集積回路のための半導体デバイス工学

集積回路のための半導体デバイス工学

「シリコンを使ったMOS集積回路」について初めて学ぼうとする学生や技術者のための教科書。

ジャンル
発行年月日
2018/04/06
判型
A5
ページ数
198ページ
ISBN
978-4-339-00909-5
集積回路のための半導体デバイス工学
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定価

2,750(本体2,500円+税)

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本書は「シリコンを使ったMOS 集積回路」について初めて学ぼうとする学生や技術者のための教科書である。MOSFETの動作原理やLSI製造に関する各プロセス技術の基本原理,LSIの構成と動作などについて丁寧に解説した。

この数十年の間,情報通信技術の飛躍的な進歩が社会と人々の暮らしに大きな変化をもたらしてきた。インターネットと通信関連のインフラストラクチャーの構築,そしてスマートフォンをはじめとする電子機器の発達によってユビキタスネットワーク社会が現実のものとなったことはその一例である。さらに,今から21世紀中盤にかけてはIoT(Internet of Things)やAI(ArtificialIntelligence)の普及も加わって一層大きな変化が訪れると予想されている。このような幾重もの変革の礎となっているのが,20世紀後半から今日にかけて構築されてきた集積回路技術である。

集積回路(IC:Integrated Circuit)の中で大規模なものはLSI(Large Scale Integration, 大規模集積回路)と呼ばれ,多いものでは1チップに百億を超える素子を有している。LSIは設計者が生み出すさまざまな機能を持った電子回路を具現化するプラットフォームであり,このため搭載する電子回路の種類は無数といってよいほど多い。また新たな原理に基づいて動作する素子がつぎつぎと提案され,それらを組み込んだ数多くの新製品が開発されている。このようにLSIはその生産量が莫大となった今日においてもなお大きな可能性を有している。

大多数のLSIはMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)と他の素子からなる電子回路をシリコン基板に形成し,情報の取り込み・情報処理・データの記憶を行えるようにしたデバイスである。本書はこのような「シリコンを使ったMOS 集積回路」について初めて学ぼうとする人のための教科書である。本書が想定するおもな読者は,電気電子・情報通信分野の大学生と工業高等専門学校生である。また,社会において初めてLSIと関わることとなった技術者や半導体製造装置・半導体材料の開発と設計に携わる技術者,LSIの生産や要素プロセスを担当する技術者であって,MOS集積回路について学び直そうという方々も念頭に置いて執筆した。

本書は六つの章からなっており,前半の主題はMOSFETの動作原理と集積回路を微細化する理由である。論理回路をはじめとする多くの電子回路がMOSFETを用いて実現されており,その動作原理を理解しておくことは電気電子工学を学ぼうとする学生にとってきわめて重要である。これを理解するためには結晶のエネルギーバンドに関する知識が必要となるため,2章と3章で結晶中の電子の状態と半導体物性の基本事項を扱い,4章でMOSFETの動作原理について説明した。また4章では,MOSFETが論理回路の中でどのように働いているかを具体的に説明するためにCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)インバータの動作についても触れた。LSIには微細化という大きな流れがあり,そのことがこの分野の特徴である。LSIが微細化されてきた理由を説明するために1章でLSIの歴史について概観し,4章において比例縮小則を扱った。

本書の後半の主題はLSIがどのような技術によって作製され,作製されたLSIがどのような動作を行っているのかを理解することである。このため5章では,フォトリソグラフィやエッチング,薄膜形成などの要素プロセス技術とCMOSインバータの製造プロセスの流れを説明し,ゲート絶縁膜とゲート電極,金属シリサイド,銅配線の形成技術について説明した。最後の6章では,LSIの中でのMOSFETと回路の動作を説明するために4種類のメモリLSIを取り上げ,それらのメモリセルの基本動作を説明した。これら4種類のメモリLSIはディジタルシステムの中で個々に重要な役割を担っている。また,それぞれ固有の原理でデータを記憶しているが,初歩的な電気回路の知識があればメモリセルの基本動作については比較的容易に理解することが可能であろう。別のカテゴリーのLSIとしてSoC(System on a Chip)(システムLSI)があるが,これについて理解するためにはメモリに加えて,ALU(Arithmetic Logic Unit)や多種類の論理ゲートから構成されるさまざまな論理回路の構成と動作,さらにそれらの設計手法について学ぶ必要があり,別に1 冊の教科書を必要とするであろう。この分野については,すでにいくつかの教科書が発行されている。これらの理由から本書ではメモリLSIを取り上げた。
各章の演習問題には学修状況を確認するための問題に加え,本文の内容を補う知識を習得するための問題と数値を扱う問題を含めた。いずれも基礎的な問題であり,読者にはぜひ取り組んでいただきたい。

繰り返しになるが,執筆に当たっては本書がMOS集積回路について学ぼうとする方々の入門書となるように心掛けた。読者が息切れするのを避けるために,個々の事項についてはできるだけ簡潔で平易な説明に努め,限られた側面ではあるが現代のLSIの姿を掴めるようにと考えた。同様の考えで,MOS集積回路について学ぶための重要事項の中でMOSFETのスイッチング動作の説明を優先し,これに多くの紙面を割いたが,pn接合と金属-半導体接合についての説明を含めなかった。MOSFETにおいてもソース・ドレインとウェルの間はpn接合となっており,コンタクトプラグとシリコン基板の接続部分は金属-半導体接合となっている。それゆえ読者が本書を読み終えた後,MOS集積回路についてさらに学修を継続する場合には上記の事項についても学んでいただきたい。これらを扱った半導体工学・半導体デバイス工学の教科書は数多く発行されている。また本書では,エネルギーバンドの説明に関して一次元結晶格子とほとんど自由な電子の近似を用いる取り扱いを中心に記述し,MOSFETの電流-電圧特性に関してはグラジュアルチャネル近似を用いる説明にとどめた。これらについてさらに深く学ぼうとする方々は,固体物理やMOSデバイスの物理に関する専門書を手に取って学修を進めていただきたい。LSIの進歩は目覚ましく,つぎつぎと新しい技術が登場し,旧来の構造や技術が陳腐に見えてしまうことも少なくない。このため本書の執筆に着手するまでの間,著者もその内容が出版後に時代遅れとなるのではないかと懸念し,悩んだ。しかしながら先端技術も多くは従来技術から一つひとつ進歩を重ねることによって構築されたものであり,両者には共通する基本原理がある。さらにはMOSデバイスの動作原理や各プロセス技術の基本原理には時代を経ても知っておくべき考え方があり,執筆に際してできる限りそのような本質的な部分を尊重したつもりである。本書がMOS集積回路を学ぶ諸氏の助けになれば幸いである。

ただし,浅学非才を顧みずに本書を執筆したため,記述不足や誤りがあると思う。この点については読者からご叱正を頂戴できれば有難く存する。最後に,本書の執筆に当たって国内外の多くの文献を参考にさせていただき,読者に参考となると思われるものを選んで各章末に引用・参考文献として掲載させていただいた。これらの文献から多くを学ばせていただき示唆を得たことについて各著者にお礼を申し上げる。また,本書を執筆する機会を与えていただいたコロナ社の各位に感謝の意を表する。

2018年2月 小林清輝

1. 集積回路の微細化が進められた理由
1.1 なぜ集積回路を微細化するのか
1.2 集積回路の微細化と性能の推移
1.3 近年のLSI
1.4 集積回路の種類と用途
演習問題
引用・参考文献

2. 固体電子論の基礎
2.1 自由電子の波動関数
 2.1.1 ド・ブロイの関係式
 2.1.2 シュレディンガー方程式
 2.1.3 井戸型ポテンシャルの中の1個の電子の状態
 2.1.4 箱の中の自由電子の状態密度
2.2 シリコンの結晶構造
2.3 逆格子
2.4 結晶の中の電子の波動関数
2.5 エネルギーバンド
2.6 金属,絶縁体,半導体のエネルギーバンド
演習問題
引用・参考文献

3. 半導体中のキャリヤ
3.1 真性半導体
3.2 真性半導体の伝導電子密度と正孔密度
3.3 真性フェルミ準位
3.4 有効質量
3.5 正孔
3.6 不純物半導体
3.7 キャリヤ密度とフェルミ準位
3.8 キャリヤのドリフトと移動度
3.9 キャリヤの拡散
演習問題
引用・参考文献

4. MOSFETの動作原理
4.1 MOS構造
4.2 空乏近似
4.3 ポアソン方程式の厳密な解
4.4 フラットバンド電圧
4.5 MOSFETの動作
4.6 線形領域と飽和領域のドレイン電流
4.7 MOSFETの種類
4.8 CMOSインバータ
4.9 比例縮小則
4.10 MOSFETにおける短チャネル効果
演習問題
引用・参考文献

5. LSI製造プロセス
5.1 LSIができるまでの流れ
5.2 製造プロセスのフロー
5.3 要素プロセス技術
 5.3.1 フォトリソグラフィ
 5.3.2 ドライエッチング
 5.3.3 薄膜形成
 5.3.4 洗浄とウェットエッチング
 5.3.5 化学機械研磨(CMP)
 5.3.6 イオン注入と熱拡散
 5.3.7 クリーンルーム
5.4 LSIのプロセスフロー(CMOSインバータ)
5.5 MOSFET高性能化技術の進展
 5.5.1 高誘電率ゲート絶縁膜
 5.5.2 メタルゲート電極
 5.5.3 ニッケルシリサイド
5.6 銅配線
5.7 シリコン結晶
演習問題
引用・参考文献

6. LSIの構成と動作
6.1 DRAMの動作
6.2 SRAMの動作
6.3 NOR型フラッシュメモリの構造と動作
6.4 NAND型フラッシュメモリの構造と動作
演習問題
引用・参考文献

演習問題の解答
索引

掲載日:2022/11/02

電子情報通信学会誌2022年11月号