脳波処理とブレイン・コンピュータ・インタフェース - 計測・処理・実装・評価の基礎 -

次世代信号情報処理シリーズ 4

脳波処理とブレイン・コンピュータ・インタフェース - 計測・処理・実装・評価の基礎 -

  • 東 広志 京大助教 博士(工学)
  • 中西 正樹 カリフォルニア大サンディエゴ校Assistant Research Scientist 博士(工学)
  • 田中 聡久 東京農工大教授 博士(工学)

ブレイン・コンピュータ・インタフェース(BCI)のパラダイムや信号処理について解説。

ジャンル
発行年月日
2022/10/20
判型
A5
ページ数
218ページ
ISBN
978-4-339-01404-4
脳波処理とブレイン・コンピュータ・インタフェース - 計測・処理・実装・評価の基礎 -
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定価

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
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  • 著者紹介
  • 広告掲載情報

【書籍の特徴】
本書は,第一線で脳波BCI(ブレイン・コンピュータ・インタフェース)研究に携わっている筆者らが,BCIのパラダイムや信号処理について解説したものです。対象とする読者は,電気電子工学や情報工学を初めとする理工学を学ぶ学部生や大学院生,また脳神経科学の工学応用に興味のある研究者・技術者や脳科学の産業応用に興味のある方々を想定しています。基本的に高等学校から大学初年度の数学に関する知識があれば読み進めていけるようになっています。

【本書の構成】
1章:「脳波とブレイン・コンピュータ・インタフェース」では,BCIの定義と研究の歴史を紹介し,BCIにおける神経科学的なバックグランドについて簡単に述べます。さらに,BCIの構成について触れ,信号処理がどのような役割を担っているのかを述べます。また,これからBCI研究を始める方に向けて,一般的な開発環境を紹介します。
2章:「BCIのための信号処理・解析・パターン認識」では,BCIの構築に必要な信号処理,信号解析の手法を紹介します。それらの理解に必要な数学的な準備を冒頭に含めました。
3章:「脳波計測」では,頭皮脳波の発生原理,脳波計測に必要な装置,計測の手順,計測の際の注意事項などを紹介します。
4章:「前処理と特徴抽出」では,記録した脳波に対して何らかの処理を行い,雑音をできるだけ除去し,意味のあるパターンを抽出する方法を紹介します。
5章:「評価方法」では,開発したBCIの性能を評価する方法を解説します。また,ベンチマーク用データセットをいくつか紹介します。
6章:「事象関連応答によるBCI」では,イベントの発生頻度の違いによって,振幅が異なるERP(事象関連電位)を誘発することでBCIを構築する方法を紹介します。
7章:「視覚応答によるBCI」では,VEP(視覚誘発電位)研究の歴史や実験デザイン,信号解析手法について解説します。
8章:「運動関連応答によるBCI」では,微分幾何学(リーマン多様体)を信号処理に応用した手法をかなり詳しく説明しているのが特徴となっています。

1章,3章,4章,5章は,すべてのBCI開発における共通事項であるため,6章から8章を読む前に一読することをお勧めします。2章には,これ以降の章で必要となる信号処理の詳細をまとめてありますので,必要なときに参照してください。6章,7章,8章は,それぞれ独立した形で記述されていますので,自分の開発対象や興味に合わせて読むことが可能です。

ブレイン・コンピュータ・インタフェース(BCI)とは,人間(ユーザ)の意図,または意図のために生成した脳の活動を脳計測によって時々刻々と読み取り,本人の意図を外部へ伝達する技術です。

BCIのように,考えるだけでロボットなどを操作する描写を,SF作品などで見たことがあるのではないでしょうか。かなり古典的な作品でもこの描写は見られ,BCI的なアイディアは古くから存在していることがわかります。現在の技術では,ロボットを自由自在に動かせるまでには至っていませんが,計測方法によっては,精度の高い操作が可能になっています。例えば,ヒトやサルを対象とした研究では,運動する手の軌道を脳活動から再現したり,想像した軌道を再現できることが報告されています。ここまで来ると,実用化への期待も膨らみます。しかし,このような操作を達成するには侵襲的な計測が必要です。侵襲的な計測とは,脳内部に電極やセンサを設置して脳活動を計測する方法です。設置に開頭手術が必要であり,その危険性は未知数です。

一方で,侵襲でない脳活動の計測方法(非侵襲型計測)も存在します。体外から脳活動を計測するこの方法は,危険性はほとんどありません。手術も不要です。機材さえあれば誰でも計測することができます。しかし,その計測信号は,侵襲計測と比べて,激しく劣化しています。非侵襲型計測のBCIの精度はまだまだ低く,実用化にはほど遠いのが現状です。

頭皮上に設置した電極によって計測される脳波は,非侵襲型計測の一つです。他の非侵襲型計測と比べて,価格面や設置面でのコストが低いのが特徴です。そのため,脳波を使ったBCIは世界中で盛んに研究されています。しかし,他の非侵襲型計測と同様に,信号は激しく劣化しており,まともに計測できる脳活動は限られています。このような計測可能な脳活動を誘発するタスクや刺激をうまく利用して,脳波によるインタフェースを設計します。BCIの研究では,タスク・刺激と出力の関係(パラダイム)を工夫したり,信号の劣化を信号処理やパターン認識によって克服することで,インタフェースとしての性能の向上を図ります。

本書は,第一線で脳波BCI研究に携わっている筆者らが,BCIのパラダイムや信号処理について解説したものです。対象とする読者は,電気電子工学や情報工学を初めとする理工学を学ぶ学部生や大学院生,また脳神経科学の工学応用に興味のある研究者・技術者や脳科学の産業応用に興味のある方々を想定しています。基本的に高等学校から大学初年度の数学に関する知識があれば読み進めていけるようになっています。全体の構成は図のようになっています。

まず,第1章で脳波を使ったBCIの概要を述べます。第2章では,BCIのデータ処理に必要な信号処理の基礎的な事項について述べます。第3章では脳波計測について述べます。第4章は,第2章で紹介した信号処理を,具体的にどのように脳波に適用するかを述べています。第5章は,開発したBCIの性能の評価方法について述べます。第6章,第7章,第8章は,事例紹介として三つの代表的なパラダイムに関連する脳波応答(事象関連応答,視覚応答,運動関連応答)を取り上げ,構成方法とそれに特化した信号処理を紹介します。特に,第8章では,微分幾何学(リーマン多様体)を信号処理に応用した手法をかなり詳しく説明しているのが特徴となっています。

第1章,第3章,第4章,第5章は,すべてのBCI開発における共通事項であるため,第6章から第8章を読む前に一読することをお勧めします。第2章には,これ以降の章で必要となる信号処理の詳細をまとめてありますので,必要なときに参照してください。第6章,第7章,第8章は,それぞれ独立した形で記述されていますので,自分の開発対象や興味に合わせて読むことが可能です。しかしながら,これらの章で扱う内容は,本書で事例として取り上げなかった脳波応答の処理・識別や,将来的にBCIにおける有効性が新たに認識されるだろう脳波の応答を処理・識別する際にも,ベースラインとして必ず役に立つと信じています。

最後に,原稿に対して有益なコメントをくださった小野弓絵先生(明治大学)と横田達也先生(名古屋工業大学)に感謝します。第8章に有益なコメントをいただいた,筆者(田中)の元学生である山本紗有さんにも感謝します。また,原稿の完成を快く待っていただき,丁寧に編集作業を行ってくれたコロナ社の皆さんに感謝します。

2022年8月
東広志,中西正樹,田中聡久

1.脳波とブレイン・コンピュータ・インタフェース
1.1 定義
1.2 歴史
1.3 脳の構造
1.4 基本構成
1.5 分類
1.6 BCIにおける脳波の利点
1.7 開発環境
1.8 むすび

2.BCIのための信号処理・解析・パターン認識
2.1 数学的準備
 2.1.1 ベクトルと行列の基礎
 2.1.2 期待値,分散,共分散,相関係数
 2.1.3 正定値行列と固有値問題
 2.1.4 特殊な行列
 2.1.5 一般化固有値分解
 2.1.6 対称行列の同時対角化
 2.1.7 信号のサンプリングとベクトル・行列表記
2.2 フィルタ
 2.2.1 線形時不変システムとフィルタ
 2.2.2 伝達関数と周波数特性
 2.2.3 フィルタ設計
 2.2.4 フィルタ利用上の注意
2.3 周波数解析
 2.3.1 離散フーリエ変換
 2.3.2 短時間フーリエ変換
 2.3.3 ウェーブレット変換
 2.3.4 経験的モード分解
2.4 多変量解析
 2.4.1 主成分分析
 2.4.2 正準相関分析
 2.4.3 独立成分分析
 2.4.4 重回帰分析
 2.4.5 正則化
2.5 パターン認識
 2.5.1 最近傍決定則
 2.5.2 ベイズ決定則
 2.5.3 線形判別分析
 2.5.4 サポートベクトルマシン
 2.5.5 ニューラルネットワーク
 2.5.6 多クラス分類
2.6 むすび

3.脳波計測
3.1 発生原理
3.2 計測システム
3.3 電極の取り付け
3.4 参照電極
3.5 雑音対策
3.6 倫理面の対応
3.7 むすび

4.前処理と特徴抽出
4.1 脳波における観測モデル
4.2 基準電位の再参照
4.3 周波数フィルタリング
4.4 ベースライン補正
4.5 ダウンサンプリング
4.6 雑音区間の除外
4.7 雑音除去
 4.7.1 主成分分析
 4.7.2 独立成分分析
4.8 加算平均
4.9 周波数特徴の抽出
4.10 同期解析
 4.10.1 コヒーレンス
 4.10.2 Phase-locking value
4.11 事象関連脱同期
4.12 信号源解析
4.13 むすび

5.評価方法
5.1 評価指標
5.2 交差検定法
5.3 ベンチマーク用データセット
5.4 オフライン解析とオンライン実験
5.5 むすび

6.事象関連応答によるBCI
6.1 事象関連電位
6.2 オドボール課題
6.3 加算平均による抽出
6.4 空間フィルタを使った特徴抽出
6.5 線形判別分析による識別
 6.5.1 線形判別分析
 6.5.2 ステップワイズ法による特徴選択
6.6 P300スペラ
 6.6.1 刺激の構成
 6.6.2 線形判別分析による識別手順
6.7 むすび

7.視覚応答によるBCI
7.1 視覚誘発電位
7.2 実験課題
 7.2.1 刺激変調方式
 7.2.2 実験装置
7.3 前処理
 7.3.1 基準電位の再参照
 7.3.2 空間フィルタリング
 7.3.3 周波数フィルタリングとフィルタバンク
7.4 特徴抽出と識別
 7.4.1 時間変調特徴量の識別
 7.4.2 周波数変調特徴量の識別
 7.4.3 符号変調特徴量の識別
7.5 応用事例
 7.5.1 スペラ
 7.5.2 緑内障診断
7.6 むすび

8.運動関連応答によるBCI
8.1 運動関連応答
8.2 運動想起脳波のパターン認識
 8.2.1 共分散行列による特徴表現
 8.2.2 共通空間パターン法
8.3 多様体による共分散行列の識別
 8.3.1 共分散行列の対称正定値性
 8.3.2 対称正定値行列の作る多様体と接空間
 8.3.3 接空間写像法
 8.3.4 多様体上の平均とメディアン
 8.3.5 多様体上の距離
 8.3.6 最小距離法
8.4 フィルタバンクの利用
8.5 深層学習による運動想起の推定
8.6 フィードバック
8.7 むすび

引用・参考文献
索引

読者モニターレビュー【 N/M 様 (ご専門:総合情報学(情報科学) )】

本書は,次世代信号情報処理シリーズ(全17巻)の4巻目に位置する書籍である.本巻では「脳波処理とブレイン・コンピュータ・インタフェース」について,脳科学及び,脳内の信号処理の分野についての記述がなされている.

第1章では,ブレイン・コンピュータ・インタフェース(BCI)とブレイン・マシン・インタフェース(BMI)の用語の呼び方の違い(各学問領域における,呼び方の傾向)の話から始まり,用語の定義から紐解かれてゆく.その後,歴史的な背景や,研究対象である"脳"の構造,BCI/BMIの基本構造・分類,脳波を利用することの利点,データを習得した後の処理・信号処理・パターン認識部を実装するために必要なソフトウエアの紹介などについて解説されている.開発環境については,昨今の人工知能技術の流行や,今年2022年4月からの新(教育)課程の高等学校情報科目である『情報Ⅰ・同Ⅱ』の中で扱われているプログラミング言語の一つとしてPythonが挙げられる.このPythonのライブラリであるNumpyやScipy,Scikit-learnなどを用いれば,容易にデータ解析できる点も興味深いのではないだろうか.また,あまり馴染みがないかもしれないが,PsychoPyという心理物理実験のための視覚刺激作成のためのPythonのライブラリも存在しており,Python学習への動機づけや応用としても身近に感じることができるのではないだろうか.

第2章では,BCI/BMIを学ぶ上で必要となる数学的な説明を概論的に解説がなされている.より詳しく知りたい方は,本シリーズの1巻である「信号・データ処理のための行列とベクトル
- 複素数,線形代数,統計学の基礎
-」(https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339014013/)を参考にすると,より理解が深まるだろうと思われる.

第3章では,「脳波計測」,第4章では,「前処理と特徴抽出」について解説された後,第5章では,BCI/BMIの開発において,インタフェースとしての性能を上げるのが目的だが,その開発したBCI/BMIの性能を評価する方法論について解説がなされている.ここまででBCI/BMIの開発における共通の基本的なことが述べられている.

第6章〜第8章では,『事例として取り上げなかった脳波応答の処理・識別や,将来的にBCIにおける有効性が新たに認識されるだろう脳波の応答を処理・認識する際にも,ベースラインとして必ず役に立つ』とまえがきにもある通り,今後研究が進むに連れ必要となってくる最先端技術についても触れられている.なお,これらの章は,それぞれの章が独立した形で記述されている点と,第1章(,第2章の数学的な内容は必要と興味に応じて),第4章〜第5章を一読されていることを前提に記述されている点は少し注意されたい.

レビュー,書籍紹介・書評掲載情報一覧

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掲載日:2022/11/15

「生体医工学」60巻4-5号

掲載日:2022/10/27

日刊工業新聞広告掲載(2022年10月31日)

掲載日:2022/10/17

情報処理学会誌「情報処理」2022年11月号広告

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