まちがいだらけの文書から卒業しよう-基本はここだ!- 工学系卒論の書き方
良い例,悪い例,改善例を示し,学生が陥りやすいポイントや技術文書特有の表現などを指摘
- ジャンル
- 発行年月日
- 2020/03/12
- 判型
- A5
- ページ数
- 200ページ
- ISBN
- 978-4-339-07822-0
- 内容紹介
- まえがき
- 目次
- レビュー
- 書籍紹介・書評掲載情報
- 広告掲載情報
本書は,工学系の大学・高専の学生がわかりやすく論理的な文章を書くための論文作成ガイドブックである。よい例,悪い例,改善例を示し,学生が陥りやすいポイントや技術文書特有の表現などを指摘する。卒論指導をする教員にも最適。
卒論を書く学生さんへ
この本は,高専や大学で卒論(卒業研究論文)を書く人のためのガイドブックです。
「国語」が苦手という人は少なくないでしょう。ですが「書く」ことは,エンジニアの業務ともなります。新しい製品を開発したいと思ったときには企画書や提案書を,製品のデザインを始めるためには設計指示書や仕様書を,デザインの途上ではワークシートやデザインレビュー報告書を,製造のためには手順マニュアルや検査指示書を,出荷に際しては取扱説明書やサービスマニュアルを,エンジニアは記します。広告や宣伝のための文章はほかのセクションが担当するとしても,少なくともその中の技術的説明の原案は,エンジニアが書くのです。このようにエンジニアは,つねにわかりやすい文章を書くことを求められます。
たとえ「国語」の成績が悪かったとしても,心配することはありません。国語の成績は,説明文を書くことで決まったのではなかったでしょう。国語では簡単にはわからない文章,たとえば難解な評論や小説を読まされて,作者の「思想」や「心情」を推測させられました。ところが,技術文章では,読み手に推測を要求することがあってはなりません。
技術文書では,わかりやすい文章,つまりは読み手に誤解されない文章を記します。そのためには,論理を組み立て,語句の意味を正しく用いる必要があります。読み手は情報を求めて技術文書を読みます。この求められる情報とは,研究開発を通じて書き手が知った事柄です。つまりは,自分の獲得した知識を論理的に記すのです。
ですが,「論理的に」といわれて,初めからできる人などいません。ですから,まずは書いてみましょう。「どう書けばよいのだろう」と悩んでいるだけでは,文章は上達しません。とにかく,文字にします。
そして,思いつく限りを文字に変換したら,それを読み,文書は必要な情報を表しているか,説明はきちんと順序を追っているかを考えます。これが論理です。同時に,文をチェックします。主語はなにか,主語と述語はねじれていないか,述語を羅列していないかなど,自分で書いた文を第三者の目でみながら改良します。
卒業研究で製作したデバイスやソフトウェアやシステムを測定して特性を調べたのと同じように,文章を読んで確認し,修正します。この確認と修正のステップを繰り返すことが,論理的な文章を書けるようになるためのプロセスとなります。
卒論は,みなさんが記す初めての技術文書だと思います。研究開発したデバイスやシステム,ソフトウェアをほかの人に伝える文章です。ですから,将来の仕事で書くことになる企画書や提案書や取扱説明書やサービスマニュアルと同じく,わかりやすく書きます。
この本では,よい例をサンプルとして示しています。それらを応用してください。悪い例と改善例も示しています。それらからは陥りやすいポイントを知り,どう改善するかを考えてください。
工学系の人は,実験や実習を通じて技術的な事柄を理解しています。設計し,製作し,測定する技術も身につけています。あと必要なものは,自分が作ったものや測定したことをほかの人に伝える技術です。設計や製作や測定にやり方があるように,文章の書き方にも方法論があります。それを鍛えれば「わかりやすい」技術文章を記せるようになるでしょう。
技術は,売り込んでなんぼです。売り込めるよう,わかりやすい文章を書けるようになってください。
指導される先生方へ
毎年,多くの学生の卒論,予稿,エントリーシートなどの添削に労力を割かれていることと思います。筆者も同じく,彼らが記した文章を真っ赤にしては,「こうしろ」「ああしろ」と小言をいっています。
ところが,添削を受ける学生は提出期限に追われ,「なぜここがよくないのか」「どうしてこう直さなければならないのか」を考えることもなく,ただ,添削されたとおりに修正を繰り返します。その結果,つぎにまた同じまちがいをします。つまり筆者が添削に要した労力は,彼らの文章力向上につながっていなかったのです。
10年ほど前にそのことに気づき,卒論の書き方を教授する科目を立ち上げ,手探りで指導を続けてきました。その経験から,やってはいけないことを示してそれらをどう回避するかを教え,やらなければならないことを示してそれを確認させることが,あくまでも文章の面からですが,よい卒論につながると考えるようになりました。
やってはいけないこと/やらなければならないこと,といっても,簡単なルールばかりです。たとえば,「データ」を用いて説明する,参考文献を示す,変数はなにを示すのかを述べる,図と本文で要素の名称を同じにする,などです。
学生は説明文の書き方を教わっていないのですから,書き方を知らなくて当然です。また,お手本となる文書がありません。そのため,修正すべき箇所に満ちた先輩の卒論をまねます。そして,同じような欠点に満ちあふれた文章を書いてしまうのです。
本書は,初めて卒論を書く学生さんへの,「技術的説明文の書き方」マニュアルを目指しました。説明文を書くために必要な事柄と技術文書に特有のルールを説明する攻略本です。ルールを守ってもらえれば,より明確に情報を伝える文書となります。
本書が,添削に要していた時間を研究教育に振り向けるため,お役に立てることを願っています。
本書の作成にあたっては,多くの方のお世話になりました。統計検定については,松江高専数学科村上享教授からご指導をいただきました。九段そごうさんには,本書を親しみやすくするイラストを描いていただきました。著者の講義を受講した松江高専のみなさんからは,有益なフィードバックをいただきました。出版に際してはコロナ社の方々にお世話になりました。厚く御礼申し上げます。
2020年1月別府俊幸
1.文章はコミュニケーションツール
1.1 論理的展開を考える
1.1.1 論理とは「すじみち」のとおった考え方
1.1.2 主張を明確にするには
1.2 わかりやすい説明文を書こう
1.2.1 説明する順序:全体から細部へ
1.2.2 解決すべき問題はなにか
1.2.3 「目的」と「目標」と「手段」の関係
1.2.4 その結果はどうなったのか
1.3 「文」と「文章」
1.3.1 「文」とはなにか
1.3.2 「文章」とはなにか
1.3.3 句読点はどうつけるか
1.3.4 段落を構成する
1.4 文の表現
1.4.1 「である」調
1.4.2 時制について
1.5 主語を書く
1.5.1 主語の必要性
1.5.2 述語を選ぶ
1.5.3 主語と述語の対応
1.5.4 受動態を使わない
1.5.5 論文における主語と述語の扱い方
1.5.6 「~は」と「~が」を一つの文に混在させない
1.6 漢字とひらがな
1.6.1 常用漢字を使う
1.6.2 漢字の使い分け
1.7 やってはいけない表現
1.7.1 「こそあど」は使わない
1.7.2 カッコの使い方
1.7.3 重複表現
1.7.4 共起関係
1.7.5 不要表現
1.8 文章を作る
1.8.1 文章を構成する
1.8.2 文をつなぐ(接続詞)
1.8.3 同じことを繰り返さない
1.8.4 論理的に展開しよう
1.9 本章のまとめ
2.卒論=技術文書の書き方
2.1 「論文」とは
2.1.1 技術説明のパンフレット
2.1.2 再現可能となるように記す
2.1.3 同じ分野のエンジニア・研究者を想定して記す
2.1.4 論文に記すこと
2.1.5 数値で語る
2.1.6 用語の表記
2.1.7 外来語の表記
2.1.8 やってはいけないこと
2.1.9 盗用しない
2.1.10 引用について
2.2 論文の構成
2.2.1 全体構成
2.2.2 タイトル
2.2.3 名前
2.2.4 「は じ め に」
2.2.5 アイテムの記述
2.2.6 測定方法
2.2.7 測定結果
2.2.8 考察
2.2.9 「おわりに」/「まとめ」
2.2.10 謝辞
2.2.11 参考文献
2.2.12 概要・Abstract
2.3 論文のフォーマット
2.3.1 全角文字と半角文字
2.3.2 数式
2.3.3 数値と単位の表記
2.3.4 見出し
2.3.5 フォント・ポイント
2.4 統計検定
2.4.1 なぜ統計を用いるのか
2.4.2 母集団とは
2.4.3 平均値だけではわからない
2.4.4 分散
2.4.5 正規分布
2.4.6 サンプルから母集団を推定する
2.4.7 標準偏差
2.4.8 母集団から取り出したサンプルの平均値
2.4.9 t分布
2.4.10 標準誤差
2.4.11 標準偏差と標準誤差
2.4.12 データの比較
2.4.13 t検定の例
2.4.14 サンプル数について
2.4.15 2値変数の比較(|2(カイ2乗)検定)
2.4.16 3グループ以上の比較
2.4.17 その他
2.5 グラフの作り方
2.5.1 散布図
2.5.2 棒グラフ
2.5.3 円グラフ
2.6 提出する前に
2.6.1 推敲しよう
2.6.2 チェックリスト
2.7 本章のまとめ
引用・参考文献
おわりに
索引
読者モニタレビュー【亀山建太郎 先生(福井工業高等専門学校 機械工学科)】
論文を直す側の感想としては,修正理由についてあまり意識的ではなく,また,その点を学生に伝えられていなかったと反省させられた。
その点本書には「何が悪くてどう直すのか」が具体的に書かれているので,教員が意識的であるためのツールであるとともに,学生に意図を伝えるツールとして有効であると感じた。
ただし,何十ページもある卒論で,全ての訂正についてそのような事をやるのは困難なので,著者のように論文執筆の授業までを行うのは難しいにしても,プレ卒論を添削し,返却時に本書の該当箇所に付箋をつけて渡す,という使い方が適切ではないかと感じた。
読者モニタレビュー【K高専専攻科卒業生様(専門:機械工学)】
高専専攻科をこの三月で卒業する自分としてはあと二ヶ月早く読みたかった本である。これまでに本科・専攻科で二つの卒業論文を提出した。また学会での発表に関連して三度,要旨作成をしている。回数を重ねるごとに上達はしていると思っているが,専攻科卒業論文でも本書で指摘されている間違いをしていた。
本書で説明されている事柄は,学生はもちろん教員も完全には行えていないと感じる。わかりにくいと感じる教科書はこれが原因かもしれない。
書式については多くの学会で規則が制定されているが,表現方法についての規則はほとんど見たことがない。本書では表現方法についても多く(本書によるならば具体的な数を明記すべきである)の例を挙げながら説明してある。
本書の内容がすべての工学系学会の慣例に合うわけではないので,鵜呑みにするわけにはいかない。しかし一度この本を読むことで自分の書く文章がなぜ伝わらないのか,なぜ添削で真っ赤になって返ってくるのかがわかるのではないかと思う。
四月から大学院生となる。これからも論文は何本も書くことになると思うので,手の届くところに置いておきたい。
読者モニター【TE様(高専4年生,物質工学科)】
できればこの本にもっと早く出会いたかった。そう思うような本でした。この本は一般の文章と技術文章の違いから,実際の技術文章の書き方まで詳細に説明していて,非常に分かりやすかったです。特に,例として示されていた文がいずれも実際に技術文章に登場するようなものでリアリティがあり,そのまま自分の書いた文章に落とし込めるような表現が満載でした。また,随所に挿入されているイラストも良いアクセントとなっていて,スムーズに内容を理解できました。
この本で書かれている文章技術は,卒論のみならず,日常の講義や実験で課されるレポートなどにも通ずるものが多々あります。まさに工学系学生の必読書とも言うべき一冊だと思います。
amazonレビュー
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