光デバイス入門 - pn接合ダイオードと光デバイス -
固体物理学を習い始めた学生が,固体物理をベースに光デバイスの大枠を直観的に理解できるように基礎的な内容に絞ってまとめた。
- ジャンル
- 発行年月日
- 2018/05/10
- 判型
- A5
- ページ数
- 192ページ
- ISBN
- 978-4-339-00910-1
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- 広告掲載情報
本書は,固体物理学を習い始めた大学3,4 年生が,固体物理をベースに光デバイスの大枠を直観的に理解できるように,基礎的な内容に絞ってまとめた書籍である。また,理解の助けになるように各章に章末問題を付けた。
本書は,固体物理学を習い始めた大学3,4年生が,固体物理をベースに光デバイスの基礎を理解することを目的に書かれた本である。光デバイスは,現在および将来の情報通信,省エネルギーおよび創エネルギーを支える重要な基幹デバイスである。本書で扱う内容は,著者が筑波大学の理工系の3,4年生向けの講義で扱っている15回分の講義の内容を中心にまとめたものである。学部生が相手の講義のため,まずは,直観的に理解できる内容および基礎に重点を置いた。光デバイスについては,すでに,それぞれの分野で,国内外を問わず,最先端の内容を含む立派なテキストが多数出版されている。本書は,そのような専門書にあたる前に,光デバイスの全体像をつかむために読むテキストと位置づけ,光デバイスの大枠を理解できるよう,基礎的な内容に絞って取り上げたつもりである。著者の浅学のため,至らない箇所が多いことを恐れている。
1章では,固体物理を取り上げ,結晶構造,逆格子,k空間,ブリユアン域,空格子近似を経て,半導体のエネルギーバンド構造に至る過程を解説した。固体物理の基礎を理解している場合には,この章を飛ばして3章に進むことも可能である。2章では,半導体物性の基礎として半導体のキャリヤ(電子およびホール)密度がどのように式で表せるか,さらに,光学遷移の基本形として,自然放出,誘導放出,光吸収に伴う電子の遷移割合を2準位モデルを使って導出した。また,禁制帯に局在準位がある場合の再結合割合,ならびに,電子電流およびホール電流の表式を導出した。最後に,局在準位の原因となる半導体結晶の欠陥を取り上げた。3章では,pnホモ接合ダイオードを取り上げ,空乏近似の下,ポアソン方程式を解いてエネルギープロファイル,空乏層幅を導出した。さらに,順方向バイアス印加時のキャリヤ密度に関する2階線形微分方程式を解いて少数キャリヤ密度の分布を求め,そこからダイオードの電流電圧特性が導出されることを示した。ショットキーダイオードの概要も示した。4章では,光検出器の基礎として,素子に印加するバイアス電圧により,太陽電池モード,フォトダイオードモード,アバランシェフォトダイオードモードの三つがあることを示し,それぞれの動作原理を記した。また,動作速度を決める要因として,CR時定数および空乏層をキャリヤが走行する時間を取り上げ,それらの表式を導出した。5章では,太陽電池を取り上げた。主として,結晶Si太陽電池を念頭に置き,光照射下のpnホモ接合ダイオードのキャリヤ密度分布を2階線形微分方程式を解いて求め,そこから電流電圧特性を導出した。導出した光電流の表式から,太陽電池特性向上のための重要なパラメータがなんであるか,理解できるよう努めた。また,結晶Si太陽電池の変換効率向上の歴史を示し,エネルギー変換効率向上のブレークスルーにつながった技術をいくつか取り上げた。6章では,7章および8章で主役となる化合物半導体を取り上げた。化合物半導体では,組成比を変えることで禁制帯幅を制御できること,さらに,基板上への半導体薄膜のエピタキシャル成長技術を紹介した。7章では,発光ダイオードを取り上げた。発光強度を高めるためにホモ接合ダイオードからダブルヘテロ接合ダイオードへと移行したこと,さらに,光通信用の光源として重要な直接変調の上限周波数についてもレート方程式を解いて解説した。8章では,半導体レーザダイオードを取り上げた。レート方程式を用いて,自然放出から誘導放出に切り替わるしきい値電流の表式を導出した。また,縦モード単一化のための半導体レーザとして,分布帰還型レーザダイオード,分布反射型レーザダイオードおよび面発光レーザダイオードを取り上げた。さらに,光通信用の光源として重要な直接変調周波数の上限を導出し,LEDよりも上限周波数が格段に高いことを示した。レーザダイオードの特性向上には,活性層の低次元化が不可欠である。これについて,しきい値電流密度の年次変化を紹介した。また,各章に章末問題を設定し,理解の助けになるようにした。解答例は,コロナ社のWebページから見られる。
本書の執筆に際しては,研究室の学生諸君の意見をできるだけ取り入れた。また,貴重なご意見をくださった茨城大学鵜殿治彦教授,東京工業大学宮本智之准教授に深く感謝する。本書の執筆の機会をくださり,出版に際して大変お世話になったコロナ社に感謝する。最後に,常日頃より私を励ましてくれる家族,とりわけ妻裕香に心より感謝する。
2018年3月 末益崇
1. 結晶構造とエネルギーバンド構造
1.1 はじめに
1.2 結晶系と空間格子
1.3 半導体の結晶構造(Si,GaAsを例に)
1.4 エネルギーバンド構造
1.5 k空間
1.5.1 フーリエ級数
1.5.2 逆格子
1.5.3 ブリユアン域
1.6 エネルギーバンドとは
1.6.1 1電子のシュレディンガー方程式
1.6.2 ブロッホの定理
1.6.3 空格子のエネルギーバンド
1.6.4 ほとんど自由な電子のバンドにおけるエネルギーギャップ
章末問題
2. 半導体物性の基礎
2.1 はじめに
2.2 真性半導体のキャリヤ密度・キャリヤ密度のエネルギー分布
2.2.1 状態密度
2.2.2 電子およびホール密度
2.2.3 キャリヤ密度のエネルギー分布
2.3 不純物ドープ半導体のキャリヤ密度・キャリヤ密度のエネルギー分布
2.3.1 n型半導体
2.3.2 電子密度のエネルギー分布
2.3.3 p型半導体
2.3.4 ホール密度のエネルギー分布
2.4 光学遷移の基本形
2.4.1 自然放出,誘導放出,光吸収
2.4.2 誘導放出割合を高めるには
2.5 キャリヤ再結合および生成の過程
2.5.1 バンド間遷移による再結合
2.5.2 禁制帯内の局在準位を介した再結合
2.5.3 オージェ再結合
2.5.4 光吸収によるキャリヤ生成
2.6 キャリヤ輸送
2.7 欠陥
2.8 ホール効果
章末問題
3. pn接合ダイオード
3.1 はじめに
3.2 空乏層幅と内蔵電位
3.3 空乏層容量
3.4 電流連続の式
3.5 暗状態の電流電圧特性
3.6 半導体ヘテロ接合
3.7 金属-半導体接合
3.7.1 ショットキー接合とオーミック接合
3.7.2 ショットキーダイオードの電流電圧特性
3.7.3 オーミック接合
3.8 完全空乏近似の妥当性について
章末問題
4. 光検出素子の基礎
4.1 はじめに
4.2 光吸収係数とキャリヤ生成割合
4.3 動作モードについて
4.3.1 太陽電池モード
4.3.2 フォトダイオードモード
4.3.3 ショットキーダイオード
4.3.4 APDモード
4.3.5 光伝導セル
4.4 応答速度
4.4.1 CR時定数
4.4.2 走行時間
4.5 雑音
4.5.1 ショット雑音
4.5.2 熱雑音
4.5.3 光検出器の性能を表す指標
章末問題
5. 太陽電池
5.1 はじめに
5.2 太陽光のスペクトル
5.3 光生成キャリヤの輸送メカニズム
5.4 光電流密度
5.5 光照射下のキャリヤ密度分布と電流電圧特性
5.5.1 p型中性領域について
5.5.2 空乏領域について
5.5.3 n型中性領域について
5.6 表面再結合
5.7 先端技術の導入によるエネルギー変換効率向上の歴史
5.7.1 タンデム型太陽電池
5.7.2 表面再結合の抑制
5.8 結晶Si太陽電池エネルギー変換効率向上の歴史
章末問題
6. 化合物半導体
6.1 はじめに
6.2 種類について
6.3 化合物半導体の禁制帯幅と格子定数
6.4 半導体積層構造の結晶成長方法
章末問題
7. 発光ダイオード
7.1 はじめに
7.2 半導体で自然放出を実現するには
7.3 ホモ接合ダイオードからダブルヘテロ接合ダイオードへ
7.4 静特性と動特性
章末問題
8. レーザダイオード(LD)
8.1 はじめに
8.2 LDの基本構造
8.3 導波モードについて
8.4 LDの動作原理
8.5 レーザ発振の条件
8.6 単一モードレーザ
8.7 活性層の低次元化
8.8 静特性と動特性
8.8.1 あらまし
8.8.2 静特性
8.8.3 動特性
章末問題
付録
引用・参考文献
索引
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掲載日:2023/10/10
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掲載日:2023/06/01
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掲載日:2022/11/02
-
掲載日:2020/12/03
関連資料(一般)
- 章末問題略解
- 著者による「光エレクトロニクス」講義の動画サイト