電子物性とデバイス

電子情報通信レクチャーシリーズ A-9

電子物性とデバイス

固体物性の難所であるエネルギーバンド形成を量子力学ではなく回路論で解説した入門書

ジャンル
発行年月日
2020/11/20
判型
B5
ページ数
244ページ
ISBN
978-4-339-01809-7
電子物性とデバイス
在庫あり

定価

4,620(本体4,200円+税)

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  • 内容紹介
  • まえがき
  • 目次
  • 著者紹介

バイポーラトランジスタを発明したWilliam Shockleyが書いたElectrons and Holes in Semiconductorsという本がある.この本では固体結晶と伝送線路の対比が少々論じられていて,著者(益)は学生の頃これを読んだのだが,正直,なぜ論じられているのか理解できていなかった.その後それで困ったこともなかったが,ずっと気に掛かっていたのだと思う.2010年に著者両名で本書の内容について議論を始めた時,いきおい,固体物性の基礎の部分は量子論を使わず回路論的に説明しようということになった.そのためにはまず,自分達でよく理解することから始めなければならなかったが,本書で上手くまとめることができたと思っている.
上記以外にも筆者らが気になっていた点を持ち寄って,十年越しで議論を重ねて出来上がったのが本書である.
もう一点だけ本書で重点的に取り上げた事項を紹介するならば,それは「エネルギーバンド図」ということになるだろう.半導体デバイスの教科書には必ずエネルギーバンド図なるものが登場する.では,なぜそのような図を描くのだろうか.「そういう習慣だから」という以上の理由があるのだろうか.この疑問に,エネルギーバンド図の読み方を他に類のないほど詳しく説明することで,答えることができたと思っている.しかるべく描かれたエネルギーバンド図からは,驚くほどデバイスの物理が読み取れるのである.本書のおかげで,我々自身もエネルギーバンド図とは一体何なのか,よく理解することができた(笑).そして,代表的な半導体デバイスであるダイオードのエネルギーバンド図を読み解いて,(長年講義をしていながらわかっていなかった)ある謎を解決することができた.詳しくは本書をご覧いただきたい.学生諸君の中には,大学の教員(や学長)は本書で取り上げているレベルの基礎事項を理解していて当然,あるいは教科書に書いてあることは全て正しいと思い込んでいる人もあるかもしれない.しかし,それはとんでもない思い違いである.本書の執筆に当たっても,筆者らにとって新しい発見がいくつもあった.同時に,力不足で書けなかったネタもあるし,ひょっとしたら誤りもあるかもしれない.本書を一つの踏み台にして,乗り越えて行くつもりで読んでもらえたらと思う.
先に述べたように,筆者らが常々気になっていた事柄も書き込んだので,既に半導体を学んだ方にもお役に立てる部分があるはずである.「談話室」も充実させたので,楽しんでもらえると幸いである.世の中の変化が早く,学びも理解も表層的になっているようにも思える中,部分的かもしれないが半導体物性とデバイスの本質に迫ったつもりである.

★発行前情報のため若干変更されることがございます。ご了承下さい。★

本書は,固体のうちでも特に半導体の電気的性質(電子物性)と,半導体を利用して作られた電子部品(半導体デバイス,あるいは単にデバイスと呼ぶ)に対する易しい入門書となることを目指して執筆した.電子物性や半導体デバイスに関する図書は,立派なものがすでに多数出版されているから,よほど気をつけないと屋上屋を架すことになりかねない.また,本書は電子情報通信レクチャーシリーズのうち「A共通」に位置づけられているため,ページ数はもとより,読者に期待できる予備知識にも厳しい制約がある.

まず,本書では,読者が大学工学部一年または高専三~四年程度までの数学と物理および電気回路の基本的な知識を修得されているものと想定した.内容に関しては,将来,電子物性やデバイスを専門にするとは限らない学生が教科書として利用する可能性も考慮し,単に話題を基礎的な事項に絞るだけでなく,分野横断的な視点も取り入れるよう努めた.より具体的にいえば,電子情報通信を担うハードウェアの中核に位置する「回路」の観点から,その構成部品であるデバイスと,その材料の物性を考察することとした.

電子情報通信技術は日進月歩であるから,新しい話題を盛り込んでも急速に陳腐化してしまう恐れがある.なるべく陳腐化しにくい普遍的な基礎を与えるべく,本書を学び終えたときの大きなゴールを以下のように設定した.
(1)回路の観点から半導体デバイスの機能を理解すること.
(2)周期構造における波動現象が,結晶の電気的性質の根底にあることを知ること.
(3)半導体デバイスのエネルギーバンド図を読めるようになること.
(4)pnダイオードとMOSトランジスタの基本動作の物理を理解すること.

(1)は,回路中でのデバイスの機能と,その機能の具体的な実現方法(特定の材料を使ってどうやって作るか)とを切り分けて考えようということである.かつては真空管で実現されていたデバイスが,現在は半導体で実現されている.将来,半導体が駆逐されることはないにせよ,新材料や新デバイスの開拓の余地は大いにある.また,物性とデバイスを,そのユーザー(=回路技術者)の立場から眺めるという意味合いもある.

(2)は,正面から量子力学を持ち出すわけにはいかない状況で,初学者に電子物性(特にバンド理論)をどう提示するかという問題に対する回答ないし試案である.易しくしようと腐心するあまり,単なるお話やたとえ話ばかり並べてもしようがないと考え,本書では回路理論を使ってバンド理論の要諦を伝えることを試みた.これによって,本格的な固体物理を学ぶ際に感じる心理的バリアを少しでも下げることができれば,と願っている.

半導体デバイスの教科書には必ず「エネルギーバンド図」なるものが登場する.しかしながら,なぜそのような図を描くのかを必ずしも理解せずに先に進んでしまう学習者も見受けられる.エネルギーバンド図は半導体デバイスに関するさまざまな情報を表示できる偉大な発明であり,それをきちんと読めることを目標として(3)に掲げた(巻末の索引の「エネルギーバンド図を読む」から関連事項を引ける).これに関連して,デバイス物理理解の鍵を握る「擬フェルミ準位」について詳しく説明した.本書で取り上げる半導体デバイスは非常に限定されているが,エネルギーバンド図を読む能力は,今後いかなるデバイスを相手にするにしても役立つはずである.

(4)は,限られた紙幅でデバイス物理にまで立ち入って説明するデバイスとして選んだ.pnダイオード(pn接合)は,単体デバイスとしても,より複雑な半導体デバイスの構成要素としても,重要であり続けると考えられる.トランジスタの代表として取り上げるのがMOSトランジスタなのは,MOSキャパシタというもう一つの重要な構成要素を含んでおり,また現在使われているトランジスタとしてシェアが圧倒的だからである.(4)は(3)の応用編でもある.

書き終えてみると思いのほか大部になったが,これは説明や計算過程を端折らず丁寧に説明したからであり,15コマの授業でカバーできる程度の内容しか入れていない.ページ数の割にはどんどん読み進められるはずである.

本書は,いささか非標準的なアプローチも採り入れたため,オーソドックスな教科書の代用にはならない.この分野に進むつもりの読者は,改めてより本格的な教科書で学んで欲しい.電子物性とデバイスについてー通り学んだことのある読者には,非標準的であるがゆえに楽しめる部分が見つかれば幸いである.読者が本書で「電子物性とデバイス」の基礎を理解されるとともに,本書の完全とはいえない説明に不満を覚え,「もっと勉強したい」「もっと納得のいく説明を考えたい」と思ってくれたとしたら,著者らの目標は達せられたことになる.疑問と好奇心こそが,未来を切り拓く最大の原動力となるからである.

末筆ながら,査読の労をとってくださった電子情報通信学会教科書委員会幹事の古屋一仁先生に厚く御礼申し上げる.また,草稿に貴重なご意見をお寄せくださった荒木純道,石田誠,大毛利健治,小熊博,河合孝太郎,高木信一,谷口研二,徳田崇,西敬生,松澤昭,三島友義,由井四海の各氏に深く感謝する.

2020年3月
益一哉 天川修平

★発行前情報のため若干変更されることがございます。ご了承ください。★

1.緒論
1.1 デバイスとは
1.2 固体材料の分類と半導体
 談話室 物理学者の電子物性とエンジニアの電子物性
1.3 半導体の性質
 1.3.1 半導体の原子の並び方
 1.3.2 真性半導体と不純物半導体
 1.3.3 真性半導体のなりたち
 1.3.4 エネルギーバンドの形成
 1.3.5 真性半導体の性質
 1.3.6 エネルギーバンド図
 談話室 2種類のエネルギーバンド図
 1.3.7 n形半導体とp形半導体
 談話室 半導体への不純物添加
1.4 地球上に最も数多く存在する人工物は?
本章のまとめ
理解度の確認

2.回路理論からみた半導体デバイス
2.1 線形回路素子
 2.1.1 線形抵抗器
 2.1.2 線形キャパシタ
 2.1.3 線形インダクタ
2.2 非線形回路素子
 2.2.1 非線形抵抗器
 2.2.2 非線形キャパシタと非線形インダクタ
 談話室 抵抗器,キャパシタ,インダクタ以外の二端子素子
2.3 時不変回路素子と時変回路素子
2.4 多端子素子と制御電源
2.5 トランジスタ
 談話室 回路素子分類の切りロ
2.6 半導体デバイスの位置付け
 談話室 半導体製の線形回路素子
本章のまとめ
理解度の確認

3.周期構造と波
3.1 物理とアナロジー
 3.1.1 物理で現れる問題の構造の共通性
 3.1.2 本章の見取り図
 談話室 回路網的直観
3.2 周期的回路網の性質
 3.2.1 無限はしご形回路網
 3.2.2 無限LCはしご
 3.2.3 無損失伝送線路
 談話室 伝送線路理論の前提
 3.2.4 繰返し回数が有限の周期構造
 談話室 桁違いの難問
 談話室 電気工学者の虚数単位と物理学者の虚数単位
 3.2.5 分散関係と位相速度,群速度
 談話室 集中定数回路と分布定数回路,有限と無限
3.3 半導体の分散関係と物性
 談話室 量子論に対する古典アナロジーの限界
3.4 ブラッグ反射
本章のまとめ
理解度の確認

4.平衡状態の半導体の物理
4.1 エネルギー帯の状態密度と分布関数
4.2 キャリア密度
 4.2.1 電子密度
 4.2.2 ホール密度
 4.2.3 非縮退半導体のpn積
 4.2.4 絶縁体との関係
 4.2.5 真性半導体のフェルミ準位
 4.2.6 niで表したキャリア密度
4.3 不純物半導体のフェルミ準位
 4.3.1 非縮退不純物半導体
 4.3.2 縮退半導体
 談話室 キャリア密度とフェルミ準位のニワトリと卵
4.4 フェルミ準位と化学ポテンシャル
 4.4.1 化学ポテンシャルの性質
 4.4.2 粒子に外力が働いている場合の化学ポテンシャル
本章のまとめ
理解度の確認

5.電気伝導
5.1 平衡・非平衡,定常・非定常
5.2 擬フェルミ準位とキャリア密度
 5.2.1 擬化学ポテンシャル
 5.2.2 電子とホールの擬フェルミ準位
 5.2.3 非平衡状態のキャリア密度
 5.2.4 キャリア密度の変数変換とバンド図
 談話室 エネルギーバンド図を読もう
 5.2.5 非縮退半導体のキャリア密度の式の一般形
5.3 擬フェルミ準位と電流密度
 5.3.1 流束密度と電流密度
 5.3.2 擬フェルミ準位の勾配と電流密度
 5.3.3 ドリフトと拡散
5.4 電界による電気伝導
 5.4.1 キャリアのドリフト
 談話室 ホール(正孔)の動きを説明する例え話
 5.4.2 移動度と導電率の関係
 談話室 「移動度」による記述の限界
5.5 キャリアの拡散による電気伝導
 5.5.1 拡散電流
 5.5.2 アインシュタインの関係
 談話室 地表の大気に対する「アインシュタインの関係」
5.6 生成・再結合と少数キャリアの寿命
 5.6.1 直接生成・再結合
 5.6.2 間接生成・再結合
 5.6.3 キャリアの生成・再結合レート
 5.6.4 少数キャリアの寿命
5.7 半導体の基本方程式
 談話室 デバイスシミュレータを使ってみる
5.8 誘電緩和
5.9 デバイ長
5.10 ホール(Hall) 効果
 談話室 金属のキャリアの極性
本章のまとめ
理解度の確認

6.pn接合
6.1 pn接合とは?
6.2 接触電位差
 6.2.1 接触電位差とは
 6.2.2 接触電位差と仕事関数,電子親和カ
 6.2.3 接触電位差の性質
6.3 pn接合の形成
 6.3.1 p形半導体とn形半導体の接触
 6.3.2 平衡状態のpn接合
 6.3.3 バイアスされたpn接合
6.4 整流作用の定性的説明
6.5 階段接合の解析
 6.5.1 ゼロバイアスの階段接合
 6.5.2 バイアスされた階段接合
6.6 pn接合の容量
 6.6.1 空乏容量
 6.6.2 拡散容量
6.7 片側階段接合
6.8 pn接合の電流電圧特性
 6.8.1 電流電圧特性の式
 6.8.2 電流電圧特性の導出
 談話室 天才Shockley
 6.8.3 pn接合に関する補足説明
6.9 pn接合のエネルギーバンド図を読む
 6.9.1 バイアス電圧依存性
 6.9.2 少数キャリアの寿命依存性
 談話室 整流しないpn接合
本章のまとめ
理解度の確認

7.MOSトランジスタ
7.1 MOSFETの構造と基本特性
 7.1.1 MOSFETの構造
 7.1.2 MOSFETの基本特性
 7.1.3 MOSFETの解析の順序
7.2 MOSキャパシタ
 7.2.1 MOSキャパシタの構造
 7.2.2 MOSキャパシタの解析
 7.2.3 MOSキャパシタの表面状態の分類
 7.2.4 基板表面の電子密度と表面ポテンシャル
 7.2.5 ゲート電圧と反転電荷の関係
 7.2.6 ゲート電圧と表面ポテンシャルの関係
 談話室 金属・半導体接合
7.3 三端子MOS構造
 7.3.1 バックゲートを基準とした解析
 7.3.2 チャネル端子を基準とした解析
 談話室 MOSキャパシタのC-V特性
7.4 四端子MOSFET
 7.4.1 バックゲート基準の場合
 7.4.2 ソース基準の場合
7.5 スケーリングと短チャネルMOSFET
 7.5.1 MOSFETのスケーリング
 7.5.2 短チャネルMOSFETで顕在化する現象
 談話室 スケーリング則を考える
本章のまとめ
理解度の確認

付録
① 2ポートの行列表現
 1.ABCD行列
 2.S行列
② 行列式の値が1の行列のN乗

引用・参考文献
理解度の確認;解説
あとがき
索引

益 一哉

益 一哉(マス カズヤ)

1982年
東京工業大学大学院理工学系研究科博士後期課程修了(電子工学専攻)
工学博士(東京工業大学)
現在,東京工業大学学長

<研究テーマ>
・集積回路工学
・CMOS-MEMS集積回路
・IoTセンサネットワーク

天川 修平

天川 修平(アマカワ シュウヘイ)

2001年
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(電子情報工学専攻)博士(工学)(東京大学)
現在,広島大学准教授

<研究テーマ>
・集積回路工学
・マイクロ波工学
・デバイス物理とモデリング