マルチエージェントシリーズ A-2
マルチエージェントのためのデータ解析
分析の手順から分析結果をシミュレーションモデルに繋げる事を中心に,データ解析とエージェントシミュレーションの統合ついて解説。
- 発行年月日
- 2017/08/16
- 判型
- A5
- ページ数
- 192ページ
- ISBN
- 978-4-339-02812-6
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 広告掲載情報
本書は,社会経済データを実際に分析して社会現象のモデルを構築できるように,分析の手順から分析結果をシミュレーションモデルにつなげることを中心に,データ解析とエージェントシミュレーションの統合の仕方について解説した。
本書は,理工系および社会科学系の学部学生を対象として著した,社会シミュレーションとデータ解析に関する基本的な手法と必要な概念に関する教科書である。
近年の情報通信技術の発達により,より広範囲で迅速に,詳細で時間分解能の高い社会経済データが収集できるようになりつつある。例えば,金融電子取引の普及により,ミリ秒単位の高頻度な金融市場の市場データが手に入るようになった。また,商品の売上データを瞬時に集計できるオンラインシステムも普及している。これらの大量かつ大規模な実データを用いて,社会経済現象の背後にあるメカニズムを理解する分析手法として社会/集団シミュレーションがますます重要になってきている。
本書では,社会経済データを実際に分析して社会現象のモデルを構築する際に,どのような手順で分析を進めていけばよいのか,また分析した結果をどのようにシミュレーションモデルにつなげていけばよいかということを中心に,データ解析とエージェントシミュレーションの統合の仕方について説明していく。さらに,実データの分析に基づく社会/集団シミュレーションの研究およびシミュレーションによる実データ解析の具体的な研究事例を紹介する。
本書では,著者らがいままでに行ってきた実データに基づくエージェントシミュレーションの研究プロセスを比較的丁寧に説明している。それによって,この場面でどのようなデータ解析手法を使ったらよいか,この分析結果からどのようにエージェントシミュレーションの枠組みを考えていけばよいか,データがない要素についてどのような仮定を置けばよいのかという事柄について,研究者がどのような思考で決めているのか追体験できるようにした。これからこの分野の研究を始めようとしている人たちも,または本書で扱った手法を自分のビジネスにおいて活用しようと思っている人たちも,自分自身がデータに向かい合って,シミュレーションモデルを作ろうとしている気持ちで読んでほしい。通常の教科書にはなかなか書かれていないような,データやモデルに関する基本的な取組み方から書くように心がけた。紙面の都合上,個別のデータ分析手法やシミュレーション手法の詳細を厳密に解説することはできないところも多くある。個別の手法の詳細については,引用・参考文献に挙げた書籍や論文などもぜひ参考にして学んでほしい。
本書は,1章で本書全体に共通するデータ解析とエージェントシミュレーションに関する基本的な考え方を,理工系および社会科学系の学部学生が読めるように,できるだけ数式などを使わずに平易に説明した。2章から5章までは,著者らがいままで実際に行ってきた実データ解析とエージェントシミュレーションの研究を題材にして,それらに使われている基本的な手法を説明している。
まず2章では,センサによって計測した人の移動データの分析と室内移動シミュレーションの研究事例を紹介し,クラスタ分析と呼ばれるデータ分類の手法を説明する。3章では,店舗での購買データの分析と商品の売上シミュレーションの研究事例で,主成分分析や回帰分析などを紹介する。4章では,株価などの金融価格データの分析と市場シミュレーションから,時系列データの分析手法を解説する。5章では,パーソントリップ調査による交通移動データから病気の感染シミュレーションの構築や,実際の感染数データによる検証を説明する。最後の6章では,前章までの研究事例を踏まえて,データ解析とシミュレーションの統合の3段階を紹介し,エージェントシミュレーションによる有り得るシナリオの発見について解説する。
本書は,つぎの3名で執筆した。
和泉潔:1~3,6章
山田健太:4章
斎藤正也:5章
なお,本書に掲載されている一部のスライドは,本書の書籍詳細ページでダウンロードが可能なので,ぜひ活用していただきたい。
最後に,本書執筆の機会を与えていただいた東京工業大学の寺野隆雄先生に深く感謝の意を表するしだいである。そして,2章で魚の絵を描いてくれた里奈と亜弥にも感謝したい。
2017年5月 和泉潔(著者代表)
1. データ解析とエージェントシミュレーション
1.1 大規模データ解析から社会動向が予測可能か
1.1.1 スカート丈と株価
1.1.2 スカート丈から大規模データへ
1.1.3 大規模データを利用した社会予測の限界
1.1.4 未知の社会的状況に挑むにはどうすればよいか
1.2 シミュレーションが必要なわけ
1.2.1 ミクロ・マクロループとシミュレーション
1.2.2 シミュレーションによるミクロ・マクロループの分析
1.2.3 実データから抽出した個人行動ルールのテスト
1.3 システムの分類
1.3.1 閉鎖システム
1.3.2 動的システム
1.3.3 開放システム
1.3.4 動的開放システム
1.3.5 ミクロ・マクロシステム
2. 軌跡データと移動シミュレーション
2.1 データ分類による社会現象モデルの作成
2.1.1 まずはシステム状況の分類から
2.1.2 階層クラスタ分析の手順
2.1.3 非階層クラスタ分析
2.2 クラスタ分析による移動軌跡マイニング
2.3 子供の室内転倒事故予防シミュレーション
2.3.1 目的地設定
2.3.2 目的物への移動アルゴリズム
2.3.3 転倒リスク評価
2.3.4 乳幼児行動観察システム
2.3.5 多解像度クラスタ分析法
2.3.6 ケース1:駆け回りタイプ
2.3.7 ケース2:おもちゃ遊びタイプ
2.4 手術室内ワークフローシミュレーション
2.4.1 超音波式位置計測システム
2.4.2 軌跡データ分析と移動シミュレーション
3. 購買データとマーケティングシミュレーション
3.1 動的開放システムのモデル構築
3.1.1 データの種類とモデル構築手順
3.1.2 ミクロレベルのモデル化とマクロレベルのモデル化
3.2 マーケティングシミュレーション
3.2.1 ID-POSデータの概要
3.2.2 ミクロな購買行動の特徴を表す態度変数
3.2.3 主成分分析による購買行動の特徴量選択
3.2.4 購買態度の変容モデル(動的開放システム)
3.2.5 ブランド購買モデル
3.2.6 マクロデータによるモデル検証
4. 時系列モデルの基礎と金融市場データへの適用
4.1 イントロダクション
4.2 金融市場に見られる代表的経験則
4.2.1 価格変動のべき則
4.2.2 価格差とボラティリティーの相関
4.2.3 時系列モデルのイントロと高校数学の復習
4.3 ランダムウォーク
4.4 自己回帰(AR)モデルとそのパラメータ推定方法
4.4.1 AR過程のパラメータ推定方法
4.4.2 実データを用いたAR過程のパラメータ推定
4.5 ARCH,GARCHモデル
5. パンデミックシミュレーションとデータ同化
5.1 感染症数理モデリング
5.2 個人ベースシミュレーション
5.3 事例紹介
5.3.1 東南アジアにおける新型インフルエンザ封込め試算
5.3.2 都市における流行とワクチンによる集団免疫強化
5.3.3 パーソントリップ調査の活用
5.3.4 データ同化による予測の事例
6. 可能世界ブラウザとしてのエージェントシミュレーション
6.1 データ解析とエージェントシミュレーションの統合の3段階
6.2 ステップA:マクロデータの再現
6.2.1 ブログでの単語出現モデル
6.2.2 金融市場におけるべき乗則の再現
6.3 ステップB:ミクロデータに基づく行動モデル構築
6.3.1 不特定多数の人流データに基づく避難シミュレーション
6.3.2 移動軌跡データに基づく室内移動シミュレーション
6.4 ステップC:過去データにない新エピソードの発見
6.4.1 ID-POSデータに基づく購買行動モデルの構築
6.4.2 特定ブランドのマーケットシェア増大エピソードの作成
6.4.3 内部状態分析による顧客ターゲティング
6.5 実データ解析とシミュレーションとの統合の可能性
6.5.1 可能世界ブラウザで見るブラックスワン
6.5.2 可能世界ブラウザの関連研究
6.6 おわりに
引用・参考文献
索引
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掲載日:2023/09/05
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掲載日:2021/03/03
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掲載日:2020/08/27