度パターンも見直しはされているものの,カタログ燃費と実燃費には現在も乖離がある。このような背景のもと,欧州を中心に,実際の路上での走行を評価しようとする動きがあり,実路での性能向上が問われるようになってきている。路上での燃費や排出ガスの改善を行うには,エンジンのハードウェアの絶対的な性能(定常での性能)を向上させることも重要であるが,ソフトウェアや制御の果たす役割(過渡の性能向上)が大きくなる。

エンジン開発において,制御の果たす役割が多くなると同時に,その開発工数も多大なものとなっている。また,制御性能の向上だけでなく,現在の多くの実験の結果をもとに制御系を構築する仕組みでは,制御設計が開発の後半に集約されることになり,開発期間の制約のある状況下では前工程での遅れなども吸収する必要が生じることなどから,時間的に厳しい状況となることも多く開発方法自体の開発も必要な状況となっている。実際の開発現場においては,エンジンの核となる燃焼開発(者)とそのポテンシャルをいかんなく発揮させるための制御開発(者)の間に,少なからずギャップがあるのも事実である(これは,筆者がもともとエンジン燃焼を専門としてきたところから,燃焼の知識を活かしつつエンジン制御をやろうと思い立ち,これまで取り組んできた中での経験でもあり,このような経験をいろいろなところでお話しした際に,共感いただいたことから間違いないと思われる)。このギャップはいろいろな側面があるが,顕著なところでは,同じ言葉であってもその意味するところが同じではないことがある。例えば,「制御」という言葉が一つの例といえる。燃焼開発で「制御」というと,“何と何のアクチュエータを動かすか” ということを指していることが多く,いわゆる制御則といえるようなもので,ここでは時間的な概念は入っていない。一方で,制御開発で「制御」というと,“どのように動かすか” ということを指し,時間の概念(ダイナミクス)が入ってくる。また,興味の対象としても,燃焼開発では,そのメカニズムにあり,制御開発では,その入出力関係となる。このような異なる文化を背景とした両者のギャップを取り払い,密な連携のもとで開発を行っていくことが,今後,実際の路上でのエンジンやパワートレインの性能向上には必要となってくる。その両者を共通の言語として有機的に結ぶのは,数式および汎用のプログラム言語で記述されたモデルであると考える。自動車産業では,これまで試作と改良,すり合わせによる開発を行ってきた。近年では,開発期間の短期化,コストの低減などの要求が厳しくなり,モデルを用いた開発(モデルベース開発,model based development,MBD)が取り入れられるようになってきた。エンジンは,シリンダ内の燃焼現象が複雑なことからも,モデル構築の難しさはあるが,モデルを利用した設計,制御が進められていくことは間違いないであろう。
このような背景のもと,2014 年から始まった内閣府が主導する省庁横断型のプロジェクトであるSIP(Cross–ministerial Strategic Innovation Promotion Program)2) の11 個のテーマの一つとして,「革新的燃焼技術」3)が実施されている。この活動は,大きく分類して四つのチームで取り組んでおり,ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンそれぞれの燃焼技術の向上や機械損失の低減を目標とする取組みに加え,実際の路上での性能向上を目指した制御システム開発が行われている。特に,SIP の中では,高効率で低公害な革新的燃焼技術の市場導入に向けて新たな制御システムの導入が必要となり,そのような視点によって,モデルに基づいた制御および制御システムの構築手法に関する研究の取組みがなされてきた。制御技術は,各社の商品性を左右する競争的領域としての側面もあるが,今後の開発基盤となるモデルを利用した制御系の開発や制御手法は,共通基盤となるところである。

本書では,おもにこのSIPの制御チーム内の活動から得られた成果をもとにモデルを活用した制御系を導入する際の基礎や基盤を学べるとともに,本書に従ってプログラムを行えば,モデルを活用した制御系の基本形が構築できるようになっている。また,構築した制御系を実際にエンジンに適用した事例も紹介している。具体的な燃焼や吸排気系の制御モデルの構築手法,各種制御理論の解説,およびそれらを利用した制御器の設計手法が解説されており,また,各章にはコラムを設けて,章の内容,背景などについてわかりやすく解説した。エンジン制御を取り扱った書籍そのものの数は少なく,本書のように,自動車用エンジンのモデルを用いた制御系の設計手法を体系的にまとめたものは皆無であり,大学院の学生には,エンジンのエッセンスを抽出したモデリング手法制御理論とその利用価値,および方法の理解を促し,また,産業界においてはエンジニアや研究者の入門書として,今後のモデルを活用したエンジンの制御系設計の導入に役立ててもらいたいという思いのもとで,まとめたものである。
最後に,SIP での活動としてエンジン制御システムの構築を含め,本書を出版するにあたっては,東京大学の池村亮祐氏,酒向優太朗氏,高橋幹氏,慶應義塾大学の幾竹優士氏,Jost Kurzrock 氏,江口誠氏,福田直輝氏,宇都宮大学の石月創太氏,小泉純氏,林知史氏,旭輝彦氏,熊本大学の恒松純平氏,藤井聖也氏,内田智氏,上智大学の小島和樹氏,定地隼生氏,松井大樹氏といった多くの学生,およびコロナ社には多大なるご協力をいただいた。ここに感謝の意を表する。

2019年1月内閣府SIP 革新的燃焼技術制御チーム制御グループ長 山﨑由大

1. 序論
1.1 自動車のエンジンシステム
1.2 従来のエンジンの制御と適合
1.3 走行モード,燃料,新燃焼と,制御MAPとの関係性,およびその適合
1.4 モデルと制御系設計
 コラム1.1:適合

2. 燃焼のモデリング
2.1 離散化モデル
2.2 吸気行程
2.3 圧縮行程
2.4 燃料噴射
2.5 着火,燃焼
2.6 膨張行程
2.7 排気行程
2.8 圧縮ポリトロープ指数
 2.8.1 シリンダ内ガス温度および圧力モデル
 2.8.2 シリンダ内ガス組成および比熱比モデル
 2.8.3 シリンダ内ガス流動モデル
 2.8.4 冷却損失モデル
 2.8.5 壁温度モデル
 2.8.6 圧縮ポリトロープ指数モデル
 コラム2.1:ディーゼル燃焼
 コラム2.2:なぜ圧縮・膨張行程をポリトロープ変化でモデル化できるのか?

3. 吸排気システムのモデリング
3.1 吸排気システムの構成
3.2 マニホールド要素
3.3 バルブ要素
3.4 シリンダ
3.5 ターボチャージャ
 3.5.1 概要
 3.5.2 タービンのモデリング
 3.5.3 コンプレッサのモデリング
 3.5.4 ターボチャージャ全体のモデル
 3.5.5 タービンおよびコンプレッサマップを用いたより精緻なモデル
3.6 シミュレーション
 コラム3.1:吸排気システム

4. 制御器設計
4.1 制御理論
 4.1.1 逆モデルによるフィードフォワード(FF)制御
 4.1.2 H∞制御
 4.1.3 出力フィードバックに基づく適応制御
 4.1.4 深層学習
4.2 エンジン制御モデルへの制御理論の適用と制御器設計
 4.2.1 逆モデル燃焼FF制御器
 4.2.2 H∞制御による燃焼制御
 4.2.3 適応燃焼FB制御器
 4.2.4 フィードバック誤差学習(FEL)制御と学習
4.3 吸排気制御システム
 4.3.1 FF制御器
 4.3.2 FB制御器
 コラム4.1:わかりやすい制御の話

5. 制御システム評価
5.1 実機評価システム
5.2 実機を用いた制御試験結果
 5.2.1 評価運転パターン
 5.2.2 燃焼FF制御
 5.2.3 燃焼FF制御+FB制御
 5.2.4 燃焼FF制御+FB制御+吸排気FF制御+FB制御
 5.2.5 FB燃焼誤差学習制御
5.3 モデルを用いた制御,制御系設計の有効性と今後の課題

引用・参考文献
索引

山崎 由大(ヤマザキ ユウダイ)

松永 彰生(マツナガ アキオ)

神田 智博(カンダ トモヒロ)

掲載日:2019/10/05

日本機械学会誌2019年10月号広告