香料化学 - におい分子が作るかおりの世界 -

香料化学 - におい分子が作るかおりの世界 -

においとはいったい何か。基本的な有機化学をもとに,においを科学的に理解する。

ジャンル
発行年月日
2021/06/10
判型
A5
ページ数
134ページ
ISBN
978-4-339-06657-9
香料化学 - におい分子が作るかおりの世界 -
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定価

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“におい”を題材とした系統的な化学の教科書であり,基本的な有機化学をもとに人が“におい”を感じる仕組みを説明。また,実際のにおい分析の様子や,分子の構造とにおいの関係などのテーマについて,著者の研究例をもとに解説。

◆読者対象◆
“におい”について興味を持っている方や“におい”に関係した仕事をなさっている方など,少しでも“におい”と接点のある皆様にぜひ読んでいただきたい書籍です。

におい分子というミクロの視点から出発して,におい分子が繰り広げている様々な“におい”についての現象を,におい分子の性質から理解することができるようになります。

“におい”の研究をどうやって進めていったらいいのか,そのヒントを得ることもできると期待しています。

具体的には,以下のような方々に読んでいただけることを想定しています。
・“におい”の研究に興味のある高校生,大学生,大学院生,社会人
・“におい”に関係する仕事についている研究者・技術者で,化学の基本から勉強したいと考えている方
・においに関する仕事に携わっている方やこれからにおいに関する仕事に携わる予定の方
 特に,食品や飲料などに使う「フレーバー」および,化粧品や生活用品などに使う「フレグランス」の研究・開発に携わる方
・“におい”のことはよくわからないけど,“におい”について知りたいと思っている方

本書によって,“におい”の世界の扉を開けてほしいと願っています。

◆書籍の特徴◆
本書の特徴は,“におい”の元である“におい分子”に軸を置いて,“におい”をとらえていることにあります。

におい分子は,有機分子です。つまり,におい分子を理解するには,有機化学的な視点で,におい分子の特徴を理解することが重要です。

読者の皆さんは,これまでに有機化学というものに多少なりとも触れられたことがあると思います。しかし,そこには“におい”の記述が少しはあるものの,“におい”を感じることと,におい分子がどう関係しているかは,書かれていません。この有機分子と“におい”との関係は,それほど難しいことではありません。有機分子の基本的な性質を理解していれば十分です。

本書をはじめから順に読み進んでいくことで,“におい”に関する見方が一変することと思います。本書は,におい分子の化学的な性質から出発した,“におい”の化学の入門書であり,専門書でもあります。

◆キーワード◆
有機化学,におい受容体,有機分子,親油性,親水性,複合臭,アロマプロフィール

においとは何か。こんなにも素朴な質問であるのに,答えるのは難しい。そもそもにおいの元とは何なのか。そのにおいの元はどこにあるのだろうか。どうやってそれを調べるのか。ところで,人には五感というものがある。視覚,触覚,聴覚,味覚,嗅覚の五つである。これらは人が生きていくうえで重要な感覚である。そしてこれら五感のうち,研究が最も遅れているのが嗅覚である。例えばにおいセンサーなる機器は存在するが,ほかの四つの感覚についてのセンサーに比べて開発がきわめて遅れていることは否めない。つまり,においを客観的に評価することはたいへん難しく,においの分野では人による官能評価が最も優れた評価方法になっているのが現実である。さらに,生物のにおいを感じる仕組みは非常に複雑で,ここ十年あまりになってさまざまなことがわかってきてはいるが,わかればわかるほどより正確なにおいセンサーの実現にはまだまだ多くの時間が必要であることを実感せずにはいられない。

このようなことから,においについての科学的な記述は,高校や大学の教科書に至ってもほとんど掲載されていない。あるいは,できないといったほうが正しいだろう。せいぜい,エチレンの甘いにおい,ホルムアルデヒドやギ酸の刺激臭,ベンゼンの特異臭,といった記述が見られる程度である。においについての関心は年々高くなってきているが,にもかかわらず学校でにおいを科学的に学ぶことができる機会は皆無といっていい。

では,においの科学の基本は何か。それは,におい分子とにおい受容体である。まずは,この二つのことについての基本的な理解が必要である。つぎに,におい分子とは何か。先ほど述べたエチレン,ホルムアルデヒド,ベンゼンなど,すべて有機化合物である。ここで一つ断っておきたいことがある。読者の中には,塩酸やアンモニアなどもにおいがするが,これらは無機化合物ではないのか,という疑問をもたれた方もいるだろう。これらについては,ほとんどの文献において,つんとする強い刺激臭との記述がなされている。実際にこれらの物質を嗅いだとき,におうというよりは,痛いといった感覚を覚える。よって,これらの物質については,本書ではにおいの元としては扱わない。純粋なにおいとして感じているにおいの元は有機分子と考えるべきである。事実,においの仕組みについての研究では,数多くの有機分子が用いられている。そうすると,においについて科学的に理解する元は,有機分子ということになる。つまり,有機化学に基づいた理解が大切であり,その関連として,化学についての基本的な事項の理解も大切になる。

以上からいえることは,においの科学的な理解の基礎は化学,特に有機化学ということである。しかし,多くのにおいに関する著作物が出版されているが,そのような視点で書かれた教科書的な本は見当たらない。そこで,においを題材とした系統的な化学のテキストの執筆を行うことにした。本書ではまず,有機化学の基本から入ってにおいの基本的な解説を行い,さらににおいの受容の仕組みの基本的事項をにおい分子との関連から説明した。そのうえで,実際のにおい素材のにおい分析について,著者の研究例をもとに解説した。最後に,におい分子の構造がそのにおいの特徴とどう関わっているのかについて,著者の研究例を中心に説明した。

このテキストは,高校の化学についての基本的な理解のうえに記述しているが,分野を問わず,おもに大学学部1年生を念頭に,わかりやすい記述を心がけた。本書を通じて,漫然としていたにおいについて,読者が化学的にとらえることができるようになることを期待している。
2021年4月
長谷川登志夫_

1.においをミクロの世界から理解するための有機化学の基本
1.1 におい分子の構造の基礎事項
 1.1.1 におい分子(有機分子)はどんな形をしているのか
 1.1.2 におい分子の立体構造とにおいの関係
 1.1.3 実際のにおい分子の構造の特徴
1.2 におい分子の性質
 1.2.1 分子(有機分子)の疎水性と親水性
 1.2.2 におい分子が溶けるということ
 1.2.3 におい分子の沸点と構造
1.3 におい分子の構造解析の基本手段
 1.3.1 におい分子(有機分子)の構造解析の手順
 1.3.2 核磁気共鳴法(NMR)を用いたにおい分子の構造解析
コラム1 アロマ水を振るとにおいがすごくするのはなぜか
コラム2 スポーツでかいた汗のにおいは,シャワーで落とせるか

2.におい素材のにおい研究の基本
2.1 におい素材のにおい特性の解析
 2.1.1 におい素材のにおい特性研究の手順
 2.1.2 におい素材からのにおい成分の取り出し方
2.2 におい素材のにおい成分の分析方法
 2.2.1 ガスクロマトグラフィーを用いたにおい分析
 2.2.2 核磁気共鳴法を用いたにおい分析
2.3 官能評価の基礎
 2.3.1 におい素材の研究における官能評価とは
 2.3.2 におい素材の研究における官能評価の方法
 2.3.3 官能評価とにおい成分分析の連携
コラム3 いいにおいと嫌なにおいが同時に漂ってきたら,人はどちらのにおいを感じるのか
コラム4 海のにおいと山のにおい

3.においを感じる仕組み(嗅覚メカニズム)に基づいたにおい素材のにおい解析
3.1 においを感じる仕組み
 3.1.1 においを感じるとは
 3.1.2 多くのにおい成分からなる複合臭の特徴
 3.1.3 複合臭をどう解析するか
3.2 GC-MSによる複合臭の解析
 3.2.1 においを感じる仕組みを考慮したGC-MSデータの取り扱い方
 3.2.2 GC-MSによるにおい素材の複合臭解析の実践
コラム5 香水を多めにつけて体臭や嫌なにおいを消すことはできるか
コラム6 香水をつけたときのかおりと,しばらくたってからのかおりが違うのはなぜか

4.においを発する素材のにおい解析の実践
4.1 植物のにおい解析の実践
 4.1.1 白檀のにおい特性
 4.1.2 乳香のにおい特性
 4.1.3 スターアニスのにおい特性
4.2 食品のにおい解析の実践
 4.2.1 緑茶のにおい特性
 4.2.2 日本酒のにおい特性
コラム7 においというものはどこからくるのか
コラム8 フルーツパフェにオレンジなどの切れ端をつけるのはなぜか

5.におい分子の構造変化によるにおいの変化
5.1 におい分子の構造の変化がにおいをどう変えるか
5.2 白檀の重要なにおい成分サンタロール類の構造変化とにおいの関係
5.3 スターアニスの重要なにおい成分アネトール類の構造変化とにおいの関係
5.4 バニリン誘導体の構造変化とにおいの関係
5.5 ベチバーの主要成分クシモールおよびその誘導体の構造とにおいの関係
5.6 c-ラクトン類の構造とにおいの関係
コラム9 柑橘類のにおいとはなにか

参考文献
索引

ケムステ書評掲載ページ

レビューが掲載されました。上記リンクからご覧ください。

読者モニターレビュー【化学系大学生様】

この本はにおいに注目して,有機化学の基礎(分子の相互作用,立体配置など)を学んだ後,実際の香料化学の研究例を紹介したものである。前半は大学初年度レベルの有機化学の講義で取り扱われる事項とNMRなどの有機化学測定法の概略が説明されていた。後半ではにおいの研究手法や様々なにおいに関連する物質の解析例が紹介されていた。

読者のレベルとしては有機化学の概略を知りたいと思っている大学生 (文理問わず) や高校生であるのではないかと思う。高校生が本書を読んだとしても大まかに内容を理解できるぐらい本文は平易な表現が用いられていると感じた。また文中のコラムなども興味のそそられる内容が多かった。有機化学の概略とにおいの研究手法について知りたいという人にとってはよい本であるのではないかと感じた。

長谷川 登志夫

長谷川 登志夫(ハセガワ トシオ)

においの研究には,理学,薬学,医学,工学など多彩な分野の研究者や技術者がかかわっています。それだけ科学の広範ににわたる研究分野です。

ところで,においを感じるプロセスは,大きく分けて,におい分子とにおい受容体との出会いのプロセスと,その出会いが脳に伝わって,においとして認識されるプロセスの2つに分けてとらえることができます。

前者のプロセスの要素は2つ,におい分子とにおい受容体です。におい受容体を軸とした研究は,生物学や医学の分野の多くの研究者によって精力的になされています。その結果,その複雑な仕組みがかなり明らかにされてきています。におい受容体の相手のにおい分子についてはどのくらいのことがわかっているのか。分析化学の分野の研究者や技術者の精緻な研究によって,様々な素材に含まれる,においの元である多数のにおい成分の含有が明らかにされています。また,有機合成に携わっている研究者や技術者の高い合成技術によって,多くのにおい分子の合成もされています。

一方,後半の脳に伝わって,においとして認識されるプロセスについての研究はどうなっているのか。このプロセスには,人の認知がかかわっています。まだまだ人の認知にまさる分析機器は出てきていないため,人による官能評価が大きな役割を今でもはたしていのいです。前半プロセスに比べて,人に依存する割合が大きい。そのため,においの研究で,最も難しい部分です。難しいが,においの研究をするうえで,避けて通ることはできない重要なそして根本的なプロセスです。

では,著者のにおい研究分野における立ち位置は,どこにあるのか。著者の専門は有機化学です。におい分子は,有機分子です。したがって,におい分子は,まさしく有機化学者の研究対象なのです。つまり,前者のプロセスで,におい分子に軸を置いているわけです。著者は,有機化学でも,特に有機分子の構造の研究に着目した研究を行っています。有機化合物であるにおい分子の構造をにおい受容体との関係でとらえ,その結果生じるにおいの変化という官能評価を組み合わせて,においの仕組みを明らかにしようと研究を進めてきました。その結果,におい分子間の相互作用とにおい素材の発現との関係を基盤においた素材の香気の特徴を解き明かす新規のアプローチにたどり着きました。

以上説明しましたように,においを科学的に理解するうえで,有機化学の重要性がわかっていただけたかと思います。

香りがナビゲートする有機化学』は,高校の化学の基本的なことを念頭に執筆していますが,それら基本事項についての知識があまりない読者にも,有機化学の基本的な事柄が理解できるように,丁寧に説明しています。また,随所に,有機化学とにおいの化学との関係にも触れるようにもしています。

一方,『香料化学』は,その書名の通り,においの化学についての入門書であり,発展的な事柄についても学べる専門書でもあります。この書籍は,有機化合物であるにおい分子から様々なにおい分子が相互に影響しあって作り出される複合臭の解明に至る道筋を,有機化学の基本から順序立ててたどれるように記述しています。におい分子の視点から香料化学を学ぶことができるように構成されているテキストです。もし,有機化学に関連した事項についてもう少し詳しく知りたいのであれば,ぜひ『香りがナビゲートする有機化学』の該当部分を見ていただきたいと思います。

『日本味と匂学会誌』28巻2号119頁 掲載日:2021/12/17

本書は、「においとは何か。」という問いかけから始め、においを題材とした化学テキストを想定した書籍である。においを理解するためには、有機分子として捉えることが重要であると説き、まず第1章では高校の化学の内容から始めて、大学での初等の有機化学の立体化学を解説することで、においを三次元の分子で捉えるように工夫がみられる。また、においの有機化合物としての化学的及び物理的性質、その構造解析方法を解説して、分子レベルでの理解を求めている。続いて第2章では、素材からにおい成分を取り出す具体的な手法と一般に使用される分析機器及びその測定方法を解説している。におい素材の対象はさまざまであるところから始め、ヘッドスペース法、有機溶剤抽出、水蒸気蒸留などの手法と特徴を解説している。得られたにおい成分はガスクロマトグラフィー及びガスクロマト-質量分析計による分析に加えて、におい嗅ぎ装置を用いた人の嗅覚でにおいを検出する方法を解説している。また、核磁気共鳴法を用いたにおいの分析の例をあげ、具体的な分子の部分構造まで解析している点がユニークである。一方で、得られたにおいは人の嗅覚による官能評価が重要であることを説き、実際の評価方法ならびに注意点まで言及している。最終的に、機器によるにおい成分分析結果と人の感覚による官能評価の相互関係を検討することが重要であると結論づけている。第3章では、人がにおいを感じる仕組みについて解説し、におい分子の認知において、におい受容体が重要な役割を担っており、応答の仕方によって違うにおいと判断される理由や、複合臭のメカニズムまで言及している。特に、複合臭に関しては、におい分子の構造の類似性が重要であると説き、嗅覚のメカニズムをもとに複合臭のにおい特性の解明へのアプローチについて説明している。その解析手順において、機器による成分分析、人による官能評価に加えて、におい分子の構造や物性が重要であることを強調している。さらに、具体的な複合臭の解析例として、スターアニス、パチュリ、茶の分析例を示している。第4章は、白檀、乳香、スターアニス、食品飲料(茶、日本酒)などの具体的な素材を例に挙げながら、著者の研究成果や一般的事実をもとに解説を行い、より実践的な内容へ展開している。第5章では、におい分子の構造(骨格、位置、官能基、幾何、立体)とその特徴の相関に関する知見を有機化学的観点から繰り返し述べており、第1章の理解力がより一層のにおいの分子が作るかおりの世界の解明に重要であることを再認識させる内容となっている。

なお、文中にはコラムがたくさん散りばめられており、読み手に飽きさせない工夫が見られ、著者の私見と思いが込められている。私自身、においを有機化学的観点から捉えて研究を行なっている者として、研究の背中を押されたような大変心強い書籍だと思う。こういった書籍が増えることが、曖昧であったにおいの科学をエビデンスに基づいた理解につながる推進力になると確信する。大学学部1年生を念頭に執筆されたということではあるが、生活の中でにおいを趣味として扱う、あるいは興味を持つ、普段は化学とは無縁な方々への入門書としても有用な書籍ではないだろうか。

山口大学大学院創成科学研究科 赤壁善彦
(日本味と匂学会 著作物利用許諾 令和3年12月16日)

「AROMA RESEARCH」2022年9月号(フレグランスジャーナル社) 掲載日:2022/08/30


「読売新聞」夕刊READ&LEAD(2022年3月19日) 掲載日:2022/03/19

「現代化学」2021年8月号(東京化学同人) 掲載日:2021/07/19


「化学」2021年7月号(化学同人) 掲載日:2021/06/15


掲載日:2022/01/06

「化学工学」2022年1月号

掲載日:2021/10/04

「化学工学」2021年10月号広告

掲載日:2021/06/01

「化学と工業」2021年6月号

著者による,“におい”にまつわる解説動画をぜひご覧ください。



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