マルチエージェントのための行動科学:実験経済学からのアプローチ

マルチエージェントシリーズ A-6

マルチエージェントのための行動科学:実験経済学からのアプローチ

経済実験とマルチエージェントシミュレーションの生産的な融合の可能性を示したテキスト

ジャンル
発行年月日
2021/04/12
判型
A5
ページ数
200ページ
ISBN
978-4-339-02816-4
マルチエージェントのための行動科学:実験経済学からのアプローチ
在庫あり

定価

3,080(本体2,800円+税)

カートに入れる

電子版を購入

購入案内

  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • レビュー
  • 著者紹介
  • 広告掲載情報

【本書の特徴】
本書は,実験経済学のアプローチを基にした,マルチエージェントシミュレーションにおける意思決定主体の行動モデル構築に関する教科書です。対象読者として,入門レベルのミクロ経済学やゲーム理論の知識をもつ,理工系および社会科学系の学生を想定しています。いくつかの章では,実験を経験しながら学べるように配慮して記述しています。さらに,実験と同じ状況のシミュレーションを,NetLogoを用いて読者自身がプログラミングできるように丁寧に解説しています。

社会経済システムのマルチエージェントシミュレーションを行う際,どのように行動モデルを構築するかは,常に頭を悩ませる問題です。一方,実験経済学では,人間を被験者として,その意思決定を実験室で観察・分析を行う経済実験という方法論が確立されています。本書は,実験経済学の観点から,そのような問題に正面から立ち向かう,これまでになかった新しい教科書です。

【各章について】
本書は,「市場」と「ゲーム」の2つのタイプに分けて書かれており,2~5章が市場タイプ,6~8章がゲームタイプの内容になっています。

1章では,マルチエージェントシミュレーションにおける行動モデルを構築するにあたり,なぜ実験経済学のアプローチに基づくのかを説明します。

2章では,ダブルオークション形式の市場実験を紹介し,次いで3章では2章の実験に対応した単純な行動モデル(ゼロ知能エージェントモデル)を構築し,シミュレーション結果と実験結果の比較を行います。

4章では,複数期間に渡って取引される資産市場実験と,それに対応できるように3章のゼロ知能エージェントモデルを発展させた行動モデルを構築します。

5章では,複数期間に渡って資産の価格を予測する実験を紹介し,その結果を上手く再現できるHeuristics Switching モデルという行動モデルについて説明します。

6章では,美人投票ゲームと,その実験結果の特徴を再現できるレベルKモデルと認知階層モデルを紹介します。

7章では,公共財ゲームの実験を紹介し,続く8章では,同ゲームにおける学習エージェントのモデルを構築し,学習プロセスの違いが結果に与える影響を学びます。

9章では,被験者とエージェントの対戦を通じて人間の振舞いを理解する試みなど,両分野の融合的なアプローチをまとめています。

10章では,実験経済学について概説しています。そして11章では,まとめとして,マルチエージェントの問題の所在やその構成について再検討を行い,今後への期待を述べて本書を締めくくります。

【著者からのメッセージ】
世界的に見ても,実験経済学とマルチエージェントの両分野を融合的にまとめた教科書は未だなく,画期的な教科書だと思います。本書がきっかけとなり,理工系のエージェントシミュレーションを学習している読者が経済実験の方法を採用したり,一方で,経済学などの社会科学系の学問を学ぶ読者がエージェントシミュレーションを用いるようになるなど,両分野の結びつきが進むことは,この上ない喜びです。そのような文理融合型研究者が育つことを心より願っています。

【キーワード】
社会経済システム,創発,実験経済学,マルチエージェントシミュレーション,ダブルオークション,ゼロ知能エージェント,資産市場実験,価格予測実験,Heuristics Switching モデル,美人投票ゲーム,レベルKモデル,認知階層モデル,公共財ゲーム

本書は実験経済学のアプローチを基に,マルチエージェントシミュレーションにおける意思決定主体の行動モデル構築に関する教科書である。対象読者は,入門レベルのミクロ経済学やゲーム理論の知識をもつ,理工系および社会科学系の学生(学部および大学院)を念頭に置いている。

社会経済システムを対象とするマルチエージェントシステムを構築する際の大きな問題の1つは,エージェントの行動モデルをどのように決定するかである。社会経済システムの構成要素は人間やグループ,あるいは1つの組織体など,主観的側面を多分に含む意思決定主体である。エージェントモデリングの柔軟さゆえに,現実における人々の振舞いから着想を得て,もっともらしい行動モデルを構築することは比較的容易ではあるが,これらの行動モデルを裏付ける理論やデータが十分ではないため,構築された行動モデルの妥当性を科学的な見地から示すのは難しい。そこで,近年,実験経済学の手法を用いて収集したミクロレベルのデータに基づいて,エージェントの行動モデルの基礎づけを行おうという試みがなされている。また,経済実験と同じ環境のエージェントモデルを構築し,単純な行動モデルでどこまで実験結果が再現できるかを分析したり,経済実験内で人間の参加者をコンピュータエージェントと対戦させたりすることで,経済実験の結果をより深く理解しようとする試みも盛んである。本書では,経済学的な研究を中心にこれらの試みの一部を紹介することを通じて,より広く社会科学研究における,経済実験とマルチエージェントシミュレーションの生産的な融合の可能性をご覧にいれたい。

ところで,昨今,理工系と社会科学系の研究の融合が叫ばれているが,現状のところ,日本では寄せ集め主義的にそれぞれの研究者を集めただけで,真の融合が進んでいるとは言い難い状況にある。例えば,経済学とコンピュータサイエンスという観点でいえば,米国はマーケットデザイン分野では両者が上手く結びつき,マッチングなどのアルゴリズムが実社会へ応用されるなど,顕著な成果をあげている。残念ながら,日本でそのような両者の融合の成功事例を聞くことは少ない。筆者の1人の西野は,理工系をバックグラウンドに社会科学系へ研究を展開している研究者であり,もう1人の筆者の花木は,逆に社会科学系のバックグラウンドをベースに理工系のアプローチを積極的に採用する研究者である。本書は,そのように真に文理融合を実践している筆者による教科書であることも特徴である。

理工系と社会科学系の融合を願う理由の1つは,社会経済を対象としたマルチエージェントシミュレーション技術が社会へ実応用されることを心から期待しているからである。一般に,理工系の研究は実産業と結びつくことも多く,産学連携などの共同研究が広く進み,学術研究が産業へ応用されるケースが散見される。一方で,経済学などの社会科学系は,研究対象が社会や経済であるにも関わらず,企業との共同研究などの事例はそれほど多くない。そのため,産学連携においては,技術の機能性だけがフォーカスされ,経済学的な観点からその技術の社会での価値を考えることはほとんどない。一方で,そのような新技術の実社会応用の問題を,経済学者が理論モデルを立てて,きっちり分析するには,どれだけ早くとも1年以上の歳月を要する。産業界はそんなに待ってはくれない。両者を同時に成立させるためには,タイムリーに短時間で社会経済システムを分析できるツールが必要不可欠なのである。マルチエージェントシミュレーションはそこへ貢献できると期待する。同様の観点からシミュレーションの必要性が,A.Rothによる“The economist as engineer: Game theory, experimentation ,and computation as tools for design economics”,Econometrica, Vol.70, No.4, pp.1341-1378, 2002の論文でも指摘されている。この点で,本書が少しでも貢献できれば幸いである。

また,本書では,エージェントシミュレーションを構築したことのない読者や経済実験を体験したり準備したことがない読者を対象に,実際にNetLogoを用いたエージェントシミュレーションのプログラミングや,経済実験用の汎用的なソフトウェアであるz-Treeを用いて,だれでも経済実験ができるように配慮している。特に,その性質上,一部の章では演習ベースのスタイルで学べるように配慮した内容構成になっている。なお,本書で扱うプログラムは,コロナ社の書籍紹介ページ†で,本文中で用いられているスライドとともにダウンロード可能である。

本書で紹介した内容を基礎として,興味をもった読者諸君が自分自身でもエージェントシミュレーションを構築したり,経済実験をデザインしたりしてもらえればと願っている。さらには,本書がきっかけとなり,理工系のエージェント分野の研究者が社会科学系を志向したり,反対に,経済学などの社会科学系の研究者がエージェント研究に参入したりするなど,両分野の融合が進むことを心より期待している。そのような文理融合型研究者が育って欲しいと心より願っている。

最後に,本書執筆のきっかけを与えてくださった寺野隆雄先生と和泉潔先生には,この場をかりて心より感謝申し上げたい。また,コロナ社には,原稿が遅れても常に暖かい言葉を掛けてくださり,執筆の励みになった。お詫びと共に感謝申し上げる。早稲田大学の石川竜一郎氏と山口大学の山田隆志氏からは,本書の原稿に貴重なコメントをいただいた。この場をかりてお礼を申し上げたい。また,いつも影で支えてくれた家族に心より感謝したい。

2021年2月
西野成昭,花木伸行

1.はじめに
1.1 社会経済システムと創発
1.2 行動モデルを裏付ける理論の不足
1.3 行動モデルとして見る経済理論
1.4 経済学における経済人の仮定
1.5 実験経済学の発展
1.6 マルチエージェントと実験経済学の融合による新たな社会科学の可能性
1.7 本書のねらい

2.市場実験を体験してみよう
2.1 はじめに
2.2 実験内容の説明
 2.2.1 実験1:ダブルオークション
 2.2.2 実験2:負の外部性が働く場合
 2.2.3 実験3:ピグー税
2.3 実験結果の集計
2.4 市場均衡
 2.4.1 需要関数と供給関数
 2.4.2 均衡解
 2.4.3 負の外部性と市場の失敗
 2.4.4 負の外部性の問題に対する一つの解決方法
2.5 発展的な実験

3.エージェントシミュレーションをプログラミングしよう
3.1 はじめに
3.2 行動モデル:ゼロ知能エージェントモデル
3.3 プログラミングしてみよう
3.4 シミュレーションの実行
 3.4.1 シミュレーション結果
 3.4.2 結果の考察
3.5 経済実験の結果との比較
3.6 発展的なシミュレーション

4.より複雑な市場実験とエージェントシミュレーション1
4.1 はじめに
4.2 資産市場実験
 4.2.1 実験の説明
 4.2.2 実験してみよう
 4.2.3 実験結果の解説
4.3 発展型ゼロ知能エージェントモデル
 4.3.1 エージェントの行動ルール
 4.3.2 NetLogoでの実装
4.4 発展モデル:3タイプ相互作用モデル
 4.4.1 3種類のエージェント
 4.4.2 エージェントの行動ルール

5.より複雑な市場実験とエージェントシミュレーション2
5.1 はじめに
5.2 価格予測実験
 5.2.1 実験の概要
 5.2.2 実験の結果
5.3 Heuristics Switchingモデル
 5.3.1 代表的な行動ルール(Heuristics)
 5.3.2 Heuristics Switchingモデル

6.ゲームの経済実験に参加しよう1:美人投票ゲーム
6.1 はじめに
6.2 美人投票ゲーム実験
6.3 このゲームの背後にある考え方
6.4 均衡分析
6.5 行動モデル1:レベルKモデル
6.6 戦略的環境の影響
6.7 行動モデル2:認知階層モデル

7.ゲームの経済実験に参加しよう2:公共財ゲーム
7.1 はじめに
7.2 公共財ゲーム実験
7.3 背後の理論とナッシュ均衡からの逸脱
7.4 実験結果
7.5 実験におけるゲームの繰返しについて
7.6 処罰可能な公共財ゲーム

8.ゲーム環境下でのエージェントシミュレーション
8.1 はじめに
8.2 2つの学習モデル
8.3 NetLogoプログラミング
8.4 シミュレーションの実行
 8.4.1 結果
 8.4.2 考察
8.5 寡占市場実験
 8.5.1 実験の説明
 8.5.2 寡占市場実験の結果
 8.5.3 発展課題
8.6 より発展した学習モデル

9.マルチエージェント行動科学
9.1 はじめに
9.2 エージェントの行動モデル
9.3 行動モデルの分類
9.4 システムを理解するvs.行動を理解する
9.5 シミュレーションで経済実験の行動を再現する
9.6 行動モデルを所与としてシステム全体の挙動を見る
9.7 経済実験の参加者をエージェントに代替させる

10.実験経済学
10.1 はじめに
10.2 実験経済学の発展の経緯
10.3 選好の統制を可能にする価値誘発理論
10.4 これまでに行われている実験トピック

11.おわりに
11.1 マルチエージェントが抱える問題の所在
11.2 マルチエージェントシステムの構成について再検討する
11.3 実験経済学とマルチエージェントの融合に対する今後の期待

引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【MODULO様(ご専門:統計学)】

本書はマルチエージェント理論をもとにコンピューター上で経済実験を行うことについて書かれた本です。
特にゲーム理論における美人投票ゲームと公共財ゲームについて,実践という面から,経済学における振る舞いについて理解することに有益な一冊だと考えられます。
数学的に厳密に書かれている部分は少ないため, 理論的に行いたいという人には向かないかもしれませんが,ガンガン実験していきたいという人には向いていると考えられます。
理論的なことにはまだ難しいという方,これらの実験経済学に興味のある方はぜひ手にとってご一読ください。

amazonレビュー

西野 成昭

西野 成昭(ニシノ ナリアキ)

東京大学大学院工学系研究科で博士(工学)を取得後,東京大学人工物工学研究センター研究員,同センター助教を経て,2009年より東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻准教授に着任し,現在に至る。専門は,サービス工学,実験経済学,マルチエージェント,ゲーム理論,技術経営。従来の文理の枠に囚われず,領域横断的な研究活動を広く行っています。特に最近は,マルチージェントや実験経済学の方法を応用して,サービスをどのように設計するかという実践的な研究テーマに注力しています。

花木 伸行

花木 伸行(ハナキ ノブユキ)

経歴:筑波大学国際関係学類卒業,米国コロンビア大学博士号(経済学)取得後,筑波大学専任講師,仏国エクス-マルセイユ大学教授,仏国ニース大学教授等を経て2019年から現職。専門は,実験・行動経済学。主に被験者実験を通じて,経済学理論の検証と発展に取り組む。近年は,これまで実験・行動経済学がミクロレベルで明らかにしてきた人間の限定合理的な行動のマクロ経済学的な含意について考察中。本書が,被験者実験とエージェントシミュレーションの生産的な相互作用を通じた社会科学の新しい展開に寄与することを願っています。

掲載日:2021/04/15

情報処理学会誌「情報処理」2021年5月号広告

掲載日:2021/04/01

「電子情報通信学会誌」2021年4月号広告

下記,付録資料をご覧いただけます。


『z-TreeとNetLogoのチュートリアル』(→PDF資料

付録A z-Treeチュートリアル
A.1 z-Treeとは
A.2 z-Treeのインストールと経済実験を行うためのPC環境
A.3 動かしてみる
A.4 z-Treeの仕組み
A.5 Stage
A.6 z-TreeにおけるTableの概念
A.7 様々なタイプのBox
A.8 ContractTable
A.9 参加者の画面表示に関するTips
A.10 実行時に指定するオプション:コマンドラインオプション
A.11 その他
A.12 マニュアル等の有用な情報源
付録B NetLogoチュートリアル
B.1 NetLogoとは
B.2 NetLogoの基本構成
B.3 NetLogoにおけるシミュレーションの仕組み
B.4 変数の定義や代入など
B.5 ask文とエージェントへの命令
B.6 基本的な構文
B.7 procedureの定義
B.8 その他の要素、よく使う命令など
B.9 インタフェース画面での変数の設定
B.10 グラフの描画
B.11 コマンドセンター
B.12 その他
B.13 マニュアル等の有用な情報源